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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸58巻3号

2023年03月発行

雑誌目次

今月の主題 食道ESD瘢痕近傍病変の診断と治療 序説

食道ESD瘢痕近傍病変の診断と治療

著者: 小山恒男

ページ範囲:P.251 - P.251

 20世紀における食道癌の標準的治療法は開胸開腹食道亜全摘胃管再建術であり,外科医の努力にもかかわらず,大きな侵襲が避けられない治療法であった.一方,食道表在癌ではリンパ節転移の危険度が低いことから,1980年代後半に内視鏡的な粘膜切除術が開発された.そして,1993年2月に「胃と腸」28巻2号にて「内視鏡的食道粘膜切除術」が特集され,門馬ら1)が2チャンネル法を,幕内ら2)がEEMR-tube法を,井上ら3)がEMRT法とEMRC法に関して報告した.こうして,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR)は食道表在癌の治療法を一新し,第一選択手技としての地位を確立した.しかし,食道EMRでは正確な切除が困難で,大きさに制限があった.また,2cmを超えると分割切除を要し,病理診断のqualityが低下した.さらには,分割切除では局所再発率が高いという弱点があった.
 そこで,2000年に筆者4)は食道に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)を考案,発表した.食道ESDでは正確かつ大きな切除が可能で,質の高い病理診断も可能となった.当初は技術的なハードルがあったが,これを乗り越えてESDは広く普及し,2008年には保険収載された.そして,2009年3月には「胃と腸」44巻3号において「食道扁平上皮癌に対するESDの適応と実際」が特集され,ESDは食道表在癌治療の第一選択手技としての地位を確立した.

主題

食道扁平上皮癌に対する内視鏡的切除後に発生する異時性多発癌の危険因子—Japan Esophageal Cohort(JEC)studyから明らかにされたこと

著者: 堅田親利 ,   横山徹爾 ,   矢野友規 ,   鈴木晴久 ,   古江康明 ,   石川秀樹 ,   横山顕 ,   横山顕礼 ,   玉置将司 ,   三谷洋介 ,   近藤雄紀 ,   清水孝洋 ,   二階堂光洋 ,   岸本曜 ,   加納孝一 ,   林隆一 ,   大橋真也 ,   武藤学

ページ範囲:P.253 - P.258

要旨●食道扁平上皮癌は同時性または異時性に多発する.JEC試験は,食道扁平上皮癌の内視鏡的切除後に,6か月ごとの上部消化管内視鏡検査と12か月ごとの耳鼻咽喉科診察を継続しながら経過観察する前向きコホート研究である.330例が登録され,5年累積異時性食道癌発生率は約26%,累積異時性頭頸部癌発生率は約7%であった.内視鏡的切除後に異時性食道癌または異時性頭頸部癌が発生するリスクと相関のあるものとして,アルコール代謝関連酵素の遺伝子多型,食道癌リスク検診問診票の点数,アルコール使用障害特定テストの点数,平均赤血球容積,食道粘膜のヨード不染帯の程度がある.禁酒と禁煙は異時性食道癌発生のリスクを減少させる.

食道ESD瘢痕部癌の病理組織学的特徴

著者: 石田和之 ,   阿部圭一朗 ,   郷田憲一

ページ範囲:P.259 - P.266

要旨●食道ESDによって生じた線維化領域を粘膜筋板の有無にかかわらず“ESD瘢痕”と定義し,同部に扁平上皮癌が存在した4例を“ESD瘢痕部癌”として検討した.4例はいずれも領域性が明らかな癌で,粘膜固有層に浸潤し,脈管侵襲は認めなかった.表層分化傾向を有し主に基底側で細胞異型が強い表層分化型癌が2例で,他の2例にも同様の成分が認められた.錯角化は4例にみられ,うち2例はヨード不染領域よりも病変の範囲が広かった.p53の過剰発現は2例に認め,腫瘍の同定に有用であった.ESD瘢痕部癌の病理組織学的特徴を明らかにするためには,ESD瘢痕およびESD瘢痕部癌の定義を明確にしつつ,症例を集積する必要がある.

