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文献詳細

雑誌文献

胃と腸50巻1号

2015年01月発行

文献概要

今月の主題 消化管早期癌診断学の時代変遷─50年の歩みと展望 主題

早期食道癌診断学50年間の歩みと展望

著者: 吉田操1

所属機関: 1早期胃癌検診協会

ページ範囲:P.11 - P.26

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要旨●早期食道癌の診療・研究の足跡を俯瞰する目的で,発刊以来の約50年間に本誌『胃と腸』上で発表された関連論文をすべて見直した結果を述べた.1966年に早期食道癌の本邦第1例目の報告が本誌に掲載されて,日本の早期食道癌研究が始まった.当初は,粘膜下層癌が大部分を占めていたため,食道造影検査と食道鏡検査を組合せて診断していた.胃癌の早期診断に準じたアプローチが有効であろうと期待されていた.食道内視鏡検査にファイバースコープが導入され,食道内視鏡検査が安全かつ容易となり,繰り返し行うことができるようになった.粘膜の微細な変化が観察可能になったことに加えて,1970年代後半に色素内視鏡検査法が開発され,上皮内癌と粘膜癌の発見が可能になった.1980年代に入って,前方直視式のpanendoscopeが開発され,上部消化管内視鏡検査は,食道・胃・十二指腸を一度に観察することが実現した.これによって食道を観察する機会が格段と増加,加えてヨード染色の普及もあり,食道粘膜癌症例の集積と早期の食道癌に関する病態・形態・病理の検討が進んだ.粘膜癌には,リンパ節転移がまれで,形態が粘膜下層癌と明らかに異なることが判明した.この研究成果を反映した食道癌の新病型分類が作られ,粘膜癌発見に大きく寄与することになった.この頃から,早期食道癌診断の主力は内視鏡検査になった.1990年代初頭に内視鏡的粘膜切除術(EMR)が開発され,粘膜癌に対する低侵襲・機能温存治療が実現した.内視鏡治療の適応に関する研究を推進するため,癌の深達度を正確に表現する必要が生じ,深達度亜分類が完成した後には,粘膜癌と粘膜下層癌の境界領域であるm3・sm1癌の研究が開始された.2000年以降は内視鏡治療と合併療法を組み合わせた治療法の検討が盛んになった.さらに,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の開発,色素法に代わるNBI観察・拡大観察が診断・治療ともに充実させていった.2007年に“食道早期癌は,粘膜癌”という規約が公表され,新たな時代に入った.2010年以降は,Barrett食道癌の診断に新しい内視鏡検査法とこれまでに培われた胃癌の診断学を応用した日本らしいアプローチが始まった.また,食道癌に関するリスクの研究が進み,効率のよい食道癌スクリーニングも実現しそうである.早期食道癌の診療・研究は,新たな発展の時期に入ったと考えられる.

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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