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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸56巻7号

2021年06月発行

雑誌目次

今月の主題 食道胃接合部腺癌の診断2021 序説

食道胃接合部腺癌に残された課題

著者: 小山恒男

ページ範囲:P.903 - P.903

 H. pylori(Helicobacter pylori)感染率の低下に伴い胃癌の発生率は低下しつつあるが,食道胃接合部腺癌(esophagogastric junction adenocarcinoma ; EGJAC)は増加傾向にあり,本誌でも2001年(36巻5号),2009年(44巻7号),2015年(50巻9号),2017年(52巻3号)と,この20年間で取り上げられる頻度が高くなってきた.過去の特集を振り返ると,2001年には渡辺英伸,下田忠和,西俣寛人など,著名な先達が論陣を張り,小生も内視鏡治療に関して執筆した.食道胃接合部は狭く,従来のEMR(endoscopic mucosal resection)では治療困難な部位の一つだが,ESD(endoscopic submucosal dissection)では一括切除が可能であることを示している.2009年の特集では拡大内視鏡が登場し,その有用性が報告された.2015年になると,さまざまなモダリティを用いた診断が論じられ,2017年にはSM1の基準は500μmが妥当であることが示された.
 この歴史の中で,残された問題点は術前の深達度診断,範囲診断と組織型診断である.食道胃接合部は屈曲し,狭いため,どのモダリティを用いても診断が難しい.そこで,本号ではX線造影検査,内視鏡検査,超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS)の立場からhigh volume centerにおける深達度診断の現状を報告してもらった.EGJACはSCJ(squamo-columnar junction)に接すると,しばしば扁平上皮下に進展し,その進展範囲診断に苦慮する.いかに扁平上皮下進展範囲を診断するのか.また,早期のEGJACは分化型癌であることが多いが,時に低分化腺癌に遭遇することもある.内視鏡的な組織型診断は胃癌と同じでよいのか.これらを解明すべく,原稿執筆を依頼した.

主題

食道胃接合部腺癌の疫学

著者: 井上真奈美

ページ範囲:P.905 - P.908

要旨●近年の欧米における臨床疫学的報告から食道腺癌や食道胃接合部腺癌の増加が指摘されている.本邦でも食道胃接合部腺癌は増加傾向にあるとも言われているが,その頻度は低く,疫学的実態はよくわかっていない.食道胃接合部腺癌の増加には,肥満の増加やH. pylori感染の減少,食道胃逆流症の増加が起因していると考えられている.一方,胃食道逆流症から癌に至る中間段階としてBarrett食道の関与も指摘されているが,結論には至っていない.食道接合部腺癌の疫学的動向の把握と合わせ,発癌機序の解明にはさらなる研究が必要である.

食道胃接合部腺癌の病理—特に肉眼像からみた深達度診断

著者: 海崎泰治 ,   宮永太門 ,   奥田俊之 ,   服部昌和 ,   道傳研司 ,   青柳裕之 ,   波佐谷兼慶 ,   原季衣 ,   小上瑛也

ページ範囲:P.909 - P.917

要旨●食道胃接合部腺癌(Barrett食道癌および食道胃接合部より2cm以内に腫瘍の中心がある腫瘍)のESD標本および手術標本の肉眼画像を用いて,深達度診断に利用される肉眼所見の精度を検討した.通常胃癌で用いられる粘膜下層浸潤を疑う所見を使用すると,500μmを超える粘膜下層浸潤を診断するのに特異度が高いが感度は低かった.粘膜下層浸潤を示した食道胃接合部癌の特徴は,隆起主体の病変では腫瘍が台状の挙上を示す“立ち上がりが非癌粘膜”を伴うことが多く,病理組織学的には粘膜下層での粘液癌成分や腫瘍の充実性増殖を示すものが多く認められた.陥凹主体の病変では癌巣内潰瘍を伴う症例はまれであることが特徴で,“陥凹辺縁隆起”,“陥凹内結節状隆起”の所見を示す症例が多く認められた.

