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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸56巻12号

2021年11月発行

雑誌目次

今月の主題 炎症性腸疾患の鑑別診断 序説

炎症性腸疾患の鑑別診断

著者: 斉藤裕輔

ページ範囲:P.1495 - P.1497

はじめに—炎症性腸疾患の診断は難しい
 炎症性腸疾患〔広義のIBD(inflammatory bowel disease)〕のほとんどは命に関わらない良性疾患であり,また疾患数も格段に多く確定診断が得られないことも多いため,診断はないがしろにされがちである.腫瘍は“診断して切除すればそれで終了”的な側面があるため病態・画像は動かないが,炎症は病気の初期,極期,治癒期,瘢痕期,初発か再発かでその病態・画像は激しく動く.さらには初期像や治療の介入,虚血性変化の合併,手術の影響などにより非典型像を呈し,これらの像が混在して出現することもあるため,その画像は極めて複雑となる.そのため,はなから画像診断を諦め,培養検査や生検診断(を用いた特殊検査や遺伝子検索を含む)による診断に頼る先生方も多いと思われる.

主題

炎症性腸疾患の鑑別診断—臨床的アプローチ

著者: 清水誠治 ,   池田京平 ,   石破博 ,   小木曽聖 ,   上島浩一 ,   横溝千尋 ,   富岡秀夫

ページ範囲:P.1499 - P.1508

要旨●炎症性腸疾患(広義)の診断では症候,病歴,診察所見,臨床検査,画像検査などの情報を総合する必要がある.疾患それぞれに診断の決め手となる情報があり,多彩な疾患とその多様性に関する知識が不可欠である.疾患を効率よく絞り込み,限られた検査で診断に到達するノウハウを身に付ける必要があるが,同時に判断を行う上でバイアスが生じる危険性について意識することが重要である.根治的な治療法が存在しない特発性炎症性腸疾患(IBD)の患者数は増加する一方であるが,根治可能な疾患をIBDと誤診することは回避しなければならない.

炎症性腸疾患の鑑別診断—病理学的アプローチ

著者: 味岡洋一

ページ範囲:P.1509 - P.1518

要旨●炎症性腸疾患は,潰瘍の有無とその形態を主所見として,①縦走潰瘍型,②輪状潰瘍型,③円形潰瘍型,④炎症性ポリポーシス型,⑤浮腫・発赤・びらん型,⑥腫瘍様隆起型,に分類され,鑑別疾患が決定される.さらに,潰瘍辺縁の性状などの副所見を組み合わせることで鑑別疾患を絞り込むことができる.炎症性腸疾患の生検診断の役割は,臨床画像診断の整合性を確認することにある.そのためには,①炎症の時相判定,②粘膜傷害の原因推定,③特異的組織所見の検索,の3つの過程に沿った病理組織像の解析が必要である.潰瘍形成病変では,潰瘍辺縁(粘膜傷害の原因推定)と周囲粘膜(炎症罹患範囲の判定)および潰瘍底(病原菌や肉芽腫などの検出)からの生検が必須である.

炎症性腸疾患の画像所見と鑑別診断—縦走潰瘍

著者: 船越禎広 ,   阿部光市 ,   久能宣昭 ,   柴田衛 ,   能丸遼平 ,   山嶋友実 ,   保田秀生 ,   松岡弘樹 ,   今給黎宗 ,   松岡賢 ,   田辺太郎 ,   向坂秀人 ,   石橋英樹 ,   平井郁仁

ページ範囲:P.1519 - P.1526

要旨●縦走潰瘍を来す代表的な疾患はCrohn病(CD)であり,診断基準の主要所見として取り上げられている.典型的な縦走潰瘍や敷石像を認めれば,CDの確定診断が可能であるが,縦走潰瘍を呈する疾患は少なくないため,患者背景,臨床経過,各種画像検査さらに病理組織学的所見を加味した鑑別診断が重要である.本稿では縦走潰瘍を来しうる疾患について,画像所見の特徴や鑑別のポイントを中心に概説する.

