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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸55巻4号

2020年04月発行

雑誌目次

今月の主題 内視鏡医も知っておくべき病理診断リファレンス—上部消化管腫瘍 序説

消化管診断学における点と面

著者: 松本主之

ページ範囲:P.353 - P.354

 消化管疾患の領域でも,AI(artificial intelligence)技術の導入に関する研究が進んでいる.特に内視鏡診断では,AI技術による腫瘍性病変の検出と質的診断,小腸疾患の拾い上げ,炎症性腸疾患の重症度診断などmachine learningを用いたアルゴリズムが続々と発表されている.中でも,大腸上皮性腫瘍に対する超拡大内視鏡を用いたAI診断は保険承認・薬価収載されており,今後も改良が加えられていくものと予測される.このシステムは,1980年代から精力的に拡大内視鏡を臨床応用してきた本邦の内視鏡医と組織診断を積み重ねてきた病理医の共同作業の成果であり,消化器内視鏡におけるAI技術応用の成功例と言えよう.
 21世紀になり,消化管内視鏡機器開発にはめざましい進歩がみられている.画像強調機能を搭載した機器が標準となり,通常光観察や色素内視鏡観察よりも病変を明瞭に描出することが示されている.さらに拡大観察を併用することで,粘膜の表面構造と表層の血管構造を明瞭に観察することも可能である.そして,これらの情報を効率よくアルゴリズムに組み込むことで,より正確なAI診断体系が構築される.

主題

上部消化管腫瘍画像診断において臨床医が病理医に求めるもの

著者: 小田丈二 ,   入口陽介 ,   水谷勝 ,   冨野泰弘 ,   山里哲郎 ,   依光展和 ,   園田隆賀 ,   大島奈々 ,   岸大輔 ,   清水孝悦 ,   橋本真紀子 ,   中河原亜希子 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.356 - P.368

要旨●消化管病変を臨床医が前向きに診断する際,比較的よく見かける病変では臨床診断のバラつきも少なく,診断の確認目的で生検を行うことがほとんどであろう.しかし,簡単にはいかない病変の場合,生検診断に委ねざるを得ないことも数多く経験することと思われる.その際には,必要な情報を病理医に提供するだけでなく,適切な生検検体を採取することは当然として,病理医と十分にディスカッションしながら診断を行う必要がある.病理医と良好な信頼関係を築きながら診断を行うことが重要である.

上部消化管腫瘍病理診断において病理医が臨床医に求めるもの

著者: 二村聡 ,   萱嶋善行

ページ範囲:P.369 - P.373

要旨●病理診断は,消化管病変の診療において重要な役割を果たしている.診療録の一部をなす病理診断報告書は,当該病変診療に欠かせない病理学的情報を網羅し,その記載内容は簡潔かつ明瞭であることが望ましい.質の高い病理診断を遂行・継続するためには挫滅の少ない組織検体と的確な臨床情報はもちろん,臨床医と病理医との連携と意思疎通が不可欠である.

主題アトラス

食道:扁平上皮癌

著者: 根本哲生 ,   小原淳 ,   本間まゆみ

ページ範囲:P.374 - P.379

概念・定義
 扁平上皮癌とは,正常重層扁平上皮としての特徴である角化あるいは細胞間橋がみられる上皮性悪性腫瘍である.角化とは,上皮層最深部に位置する基底細胞が,表面へ向かって傍基底細胞,多辺形の有棘細胞と次第に核細胞質比を下げ扁平化し,最終的には核を失い剝離していく一連の変化を指す(Fig.1).食道癌の発生母地である食道粘膜は,腺上皮に置換されたBarrett食道以外は重層扁平上皮に覆われるため,本邦においては食道癌の90%以上が扁平上皮癌である.

