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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸57巻13号

2022年12月発行

雑誌目次

今月の主題 IEEを使いこなす 序説

IEEの歴史と現況

著者: 平澤大

ページ範囲:P.1613 - P.1615

 IEE(image enhanced endoscopy)の歴史は意外と古い.消化管内視鏡は胃鏡に始まり胃カメラ,ファイバースコープ,電子内視鏡と発展してきたが,胃カメラ開発当初の1950年代から紫外線カメラ,赤外線カメラ,蛍光胃カメラなどが開発されていた.これらは技術的な困難などが理由でその後発展できなかったが,紫外線や赤外線は可視光線域より外の光を利用するため,短波長の紫外線では表面の微細な構造を鮮明に映し出し,逆に長波長の赤外線は現在ではIRI(infrared imaging)として粘膜深部の血管の観察などに適している.
 1960年代になると,胃カメラに代わりファイバースコープが主流となった.軟らかいグラスファイバー内を光が全反射しながら進むため,リアルタイムに消化管内を観察できる時代になった.この時代の画像強調では,色素内視鏡が発展した.1965年前後にトルイジンブルーとコンゴーレッドによる生体染色が行われ,1970年以降にルゴールやメチレンブルー,インジゴカルミンなどが使用されるようになった.特にファイバースコープや電子内視鏡で用いられる明るい光源では,粘膜を強く照らすためコントラスト不足になりがちになるため,インジゴカルミンによるコントラスト法は,その後頻繁に用いられるようになった.

主題

IEE画像と病理所見の対比—IEE画像では何が見えているのか?

著者: 海崎泰治 ,   青柳裕之 ,   波佐谷兼慶

ページ範囲:P.1617 - P.1625

要旨●IEE画像が対応する病理組織学的な構造物を,IEE画像と病理組織標本との一対一対応によって検討した.NBI画像は,食道において表層から146μmまでに位置する血管を茶色血管として認識することができる.NBIおよびBLI画像は,大腸癌の深達度診断に有用であるが,胃癌の場合は粘膜下層浸潤病変においても粘膜筋板の消失,錯綜を伴わない症例が多いため,深達度診断において有用性が乏しい.LCIでは,粘膜固有層の浮腫や腺管密度の高低によって正常粘膜との色調変化が生じる.各IEE画像の特徴を知り,画像診断に用いることが必要である.

NBIおよびBLIを使いこなす—咽頭・食道

著者: 田中一平 ,   平澤大 ,   五十嵐公洋 ,   名和田義高 ,   伊藤聡司 ,   赤平純一 ,   藤島史喜 ,   松田知己

ページ範囲:P.1627 - P.1636

要旨●現在NBIやBLIなどのIEE観察は,白色光観察や色素観察に加えて重要な内視鏡観察法の一つとなっている.特に咽頭・食道領域におけるIEE観察の有用性に関してはエビデンスが多数蓄積されている.今回筆者らは,白色光観察,NBI観察,色素(ヨード染色)観察における食道表在癌の視認性をスコアリングして評価した.2020年1月〜2021年12月の期間に当院で内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が施行された食道扁平上皮癌81例81病変を対象とした.視認性の評価に関しては以下のスコアリングシステムを用いた.5:極めて明瞭に病変を認識できる,4:良好に病変を認識できる,3:病変の認識可能,2:病変の認識がやや難しい,1:病変の認識が困難である.白色光,NBI,ヨード染色,それぞれの平均スコアを算出し,Mann-Whitney U検定で有意差の比較を行った.結果,白色光,NBI,ヨード染色の平均視認性スコアはそれぞれ2.6±0.9,3.4±0.8,4.2±0.9であり,白色光観察<NBI観察<ヨード染色の順に視認性は有意に向上した.しかし,まだら食道に発生した病変や上方分化傾向を示す食道扁平上皮癌は,ヨード染色よりもNBIで視認性が向上する可能性が考えられた.

