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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸57巻7号

2022年06月発行

雑誌目次

今月の主題 特殊型胃癌—組織発生と内視鏡診断 序説

特殊型胃癌は特殊ではない

著者: 九嶋亮治

ページ範囲:P.873 - P.874

 胃癌取扱い規約1)〜3)では,胃癌のうち高頻度に出現する腺癌を一般型とし(Table 1)3),その他を特殊型としてきた.第13版(1999年)1)では腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,カルチノイド腫瘍とその他の癌が記載され,その他の癌として小細胞癌,未分化癌,絨毛癌とAFP(α-fetoprotein)産生胃癌が挙げられていた.その後,第14版(2010年)2)では,EBV(Epstein-Barr virus)と関連することの多いリンパ球浸潤癌を特殊型の一つとして低分化腺癌充実型から独立させ,特殊型はカルチノイド腫瘍,内分泌細胞癌,リンパ球浸潤癌,肝様腺癌,腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,未分化癌とその他の癌とされ,その他の癌としては絨毛癌,癌肉腫,浸潤性微小乳頭癌,胎児消化管上皮類似癌と卵黄囊腫瘍類似癌が挙げられていた.第15版(2017年)3)になると,第14版でその他の癌に含まれていた胎児消化管類似癌が肝様腺癌と併記され(頻度順に胎児消化管類似癌を先行させ),さらに胃底腺型腺癌が加わった(Table 2)1)〜3)
 一方,WHO分類では,第4版(2010年)4)に“rare histological variant”として,adenosquamous carcinoma, squamous cell carcinoma, hepatoid adenocarcinoma, carcinoma with lymphoid stroma, choriocarcinoma, carcinosarcoma, parietal cell carcinoma, malignant rhabdoid tumour, mucoepidermoid carcinoma, Paneth-cell carcinoma, undifferentiated carcinoma, mixed adenoneuroendocrine carcinomas, endodermal sinus tumour, embryonal carcinoma, pure gastric yolk-sac tumour, oncocytic adenocarcinomaが含まれていたが,第5版(2019年)5)では“other and rare histological subtypes”という括りで,gastric(adeno)carcinoma with lymphoid stroma, hepatoid adenocarcinoma and related entities, micropapillary adenocarcinoma, gastric adenocarcinoma of fundic-gland typeが紹介され,“rare subtypes”としてencompass mucoepidermoid carcinoma, Paneth cell carcinomaとparietal cell carcinomaが記載されている.また,gastric squamous cell carcinoma, gastric adenosquamous carcinoma, gastric undifferentiated carcinoma,gastroblastomaとgastric neuroendocrine neoplasms(カルチノイドと内分泌細胞癌に相当)が独立した項として設けられている(Table 3)5)

主題

特殊型胃癌の臨床病理学的特徴

著者: 海崎泰治

ページ範囲:P.875 - P.887

要旨●胃癌の組織型は,胃癌取扱い規約において一般型と特殊型に分類されている.特殊型胃癌はいずれもまれなものであるが,病理組織学的に腫瘍細胞の充実性増殖を示すものが多く,低分化腺癌充実型,悪性リンパ腫,肉腫などとの鑑別が必要となる.また,臨床的にも予後が著明に不良なものや一般型胃癌よりも予後良好なものがあり,特殊型であっても組織型の特定は重要である.本稿では,特殊型胃癌の各組織型について発生機序を含めた臨床病理学的特徴を網羅的に示した.

胃のカルチノイド腫瘍と内分泌細胞癌の病理学的特徴—病理診断医の立場から

著者: 二村聡 ,   田邉寛 ,   太田敦子

ページ範囲:P.888 - P.899

要旨●胃の内分泌腫瘍はカルチノイド腫瘍と内分泌細胞癌に大別される.いずれも病理組織学的には悪性上皮性腫瘍(癌腫)であるが,それらの組織発生および臨床病理学的特徴は大きく異なる.それゆえに,両者は病理学的に適切に区別され,かつ他系統の悪性腫瘍(充実型低分化腺癌やびまん性大細胞型リンパ腫など)は確実に除外されなければならない.これらの病理学的な鑑別診断にはマクロとミクロの形態学的検索の他,免疫組織化学染色を用いた発現形質の検索や臨床情報の収集も必要となる.

