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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸57巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

今月の主題 食道上皮内腫瘍の診断と取り扱い 序説

食道の扁平上皮内腫瘍

著者: 田久保海誉

ページ範囲:P.227 - P.229

はじめに—歴史
 最初に,食道の上皮内病変について歴史的な記述を見てみたい.StoutとLattesの食道の腫瘍病理学書1)(1957)では食道の前癌病変として,leukoplakiaとcarcinoma in situを挙げて説明している.次に,中国河南省の食道の扁平上皮癌の好発地域で行われた細胞診によるマススクリーニング2)(1959年〜)では,前癌病変についてdysplasia(異形成)を挙げている.また,Ushigomeら3)(1967)の症例報告があり,Mukadaら4)(1976)と筆者ら5)(1981)は,剖検食道からdysplasiaを探し出し,食道癌例では頻度が高いことを報告している.しかし,これらの論文の中では,dysplasiaと正常上皮との上皮内の境界に,腫瘍を示唆するoblique lineを見いだす努力がなされておらず,dysplasiaは異型上皮(atypical epithelium)と同義的に用いられている.

主題

食道上皮内腫瘍の病理学的検討—“食道上皮内腫瘍”とはどういうものか:病理医の立場から

著者: 根本哲生

ページ範囲:P.231 - P.241

要旨●食道における扁平上皮内腫瘍(SIN)は,腫瘍と判定される上皮内病変のうち癌を除いたもの,と「食道癌取扱い規約 第11版」で定義されている.病変を腫瘍と判定する重要な要素は領域性を持つことである.食道においては,領域性のある異型上皮巣の大多数は癌と診断される傾向にある.病理医が癌の診断をためらう要素として,弱い細胞異型,表層への分化傾向が挙げられる.また,生検材料など情報量が少ない場合,便宜的にSINと診断されることがある.病理学的低異型度腫瘍としてのSINが臨床病態を反映するか否かを検証する必要がある.もし長期間,水平・垂直方向に進展しない一群の腫瘍が存在するならば,臨床的な取り扱いが通常の癌と異なるという意味で,SINという概念を確立する意義がある.そのような病変は,多発不染帯の一部であったり,小病変であったりすることが多く,病理学的評価を含めて経時的な観察を行うことには困難が予想されるが,臨床と病理が協力した研究が必要である.

食道上皮内腫瘍の病理学的検討

著者: 藤島史喜 ,   國吉真平 ,   佐藤聡子 ,   尾形洋平 ,   齊藤真弘 ,   菅野武 ,   八田和久 ,   小池智幸 ,   正宗淳 ,   笹野公伸

ページ範囲:P.243 - P.249

要旨●食道では同一病変内においても細胞の異型度は多彩で,炎症に伴う二次的な変化が加わることが多く,診断に際しては一つの所見にとらわれることなく,総合的な判断が必須となる.特に食道胃接合部病変の診断は慎重に行われるべきである.今回,鑑別を要する病変を含め,食道上皮内腫瘍の形態学的および免疫組織化学的所見を詳細に検討した.Ki-67の免疫組織化学染色は有用ではあるが,実臨床で注意すべき点も少なくない.また,根治的化学放射線療法後の上皮内病変の病理診断にも注意が必要である.日常診断において明確に腫瘍・非腫瘍性病変を鑑別することは難しいが,決して患者の不利益とならないよう内視鏡医と病理医が診断名についてのコンセンサスを得ておくことが重要である.

食道上皮内腫瘍とsquamous dysplasia(WHO分類)との関連性

著者: 藤井誠志

ページ範囲:P.251 - P.261

要旨●2019年に改訂された第5版の「WHO Classification of Tumours:Digestive System Tumours」では,食道扁平上皮の腫瘍性病変をdysplasiaと表記することになった.第4版のWHO分類で用いられていたintraepithelial neoplasiaとの違いは,細胞異型度が重視されることになった点である.本邦で長らく認識されていた表層分化型上皮内扁平上皮癌や基底層置換型上皮内扁平上皮癌と呼称される腫瘍性病変は,WHO分類第4版の基準ではlow-grade intraepithelial neoplasiaに分類されていたが,WHO分類第5版ではhigh-grade squamous dysplasiaに相当する病変に分類が変更された.加えてhigh-grade squamous dysplasiaは,本邦やアジアではcarcinoma in situを含むと明確に定義された.

