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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸57巻2号

2022年02月発行

雑誌目次

今月の主題 炎症性腸疾患の粘膜治癒を再考する 序説

粘膜治癒—炎症性腸疾患の治療ターゲットとしての問題点

著者: 江﨑幹宏

ページ範囲:P.121 - P.122

はじめに
 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)は,再発性・持続性の炎症により腸管へのダメージが蓄積し,種々の腸管合併症や炎症性発癌を来す慢性疾患として捉えられている.従来,内科治療ではIBDの腸管予後を改善することは困難と考えられていた.しかし,抗TNFα(tumor necrosis factor α)抗体製剤に代表される内科治療の進歩により,多くの症例で“症状の改善”だけでなく“腸管傷害の改善”を目指すことが可能となってきた.現時点では,抗TNFα抗体製剤のIBD腸管予後改善効果を直接証明した報告はないが,長期予後改善の観点から治療目標を設定し治療の適正化を図るT2T(treat to target)ストラテジー1)の実践が可能となったことは,IBD診療における大きな進歩であろう.
 STRIDE II(selecting therapeutic target in inflammatory bowel disease II)では,IBD診療における長期目標として,患者QOL(quality of life)の正常化,身体的障害の消失に加えて内視鏡的治癒が挙げられている2).しかし,内視鏡的治癒を長期目標とすることに対して概ねコンセンサスが得られている潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)においても,評価方法や定義の問題,組織学的治癒を目指すことの是非が議論されている.Crohn病(Crohn's disease ; CD)においては,小腸病変評価の必要性,腸管合併症を有する症例における画像評価の問題,全層性治癒評価の妥当性といった解決すべき多くの問題がある.
 本稿では,UCおよびCDにおいて“粘膜治癒”を治療ターゲットとした場合の問題点について簡単に触れる.なお,近年では“粘膜治癒”は“内視鏡的寛解”に加えて“組織学的寛解”の基準も満たした場合を指すが,本特集号のテーマを鑑み“内視鏡的寛解”の意味で“粘膜治癒”の用語を使用した.

主題

炎症性腸疾患の治療ターゲットとしての病理組織学的所見の位置付け

著者: 八尾隆史 ,   岡野荘 ,   石川大 ,   澁谷智義 ,   黒澤太郎 ,   阿部大樹 ,   池田厚

ページ範囲:P.123 - P.130

要旨●潰瘍性大腸炎には内視鏡的に寛解期と判定されても組織学的には活動性のものが多く含まれており,活動性評価には組織学的評価が必須である.単に活動性の評価だけでなく,難治化や再燃の予測と関連した組織学的評価法の確立が重要である.これまでの報告からは組織学的粘膜治癒の定義としては,少なくともIOIBDが提唱した3項目(①好中球の消失,②basal plasmacytosisの消失と正常範囲の形質細胞数,③正常範囲の好酸球数)を満たすことが必要条件で,より厳密な“complete normalization”が理想的である.また,難治化や再燃の予測に関係する組織学的因子として,好中球浸潤(間質と上皮内),陰窩膿瘍,好酸球浸潤,粘液減少,basal plasmacytosis,腺管構造不整,表層上皮破壊が報告されているが,これらの総合的な評価では不十分である.治療法選択に意義のある組織学的因子の抽出と評価基準の確立が今後の課題である.

潰瘍性大腸炎における粘膜治癒評価の意義—通常内視鏡の立場から

著者: 長沼誠 ,   深田憲将 ,   佐野泰樹 ,   西紋周平 ,   富山尚 ,   福井寿朗

ページ範囲:P.132 - P.140

要旨●近年,潰瘍性大腸炎の治療目標として粘膜治癒,内視鏡的寛解が掲げられるようになり,潰瘍性大腸炎の診療において,内視鏡による評価は重要である.その中で,白色光内視鏡観察はどの施設でも施行が可能であり,最も標準的な評価方法である.客観的な内視鏡的活動度を評価するスコアとしてはMESがあり,以前はMES 1以下が内視鏡的寛解とされていたが,長期予後の観点から近年はMES 0を内視鏡的寛解と定義することが多い.臨床的寛解例に対して内視鏡評価を行う意義は,臨床症状と内視鏡的活動度との乖離を把握することにより,再燃リスクを認識し適切な診療を行うことと,内視鏡的寛解が確認された際に治療薬の減量や中止に役立てることにあると考えられる.一方で同じMES 0でも組織学的活動度や予後の観点から細分化する必要がある点が課題である.

