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文献詳細

雑誌文献

胃と腸5巻12号

1970年11月発行

文献概要

一冊の本

The Roentgen Aspects of the Papilla and Ampulla of Vater

著者: 竹本忠良1

所属機関: 1東京女子医科大学消化器病センター

ページ範囲:P.1516 - P.1516

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 感銘を受けた1冊の本について書けという電話で,思わず新旧雑然とした書棚をながめた.そしてとりだしたのがこの本である.学問の進歩が早いということは知識の陳腐化するスピードが早いということで,あまり古い本の名前をあげることは誤った情報を提供する危険がある.といっても,深い感銘を素直に受けるだけの豊かな感受性と吸収力は若い血の気の多い時代の特権であって,われわれがある程度古い本をとりあげることも止むを得まい.この本はWittenbergの解剖学教授であったAbraham Vaterの業蹟(1720)が永久に輝いている領域でのX線診断に関する労作で,211頁,図版150の小著である.この本の存在を知ったのはH. G. JacobsonらのTheVaterian and Peri-Vaterian Segments in Peptic Ucer(Am. J. Roentgenol.,79;793,1958)という論文であった.ちょうどその頃,同級の水野美淳博士(現東女医大小坂内科助教授)と病理学教室の保存材料をひっくりかえしてVater乳頭の形状,大きさなどを調べさせてもらったりまた沖中内科の剖検例についてVater乳頭膵管のX線所見をみ始めていた.その仕事は「Vater乳頭のレ線学的研究」1)として消化器病学会に発表したが,仕事の上でどうしてもこの本を読む必要があり,注文してから入手するまでの3カ月をひどくながく感じた.この本と同時にPopfelがニューヨーク大学放射線科の助教授時代に書いたRoentgen Manifestation of Pancreatic Disease(C. C. Thomas Publisher,U. S. A.,1951)も入手して読んだ.

 Vater乳頭附近の悪性疾患をなんとか根治的手術するには病変をより早い時期にX線的にみつけだすことが必要であることはいうまでもないが,X線的になにが正常の乳頭で,なにが異常な所見であるか,明確なCriteriaのなかった当時として,著者らはずいぶん苦心したことと思う.事実,著者らはまず100例をこす剖検材料についてVaterian Segmentsの正常X線像の分析,組織学的研究を加え,ついでこの領域の各種の疾患の手術例,剖検例についてX線所見を分析したものをまとめたものであって,今日読んでも準古典的な名著の1つとしての価値を失っていないように思う.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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