食道:類基底細胞癌

著者: 新井冨生 ,   井下尚子 ,   野中敬介 ,   相田順子 ,   田久保海誉 ,   石渡俊行 ,   松川美保 ,   上垣佐登子 ,   金澤伸郎 ,   黒岩厚二郎

ページ範囲:P.380 - P.383

定義・概念1)2)
 類基底細胞癌〔basaloid(squamous)carcinoma〕は扁平上皮癌の亜型の一つで,基底細胞に類似した比較的小型の細胞から構成され,充実性あるいは索状構造を示し増殖する腫瘍である.一部で小囊胞状構造や導管様分化を伴うこともある.本腫瘍は,腫瘍細胞胞巣の周囲あるいは内部に基底膜様物質の沈着を認める.上皮内には扁平上皮癌を有することが多く,浸潤部でも扁平上皮癌を伴うことがある.類基底細胞癌の起源は基底細胞あるいは食道腺導管開口部付近に存在する多分化能を有する原始的な細胞である可能性が高いと言われている.腺様囊胞癌と異なり,類基底細胞癌では筋上皮への分化は認められない.予後に関しては通常の扁平上皮癌より不良とされるが,明らかな差がないという報告もある.

食道:癌肉腫

著者: 河内洋 ,   中野薫

ページ範囲:P.384 - P.386

概念・定義
 食道癌肉腫は食道扁平上皮領域に発生し,病理組織学的に扁平上皮癌から成る上皮性悪性腫瘍(癌腫)成分と,肉腫成分から成る非上皮性悪性腫瘍成分の双方を含む悪性腫瘍である1).かつては扁平上皮癌の間質が悪性化し癌腫と肉腫が併存する“真性癌肉腫”と,扁平上皮癌の二次的形質転換により肉腫様成分が形成された“いわゆる癌肉腫”に区別されていたが2),両者の鑑別は実臨床上困難であることから現在では区別していない.WHO分類では後者の発生機序を想定し扁平上皮癌の亜型に位置づけられ,spindle cell squamous cell carcinomaと同義とされている3).扁平上皮癌に反応性の非腫瘍性間質細胞増生が目立つものを“偽肉腫”と呼び癌肉腫に含める立場もあったが,非腫瘍成分を肉腫成分と見なすことは適切でなく,本組織型には含めるべきでない.

食道:悪性黒色腫

著者: 河内洋 ,   中野薫

ページ範囲:P.387 - P.389

概念・定義
 食道悪性黒色腫は主に食道扁平上皮領域に発生し,メラノサイトの性格を有する腫瘍細胞の増生から成る悪性非上皮性腫瘍である1).食道扁平上皮内に散在するメラノサイトを起源とする説がある2)3).重層扁平上皮基底側における上皮内黒色腫(melanoma in situ)から,上皮下に浸潤を示し腫瘤を形成する浸潤性黒色腫へと進展する.メラニン産生が著明なものを色素性悪性黒色腫,メラニン産生に乏しいものを無色素性悪性黒色腫と呼ぶ.

食道:Barrett食道癌

著者: 渡辺玄

ページ範囲:P.390 - P.393

概念・定義,腫瘍発生
 Barrett粘膜(胃から連続する食道内円柱上皮粘膜)に由来する癌(特に腺癌)である.欧米で前癌病変とされている異形成(Barrett's dysplasia,glandular dysplasia)もしくは上皮内腫瘍(glandular intraepithelial neoplasia)の大部分は,本邦においては高分化腺癌と診断され,Barrett食道癌に含まれる〔low-grade dysplasiaは低異型度上皮内高分化腺癌(Fig.1),high-grade dysplasiaは高異型度上皮内高分化腺癌(Fig.2)にほぼ対応する〕1)
 Barrett粘膜における発癌経路に関して,腸型化生(intestinal metaplasia)粘膜を背景とする腸型経路(intestinal pathway)に加え,胃型(噴門腺型)粘膜を背景とする胃型経路(gastric pathwayもしくはnon-intestinal pathway)の存在が提唱されている2)3)