潰瘍性大腸炎における粘膜治癒評価の意義—画像強調内視鏡の立場から

著者: 上村修司 ,   前田将久 ,   湯通堂和樹 ,   桑水流康介 ,   小牧蕗子 ,   田中啓仁 ,   鮫島洋一 ,   小牧祐雅 ,   佐々木文郷 ,   井戸章雄

ページ範囲:P.141 - P.148

要旨●潰瘍性大腸炎の治療目標として,内視鏡的粘膜治癒と同様に組織学的治癒の重要性が認識されるようになった.しかし,内視鏡的活動性と組織学的活動性には乖離を認めることがあり,組織学的治癒を効率的に評価できるような新たな画像認識技術が求められている.これまで内視鏡的粘膜治癒の判断には白色光観察による活動性スコアリングが用いられてきたが,近年のIEE技術の発展により,白色光観察では捉えられない微細な粘膜の炎症性所見が認識可能となった.IEE観察による内視鏡と組織学的活動性診断の相関が検証できれば,IEEは内視鏡的炎症の診断に必要不可欠な技術となると考えられる.

潰瘍性大腸炎における粘膜治癒評価の意義—超拡大内視鏡の立場から

著者: 工藤進英 ,   前田康晴 ,   小形典之 ,   瀧島和美 ,   持田賢太郎 ,   田中健太 ,   三澤将史 ,   森悠一 ,   工藤豊樹 ,   若村邦彦 ,   宮地英行 ,   馬場俊之 ,   本間まゆみ ,   根本哲生 ,   大塚和朗 ,   井上晴洋

ページ範囲:P.149 - P.157

要旨●超拡大内視鏡(CF-H290ECI,Endocyto,オリンパス社製)を用いた潰瘍性大腸炎の粘膜治癒評価の有用性と課題を概説した.超拡大内視鏡はin vivoでメチレンブルー染色下では腺腔や核を,NBI併用下では腺腔や血管の微細なリアルタイム生体内観察が可能である.その特性を生かしEndocytoを用いて組織学的寛解を予測すること(“optical biopsy”)や,長期寛解維持予測への有効性が示されている.AIを用いた自動診断システム(EndoBRAIN®-UC,サイバネットシステム社製)も既に上市されている.“組織学的治癒”の位置付けと同様に“Endocytoによる粘膜治癒”が,潰瘍性大腸炎患者の治療方針の変更や,患者の長期経過の改善にどのように寄与するかを明らかにすることが,今後の課題である.

潰瘍性大腸炎における粘膜治癒評価の意義—大腸カプセル内視鏡の立場から

著者: 細江直樹 ,   東條杏奈 ,   櫻井陽奈子 ,   林由紀恵 ,   リンピアス神谷研次 ,   筋野智久 ,   高林馨 ,   緒方晴彦 ,   金井隆典

ページ範囲:P.159 - P.164

要旨●2006年に大腸カプセル内視鏡(CCE)が発表され,本邦では2014年より保険適用となっている.潰瘍性大腸炎(UC)においては,粘膜治癒の重要性が報告されているが,CCEは,嚥下するだけの検査であるため,非侵襲的に腸粘膜の観察が可能であり,病変部位が大腸に限定されるUCにおいては,このCCEの適用がまず考えられる.本稿では,UCの炎症評価,粘膜治癒評価におけるCCEの現況について概説し,実際の症例画像提示を行いながらその有用性を述べていく.

Crohn病における小腸粘膜治癒評価の意義—X線の立場から

著者: 久能宣昭 ,   阿部光市 ,   船越禎広 ,   石橋英樹 ,   平井郁仁

ページ範囲:P.165 - P.172

要旨●Crohn病の診療において,小腸病変の存在診断,質的診断および活動性評価は極めて重要である.色彩の情報がなく,立体的な構造を多方面から観察することが難しいX線造影検査は内視鏡検査と比べると,局所所見,特に小病変の描出能には難がある.一方,病変の全体像や局在の把握,管外性の情報を得るには有用な検査法であり,客観性に優れている.撮影や読影に習熟が必要ではあるものの,X線造影検査は他の小腸検査の長短を相補し活用すべき検査法である.

