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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸57巻6号

2022年05月発行

雑誌目次

今月の主題 原発性小腸癌—見えてきたその全貌 序説

原発性小腸癌—見えてきたその全貌

著者: 田中信治

ページ範囲:P.763 - P.764

 小腸原発の上皮性悪性腫瘍は消化管腫瘍の2.2〜3.2%とまれな疾患であり1)2),組織型別頻度ではほとんどの報告で,高〜中分化型腺癌が最多で,粘液癌,印環細胞癌はまれである.高橋ら3)によると,全消化管悪性腫瘍に占める割合は,部位別にみると,空腸癌は0.05%,回腸癌は0.01%で,回腸癌よりも空腸癌の頻度が高いと報告している.1970〜1979年の本邦報告例の集計によると,好発部位は,空腸癌では77.8%がTreitz靱帯から60cm以内,回腸癌では66.7%が回盲弁から40cm以内である4).一方,八尾ら5)の1995〜1999年の本邦報告例の集計によると,小腸悪性腫瘍のうち腺癌の頻度は32.6%である.しかし,本邦には小腸癌に関する正確な統計は現在存在しない.
 近年の内視鏡医学の進歩によってカプセル内視鏡(2003年〜)とバルーン内視鏡(1998年〜)が普及し,小腸疾患の診断能は飛躍的に向上し,多くの病態解明が進みつつある.そして,上皮性腫瘍の診断の進め方も確立している6).一方,原発性小腸癌に関しては,希少であることに加え,狭窄症状や転移・播種を契機に進行した状態で診断される例が多く,その発生・発育進展の解明と早期発見への取り組みが急務とされている.

主題

原発性小腸癌の病理学的および分子生物学的特徴

著者: 関根茂樹

ページ範囲:P.765 - P.770

要旨●原発性小腸癌は消化管癌の3%以下にすぎないが,さらに空・回腸癌はそのうち半数以下とされる極めてまれな腫瘍である.病理組織学的には腸上皮に類似する管状腺癌が多くを占めるが,粘液癌や髄様癌の発生もみられる.免疫組織化学的にサイトケラチンの発現などで非腫瘍小腸上皮と異なる特徴を示すため,原発・転移の鑑別における免疫組織化学染色の利用には注意が必要である.分子生物学的には大腸癌と共通する遺伝子変異が認められるものの,APC変異の頻度は低く,大腸癌とは異なる分子異常を背景とした腫瘍と考えられる.また,ミスマッチ修復異常が20%程度に認められることから,その検索を臨床的な必要性に応じて適切に行うことが望まれる.

原発性小腸癌のX線診断—鑑別診断を含めて

著者: 川崎啓祐 ,   梅野淳嗣 ,   蔵原晃一 ,   江頭信二郎 ,   大城由美 ,   藤原美奈子 ,   川床慎一郎 ,   松野雄一 ,   冬野雄太 ,   藤岡審 ,   平野敦士 ,   河内修司 ,   森山智彦 ,   鳥巣剛弘

ページ範囲:P.771 - P.781

要旨●過去15年間に当科および関連施設にて診断された原発性空・回腸癌19例を対象とし,臨床像,小腸X線造影所見を検討した.平均腫瘍径は43.4mmで,病変部位は空腸12例,回腸7例であった.肉眼型は潰瘍型が14例と最多で,すべて輪状狭窄型であった.TNM分類Stage IVの割合が高く(32%),5年後のOS(overall survival)は58%,TNM分類Stage IVはOS,EFS(event-free survival)の,空腸,潰瘍型はEFSの予後不良因子であった.小腸X線造影所見では輪状狭窄型の全例,および全周性の隆起型病変でnapkin-ring sign,口側腸管の拡張像を,輪状狭窄型はさらに全例でoverhanging edgeを認めた.以上より,原発性空・回腸癌の予後不良因子はTNM分類Stage IVであり,輪状狭窄型および全周性の隆起型病変は特徴的な小腸X線造影検査所見を有していた.

原発性小腸癌の臨床病理学的特徴—内視鏡診断を中心に

著者: 壷井章克 ,   岡志郎 ,   松原由佳 ,   平田一成 ,   隅岡昭彦 ,   飯尾澄夫 ,   田中信治

ページ範囲:P.783 - P.792

要旨●原発性小腸癌は比較的まれであるが,カプセル内視鏡およびバルーン内視鏡の普及に伴いその診断機会は増加している.原発性小腸癌はさまざまな肉眼形態を呈し,他の小腸腫瘍との鑑別が重要である.カプセル内視鏡やバルーン内視鏡のみならず,従来の体外式超音波検査,小腸X線造影検査,造影CT検査など他の診断法と組み合わせながら効率よく検査,診断を進めていく必要がある.しかし,原発性小腸癌はいまだ他臓器転移や腹膜播種を伴った進行期の状態で発見されることが多く,今後さらなる早期診断法の確立ならびに病態の解明が必要である.