胃:胃型の腺腫・分化型癌

著者: 九嶋亮治

ページ範囲:P.395 - P.398

概念・定義
 胃型腺腫は本邦では限定的にいわゆる幽門腺腺腫(pyloric gland adenoma)を指す場合が多い1)2).主に頸部粘液細胞〜幽門腺型の腺管から成り,表層部は胃腺窩上皮型細胞に分化する低異型度な腫瘍である.胃型腺癌は胃固有上皮(腺窩上皮,胃底腺,幽門腺,噴門腺)へ分化が明瞭な細胞から構成される癌を指し,いくつかの亜分類が提唱されている3)4)
 WHO分類5)では浸潤が明らかでない上皮性腫瘍をdysplasiaというが,胃型のdysplasiaとしてfoveolar-type dysplasiaが提示されている.また,粘膜内で非浸潤性の上皮性隆起性病変を異型性にかかわらずadenomaというが,胃型のadenomaはfoveolar-type adenoma,pyloric gland adenomaとoxyntic gland adenomaに類型化されている.

胃:腸型の腺腫・分化型癌

著者: 藤原美奈子

ページ範囲:P.399 - P.403

概念・定義
 腸型の腺腫の多くはH. pylori(Helicobacter pylori)感染に伴う慢性萎縮性胃炎を背景に発生する境界明瞭な良性上皮性腫瘍で,腸管上皮に類似した腫瘍細胞が管状に増殖する(Fig.1,2).腫瘍細胞の間質や脈管への浸潤・侵襲はなく,転移も伴わない.一方,腸型の分化型癌は同じく腸管上皮に類似した腫瘍性細胞が主に管状,あるいは部分的に乳頭状に増殖した悪性上皮性腫瘍で,深達度や分化度によってしばしば間質や脈管への浸潤・侵襲を伴い,リンパ節などへの転移を伴う1)

胃:印環細胞癌

著者: 永塚真 ,   杉本亮 ,   藤田泰子 ,   鳥谷洋右 ,   松本主之 ,   菅井有

ページ範囲:P.404 - P.407

概念・定義,腫瘍発生
 胃癌の組織型は本邦では分化型と未分化型に大別され1)2),欧米ではintestinal typeとdiffuse typeに分類される3).分化型と未分化型の区別は,腺管を形成している癌は分化型,腺管形成の乏しいものは未分化型とされ,腫瘍発生部位について分化型は腸上皮化生粘膜からの発生,未分化型は粘膜固有層腺頸部増殖帯からの発生とされている2).しかしながら前者については腸上皮化生腺管から直接癌腺管が出芽している所見を観察した報告はない.病理組織学的に分化型には管状腺癌(tubular adenocarcinoma ; tub),乳頭状腺癌(papillary adenocarcinoma ; pap)が,未分化型には低分化腺癌(poorly differentiated adenocarcinoma ; por),印環細胞癌(signet-ring cell carcinoma ; sig),粘液癌(mucinous adenocarcinoma ; muc)が含まれる1).未分化型癌のうち印環細胞癌は病理組織学的に癌細胞内に粘液を貯留する印環型の細胞から成る腺癌を言う.腺腔形成はみられず,細胞内粘液が豊富で核が細胞辺縁に圧排される病理組織像が典型的とされる2).印環細胞癌の予後について早期癌の段階では非印環細胞癌に比して差異はないが,進行癌では予後不良を示すという報告がある4).予後不良の要因として印環細胞癌は早期癌の段階では表面平坦もしくは陥凹型の肉眼型を取ることが多く,病変の認識が困難なことがあるため,早期発見が遅れることが指摘されている2).進行するとスキルス胃癌となって発見される例が多く,その場合,リンパ節転移,腹膜播種,癌性リンパ管症,Krukenberg腫瘍などにより予後不良を示すとされる5)6)
 その分子学的な発生機序としては,若年発症で多発する印環細胞癌が家族内集積を認める遺伝性びまん性胃癌(hereditary diffuse gastric cancer ; HDGC)ではCDH1遺伝子のgermline変異によるE-cadherin機能不全に起因するとされている7).一方で散発性印環細胞癌ではE-cadherinプロモーター領域の高メチル化は認めるが,APC,TP53遺伝子などの癌関連遺伝子変異やmicrosatellite領域の異常,染色体アレル不均衡(allelic imbalance ; AI)はまれとされている8).最近ではRhoA遺伝子変異も特徴的とされている9)