Crohn病における小腸粘膜治癒評価の意義—バルーン内視鏡の立場から

著者: 大塚和朗 ,   竹中健人 ,   齊藤詠子 ,   日比谷秀爾 ,   河本亜美 ,   森川亮 ,   藤井俊光 ,   清水寛路 ,   長堀正和 ,   岡本隆一

ページ範囲:P.173 - P.181

要旨●Crohn病(CD)の予後改善のため内視鏡的治癒が提案されている.その中でバルーン内視鏡(BAE)は小腸病変を直接に観察でき,予後予測にも有用であるが,侵襲性もあり他のモダリティの併用も重要である.これまでのCDの内視鏡評価は大腸評価が中心であったが,小腸のスコアリングとして近年mSES-CDが提案されている.臨床的血清学的寛解例でも半数弱の例で小腸病変を伴い,これらは再燃の高危険群であることが判明した.一方,完全な粘膜治癒でなくとも縦走潰瘍がなければ良好な予後が期待できる.また,潰瘍を伴わない狭窄に対する内視鏡的拡張術の予後は潰瘍を伴う例よりもよいため,狭窄部の内視鏡的治癒は治療目標となりうる.

Crohn病における小腸粘膜治癒評価の意義—小腸カプセル内視鏡の立場から

著者: 中村正直 ,   山村健史 ,   前田啓子 ,   澤田つな騎 ,   石川恵里 ,   角嶋直美 ,   古川和宏 ,   飯田忠 ,   水谷泰之 ,   石川卓哉 ,   大野栄三郎 ,   川嶋啓揮 ,   藤城光弘

ページ範囲:P.183 - P.189

要旨●各ガイドラインにおいて小腸カプセル内視鏡(CE)がCrohn病(CD)患者の小腸病変評価に有用であることが示されている.CEの施行は消化管開通性を有するCD患者に限定されるが,そのような患者群は比較的活動性が落ち着いており腸管予後が良好であるため,治療効果を適正なタイミングで判定し治療内容の調整を行う意義が高い状況でもある.CDの治療目標は粘膜治癒であるが,粘膜を完全に治癒させることが困難である場合があり,臨床的再燃を回避できる粘膜状態を認識することが重要である.CEによる重症度評価はCE読影ソフトウエア内のLS(Lewis score)で可能であり,LSが264以下であればその後の再燃を回避できる可能性が高くなるとの報告がある.

Crohn病における全層性炎症評価の意義—MREの立場から

著者: 佐上晋太郎 ,   鈴木敏司 ,   小林拓

ページ範囲:P.191 - P.200

要旨●Crohn病において内視鏡的粘膜治癒の達成を目指した治療戦略は,持続的な長期臨床的寛解を実現する治療目標として重要視されてきた.しかしながらCrohn病は全層性炎症であることから,MREなどのcross sectional imagingによる全層性炎症の消失は表層性の炎症消失を意味する内視鏡的粘膜治癒よりも良好な予後と相関することが報告されている.今後MREなどによる疾患のモニタリングが確立していくことで,疾患の経過をさらに改善し不可逆的な腸の損傷を防ぐことが期待される.

主題研究

Artificial intelligenceを用いた潰瘍性大腸炎における粘膜治癒評価

著者: 仲瀬裕志 ,   本澤有介

ページ範囲:P.201 - P.207

要旨●潰瘍性大腸炎(UC)の内視鏡モニタリングの重要性が注目されている.その理由として,粘膜治癒達成がUC患者の予後改善につながることが挙げられる.粘膜治癒は,内視鏡的寛解のみならず,病理組織学的な炎症の改善をも目指すようになってきた.しかし,これまでの臨床試験では,前向きに検証されたUC活動性を評価する内視鏡スコアリングシステムはない.現在,AIを用いたUC粘膜治癒を評価する内視鏡スコアリングシステムが開発されつつあり,近い将来粘膜治癒の定義を標準化できる可能性が示唆される.UC治療における粘膜治癒の正確な定義への道は,今始まったばかりである.