食道胃接合部腺癌の深達度診断—X線造影の立場から

著者: 小田丈二 ,   入口陽介 ,   水谷勝 ,   冨野泰弘 ,   山里哲郎 ,   依光展和 ,   園田隆賀 ,   岸大輔 ,   清水孝悦 ,   中河原亜希子 ,   橋本真紀子 ,   浦部昭子 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.918 - P.928

要旨●当センターで経験した食道胃接合部腺癌74例のX線造影像を見直し,深達度診断について検討した.肉眼型別にみると,大きさと深達度とに相関を認める肉眼形態があるため,病変の形状を忠実に表すことが重要である.一方,0-IIc型は大きさと深達度に相関を認めない肉眼形態であるため,厚みと側面変形が得られない場合のX線的深達度診断には難渋する傾向にあった.

食道胃接合部腺癌の深達度診断—内視鏡の立場から

著者: 松枝克典 ,   石原立 ,   櫻井裕久 ,   金坂卓 ,   七條智聖 ,   前川聡 ,   山本幸子 ,   竹内洋司 ,   東野晃治 ,   上堂文也 ,   道田知樹 ,   北村昌紀

ページ範囲:P.929 - P.937

要旨●通常内視鏡検査における食道胃接合部腺癌の深達度診断は,治療方針の決定における重要な因子である.食道胃接合部から胃側2cm以内に存在する接合部胃癌の深達度診断には色調変化,混合型の形態,SMT様隆起が重要である.筆者らの検討では,正色調/褪色調病変の96%はM〜SM1癌である一方,混合型を呈する病変の60%はSM2癌で,SMT様隆起を呈する病変の86%はSM2癌であった.食道胃接合部から食道側2cm以内に存在する接合部食道腺癌の深達度診断には,表在隆起型(0-I)の形態やSMT様隆起が重要である.表面型(0-II)の94%がM〜SM1癌である一方,SMT様隆起を呈する病変の67%はSM2癌であった.

食道胃接合部腺癌の深達度診断—超音波内視鏡の立場から

著者: 谷本泉 ,   吉永繁高 ,   高丸博之 ,   河村玲央奈 ,   阿部清一郎 ,   野中哲 ,   鈴木晴久 ,   小田一郎 ,   斎藤豊 ,   吉川貴己 ,   大幸宏幸 ,   関根茂樹

ページ範囲:P.939 - P.946

要旨●食道胃接合部腺癌におけるEUSによる深達度診断の有用性を検討するため,通常内視鏡検査にて粘膜下層浸潤が疑われ,深達度診断のためEUSを行った食道胃接合部腺癌(Siewert分類Type II)83例を対象に,SM2浸潤(>500μm)診断の精度を評価した.SM2浸潤の診断において,EUSの感度は85.0%で通常内視鏡に比べ高く,特異度は60.5%,正診率は72.3%であった.また,EUSの深達度診断において,0-IIc型,病理学的潰瘍ありは有意な深読みの因子であった.深達度診断が難しい食道胃接合部腺癌においてEUSは有用と考えられ,通常内視鏡,EUSを合わせた総合的な診断が望ましい.

食道胃接合部腺癌の範囲診断—内視鏡の立場から

著者: 田中一平 ,   平澤大 ,   中堀昌人 ,   奥薗徹 ,   鈴木憲次郎 ,   阿部洋子 ,   五十嵐公洋 ,   名和田義高 ,   田中由佳里 ,   伊藤聡司 ,   松田知己

ページ範囲:P.948 - P.956

要旨●近年,本邦において食道胃接合部腺癌は増加傾向にあり,内視鏡治療適応病変も多く発見されている.病変を一括切除するためには,正確な範囲診断が極めて重要である.今回食道胃接合部腺癌の範囲診断に関して,Barrett食道癌と胃噴門部癌に分け比較検討した.2012年1月〜2020年7月の期間に,当院でESDを行った食道胃接合部腺癌93例94病変を対象とした.食道胃接合部腺癌の定義は「食道癌取扱い規約 第11版」に則り,西分類を用いて食道胃接合部の上下2cm以内に癌腫の中心がある病変とした.検討項目は患者背景,病変の臨床病理学的特徴,範囲診断正診率(通常観察,NBI拡大観察),扁平上皮下進展の有無とした.結果,Barrett食道癌と胃噴門部癌の両病変において,通常観察と比較してNBI拡大観察が範囲診断に有用であった(Barrett食道癌:58% vs. 92%,胃噴門部癌:68% vs. 100%).扁平上皮下進展は,Barrett食道癌で有意に多く,病変とSCJの位置関係が関与していることが示唆された.また,酢酸撒布後にみられる白色変化を観察することで,扁平上皮下進展は術前に診断可能であった.

