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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸57巻8号

2022年07月発行

雑誌目次

今月の主題 転移性消化管腫瘍 序説

転移性消化管腫瘍の特徴と特性

著者: 小林広幸

ページ範囲:P.991 - P.993

 近年の医療統計によれば,一生涯のうち日本人の2人に1人はがんに罹患し,男性4人に1人,女性6人に1人はがんで死亡すると推定されている1).実臨床でも,日本人の長寿・高齢化に伴い,複数の悪性腫瘍の既往歴のある高齢患者は増えてきており,今後は転移性消化管腫瘍に遭遇する機会も増えてくると予想される.このような背景から,本誌では38巻13号「消化管への転移性腫瘍」(2003年)以来,およそ20年ぶりとなるが,「転移性消化管腫瘍」を主題として取り上げた.
 転移性消化管腫瘍は,他臓器(消化管も含む)に発生した悪性腫瘍が原発巣とは異なる部位の消化管壁に転移し浸潤,発育したものであるが,その形態は原発巣からの転移様式により,ある程度特徴的なX線造影・内視鏡所見を呈することが多い.また,一部の原発巣(組織型)では,特徴的な転移病変を呈するものもあり,原発性の消化管腫瘍や炎症性病変との鑑別の一助となる.さらに,原発臓器により転移を生じやすい消化管やその好発部位があり,ある程度原発巣を推定することも可能である2)〜9)

主題

病理からみた転移性消化管腫瘍

著者: 伴慎一 ,   松嶋惇 ,   佐藤泰樹 ,   佐藤陽子 ,   藤井晶子

ページ範囲:P.995 - P.1005

要旨●転移性消化管癌の頻度は概して低く日常的に遭遇する機会が比較的低いこと,原発性癌と転移性癌の病理組織像がしばしば類似していること,転移巣が原発巣に先んじて認識される場合のあることなどから,転移性癌の生検病理組織診断は容易ではない.誤認や見逃しを避けるためには,消化管腫瘍性病変の生検病理組織診断に際して転移性癌の可能性を常に念頭に置くことが重要である.また,消化管に転移する頻度の高い癌の原発部位を認識し,それらの転移巣の病理組織学的特徴や診断に有用な免疫組織化学的陽性マーカー・陰性マーカーについて十分に理解しておく必要がある.何よりも,癌治療の既往歴などを含めた十分な臨床情報に基づく臨床病理相関の検討が必須である.

転移性胃腫瘍の画像診断・形態学的特徴—乳癌胃転移を中心に

著者: 荒尾真道 ,   髙田淳 ,   井深貴士 ,   酒々井夏子 ,   上堂文也

ページ範囲:P.1007 - P.1017

要旨●転移性胃腫瘍は他臓器の原発腫瘍が,胃に転移した病変の総称である.本稿では,転移性胃腫瘍について既報における剖検例,および自験例における内視鏡所見と病理組織学的所見を検討した.また,乳癌の転移性胃癌についてシステマチックレビューを行った.乳癌の胃転移は,肉眼型は4型進行癌様を54.1%で呈し,U・M・L領域のどの部位にもみられ(U領域38.0%,M領域31.3%,L領域46.4%),内視鏡的,病理組織学的にも原発性胃癌と類似する病変が多かった.転移性胃腫瘍は全体的にU・M領域を好発部位とし,粘膜下腫瘍様形態を呈することが多く,乳癌の胃転移は転移性胃癌の中でも他の癌腫と異なる特徴を持つことが示唆された.

転移性小腸腫瘍の画像診断・形態学的特徴

著者: 山田健太朗 ,   山村健史 ,   中村正直 ,   前田啓子 ,   澤田つな騎 ,   石川恵里 ,   飯田忠 ,   水谷泰之 ,   山雄健太郎 ,   石川卓哉 ,   古川和宏 ,   大野栄三郎 ,   川嶋啓揮

ページ範囲:P.1018 - P.1026

要旨●転移性小腸腫瘍は小腸腫瘍の中でもまれな疾患であるが,カプセル内視鏡検査やバルーン内視鏡検査といった小腸内視鏡検査が普及してきたことにより遭遇する機会が増加している.本稿では転移性小腸腫瘍を診断するのに有用な臨床的特徴を病態,検査,転移様式別(脈管性転移,直接浸潤,播種性転移)に,既報と自験例に基づいて概説した.転移性小腸腫瘍はさまざまな形態を呈するため,小腸腫瘍の鑑別疾患として念頭に置き,患者背景と検査所見から総合的に診断していく必要がある.