食道ESDによる瘢痕近傍の表在性扁平上皮癌の病理組織像

著者: 藤井誠志 ,   門田智裕 ,   稲場淳 ,   渡邊崇 ,   山下大生 ,   矢野友規

ページ範囲:P.267 - P.273

要旨●食道癌に対して内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が施行された後の近傍に食道癌が発見されることがある.ESD治療の影響による組織修飾が加わっているため,粘膜固有層から粘膜下層にかけて線維化を呈する.病理組織学的には粘膜筋板が不明瞭になるために深達度の評価に注意する必要があるが,実際のところこのような症例についてはスクリーニングが十分に行われているため,早期の表在性扁平上皮癌で見つかることが多く,粘膜筋板の走行に注意を要する場合は少ない.食道癌に対するESD後に発見された瘢痕近傍病変について,内視鏡検査での範囲診断が困難であった症例の病理組織像を提示する.

食道ESD瘢痕近傍病変の内視鏡診断

著者: 竹内学 ,   高綱将史 ,   加藤卓 ,   土井智裕 ,   夏井大輝 ,   神保遼 ,   熊谷優 ,   盛田景介 ,   小林雄司 ,   吉川成一 ,   薄田浩幸 ,   味岡洋一

ページ範囲:P.275 - P.285

要旨●食道ESD瘢痕近傍に存在した癌16病変と癌との鑑別を要した4病変の内視鏡的特徴を検討した.癌はすべてR0切除後に瘢痕部に出現し,背景粘膜がGrade B/Cのmultiple LVLsであることから異時性多発癌と考えられた.また,16病変中13病変(81.3%)は発赤調で,比較的明瞭なbrownish areaかつJES-SCC分類のType B1血管を呈し,不整形のヨード不染帯とPC signを認めたことから容易に診断可能であった.しかし3病変(18.8%)では,Type A血管かつヨード淡染・不染帯の辺縁性状が整で,PC sign陰性であり,内視鏡的に積極的に癌を示唆する所見に乏しかった.このような場合は生検によるKi-67やp53免疫組織化学染色を併せた病理組織学的検討も重要と考える.癌との鑑別を要した4病変(食道炎:2病変,atypical epithelium,indefinite for neoplasia:2病変)では,背景粘膜は癌と同様にGrade B/Cのmultiple LVLs,発赤調でbrownish areaを呈するものの,拡大観察では密度が高く,比較的配列が整っており,拡張を伴うType A血管であった.ヨード染色では淡染〜不染帯を呈するもその辺縁性状は比較的丸みを帯びた整であることが特徴であった.

食道ESD瘢痕近傍病変の臨床病理学的検討

著者: 高橋亜紀子 ,   小山恒男 ,   塩澤哲 ,   下田忠和 ,   太田浩良 ,   荒川愛子 ,   山田崇裕 ,   加古里子

ページ範囲:P.286 - P.299

要旨●2010年3月〜2020年4月の期間に当科にてR0切除の食道ESDを施行し,経過観察中ESD瘢痕内に白色光観察(WLI)で発赤,またはNBI観察でBA,あるいはヨード不染を呈した11例を対象とし,内視鏡的・病理組織学的特徴をretrospectiveに検討した.対象の内訳は,初回ESDでは非全周切除後6例,全周切除後5例,診断方法ではESD 5例,生検6例であった.非全周切除後6例中,5例(83%)がSCC,1例(17%)が非腫瘍であった.内視鏡所見では,全例でWLIにて発赤,NBI観察にてBAを呈した.JES Type B1を呈した1例はSCCであり,JES Type Aであった5例中,4例(80%)はSCC,他1例(20%)は非腫瘍であったがヨードでは不整形であった.一方,全周切除後5例中,1例(20%)がSCC,4例(80%)が非腫瘍であった.内視鏡所見では,5例中,1例(20%)のみがWLIで発赤,NBI観察でBAを呈しており,JES Type Aを認めたが非腫瘍であった.他4例(80%)はヨードで初めて発見され,1例(25%)のみSCCで,他3例(75%)は非腫瘍であり,2例(67%)はヨードで不整形,1例(33%)は整形であった.したがって,非全周切除例でNBI-MEにてJES Type Bを認めた場合は生検を省略し直接ESDを行う方針は許容される.JES Type Aを認めた場合はSCCの可能性が80%と高いが非腫瘍も混在するため,SCCの確信度が高ければ生検を省略しESDも許容されるが,SCCの確信度が低ければ生検を行う.全周切除例では大部分がヨードで初めて発見され,ほとんどが非腫瘍であったため,ヨードで整形の場合は経過観察も許容されるが,不整形の場合は生検を行い,p53,Ki-67染色も含め評価することが望まれる.