食道胃接合部腺癌の組織型診断—内視鏡の立場から

著者: 池之山洋平 ,   藤崎順子 ,   河内洋 ,   中野薫 ,   並河健

ページ範囲:P.957 - P.967

要旨●背景:食道胃接合部(EGJ)腺癌の術前組織型診断精度は明らかでない.ME-NBIによる術前組織型診断能,生検による術前組織型診断能をそれぞれ検討した.方法:EGJ腺癌114例116病変を対象とした.組織型を純分化型,純未分化型,組織混在型(分化型優位),組織混在型(未分化型優位)に分類し,術前のME-NBIによる組織型診断,生検による組織型診断と切除標本組織型の一致率をそれぞれ検討した.また,切除標本中の粘膜内未分化型癌成分の有無と粘膜下層(SM)浸潤率の相関について検討した.結果:各組織型別一致率は純分化型〔ME-NBI:99.0%(102/103)vs. 生検:98.1%(101/103),n.s.)〕,組織混在型(分化型優位)〔ME-NBI:66.7%(8/12)vs. 生検:16.7%(2/12),p<0.05)〕,組織混在型(未分化型優位)〔ME-NBI:0%(0/1)vs. 生検:0%(0/1),n.s.)〕であった.SM浸潤率は未分化型癌成分(+)群のほうが,未分化型癌成分(−)群より有意に高かった〔(76.9%(10/13)vs. 16.5%(17/103),p<0.001)〕.結論:純分化型病変はME-NBI,生検,いずれのモダリティでも高精度な術前組織型診断ができた.一方,組織混在型病変については,ME-NBIのほうが生検より組織型診断一致率が有意差を持って高かった.このことから,ME-NBIで詳細に観察し,適切な生検部位を選定した上で採取する必要があると言える.また,切除標本中に粘膜内未分化型癌成分が含まれると有意にSM浸潤率が高かった結果も踏まえると,術前に詳細な組織型診断をすることが重要であると考えられた.

主題症例

—症例から考える食道胃接合部腺癌の深達度診断—Case 1

著者: 波佐谷兼慶 ,   青柳裕之 ,   海崎泰治

ページ範囲:P.968 - P.973

臨床情報
患 者●60歳代,男性.
主 訴●胸やけ.
既往歴●特記事項なし.
嗜好歴●飲酒:機会飲酒程度,喫煙:10本/day×40年.
現病歴●胸やけを主訴に近医を受診した.内視鏡検査を施行したところ,食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)に異常を認め,生検にてadenocarcinomaが検出され,精査加療目的のため,当院を紹介され受診となった.
入院時現症●身長159cm,体重63.5kg,血圧132/80,脈拍66回/min,整.眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄疸なし.胸部:呼吸音は清,雑音なし,心音はI音・II音正常.腹部:圧痛なし.下肢:浮腫なし.
入院時検査成績●血液検査:HPIgG抗体陰性.

—症例から考える食道胃接合部腺癌の深達度診断—Case 2

著者: 竹内学 ,   渡辺玄

ページ範囲:P.974 - P.980

臨床情報
患 者●60歳代,男性.
主 訴●喉のつかえ感.
既往歴●20歳時外傷(側腹部刺傷).
嗜好歴●飲酒:ウイスキー水割り1杯/day(約40年),喫煙:40本/day(約40年,現在禁煙).
現病歴●近医で喉の違和感の精査目的に上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)を施行したところ食道胃接合部に異常を認め,2014年1月に精査目的に当科を紹介され,受診となった.
入院時現症●身長160cm,体重66kg,BMI 26kg/m2,眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄疸なし,側腹部に手術痕あり.
入院時検査成績●H. pylori(Helicobacter pylori)培養陰性,便中H. pylori抗原陰性.