NBIおよびBLIを使いこなす—早期胃癌の質的診断におけるNBIおよびBLI併用内視鏡の有用性

著者: 赤澤陽一 ,   上山浩也 ,   山本桃子 ,   岩野知世 ,   内田涼太 ,   宇都宮尚典 ,   阿部大樹 ,   沖翔太朗 ,   鈴木信之 ,   池田厚 ,   竹田努 ,   上田久美子 ,   浅岡大介 ,   北條麻理子 ,   八尾隆史 ,   永原章仁

ページ範囲:P.1637 - P.1647

要旨●早期胃癌の質的診断におけるNBI/BLI非拡大内視鏡の有用性について検討を行った.自施設でNBI/BLI両者を用いて同日に観察した早期胃癌29病変を対象とし,非拡大観察において早期胃癌の質的診断に有用と考えられる腫瘍境界と粘膜不整の有無に関して,NBI/BLIによる視認性の向上を内視鏡医10名が評価した.腫瘍境界の有無:粘膜不整の有無で視認性が向上した病変は,NBI 69.0%:79.3%,BLI 86.2%:62.1%であり,早期胃癌における範囲診断および質的診断において,非拡大観察によるNBI/BLI内視鏡の有用性が示された.早期胃癌の内視鏡診断の際には,NBI/BLIを併用し,正確な範囲診断と質的診断を行うことが重要である.

NBIおよびBLIを使いこなす—十二指腸

著者: 鳥谷洋右 ,   遠藤昌樹 ,   永塚真 ,   山田峻 ,   久米井智 ,   大泉智史 ,   森下寿文 ,   佐々木裕 ,   春日井聡 ,   梁井俊一 ,   杉本亮 ,   上杉憲幸 ,   菅井有 ,   松本主之

ページ範囲:P.1649 - P.1656

要旨●表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADETs)に対するNBI,BLI併用拡大内視鏡診断について概説した.SNADETsの拡大内視鏡診断は,胃癌の診断と同様にDLの同定,および微小血管構築像と表面微細構造を詳細に観察することが基本となる.加えて,SNADETsでは粘液形質を推定しながら内視鏡診断を進めることが重要であり,中でも腸型の粘液形質を有する病変ではWOSによって微小血管が視認できない場合が多く,表面微細構造に注目した観察が必要となる.今後,本邦からの統一した拡大内視鏡診断基準の作成が期待される.

NBIおよびBLIを使いこなす—大腸

著者: 小林輝 ,   斎藤彰一 ,   鈴木桂悟 ,   十倉淳紀 ,   安江千尋 ,   井出大資 ,   千野晶子 ,   五十嵐正広 ,   河内洋

ページ範囲:P.1657 - P.1664

要旨●大腸腫瘍の質的(腫瘍/非腫瘍,良悪性)および深達度診断において,JNET分類の有用性とJNET Type 2Bの診断能について検討した.進行癌を除く,内視鏡的または外科的切除が施行された大腸腫瘍性病変3,834病変を対象とし,JNET分類で評価を行った.結果,Type 1は,HP,SSLを含む鋸歯状病変が98.8%を占めており,Type 3では98.0%がpT1b癌であった.またType 2Aは,腺腫およびpTis癌が95.4%を占めていた.Type 2Bには,腺腫からpT1b癌まで幅広い腫瘍性病変が含まれていた.さらに,Type 2Bと診断した病変のうち,クリスタルバイオレット染色にてVI高度不整を呈したものは73.1%と高い確率でpT1b癌であった.以上よりJNET分類は大腸腫瘍性病変の質的および深達度診断に有用と考えられた.Type 2Bは腺腫からpT1b癌まで多岐にわたる組織型が含まれていたものの,Type 2BにおけるVI型pit pattern診断はT1b癌の絞り込みに有用であることから,Type 2B病変では色素拡大観察の併用が望まれる.

LCIを使いこなす—上部消化管

著者: 小野尚子 ,   松本将吾 ,   東野真幸 ,   曽根孝之 ,   久保茉理奈 ,   西村友佑 ,   大野正芳 ,   山本桂子 ,   坂本直哉

ページ範囲:P.1666 - P.1674

要旨●LCI(linked color imaging)は白色光観察用の光に加え,青紫色の短波長を強く照射し,さらに色調拡張技術を用いて赤色領域の彩度差・色相差を拡張する画像強調技術である.白色光同様に明るさが維持されるため,非拡大ルーチン検査に使用できる.上皮性腫瘍部は表面微小血管の増生を反映し,白色光観察では淡い発赤を呈することが多い.LCIでは発赤がより増強され,食道癌は濃い桃色,胃癌は橙赤色に描出されることが多い.背景粘膜との色調差が大きくなるため,病変は検出されやすくなる一方で,LCIでは多彩な色調で観察される胃炎所見について若干の習熟が必要である.