食道上皮内腫瘍の内視鏡的検討—ESD切除例をもとに

著者: 竹内学 ,   高綱将史 ,   加藤卓 ,   味岡洋一

ページ範囲:P.263 - P.272

要旨●「食道癌取扱い規約 第11版」で定義された食道上皮内腫瘍(IN)に関して,当院でESDを行い病理組織学的にINと診断した19病変を対象に内視鏡的特徴を検討した.通常観察では正色調あるいは淡い発赤・白色調の平坦型が多くを占め,その発見は極めて困難であった.NBI非拡大観察では約70%が淡いbrownish areaを呈し,NBI拡大観察では視認できる血管はType A血管が最も多かった(約60%).さらにヨード染色では,全例が淡染帯を呈し,その辺縁性状は癌で通常みられる不整形ではなく,丸みを帯びた類円形であった.Endocytoscopyによる6病変の核所見では,熊谷分類Type 1に比べ,軽度の核腫大・核異型,核密度の軽度上昇および核配列の乱れを全例に認め,IN診断の一助になると考えられた.さらに,INは,①主病巣辺縁に連続して存在,②主病巣近傍に連続せず存在,③単独で存在,の3つの存在パターンに分類された.INの発見契機は存在パターンの違いで異なり,単独で存在した7病変すべてが通常・NBI観察で発見されたことから,ヨード染色のみでなく通常およびNBI観察での淡い色調変化を捉えることが大切である.

食道上皮内腫瘍の内視鏡的検討

著者: 高橋亜紀子 ,   小山恒男 ,   塩澤哲 ,   荒川愛子 ,   太田浩良

ページ範囲:P.273 - P.282

要旨●2018年12月〜2021年11月までに当院で食道扁平上皮癌に対しESDを施行した204例のうち,病理組織学的にINと診断した22例24病変を対象とした.対象を,分類1:WLI,NBIで発見困難・ヨード淡染,分類2:WLI,NBIで発見可能・ヨード淡染,分類3:WLI,NBIで発見困難・ヨード正染,の3群に分類し,その特徴を検討した.分類1が20例22病変(92%),分類2が1例1病変(4%),分類3が1例1病変(4%)であった.分類1・2は全例0-IIb型でヨード染色にて不染・淡染を呈したため,発見可能であった.分類3では,主肉眼型は0-IIb型でヨードに正染されたが,一部が隆起していたため,偶然発見された.INの92%が分類1に属し,PCS・MSS陰性の18例は全例INであり,ヨード淡染かつPCS・MSS陰性がINの特徴と考えられた.一方,分類1の中でPCS・MSS陽性を4例認めたが,これらはいずれもECSにて熊谷分類Type 2を呈したことから,PCS・MSS陽性例ではECSがINとSCCの鑑別に寄与する可能性が示唆された.

主題症例

経過観察中に癌化した食道上皮内腫瘍の1例

著者: 依光展和 ,   小田丈二 ,   入口陽介 ,   水谷勝 ,   冨野泰弘 ,   山里哲郎 ,   園田隆賀 ,   岸大輔 ,   安川佳美 ,   霧生信明 ,   中河原亜希子 ,   清水孝悦 ,   橋本真紀子 ,   成田真一 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.283 - P.288

要旨●患者は70歳代,男性.嘔気,心窩部痛を主訴にEGDを行い,胸部下部食道に血管透見が低下した15mm大の境界不明瞭な白色調の平坦病変を認めた.ヨード撒布にて15mm大の境界明瞭な不整形の不染帯を呈し,扁平上皮癌が疑われたが,生検病理診断は上皮内腫瘍であった.4年3か月後のEGD所見に大きな変化はなかったが,生検病理診断が扁平上皮癌となり内視鏡的切除を行った.最終病理診断はpT1a(EP)の扁平上皮癌であった.内視鏡診断では扁平上皮癌を疑うが,生検病理診断が上皮内腫瘍である場合,扁平上皮癌が併存する,あるいは扁平上皮癌に進展する可能性があり,病理医とのディスカッションのもと,診断的治療としての内視鏡的切除も検討する必要がある.

