icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

胃と腸56巻11号

2021年10月発行

雑誌目次

今月の主題 咽頭表在癌の内視鏡診断と治療 序説

咽頭表在癌の内視鏡診断と治療

著者: 小山恒男

ページ範囲:P.1389 - P.1389

 食道表在癌の発見にはヨード染色という切り札があり,1980年代にその発見頻度が増加した.さらに,1990年代にはEMR(endoscopic mucosal resection)が開発され,食道表在癌の内視鏡治療が可能となった.EMRは食道を温存できる素晴らしい治療法であったが,食道癌は異時多発癌が多く,特に咽頭癌の合併頻度が高かった.しかし,ヨード染色は咽頭表在癌の発見に使用できず,その発見は困難であった.
 21世紀になってNBI(narrow band imaging)が開発され,下咽頭癌の早期発見は急速に発展した.同時に,咽頭表在癌に対するEMRが試みられるようになった.梨状陥凹部は上皮下層が疎のため,EMRが容易であったが,下咽頭正中部は上皮下層の線維化が強く,EMRでの切除は困難であった.そこで,下咽頭にもESD(endoscopic submucosal dissection)が応用されるようになり,さらには口腔から挿入した器具を用いて直接病巣を切除するELPS(endoscopic laryngopharyngeal surgery)が開発された.

主題

咽頭表在性扁平上皮癌に対する病理組織学的診断の課題

著者: 藤井誠志

ページ範囲:P.1391 - P.1402

要旨●扁平上皮乳頭層の毛細血管(IPCL)を描出する狭帯域内視鏡検査(NBI)が利用されるようになり,頭頸部領域において早期の表在性扁平上皮癌が検出されるようになって久しい.発声や嚥下といった生理機能を保持する治療は多大なる恩恵をもたらす一方で,完全切除がなされても低頻度ではあるもののリンパ節転移を来す症例も存在する.解剖学的に粘膜筋板のない頭頸部領域では,食道をはじめとした粘膜筋板が存在する,壁構造を細分類することが可能な臓器のように層構造別にリンパ節転移の頻度を提示することはできない.代用として,tumor thicknessが用いられている.加えて,「TNM分類 第8版」では,中咽頭癌および原発不明癌についてはHPV関連か否かについての判定が病理組織学的診断に求められている.治療指針の決定に関係する咽頭における病理組織学的診断についての課題を概説する.

咽頭表在癌に対する内視鏡診断—拾い上げ

著者: 井上貴裕 ,   石原立 ,   松浦倫子 ,   七條智聖 ,   前川聡 ,   金坂卓 ,   山本幸子 ,   竹内洋司 ,   東野晃治 ,   上堂文也 ,   道田知樹

ページ範囲:P.1403 - P.1410

要旨●内視鏡機器の発達に伴い咽頭表在癌が発見される機会が増加しているが,患者のQOLの維持や生命予後の延長のためには低侵襲治療が可能な早期での診断が望ましい.咽頭表在癌を効率よく発見するには,代表的なリスク因子が食道癌・頭頸部癌の既往や飲酒・喫煙歴であることと,下咽頭が好発部位であることを意識することが肝要である.また,咽頭観察には咽頭反射や解剖学的死角といった克服すべき諸問題がある.ペチジン塩酸塩は咽頭反射抑制に寄与し,患者の負担を軽減しつつ咽頭観察の質を向上させる.解剖学的死角は発声や適切な患者の姿勢,Valsalva法によって影響を緩和することができる.Valsalva法がうまく機能しない症例では,超軟性フードが下咽頭領域の観察に有用である.

咽頭表在癌に対する内視鏡診断—範囲診断・深達度診断

著者: 南方信久 ,   砂川弘憲 ,   坂下信悟 ,   森下洋平 ,   岡野渉 ,   富岡利文 ,   篠崎剛 ,   林隆一 ,   松浦一登 ,   高島健司 ,   中條恵一郎 ,   門田智裕 ,   依田雄介 ,   矢野友規

ページ範囲:P.1412 - P.1418

要旨●本稿では,咽頭表在癌の範囲診断と深達度診断について,実際の症例を提示しながら解説する.咽喉頭は,反射があることや解剖学的構造が複雑であることから,観察・診断が難しい部位である.しかし,意識下鎮静での発声やバルサマウス®などを用いたうえで,NBIなどの画像強調内視鏡観察と拡大観察を行うことによって,病変の範囲診断や深達度診断が可能である.また,治療時には全身麻酔下で喉頭展開し,ヨード染色により範囲診断を確認することも重要である.