食道ESD瘢痕近傍病変に対するESD

著者: 田中一平 ,   平澤大 ,   五十嵐公洋 ,   濱本英剛 ,   名和田義高 ,   伊藤聡司 ,   松田知己

ページ範囲:P.301 - P.306

要旨●ESD後瘢痕近傍の病変は粘膜下層で線維化を伴うことが多く,治療の際には高度の内視鏡的技術が必要とされる.当院では瘢痕近傍病変に対し,2つのストラテジーを用いることで,安全なESDを可能としている.瘢痕上を切開する方法(near cutting strategy)と瘢痕領域を完全に含めて切開する方法(far cutting strategy)である.瘢痕近傍病変のESDでは,切開ラインを慎重に決定することは当然重要だが,加えて適切なストラテジーの選択と剝離操作時のtraction法の併用が,治療成功の鍵であると考える.

食道ESD瘢痕近傍病変に対するESD

著者: 豊永高史 ,   吉崎哲也 ,   石田司 ,   鷹尾俊達 ,   阿部洋文 ,   池澤伸明 ,   阪口博哉 ,   河原史明 ,   田中心和 ,   伴宏充 ,   寺島禎彦 ,   光藤大地 ,   阪口正博 ,   前田環 ,   横崎宏 ,   児玉裕三

ページ範囲:P.308 - P.317

要旨●多発傾向のある食道扁平上皮癌では,ESDで治癒切除が得られた後に発見される異時多発病変を別途切除しなければならない機会は多い.ESD瘢痕に接する病変が発生することもまれではなく,壁の薄い食道において,これらの病変に対するESDは難易度・偶発症発生のリスクが高い.技術的にはESDの施行は可能であり,戦略の要点は瘢痕領域を可及的に切開・剝離した後に瘢痕部に挑むことである.手技の要点は,粘膜に線を入れる程度の浅い切開を入れた後に,剝離済みスペースとの段差を指標に深切りを行うこと,トラクションデバイスなどを利用して瘢痕部の粘膜下層を展開し,剝離済みスペースと内輪筋束の走行を指標に剝離を行うことである.これにはduration 1 or 2など,短い切開時間に設定したendoCUTなどを用い,ナイフ先端からの放電を利用したタッピングテクニックが有効である.狭窄部に存在する病変もまず縦方向切開を加えた後に口側から粘膜下層に進入し,粘膜フラップを縦方向に拡げながら観音開きにすることで対応可能である.当院ではこれまで重篤な偶発症を生じることなく対処できているものの,次々発生してくるT1a-EP/LPM程度の病変をすべてESDで切除することは費用対効果の観点から限界がある.切除によらない異時多発癌の制御,ひいては発生予防法の確立が強く望まれる.

食道ESD瘢痕近傍病変に対するAPC治療

著者: 川田研郎 ,   大友真由子 ,   春木茂男 ,   坂野正佳 ,   山口和哉 ,   藤原尚志 ,   谷岡利朗 ,   佐藤雄哉 ,   徳永正則 ,   伊藤崇 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.318 - P.323

要旨●早期食道癌の内視鏡治療は近年,EMRからESDが主流になり,周在性が広く大きな病変の一括切除が可能となったが,瘢痕近傍遺残,局所再発・多発癌の治療は,瘢痕のために切除が難しい場合がある.当院では表層をまず焼灼して粘膜上皮剝離を行い,さらに剝離面を焼灼する粘膜上皮下焼灼法によるAPCを2002年より開始し,過去20年間に248例のさまざまな状況の早期食道癌に適応してきた.このうち,狭窄対策のためのESD遺残やESD後瘢痕近傍病変にAPCを施行した症例は42例あり,最終的に局所制御不良となったのは1例(2.4%)のみであった.病理組織学的評価が十分に得られないものの,手技は簡便で重篤な合併症はなく,外来治療も可能である.APC治療のコツとポイントについて解説する.