症例検討

アンケートのまとめ

著者: 新井冨生

ページ範囲:P.289 - P.309

はじめに
 食道上皮内腫瘍(intraepithelial neoplasia)あるいは異形成(dysplasia)に関して,本誌では第26巻2号(1991年)「食道“dysplasia”の存在を問う」1),31巻6号(1996年)「食道dysplasia—経過観察例の検討」2),42巻2号(2007年)「食道扁平上皮dysplasia—診断と取り扱いをめぐって」3)の3回にわたり特集が組まれ,代表的な症例を提示するとともに,定義,病理診断,臨床的な対応など多角的に議論されてきた.上皮内腫瘍は当初,“異形成”という用語が用いられ異型を示す非腫瘍性病変も含まれていたが,WHO分類第3版(2000年)4)から“上皮内腫瘍”の用語が使用されるようになり,本邦の「食道癌取扱い規約 第10版」5)でも異形成から上皮内腫瘍に用語が変更され,腫瘍性病変のみを取り扱うという認識に至った.このように,この約30年の間に異形成(dysplasia)から上皮内腫瘍(intraepithelial neoplasia)へ,非腫瘍性病変を含む異型上皮から腫瘍性病変へと,用語および定義の変遷がみられた.
 本誌42巻2号(2007年)「食道扁平上皮dysplasia—診断と取り扱いをめぐって」3)が発行された時期は,上皮内腫瘍の用語が「食道癌取扱い規約 第10版」5)に採用された時期に一致する.それから約15年が経過したが,その間に食道癌取扱い規約は1回改訂され,同じ上皮内腫瘍の用語を採用しているものの定義が変更となった6).現在用いられている“扁平上皮内腫瘍”は上皮内癌を含まず6),「食道癌取扱い規約 第10版」5)あるいはWHO分類第5版7)のlow-grade intraepithelial neoplasia/dysplasiaにほぼ相当する病変である.今回,現行の定義のもとで初めて食道扁平上皮内腫瘍を見直す機会となった.
 今回の検討では食道専門の内視鏡医が症例を収集し,その病理組織標本のバーチャルスライド12例13病変を消化管専門の病理医9名に事前配付し,診断名を回収し解析した.その中から代表的な6例については,内視鏡医と病理医でさらに討論した.本稿では,今回検討した13病変の概要を記すとともに,この病変がどのように診断されているか,病理医間でどのような違いがあるかについて述べる.さらに,解釈や判定に個人差がどのような要因で生じるかを整理してみたい.

座談会

食道上皮内腫瘍を問う—アンケート集計を踏まえて

著者: 小山恒男 ,   新井冨生 ,   眞能正幸 ,   八尾隆史 ,   根本哲生 ,   河内洋 ,   竹内学 ,   高橋亜紀子

ページ範囲:P.310 - P.344

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目次

ページ範囲:P.225 - P.225

欧文目次

ページ範囲:P.226 - P.226

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.224 - P.224

次号予告

ページ範囲:P.346 - P.346

編集後記

著者: 小山恒男

ページ範囲:P.347 - P.347

 新井冨生,竹内学とともに本号「食道上皮内腫瘍の診断と取り扱い」の企画を担当した.本音を言うと,担当したくなかった.なぜなら,病理医によって食道上皮内腫瘍(intraepithelial neoplasia ; IN)の診断基準が異なり,臨床医は長年にわたって診断や治療方針の策定に苦慮してきたからである.しかし,愚痴ばかり言っていては前に進めない.今回は勇気を持ってINに正面から立ち向かうことにした.
 まず序説で田久保に上皮内腫瘍の歴史を語っていただいた.この序説ではdysplasia,atypical epithelium,異型上皮,上皮内腫瘍,CIS(carcinoma in situ)という言葉が散りばめられ,INを巡る問題の長い歴史を実感した.また,WHO分類で示されるoesophageal squamous intraepithelial neoplasia(dysplasia)のlow-gradeとhigh-gradeは,いずれも(日本の基準では)CISであると記載されており,この時点で目眩がしてきた.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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