胃神経内分泌腫瘍(NET)・神経内分泌細胞癌(NEC)の内視鏡診断

著者: 松枝克典 ,   上堂文也 ,   北村昌紀 ,   大久保佑樹 ,   川上裕史 ,   櫻井裕久 ,   中村孝彦 ,   谷泰弘 ,   三宅宗彰 ,   七條智聖 ,   前川聡 ,   金坂卓 ,   竹内洋司 ,   東野晃治 ,   道田知樹 ,   石原立

ページ範囲:P.900 - P.911

要旨●NET(neuroendocrine tumor)は一般的に低悪性度の経過をたどり予後がよい腫瘍である一方,NEC(neuroendocrine carcinoma)は,発生頻度が胃癌全体の0.2〜0.6%とまれだが,急速な発育性質を持ち,高い転移率の高悪性度腫瘍である.そのため,進行した状態で発見されることが多く,確立された治療方法もないため予後不良の疾患である.また,術前生検病理組織学的診断の正診率が低く,確定診断に時間を要することもある.診断率を向上させるためには内視鏡所見をもとに鑑別診断として挙げ,適切な部位から生検し積極的に免疫組織化学染色を行うことが重要である.NET・NECの内視鏡的特徴の報告は少なく,系統的診断の一助とするために,当院で経験したNEN(neuroendocrine neoplasm)37例を検討した.NETは,NECと比較して腫瘍径が小さく,発赤調または正色調の隆起型を呈し,表面に拡張した血管を認めることが多かった.NECは進行癌が多く,肉眼型は大部分が2型であった.表在型の場合も陥凹性病変や潰瘍を伴う割合が高く,病変辺縁部に粘膜下腫瘍様の立ち上がりを伴う症例が多かった.また,NBI拡大観察ではirregular MV+absent MSが特徴的な所見で,irregular MVは蛇行が乏しくnetworkを形成しない不整血管が,1本1本ちぎれたように疎らに存在している所見であった.

リンパ球浸潤胃癌の病理学的特徴

著者: 岩﨑晶子 ,   牛久哲男

ページ範囲:P.913 - P.921

要旨●リンパ球浸潤胃癌(GCLS)は著明なリンパ球性間質を特徴とする特殊型胃癌である.GCLSの大部分はEBV(Epstein-Barr virus)陽性胃癌であり,特徴的な臨床病理像を示す.一方,GCLSの約20%程度はEBV陰性胃癌で,MSI(microsatellite instability)胃癌やその他の胃癌が含まれることから,GCLSは複数の分子サブタイプから構成されている.本稿では,GCLS全般の特徴を示した後に,① EBV陽性GCLS,② MSI型のGCLS,③ EBV陰性かつ非MSI型のGCLS,④ EBV陽性の非GCLS,の4グループに分けて比較する.加えて,EBV関連胃癌およびMSI胃癌の発癌機序と,治療に関連して内視鏡治療と腫瘍免疫療法に関わるGCLSの特徴を取り上げる.

胃リンパ球浸潤癌の内視鏡診断—Epstein-Barrウイルス関連胃癌を中心に

著者: 赤坂理三郎 ,   鳥谷洋右 ,   永塚真 ,   大泉智史 ,   梁井俊一 ,   遠藤昌樹 ,   秋山有史 ,   山田峻 ,   杉本亮 ,   上杉憲幸 ,   佐々木章 ,   菅井有 ,   松本主之

ページ範囲:P.922 - P.930

要旨●代表的なリンパ球浸潤胃癌としてEBV(Epstein-Barr virus)関連胃癌に着目し,著明なリンパ球浸潤を伴った自験胃癌症例をEBV感染の有無でEBV関連胃癌12例23病変とEBV非関連胃癌81例83病変に大別し,その臨床病理学的特徴と内視鏡所見を比較検討した.EBV関連胃癌は非関連胃癌と比較して同時性多発病変が多く,胃噴門部・胃体部に好発し,通常観察では境界不明瞭な発赤調の病変が多かった.NBI併用拡大観察所見ではabsent MS pattern,irregular mesh pattern,corkscrew patternが特徴的であり,病理学的所見を反映するものと考えられた.以上よりEBV関連胃癌の診断にはNBI併用拡大内視鏡所見が重要と考えられた.