原発性小腸癌の画像診断—CTを中心に

著者: 渡邊馨 ,   久保田一徳 ,   中田学 ,   伊藤悠子 ,   伴慎一

ページ範囲:P.793 - P.802

要旨●原発性小腸癌は消化管悪性腫瘍の0.1〜1.0%とまれな腫瘍であり,CT所見についてもまとまった報告は多くない.限られた報告ではあるが,小腸癌のCT所見では偏心性病変や内腔狭窄,潰瘍形成などが報告されている.本邦における過去5年間の症例報告では狭窄を示す病変が大半であったが,当院で経験した7例の検討では,狭窄性の病変の他,悪性リンパ腫に類似するような内腔の拡張を示す病変がみられた.病理組織学的所見との対比では腫瘍間質の線維化と狭窄,壊死や髄様増殖と拡張との間に関連が疑われた.小腸腫瘍のCT診断においては原発巣の形態のみならず,リンパ節転移や遠隔転移の有無,転移巣や原発巣の壊死や不均一さといった性状を合わせた検討が必要と考える.

原発性小腸癌の外科手術—現状と問題点

著者: 橋口陽二郎 ,   松田圭二 ,   野澤慶次郎 ,   端山軍 ,   島田竜 ,   金子建介 ,   福島慶久 ,   大野航平 ,   浅古謙太郎 ,   岡田有加 ,   宮田敏弥 ,   岡志郎 ,   田中信治

ページ範囲:P.803 - P.809

要旨●小腸癌はその希少性から,外科的治療における腸管切除範囲,リンパ節郭清範囲などを規定した標準術式は確立されていない.大腸癌取扱い規約における右側結腸の領域リンパ節の概念を空腸・回腸癌に適用すると,支配空腸・回腸動脈のSMA本幹からの分岐部が主リンパ節(N3),腸管近くで網目状に交通している部分を腸管傍リンパ節(N1),その中間を中間リンパ節(N2)とするのが実際的である.進行癌では,腸管は腫瘍より口側・肛側に10cmずつを確保し,中枢方向については腫瘍より10cm以内の腸管に流入する栄養血管を同定し,SMA本幹から分岐する箇所で切離する.回盲弁より10cm以内の腫瘍の場合は回盲部切除を検討する.

ノート

Lynch症候群と原発性小腸癌

著者: 池上幸治 ,   蔵原晃一 ,   大城由美 ,   清森亮祐 ,   原裕一 ,   吉原崇正 ,   江頭信二郎 ,   井本尚徳 ,   南川容子

ページ範囲:P.810 - P.815

要旨●Lynch症候群は主にミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患であり,大腸癌をはじめとする種々の固形腫瘍が好発する.小腸癌もLynch症候群関連癌に含まれるが,小腸スクリーニングの時期や方法は定まっていない.自験例を含めLynch症候群に合併した小腸癌本邦報告例14例16病変について検討したところ,貧血や腹痛などの症状を訴え,進行癌として発見された例が多く,MSH2変異を認める場合は特に小腸癌合併に注意を要すると考えられた.自験Lynch症候群関連小腸癌の1例は40歳代,男性で,貧血を契機に診断された回腸進行癌術後4年目のカプセル小腸内視鏡にて空腸腸型腺腫を認め,バルーン内視鏡下で切除しえた.小腸癌の早期発見につながる可能性のある症例と考え報告する.

家族性大腸腺腫症と小腸癌

著者: 長末智寛 ,   梅野淳嗣 ,   藤岡審 ,   川床慎一郎 ,   藤原美奈子 ,   鳥巣剛弘

ページ範囲:P.817 - P.821

要旨●家族性大腸腺腫症(FAP)において十二指腸を除く原発性小腸癌の発生頻度は約0.5%であり,死因の1%を占めると報告されている.主要な発癌経路はadenoma-carcinoma sequenceと考えられており,腺腫のマネジメントが重要と考えられている.好発部位は外的刺激への曝露機会が多い上部空腸や大腸全摘術後のストーマ部および回腸囊内とされている.サーベイランスの有用性に関するエビデンスは不足しており,本邦の「遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2020年版」では定期的な小腸スクリーニングを推奨していない.今後,より適切な小腸腺腫および小腸癌に対するマネジメントの確立が期待される.