咽頭表在癌の治療選択とその実際—ESD/ELPSを中心に

著者: 川田研郎 ,   河邊浩明 ,   大野十央 ,   岡田隆平 ,   田崎彰久 ,   篠原元 ,   塩原寛之 ,   角田龍太 ,   齋藤賢将 ,   藤原直人 ,   星野明弘 ,   徳永正則 ,   絹笠祐介 ,   杉本太郎 ,   朝蔭孝宏

ページ範囲:P.1419 - P.1426

要旨●当院では1996年より咽頭表在癌へのEMRを開始し,2021年4月までの間に437例710病変の治療を行った.現在は頭頸部外科医と協力し,ELPSを標準的に行っている.筋層・軟骨浸潤のない表在癌でリンパ節転移のないもの,大きさ4cm以下の病変がELPSの適応である.頭頸部癌の既往例や食道癌術後症例は術後の誤嚥性肺炎を発症しやすく,適応を慎重に決める必要がある.部位に関しては舌根や喉頭蓋舌面,食道入口部などが切除困難領域で,治療においては把持力の強い把持鉗子,視野展開には経鼻内視鏡を活用している.放射線照射後の救済治療例は潰瘍治癒が遅く,感染や後出血に注意が必要である.また,下咽頭〜食道入口部の広域切除例はステロイド局注による狭窄予防が必須である.

咽頭癌に対する内視鏡的切除の治療成績

著者: 飯塚敏郎 ,   菊池大輔

ページ範囲:P.1427 - P.1433

要旨●咽頭表在癌へのESDは,臓器温存やQOLの維持の観点から,他の治療方法と比較してより低侵襲な治療である.ESDは下咽頭や中咽頭後壁では経口挿管,喉頭蓋や舌根部では経鼻挿管を行うなど,病変部位ごとに治療方法をアレンジして行う.剝離中はトラクションをかけることで,治療時間の短縮や喉頭浮腫を最小限にすることができる.治療の安全性は高く合併症は少ないが,致命的になる場合もあり,マネージメントに精通する必要がある.277例435病変を対象とした自験例では,局所再発が1例,リンパ節転移再発が13例,原病死はなく5年の全生存率は85.5%であった.

咽頭癌治療後の異時性多発癌,遺残再発病変に対する診療の実際

著者: 清水勇一 ,   溝口兼司 ,   山本桂子 ,   西村友佑 ,   井上雅貴 ,   郷田憲一 ,   渡邉昭仁

ページ範囲:P.1435 - P.1444

要旨●咽頭癌に対する内視鏡的切除後には,温存された咽喉頭からしばしば異時性多発癌が発症するが,食道癌と同様に,背景粘膜に多発ヨード不染帯が認められる症例で発症率が高いため,治療時における咽頭ヨード染色像の評価は経過観察ストラテジーの判断に重要である.咽頭癌放射線治療後の内視鏡サーベイランスは,粘膜障害を加味した評価が必要であり,検査中の喉頭浮腫にも気を付ける必要がある.照射後異時性多発癌も内視鏡的切除の適応となるが,粘膜治癒は遷延し,感染も来しやすくなる.照射後の遺残再発咽頭癌に対するサルベージ治療としても内視鏡的切除は選択肢の一つとなる.同治療法は技術的には困難でリスクはあるが,喉頭が温存できる恩恵は大きい.