胃:低分化腺癌,充実型および非充実型

著者: 六反啓文 ,   牛久哲男

ページ範囲:P.408 - P.411

概念・定義
 腺腔形成に乏しいかほとんどみられない腺癌を低分化腺癌(por)と呼ぶ.低分化腺癌は充実型低分化腺癌(por1)と非充実型低分化腺癌(por2)に大別され,両者は組織発生やゲノム異常,生物学的振る舞いが異なるため区別する必要がある.
 微小癌として発見される癌の組織型は印環細胞癌(sig)か高分化管状腺癌のみであり,基本的に発生当初にはpor1やpor2の癌は存在しない.一般に,por1は管状腺癌や乳頭腺癌から変化して生じ,これらの分化型癌と同様,主に高齢者の腸上皮化生を伴う萎縮性粘膜に発生し,2型病変を形成することが多く,静脈侵襲を来し肝転移などの血行性転移を示しやすい.一方,por2は主にsig,あるいはその他の組織型から変化して生じ,高齢者の萎縮性粘膜に加え,若年者の腸上皮化生のない粘膜にも発生し,3型や4型病変を形成する.リンパ行性転移や腹膜播種を来しやすい.

胃:Epstein-Barrウイルス関連胃癌

著者: 海崎泰治

ページ範囲:P.413 - P.416

概念・定義1)2)
 EBV(Epstein-Barr virus)はヘルペスウイルスの一種で,日本人の多くに潜伏感染している.鼻咽頭癌や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍の原因ウイルスとして知られるが,胃癌の約5〜10%でも癌細胞にEBVの潜伏感染が確認され,EBV関連胃癌と呼ばれている.
 EBV関連胃癌の7〜8割はリンパ球浸潤癌の形態をとり,リンパ球浸潤癌におけるEBV感染を検索したことにより研究が開始されている.臨床病理学的には,著明に男性優位(4:1程度)であり,罹患年齢は60歳代前半で,通常型胃癌よりもやや若い傾向にある.発生部位は胃の近位部に多い.多発例が多く,同時多発症例のみならずEBV関連胃癌切除後の残胃発生症例も多い.残胃の癌では特にBillroth II法再建胃の吻合部に発生する頻度が高く,背景にstomal polypoid hyperplastic gastritis(gastritis cystica polyposa)を有することが多い.リンパ節転移の頻度が低く,通常型胃癌と比較して予後がよい.このような通常型胃癌とは異なる特徴を有し,独立した組織型であると考えられている.

胃:胃底腺型胃癌

著者: 八尾隆史 ,   津山翔 ,   上山浩也

ページ範囲:P.417 - P.420

概念・定義
 胃底腺型胃癌は,胃底腺への分化を示す分化型腺癌である.Ueyamaら1)が2010年に新しいタイプの胃癌として提唱し,「胃癌取扱い規約 第15版」2)から“胃底腺型腺癌(adenocarcinoma of fundic gland type)”という名称で特殊型組織型の一亜型として掲載された.
 胃底腺細胞に類似した細胞から成り,免疫染色でpepsinogen I(主細胞のマーカー)またはH/K-ATPase(壁細胞のマーカー)陽性が必須である.早期に粘膜下層に浸潤するが,脈管侵襲やリンパ節転移は極めてまれで,予後良好な腫瘍である1)

胃:胎児消化管類似癌・肝様腺癌

著者: 山澤翔 ,   牛久哲男

ページ範囲:P.421 - P.424

概念・定義
 胎児消化管類似癌(adenocarcinoma with enteroblastic differentiation)は,胎生初期の消化管上皮に類似した淡明な円柱細胞が管状,乳頭状,あるいは充実性増殖を示す腺癌である.肝様腺癌(hepatoid adenocarcinoma)は,肝細胞癌に類似した組織像を示し,豊富な好酸性細胞質を有する細胞が索状・充実性に増殖する腺癌である.
 また両者はAFP(α-fetoprotein)産生胃癌の代表的組織型として知られる.これらの組織型であっても必ずしもAFP産生性ではないことにも注意する必要がある.AFP産生を示す他の組織型としては,ごくまれなものとして卵黄囊腫瘍類似癌(yolk sac tumor like carcinoma)が知られ,一般型の管状腺癌,乳頭腺癌,あるいは充実型低分化腺癌でもAFP産生が証明される例がある.これらの癌は,幼若な細胞分化を示す胃癌の一群に含まれる類縁関係にあり,同一腫瘍内にこれら複数の組織型成分が混在することもまれではない.臨床的には,これらの組織型の胃癌は静脈侵襲が高度で肝転移を来しやすい高悪性度胃癌であることが特徴である.

