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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸51巻11号

2016年10月発行

雑誌目次

今月の主題 肉芽腫を形成する消化管病変 序説

肉芽腫を形成する消化管病変の鑑別診断

著者: 小澤俊文

ページ範囲:P.1407 - P.1408

はじめに
 消化器内視鏡の画質向上などに伴い,癌など上皮性腫瘍性病変に対する生検を行う機会は減少傾向にあると思われる.一方で,日常診療で遭遇する機会の少ない炎症性疾患や変性疾患,上皮下主体に発育する病変などでは診断を生検に依拠せざるをえない場合も多い.そのなかでも生検組織に肉芽腫の存在を確認される場合は少なく,その結果を診断にどのように結びつけるか迷われる読者も多いのではないかと考える.

主題

消化管疾患における肉芽腫の病理学的特徴と鑑別診断

著者: 八尾隆史

ページ範囲:P.1409 - P.1417

要旨●肉芽腫の出現する主な消化管疾患として原因別に,①原因不明:Crohn病,サルコイドーシス,肉芽腫性胃炎,直腸リンパ球性ポリープ,虫垂炎,大腸憩室症,大腸癌,②感染症:結核,エルシニア腸炎,チフス,③異物反応:潰瘍性大腸炎(陰窩関連肉芽腫),ランタン沈着症,腸管気腫性囊胞症,虚血性腸炎,内視鏡切除後潰瘍,縫合糸肉芽腫,バリウム肉芽腫,④マクロファージの異常:慢性肉芽腫症,マラコプラキアなど,さまざまな疾患が存在する.肉芽腫は組織学的にサルコイドーシス型,結核型,偽結核型,異物型の4型に分類され,肉芽腫のみでもある程度は疾患の鑑別診断を絞ることができるが,疾患の活動性や時相により典型的な像を示さないこともある.病理組織検体において肉芽腫が検出された場合,本稿で取り上げた疾患を念頭に置き,臨床像を加味して総合的に鑑別診断を行うことが重要である.

肉芽腫を認める上部消化管疾患

著者: 丸山保彦 ,   景岡正信 ,   大畠昭彦 ,   寺井智宏 ,   佐原秀 ,   山本晃大 ,   星野弘典 ,   甲田賢治 ,   田島将吾 ,   高村明美

ページ範囲:P.1418 - P.1429

要旨●肉芽腫を認める上部消化管疾患にはCrohn病やサルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患,結核,梅毒,H. pyloriなどの感染症,腫瘍や異物に伴う反応として出現するもの,血管炎に伴うものなどがある.サルコイドーシスや結核では多彩な肉眼形態をとるが,Crohn病や梅毒などでは特徴的な画像所見を呈するため内視鏡所見から疑うことが可能である.特発性肉芽腫性胃炎はこれらの既知の類上皮細胞肉芽腫が認められる疾患を除いた原因不明のものとされるが,限局性サルコイドーシスやH. pylori感染との鑑別は混沌としている.臨床現場で通常の治療に反応しない非典型的な病変に遭遇した際には肉芽腫性胃炎も鑑別に加えることも必要である.

肉芽腫を認める下部消化管疾患

著者: 大川清孝 ,   青木哲哉 ,   上田渉 ,   大庭宏子 ,   宮野正人 ,   小野洋嗣 ,   藤井英樹 ,   山口誓子 ,   倉井修 ,   佐野弘治 ,   小野寺正征 ,   中村志郎

ページ範囲:P.1431 - P.1440

要旨●肉芽腫を認める感染性腸炎について述べた.腸結核とエルシニア腸炎の自験例について,臨床像と内視鏡像を検討し,チフス性疾患については症例を提示した.生検組織で疾患特異的な肉芽腫がみられることは少なく,臨床像,内視鏡像による鑑別診断が重要である.腸結核では無症状例が最も多い.特徴的な内視鏡像は,輪状潰瘍あるいは輪状配列する潰瘍,多発潰瘍瘢痕と活動性潰瘍の併存,発赤を伴う樹枝状不整形潰瘍,敷石像様所見である.エルシニア腸炎の臨床症状は腹痛と発熱が主である.特徴的な内視鏡像は終末回腸の小びらんを伴う腫大したPeyer板,腫大した回盲弁,終末回腸〜上行結腸のアフタである.

Crohn病診断における類上皮細胞肉芽腫の意義

著者: 岸昌廣 ,   平井郁仁 ,   山岡梨乃 ,   今村健太郎 ,   別府剛志 ,   二宮風夫 ,   矢野豊 ,   久部高司 ,   植木敏晴 ,   八尾建史 ,   松井敏幸 ,   太田敦子 ,   田邉寛 ,   池田圭祐 ,   原岡誠司 ,   岩下明德

ページ範囲:P.1441 - P.1452

要旨●類上皮細胞肉芽腫の病理組織学的特徴を概説し,Crohn病(CD)における肉芽腫の臨床的意義と,肉芽腫が出現し鑑別が必要な疾患(腸結核,エルシニア腸炎,サルコイドーシス,肉芽腫性胃炎,慢性肉芽腫症)について述べた.類上皮細胞肉芽腫の検出はCDの確定診断に重要であり,病初期や非定型例の診断には特に有用である.肉芽腫の検出は複数回の生検や上部消化管生検の併用により検出率が向上する.肉芽腫の組織形態や分布は各疾患別に特徴があるため,CDの診断と鑑別に際しては,これらの特徴を考慮し,臨床経過,画像所見,病理組織学的所見を総合的に判断する必要がある.