転移性大腸腫瘍の画像診断・形態学的特徴

著者: 田中秀典 ,   平賀裕子 ,   朝山直樹 ,   永田信二 ,   岡志郎 ,   田中信治

ページ範囲:P.1027 - P.1039

要旨●当院を含めた3施設で2010年1月〜2021年12月の間に転移性大腸腫瘍96例113病変の臨床的特徴と内視鏡所見を検討した.原発臓器は胃と卵巣が各21例と最多で,次いで膵臓12例,子宮8例の順に多かった.転移経路は腹膜播種転移が45例と最多で,直接浸潤が35例,血行性・リンパ行性転移が16例で,86例が単発転移であった.胃癌や膵癌では腹膜播種転移,卵巣癌,子宮癌,膀胱癌や前立腺癌では直接浸潤,肺癌では血行性・リンパ行性転移が多かった.直接浸潤や腹膜播種転移では管腔狭小化を来す例が多く,直接浸潤ではびらんや潰瘍を伴うなだらかな粘膜下腫瘍(SMT)様隆起,腹膜播種転移では敷石様粘膜,血行性・リンパ行性転移ではSMT様の立ち上がりを呈する潰瘍やびらん,上皮性腫瘍様の形態が特徴的であった.

モダリティ別にみた遠隔転移(転移性消化管腫瘍)の画像検査法—特にFDG-PETとソマトスタチン受容体シンチグラフィを中心に

著者: 桑鶴良季 ,   村上康二 ,   藤榮博史 ,   桑鶴良平

ページ範囲:P.1041 - P.1049

要旨●転移性消化管腫瘍は比較的まれな転移形態であり,実臨床で消化管転移に遭遇することは少ない.剖検例の報告では,部位としては小腸や結腸への転移が多く,原発巣としては隣接する臓器の他に肺癌,乳癌,悪性黒色腫が比較的多く知られる.その他,悪性リンパ腫やGIST(gastrointestinal stromal tumor),NET(neuroendocrine tumor)も消化管に原発または転移による腫瘤形成を認める.画像検査としてはCTが日常的によく用いられる他,PET/CTも全身の病変精査や病期診断に有用である.また,NETの精査にはソマトスタチン受容体シンチグラフィが特異的検査法として用いられる.これらの検査が適切に行われることで転移巣の早期発見や適切な治療選択が可能になると考えられる.

主題症例

転移巣が先行して発見された胃原発転移性大腸癌の1例

著者: 川崎啓祐 ,   永塚真 ,   鳥谷洋右 ,   山口智子 ,   梁井俊一 ,   赤坂理三郎 ,   上杉憲幸 ,   菅井有 ,   松本主之

ページ範囲:P.1051 - P.1058

要旨●患者は60歳代,女性.主訴は腹部膨満感,便秘,腹痛,嘔吐.注腸X線造影検査,大腸内視鏡検査で肝彎曲部・横行結腸の狭窄,横行結腸上縁・下行結腸内側を中心に顆粒状粘膜と片側性変形を認めた.上部消化管X線造影検査・内視鏡検査で胃壁の伸展不良を認め,小腸X線造影検査では中部〜下部小腸に片側性変形,狭窄を認めた.横行結腸と胃から採取した生検組織の粘膜固有層内に低分化腺癌および印環細胞癌のびまん性増殖がみられ,免疫組織化学染色ではCK(cytokeratin)7陽性,CK20陰性であった.以上より,胃を原発とした低分化腺癌および印環細胞癌が大腸・小腸に転移を来した症例と診断した.

前立腺肉腫の胃壁内転移の1例

著者: 高綱将史 ,   野澤良祐 ,   佐藤裕樹 ,   水野研一 ,   橋本哲 ,   阿部達也 ,   梅津哉 ,   横山純二 ,   竹内学 ,   味岡洋一 ,   寺井崇二

ページ範囲:P.1059 - P.1066

要旨●患者は60歳代,男性.前立腺腫大のスクリーニング目的でEGD(esophagogastroduodenoscopy)を施行し,胃角前壁大彎に0-IIa型病変を認めたため,ESD(endoscopic submucosal dissection)の方針となった.EGDから2か月後,ESD時の観察で胃体中部大彎後壁に,前回認めなかった白色調の隆起性病変を認めた.NBI(narrow band imaging)拡大像では,隆起表面は概ね無構造で,belagが付着していた.低分化型の粘膜内癌と診断し,ESDを施行した.同病変の病理組織学的診断は,免疫組織化学染色などから肉腫となったが,前立腺腫瘍の組織生検からも本病変と同じ肉腫の組織が認められた.本病変の発見以前に前立腺肉腫が存在したこと,病変が2か月で出現したことから,臨床的に前立腺肉腫の胃転移と診断した.本症例は胃転移性肉腫の内視鏡像を詳細に観察したものであり,今後の内視鏡診断をするうえで貴重な症例であった.