十二指腸:胃型の腺腫・癌

著者: 九嶋亮治

ページ範囲:P.425 - P.428

概念・定義
 十二指腸原発の上皮性腫瘍は,①腸型,②胃型,③膵胆道系型の3つに大別できる.胃固有上皮またはBrunner腺に類似した細胞から形成される上皮性腫瘍を胃型腫瘍(gastric-type neoplasia)とし,腺腫を胃型腺腫,腺癌を胃型腺癌というが,良悪性鑑別が困難な腫瘍も多い.

十二指腸:腸型・胃腸混合型の腺腫・癌

著者: 八尾隆史 ,   津山翔 ,   赤澤陽一 ,   上山浩也

ページ範囲:P.429 - P.432

概念・定義
 上皮性腫瘍のうち十二指腸粘膜の主な構成細胞(吸収上皮,杯細胞,Paneth細胞)への分化のみを示すものが腸型腫瘍で,特に吸収上皮とPaneth細胞への分化を示すものが小腸型腫瘍である.これに加えて,胃腺窩上皮や幽門腺(あるいは頸部粘液腺)への分化を伴うものが胃腸混合型腫瘍である.小腸型では内分泌細胞(argentaffin細胞)も種々の割合で混在する.
 顕著な構造異型や浸潤像を示すものは癌と判定されるが,そのような像を示さないものは細胞異型(核の形態と極性)の程度により腺腫(低異型度と高異型度)と癌に分類される.

十二指腸:Gangliocytic Paraganglioma

著者: 伴慎一 ,   佐藤泰樹 ,   松嶋惇 ,   佐藤陽子 ,   藤井晶子 ,   小野祐子

ページ範囲:P.433 - P.435

概念・定義
 主に十二指腸に発生するまれな腫瘍であり,①上皮様(神経内分泌)細胞,②紡錘形細胞,③神経節細胞様細胞の3種類の分化を示す細胞から構成されていることを特徴とする.WHO分類(2019)1)では,“small intestinal and ampullary neuroendocrine neoplasms”の項目に記載されている.腹側膵原基の内胚葉・神経外胚葉複合体由来などが推測されているが,組織発生は明らかでない.大部分は良性とみなされる.10%程度の頻度でリンパ節転移を来す例がみられ,まれに肝転移例や骨転移例も報告されているが,本腫瘍による死亡例の報告は極めてまれである2)

上部消化管:MALTリンパ腫

著者: 二村聡 ,   萱嶋善行

ページ範囲:P.436 - P.438

概念・定義
 粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue)に発生するB細胞リンパ腫である1).なお,粘膜関連リンパ組織節外性辺縁帯リンパ腫(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue)はMALTリンパ腫の同義語である1)

上部消化管:濾胞性リンパ腫

著者: 田中健大 ,   神崎洋光

ページ範囲:P.439 - P.441

概念・定義
 濾胞中心B細胞で構成される悪性腫瘍で,典型的には濾胞状構造を示す.十二指腸に好発するために十二指腸型が亜型の一つとして挙げられる1)

上部消化管:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫・その他のリンパ腫

著者: 田中健大 ,   神崎洋光

ページ範囲:P.442 - P.444

概念・定義1)
 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma ; DLBCL)は中型〜大型のB細胞のびまん性増殖から成る腫瘍である.腫瘍細胞の大きさは正常組織球の核以上,あるいは正常リンパ球の2倍以上の大きさと定義づけされる.
 マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma ; MCL)は小型から中型で均一なリンパ球から成る腫瘍で,t(11;14)によるcyclin D1の過剰発現がみられる.

