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文献詳細

雑誌文献

胃と腸5巻3号

1970年03月発行

文献概要

今月の主題 胃肉腫 綜説

胃肉腫のX線診断

著者: 熊倉賢二1 丸山雅一1 高田亮1 杉山憲義1 落合英朔1 竹腰隆男1 佐藤哲郎1 高木国夫2 池田靖洋2 中村恭一3

所属機関: 1癌研究会附属病院内科 2癌研究会附属病院外科 3癌研究会附属病院病理

ページ範囲:P.271 - P.284

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はじめに

 胃癌が確実に早期診断できるようになった現在でも,胃肉腫のX線診断の水準は,まだ進行癌の水準にとどまっている.今までに胃肉腫の報告例は極めて多数あるが,早期胃肉腫の報告例は極く少数である.

 胃肉腫についての文献は,2つに大別することができる.1つは,単に少数の自験例の報告に終るものである.もう1つは,自験例の不足を補うために,できるだけ過去の文献を集め,それに記載されている多数の症例を検討することによって,胃肉腫の全貌を明らかにしようとするものである.この2つは両端であるが,このような検討の積み重ねによって,胃肉腫についての理解は深められ,そのX線診断も,一応研究つくされたともいえそうである.しかし,何と言っても,胃肉腫の発生頻度が少ないために,自験例が少なすぎる.また,胃肉腫は,組織所見にしても,肉眼所見にしても,複雑,多様である.そのためか,進行胃癌のBorrmann分類のように,また,早期胃癌の肉眼分類のように,広く一般に採用されているような肉眼分類はない.肉眼所見はX線診断の基礎になるものであるから,肉眼分類が共通でないということは,お互いの症例を比較検討するさいに,非常に困るのである.それに,胃肉腫には,胃癌ばかりでなく,良性の隆起性病変や良性潰瘍,巨大ひだ(皺襞),梅毒など,鑑別診断がむずかしい胃疾患が多数記載されている.さらに,胃原発性の悪性リンパ腫の予後が,他臓器原発の悪性リンパ腫に比べて,統計的に良好なのは,肉腫と診断されているもののなかに,臨床的ならびに病理組織学的に悪性リンパ腫と鑑別診断が困難な良性疾患,つまりreactive lymphoid hyperplasia(Smith-Helwig),reactive lymphoreticular hyperplasia(中村ら)が含まれているからであるといった報告もある.

 このようなわけで,既にKonjetzny(1921)が胃肉腫のX線診断にたいして批判的態度をとっていたが,最近の成書をみても,同じような傾向がみられる.Prevôt-Lassrich(1959)やTescbendorf(1964)は,胃肉腫と胃癌との鑑別診断はできないといっているし,Frik(1965)は,組織診断―手術・生検―のない最終診断は正確でないといった意見である.

 この間,胃肉腫のX線症状と臨床症状とを組み合せることによって,胃肉腫の診断を向上させようとする研究もなされてきたが,この方面からの研究も,それほどよい成績は上らなかった.

 しかし,胃肉腫は,胃癌に比べて,手術の遠隔成績が良好であり,悪性リンパ腫には放射線感受性があるといったこともあって,積極的に胃肉腫をX線診断しようという努力も絶えずあった.このような立場からみると,少なくとも,ある種の胃肉腫のX線診断は可能のようにも思える.

 ところで,胃肉腫の初発部位は,粘膜下層および筋層で,粘膜から発生するものは極めて少ないといわれている.また,異論はあるが,Hesse(1912)によれば,胃肉腫の初発部位は,粘膜下層65%,筋層24%,粘膜および粘膜筋層7%,漿膜下層4%である.とすると,胃肉腫では,胃癌のような早期診断はむずかしいであろう.以上が,胃肉腫X線診断に関係のある事項のあらましである.どうも,混乱していて,明快ではない.この傾向は,悪性リンパ腫で特に著しい.そこで,今回は,紙数の関係で,胃の細網肉腫のX線診断について検討することにする.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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