—症例から考える食道胃接合部腺癌の深達度診断—Case 3

著者: 高橋亜紀子 ,   小山恒男 ,   山本一博 ,   竹花卓夫 ,   塩澤哲 ,   下田忠和

ページ範囲:P.982 - P.987

臨床情報
患 者●70歳代,男性.
主 訴●腹部膨満感.
既往歴●糖尿病,膀胱癌,肺気腫,肺癌,間質性肺炎.
現病歴●腹部膨満感に対し上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)を施行したところ,食道胃接合部(esophagogastric junction ; EGJ)に病変を指摘された.
入院時検査成績●H. pylori(Helicobacter pylori)は未検査.

今月の症例

Helicobacter pylori未感染胃に発生した胃底腺粘膜型胃癌の1例

著者: 岸埜高明 ,   北村陽子 ,   金政和之 ,   田中斉祐 ,   森康二郎 ,   福本晃平 ,   岡本直樹 ,   島田啓司 ,   岸本光夫

ページ範囲:P.896 - P.901

患者
 70歳代,女性.
既往歴
 橋本病,乳癌に対する両側乳房切除術(60歳代).
嗜好歴
 喫煙歴,飲酒なし.
内服薬
 ファモチジン,レボチロキシンNa,エキセメスタン.
病歴
 腹部膨満感の原因検索目的にて施行された上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)で胃隆起性病変を発見され,生検を1か所施行された(Fig.1).生検病理組織学的診断がGroup 2であったため,生検から3か月後に診断的治療目的で内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)を行う方針となった.

早期胃癌研究会症例

1年間で著明な形態変化を認め,最終的に進行癌であった胃型低異型度分化型胃癌の1例

著者: 児玉亮 ,   牛丸博泰 ,   川口研二 ,   安藤皓一郎 ,   柳澤匠 ,   三枝久能 ,   牧野睦月

ページ範囲:P.989 - P.999

要旨●患者は70歳代,男性.10年前に早期胃癌に対してESDを受け,以後1年ごとにEGDで経過観察をされていた.1年前のEGDで胃穹窿部大彎に10mm程度の扁平隆起性病変を認めたが,生検病理組織学的診断でGroup 2と診断されたため経過観察となった.今回同病変は20mm大の半球状の隆起性病変に増大し,NBI拡大観察では境界明瞭で大小不同を有する不整なvilli様構造を呈していた.生検病理組織学的診断ではGroup 4と診断され,ESDを行った.病理組織像では表層は腺窩上皮型の異型の乏しい腺癌で,粘膜下に浸潤していた.細胞形質はMUC5AC,MUC6陽性で,胃型低異型度分化型胃癌と診断した.深部断端陽性で脈管侵襲を認めたため追加手術を行った.

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目次

ページ範囲:P.893 - P.893

欧文目次

ページ範囲:P.894 - P.894

次号予告

ページ範囲:P.1002 - P.1002

編集後記

著者: 海崎泰治

ページ範囲:P.1003 - P.1003

 欧米ではBarrett食道腺癌の頻度が増加し,食道癌の主組織型となって久しい.本邦でもH. pylori感染率の減少により通常型の胃癌の減少が著しく,Barrett食道腺癌を含む食道胃接合部癌は増加している.しかし,いまだ単施設における症例数は少ないためまとまった検討は少なく,食道胃接合部癌の診断,治療において種々の疑問点が残されている.2017年に本邦で多施設共同研究(EAST)が行われ,食道腺癌の転移リスクが明らかになった.その結果,粘膜下層500μmまでの浸潤かつ,病変径>30mm,脈管侵襲,深層粘膜筋板(DMM)以深の低分化腺癌成分のリスク因子を有さないものが内視鏡的切除の適応として妥当であると示された.また,食道胃接合部腺癌における再検討でも,同様の見解が得られている.本号は前述の結果を踏まえ,食道胃接合部癌の内視鏡的切除の条件に関わる深達度診断,腫瘍の範囲診断,組織型診断を検討することを目的とし,小山,小田,海崎で企画した.
 まず,井上論文では食道胃接合部腺癌の疫学について執筆いただいた.臨床的に間違いなく食道胃接合部癌は増加している印象があるが,精密な疫学としては明らかな増加ではないようである.がん登録などで食道胃接合部の部位を特定するコードがないため,食道胃接合部癌を的確に分類できないことが問題点として挙げられている.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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