胃癌切除後7年目に発見され0-IIa型様形態を呈した単発性転移性大腸癌の1例

著者: 平井博和 ,   波佐谷兼慶 ,   田丸雄大 ,   上野和音 ,   松尾俊紀 ,   内藤慶英 ,   砂子阪肇 ,   青柳裕之 ,   海崎泰治

ページ範囲:P.1067 - P.1072

要旨●患者は90歳代,男性.7年前に胃前庭部癌に対し腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行された.便潜血陽性に対するTCS(total colonoscopy)で下行結腸に8mmの0-IIa型病変を認めた.NBI(narrow band imaging)併用拡大内視鏡検査では,vessel patternは口径不同が目立たず,配列が不整で,分布が不均一であった.surface patternは不明瞭であった.クリスタルバイオレット染色併用拡大内視鏡検査では,窩間部のやや開大したI型pit patternを呈し,所見の乖離を認めた.病理学的検索で胃癌切除標本と酷似した所見かつ免疫組織化学染色がCK7(+),CK20(−),cdx2(−)と大腸癌に非特異的な染色パターンであったことから胃癌の大腸転移と判断した.原発性大腸癌とは異なる内視鏡所見から転移性大腸癌の診断に迫ることができた症例であり,文献的考察を加えて報告する.

転移性腫瘍の形態を示した形質細胞腫胃浸潤の1例

著者: 山崎健路 ,   九嶋亮治 ,   小澤範高 ,   長谷川恒輔 ,   山田俊樹 ,   谷口裕紀 ,   清水省吾 ,   清水雅仁

ページ範囲:P.1073 - P.1079

要旨●患者は70歳代,男性.巨大な副鼻腔腫瘤の生検にて高悪性度の形質細胞腫・IgGκ型と診断された.PET-CTで副鼻腔腫瘤の他に胸骨柄に限局性の集積像が認められた.骨髄には病変を認めなかったため,多発性形質細胞腫と診断し,化学療法・放射線治療を開始した.化学療法施行から3か月後の治療効果判定のために施行したPET-CTにて,多発する胃内集積像を認めた.精査のため上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃内に径10mm前後の中心に陥凹・びらんを伴った上皮下腫瘍様・0-IIa+IIc型様の発赤調隆起病変が多発していた.生検による病理組織学的所見では,副鼻腔腫瘤の所見と同様の形質細胞腫・IgGκ型の診断.以上により,転移性腫瘍の形態を呈し,胃内に多発した,極めてまれな形質細胞腫の胃浸潤病変と診断した.

早期胃癌研究会症例

食道内視鏡所見が診断の一助となった潰瘍性病変を伴う好酸球性胃腸炎の1例

著者: 三宅望 ,   北畠秀介 ,   久永康宏 ,   桐山勢生 ,   岩田洋介

ページ範囲:P.1081 - P.1086

要旨●患者は30歳代,女性.検診の上部消化管X線造影検査で異常を指摘され,精査目的に当院へ受診となった.上部消化管X線造影検査で胃体上部から胃角部大彎に微細な凹凸を伴う6cm大の病変を認めた.EGDで胃体上部から胃角部大彎にかけて周囲よりわずかに陥凹した黄色調病変を認めた.内部には境界不明瞭な発赤微細顆粒状粘膜と辺縁整な潰瘍を認めた.当初4型胃癌を疑ったが食道に縦走溝を認めたため,好酸球性消化管疾患の可能性を考え,臨床診断に追記し病理診断を依頼したところ好酸球性胃腸炎の診断となった.プレドニゾロンを開始し改善がみられた.食道病変が診断の一助となった,潰瘍性病変を伴う好酸球性胃腸炎の1例を経験したため,文献的考察を交えて報告する.

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目次

ページ範囲:P.989 - P.989

欧文目次

ページ範囲:P.990 - P.990

早期胃癌研究会2020年・2021年最優秀症例賞は松山赤十字病院胃腸センターが受賞

ページ範囲:P.1087 - P.1087

 早期胃癌研究会では,毎月原則として4例の症例が提示され,臨床所見,病理所見ともに毎回詳細な症例検討が行われている.2003年より,年間に提示された症例の中から最も優れた症例に最優秀症例賞が贈られることになった.
 18回目の表彰となる早期胃癌研究会年最優秀症例賞は,松山赤十字病院胃腸センター 清森亮祐氏の発表した「IIa+IIc様の形態を呈した十二指腸神経内分泌細胞癌(NEC)の1例」に贈られた.2022年3月16日(水)にウェビナー形式で開催された早期胃癌研究会の席上で,その表彰式が行われた.

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.988 - P.988

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1066 - P.1066

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1086 - P.1086

次号予告

ページ範囲:P.1090 - P.1090

編集後記

著者: 長浜隆司

ページ範囲:P.1091 - P.1091

 本号の主題「転移性消化管腫瘍」を小林(福岡山王病院消化器内科),八尾(順天堂大学大学院人体病理病態学),長浜(新東京病院消化器内科)の3名で企画した.腫瘍の消化管への転移は,転移経路として血行性転移,リンパ行性転移,直接浸潤,播種性浸潤などがある.また,原発臓器や転移臓器により多彩な形態を呈することや,原発巣に先立ち転移病巣が発見されることもあり診断に苦慮することが多い.
 転移性消化管腫瘍は,剖検例では比較的多くの報告はあるものの臨床的にはまれで,散発的な症例報告はあるが,まとまった報告はほとんどない.さらに,病変の多彩さからその臨床病理学的特徴ならびに臨床診断は明確にはされてはおらず,鑑別診断を行いながら確定診断に迫っていくというような診断学の現状がある.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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