炎症性腸疾患の画像所見と鑑別診断—輪状潰瘍

著者: 松野雄一 ,   梅野淳嗣 ,   冬野雄太 ,   鳥巣剛弘

ページ範囲:P.1527 - P.1533

要旨●輪状潰瘍には幅の狭い狭義の輪状潰瘍と幅の広いもの(帯状潰瘍)があり,炎症性腸疾患の鑑別においては輪状潰瘍を特徴とする疾患(腸結核,非特異性多発性小腸潰瘍症,NSAIDs起因性腸症)と輪状潰瘍を呈することがある疾患を区別して鑑別する必要がある.その際,輪状潰瘍の局在,辺縁の性状,周囲粘膜の色調や粘膜模様に着目することが重要である.また,輪状潰瘍に随伴する病変の存在も鑑別の一助となる.画像評価は内視鏡所見が中心となるが,病変の分布や全体像の把握にはX線造影検査も有用であり,診断は問診,各種検査所見と経過を含め総合的に行う必要がある.

炎症性腸疾患の画像所見と鑑別診断—打ち抜き様潰瘍(多発/単発)

著者: 松浦稔 ,   久松理一

ページ範囲:P.1535 - P.1540

要旨●“打ち抜き様潰瘍”とは境界明瞭で断崖状に下掘れする潰瘍の呼称である.打ち抜き様潰瘍を呈する代表的な消化管の炎症性疾患としては,腸管Behçet病,単純性潰瘍,サイトメガロウイルス感染症が挙げられる.Crohn病,潰瘍性大腸炎,trisomy 8に伴う腸病変,NSAIDs起因性腸炎などでも多彩な内視鏡所見の一つとして認められる.これらの疾患を内視鏡所見のみで鑑別することは困難であるが,特徴的な内視鏡所見に基づいて横断的に理解することは多岐にわたる炎症性腸疾患の鑑別診断を行う上で有用である.

炎症性腸疾患の画像所見と鑑別診断—アフタ/びらんを主体とした病変

著者: 城代康貴 ,   長坂光夫 ,   大宮直木

ページ範囲:P.1541 - P.1546

要旨●アフタ,びらんは腸管のさまざまな疾患で生じうるため,その内視鏡的特徴の把握が診断に重要となる.Crohn病の初期像ではそれらが縦列するのが特徴である.アメーバ性大腸炎は盲腸,直腸に好発する白苔を伴うたこいぼ状潰瘍を呈する.診断には組織生検,便塗抹検査が必要である.クロストリジウム・ディフィシル腸炎は発赤,びらん,潰瘍,偽膜を来すのが特徴であるが,偽膜のない症例では内視鏡所見のみで診断は困難である.NSAIDs起因性腸病変は潰瘍型と腸炎型に大別され,さらに潰瘍型は膜様狭窄を合併することもある.病理組織像は陰窩のアポトーシスや好酸球浸潤が特徴であるが,生検のみで診断できない場合は,他疾患の除外や薬剤内服歴の聴取,薬剤中止後の改善所見の確認が重要となる.

炎症性腸疾患の画像所見と鑑別診断—びまん性炎症

著者: 菊池英純 ,   三上達也 ,   櫻庭裕丈 ,   平賀寛人 ,   蓮井桂介 ,   村井康久 ,   星健太郎 ,   浅利享 ,   澤田洋平 ,   宮澤邦昭 ,   立田哲也 ,   珍田大輔 ,   澤谷学 ,   花畑憲洋 ,   明本由衣 ,   福田眞作

ページ範囲:P.1547 - P.1553

要旨●炎症性腸疾患の鑑別診断で留意すべき,びまん性炎症を呈する代表疾患を概説した.炎症性腸疾患,特に潰瘍性大腸炎を疑う症例では,びまん性腸炎の鑑別診断が重要となる.びまん性炎症は疾患特異的所見ではなく,さまざまな病因により多彩な粘膜所見が領域性に拡がる.急性炎症では感染性腸炎や薬剤性腸炎が主な鑑別となる.慢性炎症では,潰瘍性大腸炎を中心に,MEFV遺伝子関連腸炎,diverticular colitis,AAアミロイドーシスなども念頭に置く.特に慢性経過の症例では,潰瘍性大腸炎に非典型的な所見を丁寧に拾い上げ,経時的に診断することが肝要である.

