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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸50巻2号

2015年02月発行

雑誌目次

今月の主題 食道のびらん・潰瘍性病変 序説

食道のびらん・潰瘍性病変

著者: 八尾隆史

ページ範囲:P.129 - P.130

はじめに
 びらん・潰瘍性病変は,胃では頻繁にみられ,その原因となるさまざまな疾患が存在するが,食道では逆流性食道炎と癌以外の病変はまれである.本誌ではこれまで食道癌,Barrett食道を含む逆流性食道炎に関する特集が組まれ,今回の特集に登場する疾患もしばしば掲載されてきたが,本号では逆流性食道炎と癌以外のびらん・潰瘍性病変に焦点を絞って企画を練った.臨床像から病理像を系統的に学ぶことにより,食道のびらん・潰瘍性病変に遭遇した場合の鑑別診断から治療方針に有用な知識の整理となるものと思われる.

主題

びらん・潰瘍を呈する食道病変の病理診断

著者: 太田敦子 ,   岩下明德 ,   池田圭祐 ,   田邉寛 ,   大重要人 ,   今村健太郎

ページ範囲:P.131 - P.138

要旨●食道にびらん・潰瘍を呈する疾患は,腫瘍性,炎症性などその原因もさまざまである.非腫瘍性疾患を原因別に分類し,頻度の高い疾患や臨床病理組織学的に特異的な所見がある疾患,病理組織学的診断で確定診断されうる疾患について,肉眼所見と組織所見を中心に述べた.逆流性食道炎,薬剤性食道炎,ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルスに代表される感染性食道炎,好酸球性食道炎,炎症性腸疾患(Crohn病)やBehçet病などの全身性疾患に伴う食道病変などであるが,病理組織学的所見にて確定診断可能な疾患は非常に少なく,また頻度が低いため診断する機会も限られる.特定の疾患を疑って生検を施行する場合,病理医との連携により診断の精度が上がると期待される.

びらん・潰瘍を呈する食道病変のX線診断

著者: 入口陽介 ,   小田丈二 ,   水谷勝 ,   高柳聡 ,   冨野泰弘 ,   山里哲郎 ,   岸大輔 ,   藤田直哉 ,   斎藤聡 ,   奥田圭二 ,   鵜沼清仁 ,   田中靖 ,   丸山保彦 ,   伊藤高広 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.139 - P.150

要旨●食道にびらん・潰瘍を伴う病変を認めた場合には,腫瘍性か非腫瘍性かを鑑別し,特に非腫瘍性と診断した場合には病歴を詳細に聴取する必要がある.また腫瘍性,癌と診断するために,X線造影検査では,食道表在癌の正面像と側面像の特徴を十分理解しておくことが必要である.正面像では陥凹の辺縁と内部の形態やバリウムの付着性,側面像では壁の伸展不良に伴う変形の有無が,癌と良性のびらん・潰瘍の鑑別において有用であった.食道表在癌では,陥凹内は癌組織で構成され表面が癌性びらんを呈しているため,良性びらんと比較してバリウムの付着が亢進していた.また良性びらん・潰瘍では,全身性疾患や他の消化管疾患の特徴的な形態や配列などを描出するだけでなく,経過中の形態変化を客観的に評価するうえでもX線造影検査は有用であった.

びらん・潰瘍を呈する食道病変の内視鏡診断—炎症性腸疾患合併例

著者: 安原ひさ恵 ,   国崎玲子 ,   津田早耶 ,   小柏剛 ,   高蓮浩 ,   木村英明

ページ範囲:P.151 - P.158

要旨●炎症性腸疾患(IBD)は近年国内外で急増しており,IBDに合併する食道病変の報告も増加している.IBDの食道病変は中部食道に好発しCrohn病では縦列傾向を認める多発アフタや潰瘍,Behçet病では多発アフタや単発の打ち抜き潰瘍など,下部消化管病変に類似した形態を呈することが多い.微細な病変も多く,観察には色素撒布が有用である.一方,食道では免疫抑制治療に伴うウイルス感染による病変を生じることもあるため,常に原疾患との鑑別を行う必要がある.IBD食道病変の治療は,胃酸分泌抑制薬のみでは効果が乏しく,原疾患に対する治療が有効である場合が多い.