ノート

炎症性腸疾患のバイオマーカー

著者: 新﨑信一郎 ,   朝倉亜希子 ,   田代拓 ,   大竹由利子 ,   谷瑞季 ,   天野孝広 ,   良原丈夫 ,   吉井俊輔 ,   辻井芳樹 ,   林義人 ,   井上隆弘 ,   竹原徹郎

ページ範囲:P.208 - P.210

要旨●現在,炎症性腸疾患(IBD)の疾患活動性を把握しうるゴールドスタンダードは内視鏡検査である.しかしながら,内視鏡検査は患者への侵襲性やコストが高いことから,外来受診ごとに施行することは非現実的であり,より鋭敏かつ簡便に疾患活動性をモニタリングできるバイオマーカーが求められている.近年,便中カルプロテクチンと血清ロイシンリッチα2グリコプロテインが保険収載され,既存のC反応性蛋白に加えて非侵襲的にIBDの病勢をモニタリングするツールが増えてきている.今後はこれらを活用して,より正確にIBDの病勢を把握する戦略を確立することが求められる.

早期胃癌研究会症例

健常高齢者に発症し,巨大な深掘れ打ち抜き潰瘍および長い偽腔形成を伴う多彩な画像所見を呈したサイトメガロウイルス食道病変の1例

著者: 木下真樹子 ,   木下幾晴 ,   湊口仁史 ,   今井元 ,   松本春香 ,   橋本忠幸

ページ範囲:P.211 - P.218

要旨●患者は基礎疾患のない70歳代,女性.食道違和感を主訴に来院した.EGDおよび食道X線造影検査で頸部食道〜胸部上部食道(Ut)に約6cmの巨大な深掘れ打ち抜き潰瘍,Utに粘膜橋,Ut〜扁平円柱上皮接合部近傍まで長い偽腔を形成し,下部食道では真腔に黄白色粘膜の結節状隆起を認めた.潰瘍底から生検された炎症性肉芽組織内に,免疫組織化学的にサイトメガロウイルス(CMV)陽性の細胞が確認され,CMV食道病変と診断した.打ち抜き潰瘍と黄白色粘膜の結節状隆起はCMV食道病変に典型的所見であったが,長い偽腔形成は非典型的な所見であった.偽腔の存在により固形物の摂取が困難であり,偽腔を内視鏡的に切開し解放した.本例は健常高齢者に発症し,食道全域に多彩な画像所見を呈したまれな症例と考えられた.

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目次

ページ範囲:P.119 - P.119

欧文目次

ページ範囲:P.120 - P.120

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.118 - P.118

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.157 - P.157

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.189 - P.189

次号予告

ページ範囲:P.220 - P.220

編集後記

著者: 清水誠治

ページ範囲:P.221 - P.221

 抗TNFα(tumor necrosis factor α)抗体をはじめとする生物学的製剤の登場はIBD(inflammatory bowel disease)など慢性炎症性疾患の治療を一変させた.2008年に提唱された関節リウマチの世界的なガイドラインTreat to Target(T2T ; 目標達成に向けた治療)と同様の考え方をIBDに導入したのがSTRIDE(Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease)と呼ばれるミーティングであり,最初の提言が2015年になされた.その中で臨床症状消失とともに内視鏡所見の改善が治療目標に掲げられている.本誌では2018年2月号で「IBDの内視鏡的粘膜治癒—評価法と臨床的意義」が特集された.昨年改訂されたSTRIDE-IIと初版との違いは本号の序説に要約されているので繰り返しは避けるが,治療目標がより厳格化されている.なお,江﨑も序説で触れているように,粘膜治癒という言葉が近頃では内視鏡的寛解に加えて組織学的寛解の基準を満たした場合へと変化している.当初,組織学的寛解の意味で用いられた言葉が内視鏡的寛解を指すようになり,さらに両者を包含するに至る過程をみていると,まさに言葉は生き物であると痛感する.
 内視鏡的寛解と判断されても組織学的に炎症細胞浸潤がみられることが少なくない.潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)における組織学的寛解は炎症細胞浸潤の消失が最低限必要と考えられるが(八尾論文),腺管構築を含めたcomplete normalizationは治療目標としてハードルが高すぎる.またCrohn病(Crohn's disease ; CD)における基準の設定はさらに困難に思える.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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