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雑誌目次

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胃と腸58巻11号

2023年11月発行

雑誌目次

今月の主題 小腸画像診断のトピックス 序説

小腸疾患に対する診断的アプローチ

著者: 岡志郎

ページ範囲:P.1447 - P.1450

はじめに
 小腸は十二指腸・空腸・回腸から成る6mにも及ぶ長大な臓器である.小腸内視鏡の登場まで小腸は“暗黒の臓器”と称され,上部消化管内視鏡や大腸内視鏡では観察困難な臓器であった.本邦において,2003年11月にダブルバルーン内視鏡,2007年4月にはシングルバルーン内視鏡が発売され,バルーン内視鏡(balloon assisted endoscopy ; BAE)による小腸の観察が可能となった.2007年10月には小腸カプセル内視鏡(capsule endoscopy ; CE)が発売され,低侵襲かつ簡便に小腸が観察可能となっている.近年では,既存のCEやBAEの改良に加え,新型カプセル内視鏡やパワースパイラル内視鏡(power spiral endoscopy ; PSE)といった,これまでとは一線を画した新たな内視鏡も登場している.
 なお,2015年12月に日本消化器内視鏡学会より「小腸内視鏡診療ガイドライン」1)が発表されたが,これは臨床現場の実情に即して当時のCEとBAEを中心に作成されたガイドラインであり,その他の検査法との棲み分けに関しては現在も十分なエビデンスがない状況である.
 本号では小腸検査における各画像診断法の有用性と限界について理解し,現時点における小腸疾患の診断的アプローチを整理したい.

主題

小腸疾患診断におけるカプセル内視鏡の有用性と限界

著者: 江﨑幹宏 ,   芥川剛至 ,   吉田雄一朗 ,   武富啓展 ,   島村拓弥 ,   行元崇浩 ,   鶴岡ななえ ,   坂田資尚 ,   藤岡審 ,   川崎啓祐 ,   梅野淳嗣 ,   鳥巣剛弘 ,   下田良

ページ範囲:P.1451 - P.1461

要旨●小腸内視鏡機器の進歩・普及に伴い,小腸疾患診断において内視鏡検査は必要不可欠な検査モダリティとなった.低侵襲かつ高い全小腸観察率を特徴とするカプセル内視鏡は,上部・下部内視鏡検査で出血源を認めない原因不明の消化管出血例に対して高い有用性を発揮するが,腸管蠕動により受動的に管腔内を移動する本検査法は小腸病変の精査には不向きであった.しかし,視野角拡大,画像解像度の向上,フレームレート調整機能追加などにより病変性状評価能も改善されてきた.また,本検査法の問題点の一つである画像読影についても,人工知能の応用による見落とし率低下や読影時間短縮の可能性が報告され,有用性・利便性の向上が期待される.

バルーン内視鏡:ダブルバルーン内視鏡を中心に—腫瘍性疾患と炎症性疾患に対する診断法の有用性と限界

著者: 中村正直 ,   山村健史 ,   前田啓子 ,   澤田つな騎 ,   石川恵里 ,   村手健太郎 ,   長谷川一成 ,   池上脩二 ,   山下彩子 ,   河村達哉 ,   大岩恵祐 ,   八田勇輔 ,   平松美緒 ,   廣瀬崇 ,   古川和宏 ,   川嶋啓揮

ページ範囲:P.1462 - P.1469

要旨●腫瘍性疾患と炎症性疾患は,小腸疾患で最も重要でかつ診断治療が難しい病態である.ダブルバルーン内視鏡は詳細な内視鏡観察,ガストログラフィン造影,内視鏡治療が可能であり,それらの病態への診療に大いに貢献できる.腫瘍性疾患に対する有用性は生検によって病理学的診断が得られることであるが,同時にその限界として特に粘膜下腫瘍の生検病理診断を得ることが難しいという問題がある.GISTと異所性膵は肉眼形態が類似するものの治療方針が異なるため治療前に確定診断を得ておきたいが,ともに生検病理診断は困難である場合がある.ダブルバルーン内視鏡は炎症性疾患の内視鏡像を容易に提示できるが,一方で生検病理診断において確定診断が難しい.その他の臨床情報と合わせて診断に到達する.