上部消化管:GIST

著者: 伴慎一 ,   松嶋惇 ,   佐藤泰樹 ,   佐藤陽子 ,   藤井晶子 ,   小野祐子

ページ範囲:P.446 - P.449

概念・定義1)2)
 プロトタイプとしてのGIST(gastrointestinal stromal tumor)は消化管の固有筋層に連続するかたちで発生する間葉系腫瘍であり,固有筋層間に存在し消化管蠕動運動のペースメーカー細胞として機能するCajal介在細胞様の分化を呈し,KIT蛋白(CD117)の発現とKIT遺伝子変異を特徴とする.その他,PDGFRA遺伝子変異やその他の遺伝子異常を有する例が明らかにされてきている.
 GISTは小児から高齢者まで幅広い年齢に発生するが,中高年者に多い.性差による発生頻度に顕著な違いはみられない.胃での発生が少なくとも半数以上を占め,残りの多くが十二指腸を含む小腸に認められる.大腸や食道での発生はまれである.胃では体部,噴門部,穹窿部に生じることが多い.多くは孤発性に生じるが,非常にまれに症候性もしくは家族性に生じる病態がみられる.GISTは良悪性に関して多彩な生物学的態度を呈するが,転移形式にも特徴があり,主に腹膜播種と肝転移を来す.特殊な例を除いてリンパ節転移はまれである.小腸GISTは胃GISTよりも転移を生じやすい.

上部消化管:カルチノイド腫瘍・内分泌細胞癌

著者: 海崎泰治

ページ範囲:P.450 - P.454

概念・定義1)2)
 消化管の内分泌細胞腫瘍(WHO分類ではneuroendocrine neoplasm)は,消化管原発で,腫瘍性内分泌細胞が充実性,索状,ロゼット様構造,腺房状胞巣などの特徴的な構築に配列し,毛細血管に富む繊細な間質を伴い,充実性の腫瘍塊を形成して増殖する癌腫の総称である.
 消化管のいずれの臓器からの発生例でも,内分泌細胞腫瘍は予後の比較的良好なカルチノイド腫瘍(neuroendocrine tumor ; NET)と予後不良な内分泌細胞癌(neuroendocrine carcinoma ; NEC)に大きく分類される.両者は悪性度が異なるだけでなく,発生起源も全く異なり,区別することは病理学的のみならず臨床的にも重要である.WHO分類ではNETとNECが同系統の腫瘍として混同されていた時期もあったが,2019年の消化器腫瘍のWHO分類では,NETとNECが分子生物学的,臨床的,疫学的,病理組織学的に,さらに予後の面でも正式に別の腫瘍であることを認めており,Table 1,2 1)のような分類が示されている.一方,本邦の癌取扱い規約では,以前よりカルチノイド腫瘍(食道では“神経内分泌腫瘍”)と内分泌細胞癌(食道では“神経内分泌細胞癌”)に分類されている.内分泌細胞癌でよくみられる内分泌成分と非内分泌成分の混在性腫瘍については,WHO分類では,両成分の比率で診断名を分けているが,癌取扱い規約では内分泌成分が少量でも存在すれば予後不良であるとして亜分類を設けていない.

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目次

ページ範囲:P.351 - P.351

欧文目次

ページ範囲:P.352 - P.352

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.368 - P.368

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.416 - P.416

学会・研究会ご案内

ページ範囲:P.456 - P.460

次号予告

ページ範囲:P.462 - P.462

編集後記

著者: 小田丈二

ページ範囲:P.463 - P.463

 本号は,松本編集委員長,病理から海崎先生と二村先生,そして臨床から小田の4人で企画し,編集委員会での討論を経て,このような構成になった.
 消化管病変の診断学は,臨床画像と切除標本,病理組織学的所見との詳細な対比により発展してきた歴史がある.これまでもそうであったように,今後も形態診断学は欠くことのできない診断学であり,そのために必要なことは何か,診断に携わる皆さまが常日頃から十分に考える必要があると思う.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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