主題研究
内視鏡摘除後大腸T1(SM)癌の転移・再発に関する多施設共同研究─大腸癌研究会プロジェクト研究の結果から
著者:
斉藤裕輔
,
岡志郎
,
田中信治
,
斎藤豊
,
池松弘朗
,
五十嵐正広
,
和田祥城
,
工藤進英
,
小林清典
,
井上雄志
,
浦岡俊夫
,
飯石浩康
,
山野泰穂
,
鶴田修
,
永田信二
,
蔵原晃一
,
山口裕一郎
,
佐野寧
,
樫田博史
,
堀松高博
,
斎藤彰一
,
上野秀樹
,
石黒めぐみ
,
石川秀樹
,
味岡洋一
,
大倉康男
,
藤盛孝博
,
渡邉聡明
,
杉原健一
ページ範囲:P.448 - P.456
要旨●大腸癌治療ガイドラインにおける大腸T1(SM)癌内視鏡摘除後の追加腸切除考慮基準は妥当であるが,追加腸切除がover surgeryとなっているという問題点がある.その理由は,追加腸切除を行わずに経過をみて転移や再発を来した際に,salvage治療による予後の改善が可能かどうかが不明なためである.本研究は大腸T1癌に対して内視鏡摘除単独あるいは内視鏡摘除+追加外科手術を行い,経過観察中に転移・再発した症例の臨床経過と生命予後,およびsalvage治療の有効性を明らかにすることを目的とした.内視鏡摘除を行った大腸T1癌のうち,2001〜2008年の間に再発した病変に,後向きアンケート調査を行った.その結果,(1)内視鏡摘除単独または追加外科手術を施行した例において,2001〜2008年の間の再発は101例であり,男性62例,女性39例と男性で多く,初回治療時の平均年齢は64.7歳であった.発生部位は結腸52例,直腸48例と結腸に多く,肉眼型は隆起型68例,表面型25例と隆起型が多く,平均腫瘍径は22.1mmであった.再発様式はリンパ節転移再発21例,遠隔転移再発45例,SM層以深の局所再発が35例であった.(2)他病死6例,予後不明5例を除いた経過観察例90例中,原病死は54例(60.0%)であり,再発例における50%生存期間は39か月と,その予後は不良であった.(3)90例において初回内視鏡摘除からの累積生存率は初回内視鏡摘除後の追加外科手術の有無で有意差は認めなかった.(4)リンパ節再発,遠隔転移再発,SM層以深の局所再発,いずれの再発様式においても,その予後は不良であった.(5)再発後の平均生存期間は手術施行例で,非施行例に比較して長かった.また,再発例90例における生存例36例中31例は,追加外科手術施行例であった.(6)リンパ節転移危険因子数が少ない例では局所再発が多く,リンパ節転移危険因子数の多い例で遠隔転移が多くみられたが,有意な差は認められなかった.結論として(1)内視鏡治療後に再発を来した例では90例中54例(60.0%)が原病死しており,その予後は不良であった.(2)大腸T1癌内視鏡治療後の再発例において,外科切除可能例では外科切除不能例に比較して生存率の向上,平均生存期間の延長が得られた.