小腸X線造影検査の有用性と限界

著者: 川崎啓祐 ,   梅野淳嗣 ,   蔵原晃一 ,   平野敦士 ,   川床慎一郎 ,   谷口義章 ,   大城由美 ,   長末智寛 ,   松野雄一 ,   藤岡審 ,   森山智彦 ,   鳥巣剛弘

ページ範囲:P.1470 - P.1482

要旨●小腸疾患の主な検査法として,X線造影検査,内視鏡検査,体外式超音波検査,CTE(CT enterography/enteroclysis),MRE(MR enterography/enteroclysis)が挙げられる.内視鏡,超音波,CTE,MREの機器の進歩と普及,X線検査医の不足により小腸X線造影検査数は減少傾向にある.そこで小腸X線造影検査の有用性と限界について,X線造影像を提示しながら考察した.小腸X線造影検査はびまん性・多発性の病変,大型の病変,狭窄性病変,瘻孔を形成する疾患,管外発育する病変に特に有用である.その特性を理解したうえで,X線造影検査の適応となる疾患を選択することが重要と考える.

CT enterography

著者: 橋本真一 ,   松本怜子 ,   大木美穂 ,   児玉愛実 ,   山本美音 ,   瀬戸啓介 ,   畠中駿 ,   吉松祐希 ,   中村克彦 ,   山本一太 ,   青山将司 ,   伊藤駿介 ,   五嶋敦史 ,   浜辺功一 ,   西川潤 ,   高見太郎

ページ範囲:P.1483 - P.1489

要旨●小腸疾患診療におけるCTの位置付けは不明確であったが,CTと消化管X線造影検査との融合を目指して開発されたCT enterographyの登場により,小腸をCTで詳細に評価できるようになった.腫瘍性病変では粘膜下腫瘍の高い検出率,Crohn病では消化管合併症を含めた俯瞰的な評価が利点と考えられるが,サイズの小さな病変や粘膜面の微細な変化は評価できず,カプセル内視鏡と併用することにより診断能の向上が期待できる.一方で,CTはX線被曝を伴うため,低線量CTやAIを用いた画像補整による被曝低減の工夫に加えて,効果的な実施タイミングの検討が今後の課題である.

MR enterography

著者: 竹中健人 ,   藤井俊光 ,   大塚和朗 ,   岡本隆一

ページ範囲:P.1491 - P.1498

要旨●機器の進化により撮影時間が短くなり,等張液で適度に腸管を拡張させた後に,小腸を評価するMREが可能となった.Crohn病は再燃と寛解を繰り返す病気であり,臨床的に寛解であっても,持続的な炎症が腸管狭窄・瘻孔・膿瘍といった合併症を形成する.Crohn病小腸病変のモニタリングは患者予後の向上をもたらすと考えられ,被曝のないMREが非常に有用であると考えられている.MREの導入のためには放射線技師・放射線科医師の協力が必須であるが,MRIや前処置の禁忌がないCrohn病患者すべてがMREの適切な症例であり,普及が進むことが望まれる.本稿では主にCrohn病に対するMREについて解説する.

体外式超音波

著者: 眞部紀明 ,   藤田穰 ,   武家尾恵美子 ,   小西貴子 ,   中村純 ,   末廣満彦 ,   河本博文 ,   藤原英世 ,   秋山隆 ,   山辻知樹 ,   畠二郎 ,   春間賢

ページ範囲:P.1500 - P.1509

要旨●小腸の腫瘍性疾患と炎症性疾患における画像検査のうち,体外式超音波(US)に焦点を絞り,その臨床的意義と限界について解説した.スクリーニング目的で行う検査は,侵襲が少なく,繰り返し検査が可能なmodalityが望まれる.USはスクリーニング,合併症の検出,病態のより詳細な評価,治療効果判定などあらゆる点で有用な検査法と考えられる.現在,US像の描出と解釈の両方の技量が要求されることがハードルになっていると思われるが,USを各種小腸疾患の診断におけるfirst lineに位置付けることで,迅速で効率のよい医療につながることが考えられる.

ノート

—新しい小腸画像診断のトピックス—360°パノラマ撮影型カプセル内視鏡

著者: 壷井章克 ,   平田一成 ,   松原由佳 ,   隅岡昭彦 ,   岡志郎

ページ範囲:P.1511 - P.1517

要旨●小腸カプセル内視鏡(CE)はその侵襲性の低さと診断精度の高さから,原因不明の消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding ; OGIB)に対して広く施行されている診断機器である.2021年1月に,カプセル内部に4機のカメラを有し360°パノラマ撮影を可能にした新規CEであるCapsoCam Plus®が本邦で使用可能となり,CEの選択肢が拡がった.従来のCEと比較し,CE内部にフラッシュメモリを有するため,体外受信機を必要とせず,視野角が広いことが特徴である.CEの使い分けについては,今後さらなる症例の集積が必要である.