サルコイドーシスの消化管病変の特徴

著者: 小林浩子 ,   齋藤桂悦 ,   引地拓人 ,   大平弘正 ,   小原勝敏

ページ範囲:P.1453 - P.1457

要旨●肉芽腫を形成する消化管病変の中で,サルコイドーシスは比較的まれである.消化管サルコイドーシスの中で,頻度は胃が最も高く,次いで大腸である.胃サルコイドーシスの内視鏡所見は,潰瘍やびらんの他に,スキルス胃癌を疑わせる粘膜の肥厚や硬化,結節性隆起性病変などさまざまであり,特異的なものはない.大腸サルコイドーシスの内視鏡所見も胃と同様に多彩である.消化管サルコイドーシスは,本来自然治癒が期待できる疾患であり,治療方法について一定の基準はない.狭窄,出血や穿孔を来した場合は外科的治療を優先する.また,難治例では中等量のステロイドが有効な場合もある.胃サルコイドーシスではプロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬が有効との報告もある.

肉芽腫を伴う血管炎による消化管病変

著者: 岡本康治 ,   梅野淳嗣 ,   前畠裕司 ,   川崎啓祐 ,   蔵原晃一 ,   大城由美 ,   保利喜史 ,   樋田理沙 ,   平橋美奈子 ,   江﨑幹宏

ページ範囲:P.1458 - P.1466

要旨●血管炎症候群の中には肉芽腫形成性の血管炎を来す疾患が存在する.多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)はANCA関連血管炎に分類され,全身性に細小血管の壊死性血管炎を来す.一方,巨細胞性動脈炎(GCA)では主として大動脈とその分枝が罹患し,巨細胞を伴う肉芽腫性血管炎を呈する.これらの疾患では,時に消化管に多発性のびらん,不整形〜地図状潰瘍が出現し,消化管穿孔や大量出血を来し予後不良となる場合があるため注意を要する.ただし,消化管病変からの生検では血管炎や肉芽腫を確認しうることは少なく,診断に際しては他検査所見も含めた総合的な判断が必要である.

主題症例

食道に限局したサルコイドーシスの1例

著者: 鈴木優響 ,   松橋保 ,   神万里夫 ,   大場麗奈 ,   志賀永嗣 ,   畠山夏美 ,   小泉重仁 ,   小野地研吾 ,   沢口昌亨 ,   下平陽介 ,   佐藤雄亮 ,   本山悟 ,   南條博 ,   飯島克則

ページ範囲:P.1467 - P.1472

要旨●患者は70歳代,男性.経口摂取困難となったため近医を受診し,上部消化管内視鏡検査にて胸部食道に粘膜下腫瘍による全周性狭窄を認めたため,当院に紹介され受診となった.PET-CT検査では胸部上部・中部食道に壁肥厚を認め,同部にSUVmax=14.6のFDG集積,左右肺門部にもFDG集積を認めた.2度にわたり生検を施行したが確定診断に至らず,PET陽性食道粘膜下腫瘍の診断の下,食道亜全摘術を施行した.病理組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成している像が多数あり,Langhans型巨細胞も多数認められ,食道原発サルコイドーシスに矛盾しない所見であった.

炭酸ランタンによる胃粘膜病変の2例

著者: 渡邉秀紀 ,   杉山いずみ ,   土屋豊一 ,   丹治伸夫 ,   安齋幸夫 ,   海上雅光

ページ範囲:P.1473 - P.1477

要旨●炭酸ランタンによる特徴的な胃粘膜病変の2例を経験した.患者はいずれも末期慢性腎臓病で血液透析を受けている70歳代の男性で,炭酸ランタンを服用中であった.上部消化管内視鏡検査では,胃に白色微細顆粒の多発を認めた.同部位からの生検組織診断では粘膜固有層間質に組織球の集簇を認めた.組織球の胞体内には赤褐色調の種々の形態を呈する物質を認めた.近年,炭酸ランタン服用による組織球集簇を特徴とする胃粘膜病変の報告が散見されている.この病変の発症機序と長期的な生体への影響ははっきりしておらず今後の注意深い経過観察,症例の蓄積,検討が必要と思われた.