胃胎児消化管類似癌と肝様腺癌の臨床病理学的特徴

著者: 八尾隆史 ,   谷田貝昂 ,   阿部大樹 ,   池田厚 ,   黒澤太郎 ,   赤澤陽一 ,   村上敬 ,   上山浩也

ページ範囲:P.931 - P.938

要旨●胎児消化管類似癌(ACED)成分を伴う早期胃癌31例の病理組織像と臨床病理学的特徴を解析した.ACEDに相当する淡明な細胞から成る分化型腺癌あるいは充実型癌成分に加えて,一般型分化型腺癌(tub/pap)成分は高頻度に混在し,肝様腺癌(HAC)成分もが混在することがあるが,いずれも脈管侵襲やリンパ節転移が高頻度の高悪性度の癌であることが示された.これらは,retro differentiationを来した胎児消化管関連癌として包括可能で,分化型腺癌(tub/papまたは分化型ACED)として発生し,発生時または発育過程で胎児消化管の性格を獲得し,一部は充実性に増殖すると考えられる.ただし,組織型の亜分類の必要性については今後の課題である.

胎児消化管類似癌の内視鏡的特徴

著者: 谷田貝昂 ,   上山浩也 ,   八尾隆史 ,   岩野知世 ,   内田涼太 ,   宇都宮尚典 ,   阿部大樹 ,   沖翔太朗 ,   鈴木信之 ,   池田厚 ,   赤澤陽一 ,   竹田努 ,   橋口忠典 ,   橋本貴史 ,   峯真司 ,   永原章仁

ページ範囲:P.939 - P.947

要旨●胎児消化管類似癌(ACED)の早期病変の内視鏡診断について,臨床病理学的特徴を含めて検討をした.今回,当院で早期胃癌に対してESDを施行し,病理組織学的に少なくとも一部にACEDを含む癌14例を対象とした.ACEDの早期病変は粘膜下層浸潤,脈管侵襲陽性率が高く,高悪性度の腫瘍であった.白色光観察では全例が発赤調であり,12例が0-IIc型を呈し,そのうち5例は辺縁隆起を伴っていた.MESDA-Gでは全例を癌と診断することが可能であり,NBI併用拡大観察ではLBC(81.8%)とWOS(72.7%)が高率に観察されたが,内視鏡所見でACEDと一般型胃癌の鑑別は困難であった.さらに,ACEDの早期病変は通常の粘膜下層深部浸潤の内視鏡的特徴に乏しいにもかかわらず粘膜下層深部浸潤が多く,深達度診断も困難であった.以上より,ACEDの早期病変は高悪性度の腫瘍であるが,内視鏡的に質的診断・深達度診断が困難な病変であり,臨床病理学的特徴を理解したうえで診療にあたる必要がある.

希少な特殊型胃癌の内視鏡診断

著者: 吉永繁高 ,   牧口茉衣 ,   高丸博之 ,   阿部清一郎 ,   野中哲 ,   鈴木晴久 ,   斎藤豊 ,   吉川貴己 ,   魚住健志 ,   平井悠一郎 ,   橋本大輝 ,   関根茂樹 ,   小田一郎

ページ範囲:P.949 - P.958

要旨●特殊型胃癌のうち,特に希少な腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,未分化癌,絨毛癌,癌肉腫,浸潤性微小乳頭癌について述べる.いずれも一般的な胃癌と同様に男性に多いが,進行が早いためか進行癌で見つかることが多い.癌肉腫は隆起を呈することが多いが,それ以外は2型,3型のような潰瘍を伴うことが多い.まれなため症例が少なく,進行した状態で見つかることが多いため,初期段階の内視鏡像など不明なことが多く,今後症例が集積されることを期待したい.

ノート

胃未分化癌の組織発生

著者: 藤原美奈子 ,   川床慎一郎 ,   佐々木泰介 ,   孝橋賢一 ,   小田義直

ページ範囲:P.960 - P.963

要旨●胃未分化癌は,Ueyamaらが報告したvimentin陽性胃癌に始まる極めて予後不良な退形成癌である.vimentin陽性胃癌は,充実・髄様に発育した癌で,円形〜多形を示し好酸性あるいは淡明な細胞質と偏在した核から成るラブドイド細胞に似た腫瘍細胞(rhabdoid-like cell)を含むことを特徴とする.また近年,胃未分化癌や充実型低分化胃癌ではクロマチンリモデリング因子であるSWI/SNF(BAF)複合体の構成蛋白(SMARC蛋白)やARID1A蛋白の欠失を伴い,高率にマイクロサテライト不安定性(MSI)を示すとの報告もあり,SWI/SNF(BAF)複合体の失活は胃癌の充実型組織発生に関与すると考えられる.