—新しい小腸画像診断のトピックス—パワースパイラル内視鏡

著者: 細江直樹 ,   東條杏奈 ,   櫻井陽奈子 ,   林由紀恵 ,   吉松裕介 ,   杉本真也 ,   木下聡 ,   清原裕貴 ,   三上洋平 ,   筋野智久 ,   髙林馨 ,   加藤元彦 ,   金井隆典

ページ範囲:P.1518 - P.1521

要旨●新たなコンセプトの小腸内視鏡としてスパイラル内視鏡(spiral enteroscopy)が2008年にAkermanらによって発表された.このスパイラル内視鏡を電動化した内視鏡がパワースパイラル内視鏡(motorized spiral enteroscopy ; MSE)である.パワースパイラル内視鏡は,ディスポーザブルの螺旋状フィンを有するオーバーチューブをスコープに装着し,オーバーチューブを電動で回転させ腸管を手繰り寄せるようにしながら挿入する.本邦では,まだ導入初期であるが,欧米からはいくつかの報告があり,高い挿入性能が報告されている.

—新しい小腸画像診断のトピックス—カプセル内視鏡AI

著者: 青木智則 ,   山田篤生

ページ範囲:P.1522 - P.1526

要旨●消化管を自動撮像するカプセル内視鏡は,画像読影者にとって時間的・精神的負担が大きい.画像認識において人間の能力を凌駕しうる畳み込みニューラルネットワーク(CNN)という人工知能(AI)の手法が登場するまでは,高精度の読影支援システム開発は困難であった.本稿では,小腸カプセル内視鏡読影における諸問題を解決するための,CNNを用いたさまざまな最新システムを紹介する.病変の自動検出のみならず,カプセル内視鏡特有の課題解決へも目が向けられている.急速な研究開発段階を経て,臨床導入に向けた実際の臨床場面での検証へとフェーズが移行しつつある.また,今後の展望も多岐にわたる.

—新しい小腸画像診断のトピックス—画像強調観察:カプセル内視鏡(FICE)—小腸血管性病変の視認性向上に対するFICE-CEの有用性

著者: 青山大輝 ,   福本晃 ,   松本健太 ,   鴫田賢次郎 ,   朝山直樹 ,   永田信二

ページ範囲:P.1527 - P.1530

要旨●小腸血管性病変は小腸出血の原因となり,その診断にカプセル内視鏡検査は有用である.しかし,小腸内には胆汁が存在することで時に視認性を低下させることがある.FICEを用いたカプセル内視鏡観察は小腸病変の診断率を上げるための画像強調技術である.FICE 1は観察の妨げとなる色素胆汁を透過したように見せることで通常観察(白色光)と同様の色調で血管性病変を強調する.FICE 2は色素胆汁をあえてシアンに着色し,血管性病変との色差を大きくすることで,その判別を容易にする.小腸血管性病変が想定される症例では,FICE 1あるいはFICE 2を用いたほうが通常観察(白色光)よりも高い診断率を得られる可能性がある.

—新しい小腸画像診断のトピックス—像強調観察:シングルバルーン内視鏡(NBI,TXI,RDI)

著者: 大塚和朗 ,   竹中健人 ,   日比谷秀爾 ,   河本亜美 ,   齊藤詠子 ,   田村皓子 ,   張肇丰 ,   岡本隆一

ページ範囲:P.1531 - P.1536

要旨●シングルバルーン内視鏡(SBE)では,NBIに加えて,RDI(red dichromatic imaging),TXI(texture and color enhancement imaging)が使用できる.NBIやTXIでは絨毛の視認性が高い.出血性病変の観察にNBIを用いるとangioectasiaは暗緑色に描出され,アーチファクトとの鑑別に有用である.炎症性腸疾患ではTXIやNBIでびらんの認識が容易となる.また,NBIは潰瘍性病変での上皮欠損の有無や内視鏡的バルーン拡張術の際の拡張部の状態がわかりやすい.SBEでの新しい観察法を活用していきたい.

主題症例

CT enterographyが診断に有用であった原発性小腸癌の1例

著者: 宮原孝治 ,   操田智之 ,   綾悠佑 ,   水島秀崇 ,   大林由佳 ,   安部真 ,   二宮悠樹 ,   森藤由記 ,   姫井人美 ,   河原聡一郎 ,   平尾謙 ,   國弘真己 ,   中野敢友 ,   市村浩一 ,   中川昌浩

ページ範囲:P.1537 - P.1542

要旨●患者は70歳代,女性.14か月前より左下腹部痛が出現し,造影CTにて小腸の限局的な拡張を指摘された.同CTでは腫瘤や閉塞起点は不明であったが,ポリエチレングリコール服用のうえCT enterographyを行ったところ,左側小腸に造影効果のある壁肥厚と,それに連続して腸管内腔を占居する腫瘤を認めた.CT enterographyでは小腸壁が伸展して撮像され,病変部の壁肥厚や造影効果が強調されるため,病変が同定しやすくなったものと考えた.その後,経口バルーン内視鏡検査を施行し,原発性空腸癌と診断した.CT enterographyは,簡便に施行できる小腸検査であり,本症例はその有効性を示したと考え報告する.