炎症性腸疾患の画像所見と鑑別診断—敷石像,炎症性ポリポーシス,多発隆起

著者: 佐々木貴弘 ,   上野伸展 ,   上原恭子 ,   小林裕 ,   杉山雄哉 ,   村上雄紀 ,   高橋慶太郎 ,   安藤勝祥 ,   嘉島伸 ,   盛一健太郎 ,   田邊裕貴 ,   藤谷幹浩

ページ範囲:P.1555 - P.1561

要旨●潰瘍性大腸炎やCrohn病は炎症性腸疾患と総称され,潰瘍形成と組織再生を慢性的に繰り返すことによって,多彩な内視鏡所見を呈し,診断に苦慮する症例も少なくない.本稿では,敷石像・炎症性ポリポーシス・多発隆起などの特徴的な所見に焦点を当て,炎症性腸疾患の鑑別診断について解説する.敷石像,炎症性ポリポーシス,多発隆起はいずれも背景粘膜の炎症や潰瘍,浮腫により形成される非腫瘍性の変化であり,隆起部分のみにとらわれることなく,背景粘膜の炎症や併存する縦走潰瘍の存在などの腸管全体像を正確に把握することが鑑別診断のポイントとなる.

炎症性腸疾患の画像所見と鑑別診断—狭窄

著者: 蔵原晃一 ,   河内修司 ,   川崎啓祐 ,   大城由美 ,   浅野光一 ,   池上幸治 ,   清森亮祐 ,   堺勇二 ,   小林広幸 ,   鳥巣剛弘 ,   八尾隆史 ,   西﨑隆 ,   松本主之

ページ範囲:P.1563 - P.1570

要旨●腸管狭窄合併例に対する内視鏡的アプローチには限界がある.高度の管腔狭窄を合併した炎症性腸疾患症例におけるX線造影検査は,狭窄部を含めた病変の全体像の把握に有用であり,内視鏡検査に対して相補的な意義があるが,加えて管腔変形・狭窄部のX線造影像は内視鏡検査では得られない輪郭線から構成されるため,その解析は鑑別診断にも有用となる.管腔変形・狭窄部のX線造影像を片側性狭窄,輪状狭窄と管状狭窄に分類し,変形・狭窄と腸間膜との位置関係,周囲粘膜の随伴所見を加味して解析することにより,内視鏡検査とは異なる観点からの鑑別診断が可能となる.

炎症性腸疾患の病変部位と鑑別診断—直腸病変

著者: 佐野弘治 ,   大川清孝 ,   上村拓也 ,   宮野正人 ,   島田直 ,   谷川徹也 ,   山口誓子 ,   倉井修 ,   福島裕子 ,   末包剛久 ,   平田直人

ページ範囲:P.1571 - P.1576

要旨●直腸にはさまざまな病変があり,前処置薬なしで内視鏡観察可能であるが,反転観察しないと全体像が把握できない疾患もある.直腸のみに病変を認める疾患と直腸以外にも病変を認める疾患があり,後者では他部位の病変の性状により診断がつくことがある.直腸病変の診断では,患者背景,臨床症状,存在部位,潰瘍の形態・深さ・辺縁の性状などに注目する.炎症性腸疾患は,特徴的な画像所見があれば診断が容易であるが,慎重な経過観察で診断に至ることもある.確定診断の方法として病理組織検査,便培養などの細菌学的検査,抗原検査,抗体検査などがある.今回,炎症性腸疾患の直腸病変の臨床像,内視鏡像,鑑別疾患について述べる.

炎症性腸疾患の病変部位と鑑別診断—回盲部病変

著者: 梁井俊一 ,   春日井聡 ,   赤坂理三郎 ,   鳥谷洋右 ,   森下寿文 ,   永塚真 ,   大泉智史 ,   朝倉謙輔 ,   佐々木裕 ,   久米井智 ,   漆久保順 ,   安達香帆 ,   川崎啓祐 ,   上杉憲幸 ,   菅井有 ,   松本主之

ページ範囲:P.1577 - P.1583

要旨●回盲部に潰瘍性病変を認める代表的な炎症性腸疾患として,Crohn病,腸管Behçet病/単純性潰瘍,trisomy 8関連腸病変,家族性地中海熱,腸結核,エルシニア腸炎,カンピロバクター腸炎,薬剤起因性腸潰瘍が挙げられる.Crohn病では腸間膜付着側の縦走潰瘍と敷石像がみられる.腸管Behçet病/単純性潰瘍,trisomy 8関連腸病変の典型像は回盲部の円形ないし卵円形の打ち抜き潰瘍であり,回盲部の潰瘍に加えて消化管の広範囲に境界明瞭な打ち抜き様の多発潰瘍がみられる.一方,家族性地中海熱の消化管病変では回盲部を含む多彩な潰瘍性病変が認められる.回盲部の潰瘍性病変の鑑別に際しては,trisomy 8関連腸病変や家族性地中海熱を含む多くの疾患における病変の特徴を熟知しておくことが重要である.