抗酸菌感染を伴った肉芽腫性胃炎の1例

著者: 鷲尾恵万 ,   江﨑幹宏 ,   梅野淳嗣 ,   浅野光一 ,   久保倉尚哉 ,   森山智彦 ,   熊谷好晃 ,   樋田理沙 ,   平橋美奈子 ,   原田英治 ,   北園孝成 ,   松本主之

ページ範囲:P.1479 - P.1486

要旨●患者は40歳代,女性.心窩部痛,悪心を主訴に近医を受診,多発性胃潰瘍の精査加療目的で当科に紹介となった.上部消化管内視鏡検査では,胃体部小彎を中心に不整形ないし地図状の浅い潰瘍が多発し胃体中部大彎には瘢痕も伴っていた.胃粘膜生検で多核巨細胞を伴う類上皮細胞肉芽腫を認め,胃粘膜生検培養で抗酸菌陽性であった.抗原特異的インターフェロンγ遊離検査陽性,ツベルクリン反応強陽性に加え,CTで右前肺底部のすりガラス影と腹腔内石灰化を認めたため,抗結核療法を開始した.副作用により4か月後に内服中止となったが,治療後の内視鏡検査で胃体部小彎の潰瘍は瘢痕化し,胃粘膜生検培養も陰性となった.以上より,抗酸菌感染による肉芽腫性胃炎と考えられた.

早期胃癌研究会症例

内視鏡的粘膜下層剝離術を施行した高異型度肛門上皮内腫瘍および肛門部尖圭コンジローマ併存例の1例

著者: 山崎健路 ,   岩田仁 ,   九嶋亮治 ,   田中浩敬 ,   市川広直 ,   三田直樹 ,   佐竹智行 ,   大西雅也 ,   中西孝之 ,   永野淳二 ,   安藤暢洋 ,   杉原潤一 ,   荒木寛司 ,   清水雅仁

ページ範囲:P.1487 - P.1495

要旨●患者は80歳代,女性.近医にて便潜血陽性を指摘され大腸内視鏡検査を施行.直腸肛門部病変を指摘されたため当院へ紹介された.精査にて直腸肛門部に径約20mmの白色調の扁平隆起性病変を認めた.インジゴカルミン撒布像にて境界明瞭な扁平隆起・細顆粒状隆起を呈した.NBI観察で同部位はbrownish areaとして認識され,NBI拡大観察ではドット状血管,ループ状血管,糸くず状の血管の増生が認められた.診断的治療としてESDを施行した.病理組織学的に高異型度肛門上皮内腫瘍と尖圭コンジローマが併存した腫瘍であった.免疫組織化学染色にてp16の過剰発現が認められ,HPV(human papilloma virus)との関連が強く示唆された.

追悼

追悼・竹本忠良先生

著者: 長廻紘

ページ範囲:P.1497 - P.1499

 2015年11月8日に竹本忠良先生がお亡くなりになりました.一つの時代が終わったとの感を禁じ得ません.日本の,そして世界の消化器病,内視鏡界を引っ張ってこられた指導者でした.謹んでお悔やみを申し上げます.
 先生の消化器病学や内視鏡学分野での最大の功績は,ファイバースコープの将来性にいち早く気づき,町田製作所と産学協同によってその完成に尽力されたことだと思います.東京大学(以下,東大)に居られた1960年代,胃カメラ派と胃鏡派という二つの流れがあり,胃カメラ全盛期であったこともあって胃鏡派の竹本先生は劣勢で弟子も少なかったようです.だが直視鏡の潜在力,将来性を確信しておられたのでファイバースコープの開発に全力を挙げられました.そのことは東京女子医科大学(以下,東京女子医大)へ移られて偉才・大井至を見い出して為されたERCP開発によってファイバースコープの優位性が誰の目にもはっきり証明されたことによって報われたと思います.

追悼・竹本忠良先生─「胃と腸」と竹本先生

著者: 榊信廣

ページ範囲:P.1500 - P.1501

 竹本忠良先生は現在の早期胃癌研究会の設立メンバーであり,本誌「胃と腸」の創刊,発展に多大な尽力をされた.1984〜1986年までは第4代編集委員長を務められている.そのためか,「胃と腸」は先生にとって,特別な雑誌であった.
 「これだけは違う」と直接お聞きしたが,原稿を書くときの意気込みから違っていて,必ずご自身で執筆されていた.

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欧文目次

ページ範囲:P.1406 - P.1406

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1440 - P.1440

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1466 - P.1466

学会・研究会ご案内

ページ範囲:P.1503 - P.1507

次号予告

ページ範囲:P.1510 - P.1510

編集後記

著者: 松本主之

ページ範囲:P.1511 - P.1511

 本号は,消化管に肉芽腫を形成する疾患を特集した.肉芽腫とはリンパ球や形質細胞などの炎症性細胞と線維組織に取り囲まれた類上皮細胞や組織球によって構成される組織学的所見であり,種々の炎症性疾患で出現することが知られている.本号はそれらの疾患を総合的に理解するために企画されたものである.
 小澤論文では,肉芽腫の定義と代表的疾患が序説として解説されている.この序説で肉芽腫を理解いただいた後,各論として疾患別にみた肉芽腫の組織学的特徴,肉芽腫を来す上部消化管疾患と下部消化管疾患,Crohn病における肉芽腫診断の臨床的意義,サルコイドーシスの消化管病変,肉芽腫性血管炎に伴う消化管病変について詳細にご執筆いただき,さらに知っておくべき肉芽腫形成性消化管疾患の5例を提示いただいた.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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