主題症例

回盲部切除で治癒切除が得られた小腸腺腫内癌の1例

著者: 白橋亮作 ,   片山裕視 ,   奥山隆 ,   竹下惠美子 ,   伴慎一 ,   玉野正也

ページ範囲:P.823 - P.828

要旨●患者は60歳代,男性.便潜血陽性にて大腸内視鏡検査を施行し,回腸末端部に亜全周性の30mm大無茎性病変を認め,性状は表面発赤調で小結節集簇性を呈していた.小腸カプセル内視鏡検査や注腸X線造影検査にて小腸Crohn病などの多発性腸管病変は認められなかったが,悪性所見を否定しきれず,診断的治療目的に回盲部切除術が行われた.病理組織学的診断では粘膜内にとどまる高度異型を呈する管状絨毛腺腫を認め.一部に癌を含んでおり,腺腫内癌の結果であった.治療後も再発なく経過している症例を経験したため報告する.

家族性大腸腺腫症における空・回腸癌の4例

著者: 伊藤徹哉 ,   石田秀行

ページ範囲:P.829 - P.836

要旨●家族性大腸腺腫症(FAP)は大腸癌ならびに多様な随伴病変を発症する常染色体優性遺伝性疾患であり,頻度は低いものの,空・回腸癌も随伴病変として知られている.当科の151例のFAPのうち空・回腸癌を発症した4例を提示する.内訳は空腸癌が1例,回腸癌が3例であり,回腸癌のうち2例は人工肛門部に発生した.生涯発症リスク(70歳)は15.7%であった.FAPに対する適切な手術治療とサーベイランスの進歩により,若年での大腸癌による死亡が減少することから,今後は空・回腸癌の発生が増加する可能性があり,症例の蓄積による発生メカニズムの解明とサーベイランスの確立が望まれる.

消化管出血を契機に発見された異所性膵から発生したMeckel憩室癌の1例

著者: 八島一夫 ,   橋本健志 ,   𠮷田由紀奈 ,   荻原諒平 ,   紙谷悠 ,   坂口琢紀 ,   能美隆啓 ,   菓裕貴 ,   池淵雄一郎 ,   吉田亮 ,   河口剛一郎 ,   柳生拓輝 ,   木原恭一 ,   野内直子 ,   桑本聡史 ,   磯本一

ページ範囲:P.837 - P.843

要旨●患者は80歳代,男性.血便を主訴に前医を受診した.上部・下部消化管内視鏡検査が施行されたが出血源を認めず,小腸出血疑いで当院に紹介となった.小腸カプセル内視鏡検査では下部小腸に出血を認め,経肛門的ダブルバルーン内視鏡検査を施行した.回盲弁から100cm付近口側の回腸に15mm大の頂部に出血びらんを伴うクッションサイン陰性の粘膜下腫瘍(SMT)様隆起を認めた.病変の基部に同心円状ひだがあり,Meckel憩室の内翻を疑った.出血源と考え,腹腔鏡補助下小腸切除術を施行した.切除標本病理組織学的所見ではMeckel憩室の固有筋層から漿膜下を主座とする腺癌であった.腫瘍周囲に異所性膵を認め,腫瘍との連続性や免疫染色所見から異所性膵を発生母地とするMeckel憩室癌と診断した.

早期胃癌研究会症例

二段隆起を呈した十二指腸神経内分泌腫瘍(NET G2)の1例

著者: 和田将史 ,   隅田頼信 ,   原田直彦 ,   秋吉遥子 ,   藤井宏行 ,   井星陽一郎 ,   中牟田誠 ,   桃崎征也 ,   松浦秀司 ,   伊原栄吉

ページ範囲:P.844 - P.850

要旨●患者は70歳代,女性.近医で十二指腸病変を指摘されたため,当科に紹介され受診となった.十二指腸内視鏡検査で十二指腸球部後壁に径20mm大の二段隆起を呈する粘膜下腫瘍様隆起性病変を認め,上部に広く浅い潰瘍を形成していた.潰瘍からの生検で神経内分泌腫瘍(NET)の診断となり,十二指腸部分切除術・リンパ節郭清が施行された.切除標本病理学的所見はNET G2,pT3(SS),ly0,v1であり,リンパ節転移を認めた.本症例は上皮が欠損し,さらに表層に腫瘍自体が露出し,かつ二段隆起を呈した症例であった.

