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文献詳細

雑誌文献

胃と腸56巻8号

2021年07月発行

文献概要

今月の主題 早期大腸癌内視鏡治療の新展開 トピックス

高齢者に対する早期大腸癌内視鏡治療の適応と限界

著者: 菅野伸一1 山野泰穂1 吉井新二1 三宅高和1 風間友江1 大和田紗英1 越前栄次朗1 仲瀬裕志1

所属機関: 1札幌医科大学医学部消化器内科学講座

ページ範囲:P.1107 - P.1111

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はじめに
 本邦では65歳以上の人口の増加により高齢化率は28.4%となり,75歳以上人口は1,800万人を超え,総人口の14.7%を占める社会となった1).医療において高齢者・超高齢者と区分するかの定義はいまだ議論されているが,近年の老年化現象に関する種々のデータの経年的変化の検討から従来の65歳以上ではなく75歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されている2)
 さて,早期大腸癌に対する内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)や内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)といった内視鏡治療はさまざまな施設で数多く施行されているが,大腸ESDが超高齢者においても安全に施行できたという報告がなされるように3)4),治療対象者においても高齢者が増加している実感がある.一般的には高齢者ほど循環器疾患を中心とした併存疾患の有病率が高く,また抗血栓薬服薬者の比率も高いが,内視鏡治療の適応の側面から年齢を加味した指針は定まっておらず,現場の内視鏡医が個々の症例において治療の是非を判断している実態がある.
 このような状況において,高齢者に対する早期大腸癌の治療の検討に関して文献検索を行うと,原著論文での報告は少なく,医学中央雑誌データベースで「高齢者 ; 早期大腸癌」で検索し得たものは5件(会議録を除く)であり,海外での報告はほとんどない.今回は現状で得られた情報の中で文献的考察を行った.

参考文献

1)内閣府.令和2年版高齢者化白書.https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html(2021年6月8日閲覧)
2)Ouchi Y, Rakugi H, Arai H, et al. Redefining the elderly as aged 75 years and older:Proposal from the Joint Committee of Japan Gerontological Society and the Japan Geriatrics Society. Geriatr Gerontol Int 17:1045-1047, 2017
3)吉田直久,内藤裕二,久貝宗弘,他.高齢者における大腸内視鏡的粘膜下層剝離術の治療成績.日高齢消会誌 12:109-114, 2010
4)林武雅,布袋屋修,菊池大輔,他.高齢者における大腸ESD.老年消病 20:29-32, 2008
5)田中信治,樫田博史,斎藤豊,他.大腸ESD/EMRガイドライン(第2版).Gastroenterol Endos 61:1321-1344, 2019
6)厚生労働省.統計情報・白書—令和2年(2020)人口動態統計月報年計の概況.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/index.html(2021年6月8日閲覧)
7)厚生労働省.統計情報・白書—令和元年簡易生命表の概要.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life19/index.html(2021年6月8日閲覧)
8)Matsui T, Yao T, Iwashita A. Natural history of early colorectal cancer. World J Surg 24:1022-1028, 2000
9)Umetani N, Masaki T, Watanabe T, et al. Retrospective radiographic analysis of nonpedunculated colorectal carcinomas with special reference to tumor doubling time and morphological change. Am J Gastroenterol 95:1794-1799, 2000
10)吉井新二,石垣沙織,塚越洋元,他.大腸SM癌の内視鏡的摘除後経過観察例の予後.Gastroenterol Endosc 54:244-252, 2012
11)浦上尚之,五十嵐正広,千野晶子,他.大腸SM癌の内視鏡切除後のfollow up—サーベイランスに向けて(局所再発,転移再発).胃と腸 42:1470-1476, 2007
12)Tamaru Y, Oka S, Tanaka S, et al. Long-term outcomes after treatment for T1 colorectal carcinoma:a multicenter retrospective cohort study of Hiroshima GI endoscopy research group. J Gastroenterol 52:1169-1179, 2017
13)Man-i M, Morita Y, Fujita T, et al. Endoscopic submucosal dissection for gastric neoplasm in patients with co-morbidities categorized according to the ASA Physical Status Classification. Gastric Cancer 16:56-66, 2013
14)The American Society of Anesthesiologists. ASA Physical Status Classification System. https://www.asahq.org/standards-and-guidelines/asa-physical-status-classification-system(2021年6月8日閲覧)
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16)日本循環器学会.2020年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版—冠動脈疾患患者における抗血栓療法.https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2020_Kimura_Nakamura.pdf(2021年6月8日閲覧)
17)加藤元嗣,古田隆久,伊藤透,他.抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡に関連した偶発症の全国調査結果.Gastroenterol Endos 59:1532-1536, 2017
18)藤本一眞,藤城光弘,加藤元嗣,他.抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン.Gastroenterol Endosc 54:2073-2102, 2012
19)大腸癌研究会.大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版.http://www.jsccr.jp/guideline/2019/cq.html(2021年6月8日閲覧)
20)味岡洋一,大倉康男,池上雅博,他.T1b癌(1,000μm以深SM癌)リンパ節転移リスク層別化の検討.杉原健一,五十嵐正広,渡邉聡明,他(編).大腸疾患NOW 2016.日本メディカルセンター,pp 63-68, 2016

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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