自己免疫性水疱症と上部消化管病変の内視鏡診断

著者: 大森泰 ,   石井賢二郎 ,   岡村明彦 ,   筒井麻衣 ,   中村理恵子 ,   川久保博文 ,   山上淳 ,   天谷雅行 ,   北川雄光

ページ範囲:P.159 - P.173

要旨●自己免疫性水疱症は,自己抗体により細胞間接着が障害され,皮膚や重層扁平上皮粘膜に水疱が形成される疾患の総称である.天疱瘡群と類天疱瘡群に分けられ,推計罹患者数は天疱瘡群約5,500人,類天疱瘡群約20,000〜30,000人とされる.水疱症には皮膚病変がなく粘膜病変のみが認められる症例も存在し,このような症例では咽頭痛・嚥下障害などにより内視鏡検査が施行されるが,まれな疾患であるために粘膜病変から確定診断に至らず治療が遅延することがある.消化器医も自己免疫性水疱症の適切な知識を持ち,的確な内視鏡診断を行うことで臨床診断に寄与できる.上部消化管内視鏡検査を行った自己免疫性水疱症93例の検討から,自己免疫性水疱症の上部消化管病変について報告する.

感染性食道炎の内視鏡診断─ウイルス感染症

著者: 藤原崇 ,   門馬久美子 ,   堀口慎一郎 ,   田畑拓久 ,   來間佐和子 ,   藤原純子 ,   比島恒和 ,   柳澤如樹 ,   菅沼明彦 ,   今村顕史

ページ範囲:P.175 - P.187

要旨●2004年8月〜2014年10月までに施行した上部消化管内視鏡検査78,258件中,病理組織学的にサイトメガロウイルス感染症(CMV),単純ヘルペスウイルス感染症(HSV)と診断された食道病変,および,HIV感染症に見られる特発性食道潰瘍を検討対象とした.CMV食道病変は38例(0.05%),HSV食道炎は8例(0.01%),特発性食道潰瘍は5例(0.006%)であった.CMV食道病変の内視鏡像は,(1)打ち抜き潰瘍,(2)非打ち抜き型の浅いびらん・潰瘍性病変,(3)隆起主体の病変の3つに大別された.CMVやCandidaとの混合感染を除いた,HSV単独感染3例の内視鏡像は,辺縁を白濁した粘膜上皮で縁取られた比較的浅い潰瘍であった.特発性食道潰瘍の内視鏡像は,(1)打ち抜き潰瘍,(2)粘膜下腫瘍様の2つに分類された.いずれの病変も中下部食道に好発しており,多発する傾向があった.

主題症例

ダビガトラン起因性食道潰瘍

著者: 入月聡 ,   山川良一 ,   河内邦裕 ,   大山慎一 ,   岩田真弥

ページ範囲:P.189 - P.192

要旨●ダビガトラン起因性食道潰瘍で特徴的な画像・経過を呈した2症例について報告する.[症例1]は78歳,男性で,上部消化管内視鏡検査(EGD)にて中部食道に円形の打ち抜き様潰瘍の集簇がみられた.[症例2]は80歳,男性で,EGDにて中部から下部食道に全周性に白色の膜様物がみられ,下部には浅い潰瘍がみられた.膜様物は過去の報告でも記載されており,ダビガトランによる食道潰瘍に特徴的な所見と考えられた.膜様物を採取して検討したところ,ダビガトランカプセルであることが疑われ,ダビガトラン起因性食道潰瘍はカプセルが食道に付着しやすいことにより発生していることが示唆された.