主題症例

緩和手術後に診断された胃原発絨毛癌の1例

著者: 松本寛史 ,   稲富理 ,   木村英憲 ,   大井雅之 ,   井上博登 ,   大塚武人 ,   馬場重樹 ,   貝田佐知子 ,   松原亜季子 ,   谷眞至 ,   九嶋亮治 ,   安藤朗

ページ範囲:P.964 - P.970

要旨●患者は60歳代,男性.貧血を契機に遠隔転移を有する進行胃癌と診断した.一次治療開始後に原発巣からの出血による貧血が進行し,緩和照射を行った.一次治療で奏効が得られたが,約7か月後に肝転移が増大し二次治療へ移行した.しかし,間もなく原発巣からの出血が制御できず緊急入院となり,緩和手術として胃全摘術を施行した.病理組織学的診断では,腫瘍細胞は好酸性で多核の合胞体栄養膜細胞様のものと,淡明な細胞質を有する細胞性栄養膜細胞様のものが混在していた.これらは免疫組織化学染色でhCG陽性であり,胃原発絨毛癌と診断した.術後,急速な肝転移の増悪による肝障害を認め,術後28日目に原病死となった.

早期胃癌研究会症例

中年男性にみられたcollagenous gastritisの1例

著者: 山田洋介 ,   芳澤社 ,   海野修平 ,   小林郁美 ,   丹羽智之 ,   遠藤茜 ,   志田麻子 ,   江上貴俊 ,   小林陽介 ,   鏡卓馬 ,   木全政晴 ,   室久剛 ,   長澤正通 ,   細田佳佐 ,   大月寛郎 ,   九嶋亮治

ページ範囲:P.971 - P.978

要旨●患者は50歳代,男性.検診のEGD(esophagogastroduodenoscopy)にて胃体部に限局した粘膜不整を指摘され,精査目的に当科へ紹介され受診となった.胃X線造影検査にて胃体部前壁側に境界不明瞭な陥凹領域を認め,内部に顆粒状隆起を伴っていた.EGDでは胃体部前壁〜大彎にかけて褪色調の陥凹性病変があり,陥凹内に島状に残存する顆粒状隆起を認めた.初回の内視鏡検査では生検組織で診断には至らなかったが,再検査を行い病理医と協議することで上皮下にcollagen bandの肥厚が同定され,最終的にcollagenous gastritisと診断した.本症例はこれまでの報告の中で最高齢で診断に至った.軽微な炎症が慢性的に持続したために病変陥凹内の隆起に過形成様の変化を来したものと考えられ,既報と異なった特徴を持った症例であった.

「胃と腸」ノート

核偏位性大腸炎(colitis nucleomigrans)—第3の顕微鏡的大腸炎の提唱

著者: 橘充弘 ,   花岡智彦 ,   渡邉晋也 ,   松下雅広 ,   磯野忠大 ,   堤寛

ページ範囲:P.980 - P.982

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目次

ページ範囲:P.871 - P.871

欧文目次

ページ範囲:P.872 - P.872

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.870 - P.870

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.970 - P.970

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.982 - P.982

次号予告

ページ範囲:P.984 - P.984

編集後記

著者: 長南明道

ページ範囲:P.985 - P.985

 「胃癌取扱い規約 第14版」(2010年改訂)では組織型分類の特殊型に内分泌細胞癌,リンパ球浸潤癌,肝様腺癌が加わった.第15版(2017年改訂)ではさらに胃底腺型腺癌が追加された.本誌では45巻12号(2010年)で特殊型胃癌を特集したが,12年後の現在,病理組織学的,あるいは内視鏡診断学的に新たな知見が得られたのだろうか.臨床医が実際に特殊型胃癌に遭遇したとき,希少病変が多い故にその取り扱いに苦慮しているであろう現状を踏まえ,診断の指針となる号たらんことを期待し,小野裕之,海崎泰治とともに本号「特殊型胃癌—組織発生と内視鏡診断」を企画した.なお,胃底腺型腺癌は本誌でもしばしば特集されており,疾患についての認知度も向上している.そこで今回は胃底腺型腺癌に関しては臨床病理学的特徴を示すにとどめた.その他の特殊型胃癌については,頻度が低いこともあり,症例が豊富なhigh-volume centerを中心に執筆を依頼した.各執筆者にはご苦労をかけた.主題論文の一例一例が症例報告ものである.
 カルチノイド腫瘍,リンパ球浸潤癌,胃底腺型腺癌の予後は良好であることは広く知られている.しかし,その他の特殊型胃癌は進行が早く,ほとんどが進行癌として発見され,予後は不良あるいは極めて不良である.このことは吉永論文において提示された腺扁平上皮癌,扁平上皮癌,未分化癌,絨毛癌,癌肉腫,浸潤性微小乳頭癌のことごとくが進行癌であることからも理解されよう.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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