LCIを使いこなす—下部消化管:大腸病変の発見と診断におけるLCIの活用

著者: 吉田直久 ,   井上健 ,   小林怜央 ,   冨田侑里 ,   橋本光 ,   廣瀬亮平 ,   土肥統 ,   稲田裕 ,   村上貴彬 ,   森本泰隆 ,   森永友紀子 ,   伊藤義人

ページ範囲:P.1675 - P.1684

要旨●LCIはレーザー内視鏡における狭帯域光観察モードとして2014年に登場し,大腸病変の視認性向上,腺腫やSSLの見逃し率の低下や発見数の向上における有用性が数多く報告されている.さらに,2020年より本邦で使用されているLED内視鏡においてもLCIが施行可能となり,病変の視認性向上や見逃し防止の有用性が報告されている.また,レーザー内視鏡とLED内視鏡のLCIを比較した近年の多施設共同研究により,腫瘍の視認性向上の効果についての非劣性も証明されている.本稿では,大腸病変の内視鏡診療におけるLCIの有用性について詳説する.

TXIを使いこなす—上部消化管

著者: 小山恒男 ,   高橋亜紀子 ,   加古里子

ページ範囲:P.1685 - P.1693

要旨●オリンパス社製のEVIS X1シリーズでは新たな観察法としてTXI(texture and color enhancement imaging)が加わった.TXIでは画像の成分を凹凸成分である構造画像と明るさ/?成分であるベース画像に分離し,①texture enhancement,②brightness enhancement,③color tone enhancementを加えるシステムである.口腔消化管領域では表在癌の早期発見への貢献が期待されるが,NBIと異なり長波長を含んでいるため,上皮深部や粘膜固有層,粘膜下層の情報をより強調することが可能である.本稿では上皮深部に存在するmelanosisや固有食道腺,粘膜固有層の血管観察など,具体例を取り上げ,TXIによる新たな内視鏡観察の可能性に関して言及した.

TXIを使いこなす—下部消化管

著者: 新村健介 ,   村野竜朗 ,   池松弘朗

ページ範囲:P.1694 - P.1701

要旨●大腸内視鏡検査は病変を見逃さないことが重要である.その工夫として反復・反転観察や先端アタッチメントの使用などがある.また,NBIなどの画像強調内視鏡(IEE)は病変の視認性を高め,大腸病変の発見や診断において有用であると数多く報告されている.一方,2020年にTXIという新たなIEEが加わったが,TXIの大腸観察や大腸診断に関する知見は乏しい.本稿では,TXIの原理およびこれまでのTXIに関するエビデンスや使用経験について概説する.

RDI(Red Dichromatic Imaging)の原理と活用法

著者: 前畑忠輝 ,   藤本愛 ,   小松拓実 ,   中本悠輔 ,   加藤正樹 ,   川島亜貴世 ,   清川博史 ,   佐藤義典 ,   松尾康正 ,   林由紀恵 ,   高林馨 ,   加藤元彦 ,   落合康利 ,   安田宏 ,   矢作直久 ,   立石敬介

ページ範囲:P.1702 - P.1708

要旨●新規画像強調内視鏡(IEE)であるRDI(red dichromatic imaging)は従来のIEEとは異なり,主に治療時に使用する今までにないIEEである.RDIは3色の特定の波長の光を照射することで,それぞれの血中ヘモグロビン(Hb)に対する光吸収特性と組織の光散乱特性の違いによりコントラストを形成する.RDIには3種類のモードがあり,疾患特性に合わせてモードを切り替えて使用する.主な有用性としては,内視鏡治療時の出血点の視認性向上,局注時の血管損傷の予防や食道静脈瘤の確認,潰瘍性大腸炎の炎症活動度診断などが挙げられる.RDIはまだ新しいIEEであり,今後さらなる研究によって診断・治療などにとらわれず幅広い分野での有用性が期待される.