トピックス

咽頭癌に対する経口的ロボット支援手術(TORS)の現状

著者: 藤原和典

ページ範囲:P.1445 - P.1447

はじめに
 早期の咽喉頭癌においては,化学放射線治療に代わる治療として,手術支援ロボットを用いた経口的切除術(transoral robotic surgery ; TORS)が海外で徐々に普及し,良好な腫瘍学的成績や機能温存が報告されている1)
 本手術は,本邦においては,まず単施設での臨床研究から始まり2),その後,2013年から手術体制の整った鳥取大学,京都大学および東京医科大学の3施設において,先進医療B制度下での多施設臨床試験が行われた.その結果をもとに,2018年8月に頭頸部領域(経口手術)に適応拡大された.その後,日本頭頸部外科学会および日本耳鼻咽喉科学会の指導のもと,耳鼻咽喉科・頭頸部外科におけるロボット支援手術に関わる医師の資格基準,施設要件およびロボット支援手術機器の適正使用指針が定められ,運用が開始されている3).本稿では,TORSの実際と本邦におけるTORSの現状について紹介する.

主題症例

CRT後10年以上経過し異時発生した下咽頭癌の1例

著者: 菊池大輔 ,   田中匡実 ,   鈴木悠悟 ,   野村浩介 ,   小田切啓之 ,   落合頼業 ,   早坂淳之介 ,   光永豊 ,   岡村喬之 ,   渕之上和弘 ,   山下聡 ,   松井啓 ,   渡辺健太 ,   武田英彦 ,   布袋屋修

ページ範囲:P.1449 - P.1454

要旨●患者は70歳代,男性.25年前に下咽頭右梨状陥凹の進行癌に対し化学放射線療法を施行された.その後,食道癌,咽頭癌に対しESDを施行され,1年に2回の上部内視鏡検査が行われ,経過観察されていた.定期的な上部内視鏡にて下咽頭左梨状陥凹の披裂側に約10mm大の発赤領域が認められた.病変周囲の背景粘膜は白濁し,蛇行の乏しい拡張した血管が認められた.これは放射線治療の影響と考えられた.生検にて扁平上皮癌が検出され,CTや超音波検査にて転移が認められなかったためESDを行った.ESD後の病理診断は,Squamous cell carcinoma in situ,6×3mm,ly0,v0,pHM0,pVM0であった.ESD後潰瘍の治癒は遷延し,治療1年後においても中心に肉芽様の白苔を伴う隆起性病変が残存し,上皮化には至らなかった.生検を複数回施行するも肉芽組織のみで悪性所見は認められなかった.

短期間に急速に発育した微小0-IIb型咽頭表在癌の1例

著者: 卜部祐司 ,   上田勉 ,   岡志郎 ,   水野純一 ,   山本紀子 ,   福原基允 ,   下原康嗣 ,   築家伸幸 ,   檜山雄一 ,   濱本隆夫 ,   有廣光司 ,   嶋本文雄 ,   竹野幸夫 ,   田中信治

ページ範囲:P.1455 - P.1460

要旨●患者は70歳代,男性.咽頭癌と食道癌の治療後サーベイランス中に,中咽頭後壁に5mm大の表面平坦型病変を認めた.半年後のEGDにて腫瘍の増大を認めたため,入院加療の方針となり,発見から11か月後にELPSにて切除を施行した.ELPS時の内視鏡観察では腫瘍は15mm大まで増大し,中心部に深い陥凹を認めたため,筋層への浸潤の可能性も考慮し筋層の一部も含めて,ELPSにて一括切除した.病理組織学的所見は,腫瘍は上皮下層深層まで浸潤しており,一部で横紋筋への浸潤を認めた.比較的短期間に急速に発育した咽頭癌で,非常にまれな症例と考えられた.

短期間に急速に増大した咽頭表在癌の症例

著者: 前田有紀 ,   門馬久美子 ,   飯塚敏郎 ,   堀口慎一郎

ページ範囲:P.1461 - P.1465

要旨●患者は60歳代,男性.Barrett食道表在癌に対する内視鏡治療後のため,定期的に上部消化管内視鏡検査を施行していた.Barrett食道表在癌治療7年後に,中咽頭右側壁に2mm程度の白色調の付着物を有する淡いbrownish areaを認めた.咽頭病変の指摘から6か月後の内視鏡検査では,NBI観察で茶色の色調がやや目立つようになったものの,サイズや形態に大きな変化は認めなかった.咽頭病変指摘から1年3か月後,サイズが増大し,病変に厚みのある発赤調の平坦隆起へ急速に形態が変化した.経口的切除術を施行し,切除組織は上皮下層へ浸潤する病巣の厚み300μmの扁平上皮癌であった.