MR enterographyが診断に有用であった小腸型Crohn病の1例

著者: 金澤潤 ,   横山薫 ,   堀井敏喜 ,   別當朋広 ,   池原久朝 ,   小林清典 ,   草野央 ,   小金井一隆

ページ範囲:P.1543 - P.1549

要旨●患者は10歳代,女性.腹痛を主訴に精査しCrohn病(CD)と診断され,回盲部狭窄および終末回腸周囲の膿瘍形成が疑われた.下部消化管内視鏡検査では終末回腸に瘻孔を疑う所見を認めたが,CTでは瘻孔は指摘されなかったため,アダリムマブを導入し退院した.3か月後,腹痛再燃しCTで瘻孔を疑われたが,MRE(MR enterography)では瘻孔所見は認めなかった.後日回盲部切除が実施されたが,切除検体に明らかな瘻孔形成は指摘されなかった.CDに対する画像検査は小腸造影やCT,内視鏡検査などがあるが,MREは被曝がないモダリティとしてCDの小腸病変や腸管合併症の診断や経過観察に有用であると考える.

PET-CTが診断に有用であった小腸腫瘍の1例

著者: 隅岡昭彦 ,   壷井章克 ,   松原由佳 ,   平田一成 ,   有廣光司 ,   岡志郎

ページ範囲:P.1550 - P.1555

要旨●患者は60歳代,女性.検診で便潜血陽性,貧血を指摘されたため,近医でEGD,大腸内視鏡検査を施行されたが異常所見を認めなかった.小腸精査目的に当科へ紹介され受診となった.造影CTでは,回腸末端に壁肥厚が疑われたが,高度肥満症による画質不良のため断定できなかった.PET-CTでは,回腸末端にSUVmax19.5と異常集積を認め,腫瘍性病変が疑われた.経肛門的ダブルバルーン内視鏡検査では,回腸末端に3/4周性の周堤を伴う不整な潰瘍性病変を認めた.生検にて中分化管状腺癌を認め,原発性小腸癌と診断し外科的切除を施行した.

早期胃癌研究会症例

ひだ集中を伴う偽陥凹型LST-NGの形態をとった大腸管状腺腫の1例

著者: 行元崇浩 ,   芥川剛至 ,   木戸伸一 ,   江﨑幹宏

ページ範囲:P.1556 - P.1562

要旨●患者は70歳代,男性.大腸内視鏡検査で上行結腸に空気少量でひだ集中が明瞭となる淡い発赤調の平坦病変を認めた.拡大観察はJNET分類Type 2B,pit patternはIIIS型主体だが一部にVI型軽度不整を認めた.注腸X線造影検査でも病変周囲から明瞭なひだ集中像が観察され,SM浸潤癌の可能性が推測された.診断的治療目的にESDで切除し,病理組織学的には高異型度腺腫であった.偽陥凹型LST-NGは種々のモダリティを用いても正確な深達度診断が得られない場合があり,明らかな粘膜下層深部浸潤の所見を認めない場合は診断的治療を目的としたESDを先行してもよいと考えられた.

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目次

ページ範囲:P.1445 - P.1445

欧文目次

ページ範囲:P.1446 - P.1446

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.1444 - P.1444

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1461 - P.1461

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1521 - P.1521

次号予告

ページ範囲:P.1564 - P.1564

編集後記

著者: 蔵原晃一

ページ範囲:P.1565 - P.1565

 2000年代以降のバルーン内視鏡,カプセル内視鏡の導入と普及により小腸への内視鏡的アプローチが一般化した.また,近年,新たなモダリティとして360°パノラマ撮影型小腸カプセル内視鏡やパワースパイラル内視鏡が市販され新たな展開が期待されており,人工知能(artificial intelligence ; AI)によるカプセル内視鏡の読影サポート技術の開発も進行中である.一方,内視鏡以外の検査法として従来のX線造影検査,体外式超音波検査に加え,CT enterography,MR enterographyなどの有用性も報告されている.
 本号は「小腸画像診断のトピックス」をテーマとし,各画像診断法の小腸検査における有用性と限界について議論するとともに,臨床導入が期待されている新しい画像診断法についての最新情報を収載した.

奥付

ページ範囲:P.1566 - P.1566

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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