主題研究

分子イメージングの現況と将来像

著者: 光永眞人 ,   西村尚 ,   猿田雅之 ,   小林雅邦 ,   炭山和毅 ,   小林久隆

ページ範囲:P.1709 - P.1718

要旨●消化器内視鏡における分子イメージングの役割について,主に表在性腫瘍性病変に対するイメージングで用いられるイメージング機器および蛍光分子イメージングプローブを概説する.分子イメージングの活用によって,スクリーニング目的の検査においては既存のモダリティにて視認不可能な病変の検出が可能となる.また,細胞レベルの検査においては病変の分子発現,範囲診断,治療効果の評価がリアルタイムに可能となる.消化器内視鏡に利用可能な蛍光分子イメージングプローブは今のところ広く実用化されたものはなく,臨床研究レベル以降の開発が進んでいないものがほとんどである.有望なプローブを見いだし,診断・治療成績の向上から患者の予後改善につなげる成果を導くことが今後の挑戦である.

今月の症例

粘膜下腫瘍様の隆起を伴ったS状結腸粘膜内癌の1例

著者: 竹内洋司 ,   嶋本有策 ,   北村昌紀

ページ範囲:P.1608 - P.1611

患者
 30歳代,女性.
主訴
 なし(免疫学的便潜血検査陽性).
既往歴
 特記すべき事項なし.
家族歴
 特記すべき事項(類縁疾患)なし.
現病歴
 任意型検診の免疫学的便潜血検査で陽性を指摘されて受けた下部消化管内視鏡検査で,S状結腸に20mm大の隆起性病変を指摘された.

早期胃癌研究会

2021年6月の例会から

著者: 佐野村誠 ,   中島寛隆

ページ範囲:P.1719 - P.1722

 2021年6月の早期胃癌研究会は,6月30日(水)にオンラインにて行われた.司会は佐野村(北摂総合病院消化器内科)と中島(早期胃癌検診協会附属茅場町クリニック),病理を藤原(国立病院機構九州医療センター病理診断科)が担当した.忘れられない1例シリーズのレクチャーでは「バレット食道腺癌」を平澤(仙台厚生病院消化器内科)が担当した.

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目次

ページ範囲:P.1605 - P.1605

欧文目次

ページ範囲:P.1606 - P.1606

2021年「胃と腸」賞は川崎啓祐氏ら「内視鏡完全一括切除可能な大腸T1癌の術前診断—注腸造影の有用性と限界」(56巻8号)が受賞

ページ範囲:P.1665 - P.1665

 2022年9月21日(水),ウェビナー形式で開催された早期胃癌研究会にて,2021年「胃と腸」賞の授賞式が行われ,川崎啓祐氏(九州大学大学院医学研究院病態機能内科学)らが発表した「内視鏡完全一括切除可能な大腸T1癌の術前診断—注腸造影の有用性と限界」(「胃と腸」56巻8号:1035-1046頁)が受賞した.
 受賞者代表として川崎氏が紹介された.続いて,「胃と腸」編集委員長の松本主之氏(岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科分野)が祝辞とともに,選考過程について述べられた.

リニューアルのご案内

ページ範囲:P.1603 - P.1603

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.1604 - P.1604

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1611 - P.1611

書評

ページ範囲:P.1626 - P.1626

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1722 - P.1722

次号予告

ページ範囲:P.1724 - P.1724

編集後記

著者: 斎藤彰一

ページ範囲:P.1725 - P.1725

 今回の特集は平澤大(仙台厚生病院消化器内科),海崎泰治(福井県立病院病理診断科)とともに企画し,各臓器別に詳細な内容で仕上げられている.最新のトピックスとともに画像強調観察(image enhanced endoscopy ; IEE)に関する内容は本誌ですべて網羅され,いずれの論文も病理組織学的所見との対比を加えた詳細な内容でまとめられている.
 IEEの礎となるNBI(narrow band imaging)開発に至る過程で,2000年当初のプロトタイプの機器にて食道・胃・大腸を観察したところ,光量が低く,特に胃・大腸などの広い管腔臓器では,とても観察の一助になるとは予想できなかったことが思い出される.その後,キセノンランプを搭載した光源が開発され,さらには現在,LED光源にまで開発が進み,胃,大腸ともに有用なモダリティであることは一目瞭然である.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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