リンパ濾胞の頂部に発生した癌との鑑別が困難であった下咽頭MALTリンパ腫の1例

著者: 竹内学 ,   加藤卓 ,   高綱将史 ,   味岡洋一 ,   寺井崇二

ページ範囲:P.1467 - P.1473

要旨●患者は70歳代,男性.近医のEGDにて,左梨状陥凹に12mm大の隆起性病変を認め,生検で癌と診断され当科でESDを施行した.病理組織学的には上皮下層主体にリンパ濾胞を伴う小型で密なリンパ球浸潤がみられ,びまん性にCD20陽性のB細胞主体であり,上皮の破壊像や上皮釘脚の不規則な延長も確認された.浸潤したリンパ球のIgH遺伝子のモノクローナルな再構成を確認し,最終的にMALTリンパ腫と診断した.下咽頭領域に発生するMALTリンパ腫は極めてまれであるが,リンパ濾胞との鑑別点として大きさが10mm以上であること,隆起の立ち上がりが外反あるいは比較的急峻であること,brownish areaの領域がリンパ濾胞よりも大きく,その境界は比較的明瞭であること,血管の口径不同は乏しいが血管は伸長し,配列の乱れがあることが挙げられた.また,癌との鑑別は典型的な癌の4徴を呈する乳頭内血管を認めないことであるが,生検診断のみに頼らず,内視鏡画像を詳細に評価し再生検も含めて診断する必要がある.

早期胃癌研究会症例

早期に治療開始し得た胃原発Burkittリンパ腫の1例

著者: 青柳裕之 ,   海崎泰治 ,   宇都宮まなみ ,   有塚敦史 ,   竹田康人 ,   内藤慶英 ,   田中彰浩 ,   藤永晴夫 ,   砂子阪肇 ,   波佐谷兼慶 ,   辰巳靖 ,   森永浩次

ページ範囲:P.1475 - P.1483

要旨●患者は70歳代,女性.心窩部痛を主訴に当院を受診した.EGDで胃体上部後壁小彎側に50mm程度の発赤調隆起性病変を認め,頂部には陥凹を認め,凹凸を伴い陥凹びらんが点在していた.NBI併用拡大内視鏡検査では,陥凹内部にVEC patternに類似した形態を認め,分化型早期胃癌類似の所見を認めた.9日後には病変は増大し,潰瘍も深くなった.病変辺縁部では表面微細構造を認めず,伸展した血管が認められた.免疫組織化学染色を含めた生検病理診断および遺伝子検索でBurkittリンパ腫と診断し,化学療法が導入された.患者は3年10か月以上経過した現在も生存している.胃原発Burkittリンパ腫の早期治療介入ができた希少症例と考え,報告する.

--------------------

目次

ページ範囲:P.1387 - P.1387

欧文目次

ページ範囲:P.1388 - P.1388

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.1386 - P.1386

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1402 - P.1402

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1444 - P.1444

次号予告

ページ範囲:P.1486 - P.1486

編集後記

著者: 小田丈二

ページ範囲:P.1487 - P.1487

 本号は,病理医からは新井,臨床医から竹内と筆者が企画を担当した.
 従来,上部消化管内視鏡スクリーニング検査における咽頭部は,食道から胃内へ挿入する際のただの通過点でしかないという認識から,内視鏡機器の発達に伴い,より詳細に観察可能となり,この部位に対する検者の意識が変容したのも事実である.しかし,現状では対策型胃内視鏡検診の普及に伴い,通常の診療の場から検診の場に内視鏡検査が導入され,胃癌や食道癌の拾い上げには大きな福音をもたらしたが,いわゆる消化管としての認識が低い咽頭部の観察がいまだ疎かになりがちであることも事実である.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?