炎症性腸疾患と鑑別が必要な腫瘍および腫瘍様病変

著者: 田中秀典 ,   田中信治 ,   谷野文昭 ,   山本紀子 ,   上垣内由季 ,   玉理太覚 ,   下原康嗣 ,   西村朋之 ,   稲垣克哲 ,   岡本由貴 ,   山下賢 ,   住元旭 ,   林奈那 ,   林亮平 ,   弓削亮 ,   岡志郎

ページ範囲:P.1584 - P.1592

要旨●炎症性腸疾患に類似した形態を呈し,時に鑑別を要する腫瘍および腫瘍様病変としては,4型大腸癌,悪性リンパ腫,腸管子宮内膜症,潰瘍性大腸炎関連腫瘍,転移性大腸癌などが挙げられる.いずれも遭遇する頻度は低いが,診断に苦慮することがある.疾患の病態や特徴を理解したうえで,内視鏡検査だけでなく,注腸X線造影検査やCTも用いて病変を多角的に捉え,臨床症状や経過も踏まえて診断する必要がある.

臨床消化器病研究会症例

ニボルマブ関連大腸炎の一剖検例

著者: 梁井俊一 ,   川崎啓祐 ,   中村昌太郎 ,   藤田泰子 ,   小川純一 ,   菅井有 ,   松本主之

ページ範囲:P.1593 - P.1601

要旨●患者は60歳代,男性.肺扁平上皮癌Stage IVに対してニボルマブによる治療中,下痢,血便,腹痛が出現した.大腸内視鏡検査では,直腸〜S状結腸にかけて血管透見像が消失した粗糙粘膜と不整形潰瘍を認めた.感染症による大腸病変は否定的であったため,免疫チェックポイント阻害薬関連副作用の大腸炎と診断した.ステロイド,インフリキシマブ治療を行うも難治性に経過し,ニボルマブ投与開始から173日目に永眠された.剖検所見では,最大径8cmの肺癌の約70%は壊死しており,治療が奏効したと考えられた.一方,遠位大腸では区域性全周性潰瘍と偽ポリポーシス様病変を認め,大腸炎に改善は認められなかった.ニボルマブの適応拡大に伴い,今後ニボルマブ関連大腸炎を経験する機会が増加することが予想される.

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目次

ページ範囲:P.1493 - P.1493

欧文目次

ページ範囲:P.1494 - P.1494

2020年「胃と腸」賞は入口陽介氏ら「スキルス胃癌のX線診断—4型胃癌の年次推移,形態学的・病理組織学的検討」(55巻6号)が受賞

ページ範囲:P.1602 - P.1602

 2021年9月15日(水),ウェビナー形式で開催された早期胃癌研究会にて,2020年「胃と腸」賞の授賞式が行われ,入口陽介氏(東京都がん検診センター消化器内科)らが発表した「スキルス胃癌のX線診断—4型胃癌の年次推移,形態学的・病理組織学的検討」(「胃と腸」55巻6号:779-793頁)が受賞した.
 受賞者代表として入口氏が紹介された.続いて,「胃と腸」編集委員長の松本主之氏(岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野)より祝辞とともに,選考過程について述べられた.

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.1492 - P.1492

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1526 - P.1526

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1592 - P.1592

次号予告

ページ範囲:P.1604 - P.1604

編集後記

著者: 斉藤裕輔

ページ範囲:P.1605 - P.1605

 炎症性腸疾患は疾患の種類が多岐にわたるため,鑑別診断が重要である.本特集号は,炎症性腸疾患において出現する画像所見を中心とした鑑別診断の進め方を提示するとともに,最近ではほとんど行われなくなったX線造影検査の有用性も再確認することを目的に企画された.
 序説でも述べたが,本特集号は通常の炎症性腸疾患の教科書の流れである,○○疾患の画像所見は□□である,という展開ではなく,“検査で□□の所見が発見されたが,そのときにまず考えるべき疾患は○○であり,さらに詳細に観察すると△△や▽▽などの鑑別疾患を考慮すべきである.これらの鑑別をより正確に行うためには◇◇などのさらなる検査が必要である”という実際の臨床の流れを意識して構成した.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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