内視鏡検査で経過観察しえたビスフォスフォネート製剤による薬剤性食道炎の1例

著者: 伊藤義幸 ,   黒田有紀子 ,   内山崇 ,   斎藤隆也 ,   伊藤重二 ,   海崎泰治

ページ範囲:P.193 - P.197

要旨●患者は69歳,女性.胸骨後部痛と嚥下痛,胸やけ,体重減少を認めたため入院した.内視鏡検査で切歯列より30〜35cmの胸部中下部食道に境界明瞭な地図状びらんを認め,病理組織学的所見は著明な好酸球浸潤を伴う肉芽組織であった.骨粗鬆症のため3年前からビスフォスフォネート製剤(BP)を処方されており,少量の水で内服した4日後に発症していたため,BPによる薬剤性食道炎と診断した.H2拮抗薬と制酸薬投与で症状は速やかに軽快し,入院10日目の内視鏡再検査でびらんは治癒しており退院となった.BPによる薬剤性食道炎はよく知られた合併症であるが,鑑別診断のために早急な内視鏡検査を行うこと,また発症予防には適切な服薬指導とそれを順守させることが必要である.

潰瘍を呈した原発性食道悪性リンパ腫の1例

著者: 丸山保彦 ,   景岡正信 ,   大畠昭彦 ,   寺井智宏 ,   志村輝幸 ,   金子雅直 ,   山本晃大 ,   毛利博 ,   甲田賢治

ページ範囲:P.198 - P.203

要旨●患者は62歳,女性.嚥下時のつかえ,胸痛を主訴に当院を受診した.食道X線造影検査で中部食道に8cmに及ぶ潰瘍を伴う腫瘤を認めた.上部消化管内視鏡検査では上門切歯列より25〜33cmに亜全周性に,辺縁が明瞭で深掘れの潰瘍性病変が存在し,狭窄を来していたが内視鏡の通過は可能であった.生検の結果,diffuse large B cell lymphomaと診断された.CT検査,ガリウムシンチグラフィーでAnn Arbor病期分類IIEA期と診断し,CHOP療法と放射線療法を行った.その後11年経過した現在も無再発生存中である.本例の潰瘍は食道癌に伴う潰瘍とは異なり,粘膜下腫瘍様周堤や境界明瞭な深掘潰瘍,比較的平滑な潰瘍底を呈し,悪性リンパ腫に特徴的所見を呈していた.

早期胃癌研究会症例

1年間の経過で急速に増大傾向を示した粘膜下腫瘍様残胃癌の1例

著者: 隅田頼信 ,   小谷大輔 ,   宮田誠一 ,   畑佳孝 ,   淀江賢太郎 ,   本田邦臣 ,   井原裕二 ,   秋穂裕唯 ,   長田美佳子 ,   平橋美奈子 ,   豊島里志 ,   中村和彦

ページ範囲:P.204 - P.211

要旨●患者は70歳代,女性.十二指腸潰瘍で手術歴があり,定期検査のため近医にて上部消化管内視鏡検査を施行したところ,残胃噴門に径6cm大の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様隆起を指摘された.精査加療目的で当科へ紹介され,受診となった.表面に白苔を伴い山田III型様の立ち上がりを有する隆起であり,比較的軟らかく,超音波内視鏡検査では第4層まで達する低エコー腫瘤として描出された.病理組織学的には,SMT様隆起の表層は壊死と正常粘膜に覆われ,腫瘍の露出はわずかであり,上皮性の悪性所見に乏しかった.腫瘍細胞は小型の円形〜卵円形核を有する異型の強い細胞で,充実性に増殖し漿膜外まで浸潤を認め,1型の低分化腺癌と診断された.本病変は1年間で9cm大まで増大するという急激な経過を辿り,SMT類似の形態を示し,間質反応に乏しく比較的軟らかい腫瘍のために,胃癌と診断することが困難であった.