S状結腸にみられた特殊な形態を呈したPeutz-Jeghers型ポリープ由来腺腫内癌の1例

著者: 萬春花 ,   松下弘雄 ,   吉川健二郎 ,   田中義人 ,   加藤文一朗 ,   田口愛弓 ,   髙木亮 ,   橋本大志 ,   山崎晃汰 ,   東海林琢男 ,   榎本克彦

ページ範囲:P.851 - P.859

要旨●患者は40歳代,男性.S状結腸に35mm大の発赤調の有茎性病変を認め,茎部にはSMT様の隆起を伴っていた.拡大観察では発赤部は非腫瘍性腺管領域と腫瘍性腺管領域の混在を認め,一部に不整な腺管構造を認めた.一元的な解釈は困難であったが,腺腫内癌および粘膜下浸潤あるいは粘膜下偽浸潤の可能性があると考えた.内視鏡的切除は可能と判断し診断的治療目的にEMRにて一括切除した.病理診断は,adenocarcinoma in adenoma arising in Peutz-Jeghers type polypと粘液湖形成を伴う粘膜下偽浸潤であった.

追悼

中村恭一先生.また語り合い,そして一緒に旅をしましょう

著者: 渡辺英伸

ページ範囲:P.860 - P.860

 中村恭一先生,1965(昭和40)〜2004(平成16)年までの,40年間に及ぶ温かいご指導ありがとうございました.
 先生は1934年生まれ,私は1938年生まれ,4歳違いの兄貴分.先生からご指導を受けることができるようになったのは,私が九州大学癌研究所(病理)に入局した1年目の1965年,その当時先生は東京医科歯科大学大学院を卒業され,同大学で1年間助手をされた後,癌研究会癌研究所(病理)へ転任され,同部の主任研究員でした.1965年初頭の消化管腫瘍病理学は九州に比べて,東京のほうが遥かに先端を突っ走っていた時代でした.

追悼 中村恭一先生

著者: 下田忠和

ページ範囲:P.862 - P.862

 本年の元旦,昨年12月30日に中村恭一先生がご逝去されたと知らせを受けました.以前から体調を崩され療養をされていました.その間,お会いすることもできず突然の訃報でありました.謹んでお悔やみ申し上げます.
 先生は1970年代から胃癌と大腸癌の病理学的研究では日本のリーダーの一人として活躍され,病理医ばかりでなく臨床の先生方にも大きな影響力を発揮されてきました.

恩師・中村恭一先生を偲ぶ

著者: 大倉康男

ページ範囲:P.863 - P.864

 「中村恭一先生が昨日亡くなられました」との連絡を受けたのは,2021年があと少しで終わる日の夕方でした.数か月前に厄介な病気が見つかったと聞いていましたが,コロナ下でお見舞いに行けないまま,突然の訃報となってしまいました.
 中村先生に初めてお目にかかったのは,先生が筑波大学に在職されていた1984年の初夏でした.筆者が浅間山の麓にある公立病院で消化器外科を研修中に早期胃癌の病理への関心が出てきたことから,診断に来られていた病理医の先生に相談し,大学の同窓である中村先生を紹介していただいたのがきっかけでした.教授室での初対面の場では交わす言葉は少なかったですが,朴訥な話し方に親しみを感じ,大学院への進学を決めたと記憶しています.

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目次

ページ範囲:P.761 - P.761

欧文目次

ページ範囲:P.762 - P.762

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.760 - P.760

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.792 - P.792

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.859 - P.859

次号予告

ページ範囲:P.866 - P.866

編集後記

著者: 蔵原晃一

ページ範囲:P.867 - P.867

 カプセル内視鏡とバルーン内視鏡の普及によって小腸疾患の診断能は飛躍的に向上し,多くの疾患の病態解明が進みつつある.一方,原発性小腸癌(空腸・回腸癌)に関しては,希少であることに加え,狭窄症状や転移・播種を契機に進行した状態で診断される例が多く,その発生・発育進展の解明が急務とさプロジェクトれてきた.近年,大腸癌研究会で「小腸悪性腫瘍研究(委員長:田中信治)」が立ち上がり国内多施設の原発性小腸癌症例が集積され,その実態が明らかにされるとともに,小腸癌取扱い規約の作成が進行しつつある.
 本号は「原発性小腸癌—見えてきたその全貌」をテーマとし,田中信治,伴慎一と私,蔵原で企画した.「原発性小腸癌」に関する現時点での最新知見を網羅し,その臨床的特徴を明らかにすることを目標とした.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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