症例

Helicobacter pylori陰性患者に認めた胃底腺型胃癌の1例

著者: 藤岡審 ,   平川克哉 ,   長末智寛 ,   藤田恒平 ,   栗原秀一 ,   中島豊 ,   平橋美奈子 ,   江㟢幹宏

ページ範囲:P.213 - P.219

要旨●患者は65歳,男性.少量の血便を契機に当院を受診した.上部消化管内視鏡にて胃体中部大彎に辺縁がなだらかに隆起する褪色調の陥凹性病変を認め,近接観察にて拡張・蛇行した血管網が観察された.NBI拡大観察では陥凹部の表面微細構造は軽度不整であったが,癌の診断は困難であった.なお,背景粘膜に萎縮はなく,H. pylori陰性であった.生検にて異型上皮が検出され,診断確定および治療目的にESDを施行した.病理組織学的には粘膜深層を中心に軽度の構造異型を有する胃底腺類似の腫瘍細胞が発育しており,わずかに粘膜下層へ浸潤していた.免疫染色ではMUC6およびpepsinogen-Iが陽性であり,胃底腺型胃癌(主細胞優位型)と診断した.

第14回臨床消化器病研究会

「消化管の部」の主題のまとめ

著者: 門馬久美子 ,   小山恒男 ,   後藤田卓志 ,   松本主之

ページ範囲:P.220 - P.229

 2013年7月20日(土)に第14回臨床消化器病研究会がグランドプリンスホテル新高輪 国際館パミールで開催された.「消化管の部」と「肝胆膵の部」に分かれ,「消化管の部」では主題1.食道:「びらん・潰瘍を呈する食道病変」,主題2.胃:「胃底腺領域の陥凹性病変」,主題3.小腸:「びらん・潰瘍を呈する小腸病変」の3セッションが行われた.

早期胃癌研究会

第53回「胃と腸」大会から

著者: 八尾建史 ,   鶴田修

ページ範囲:P.230 - P.233

 第53回「胃と腸」大会は2014年5月14日(水)に福岡国際会議場で開催された.司会は八尾建史(福岡大学筑紫病院内視鏡部)と鶴田修(久留米大学病院消化器病センター),病理は二村聡(福岡大学医学部病理学講座)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,江㟢 幹宏(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学)が「消化管疾患:診断と鑑別の進め方 十二指腸・小腸潰瘍病変の診断と鑑別—2」と題して行った.

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欧文目次

ページ範囲:P.128 - P.128

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.158 - P.158

 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

第21回「白壁賞」論文募集

ページ範囲:P.187 - P.187

 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.212 - P.212

早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.
画像のきれいな症例で,
・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.
・典型例だが読影の勉強になる症例.
・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

ページ範囲:P.234 - P.238

投稿規定

ページ範囲:P.239 - P.239

次号予告

ページ範囲:P.240 - P.240

編集後記

著者: 門馬久美子

ページ範囲:P.241 - P.241

 潰瘍を呈する食道病変は,2013年の第14回臨床消化器病研究会にて取り上げられたテーマである.食道に潰瘍性変化を来す代表的な疾患は,逆流性食道炎と扁平上皮癌であり,良性疾患にみられる食道の潰瘍性変化は非常に少ない.しかし,そのなかには食道病変を見ることで全身疾患の診断の一助となる病変もある.今回は,この頻度の低い良性疾患にみられる食道の潰瘍性変化に焦点を絞り,これらの病変がどのような形態を示し,どのような組織所見を示すのか,また他疾患との鑑別点として捉えるべき所見はどのようなものかを明らかにする目的で,小山恒男,八尾隆史と著者の3名で本号を企画した.
 良性疾患にみられる食道の潰瘍性変化として取り上げたのは,炎症性腸疾患の食道病変,自己免疫性水疱症の食道病変,感染性の食道病変の3つであり,それぞれ経験の多い安原ひさ恵,大森泰,藤原崇の3氏に執筆して頂いた.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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