トピックス

経鼻細径内視鏡を用いた食道ESD瘢痕近傍病変へのアプローチ

著者: 菊池大輔 ,   田中匡実 ,   鈴木悠悟 ,   河合優佑 ,   落合頼業 ,   早坂淳之介 ,   岡村喬之 ,   渕之上和弘 ,   光永豊 ,   野村浩介 ,   小田切啓之 ,   山下聡 ,   松井啓 ,   布袋屋修

ページ範囲:P.324 - P.327

はじめに
 食道表在癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)は安全で有効な治療法として広く行われるようになっている.扁平上皮癌は異時性発癌率が高く,日常診療でもESD後の経過観察中に多くの異時性癌の治療を行っている.特にヨード染色で多発不染域(まだら食道)を呈する症例では厳重な経過観察が必要となる1)
 近年,ESD瘢痕近傍の病変を治療する機会が増えているが,ESD瘢痕は線維化が高度なため治療難易度が高い.筆者らは細径内視鏡でESDを行うための専用デバイスを企業と共同開発し臨床に導入した.細径内視鏡を用いた食道ESDのコツとポイントについて解説する.

主題症例

ヨード染色での範囲診断が困難であったESD瘢痕部に再発した食道扁平上皮癌の1例

著者: 吉井俊輔 ,   石原立 ,   大久保佑樹 ,   川上裕史 ,   谷泰弘 ,   七條智聖 ,   金坂卓 ,   竹内洋司 ,   東野晃治 ,   上堂文也 ,   道田知樹 ,   本間圭一郎

ページ範囲:P.328 - P.332

要旨●患者は70歳代,男性.食道扁平上皮癌に対する治療目的に当院へ紹介され受診となった.ESDにて切除し,亜全周性の粘膜欠損となったため狭窄予防にトリアムシノロン局注を行った.初回ESDから5年後に瘢痕部に異時性再発を認めた.ヨード撒布したところ,背景食道のヨード染色性低下により範囲診断が困難であった.NBIによる範囲診断にてマーキングを行い,ESDにて切除した.切除標本では背景の食道扁平上皮層が菲薄化しており,それがヨード染色性低下の一因と考えられた.食道扁平上皮癌の範囲診断においてヨード撒布は信頼性の高い方法であるが,ヨード撒布が有効でない症例にはIEE併用拡大観察を用いて範囲診断する必要がある.

ヨード染色による範囲診断が困難であったESD瘢痕上に発生した異時性食道扁平上皮癌の1例

著者: 平井悠一郎 ,   阿部清一郎 ,   牧口茉衣 ,   野中哲 ,   鈴木晴久 ,   吉永繁高 ,   関根茂樹 ,   斎藤豊

ページ範囲:P.333 - P.338

要旨●食道扁平上皮癌は,異時性多発癌の頻度が高いため,内視鏡治療後の瘢痕上や近傍に異時性病変が再発する症例を経験する.食道扁平上皮癌の側方範囲診断においては,ヨード染色が標準的な診断方法であるが,ヨード不染を示す病態は癌に限らず,異形成,炎症性変化,過角化,錯角化などが挙げられる.また,化学放射線療法後の変化や内視鏡治療後瘢痕の領域で,ヨード淡染〜不染を呈する症例も経験することがある.筆者らは,ESD瘢痕上に発生した異時性食道扁平上皮癌で,ヨード染色により広範にヨード淡染〜不染を呈し,範囲診断が困難であった1例を経験した.本症例ではNBI併用拡大観察が病変の血管構造変化や明瞭なbackground colorationを捉えることができ,範囲診断やマーキングに有用であった.ヨード染色による範囲診断が困難な症例に対するNBIの有用性は,今後さらなる検討が必要である.

食道扁平上皮癌ESD瘢痕の近傍再発でESD困難のためPDTを施行した1例

著者: 山本佳宣 ,   柴田精彦 ,   平林卓 ,   田中俊多 ,   西川倫子 ,   武川直樹 ,   櫛田早絵子 ,   三村卓也 ,   津村英隆 ,   三木生也 ,   津田政広

ページ範囲:P.339 - P.344

要旨●患者は60歳代(後半),男性.5年前に胸部下部〜腹部食道の粘膜下層浸潤を疑う食道扁平上皮癌に対して陽子線単独照射療法が行われた.その後,胸部下部食道後壁に0-IIc型病変の再発を認め,内視鏡的切除適応と考え内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した.その8か月後,胸部下部〜腹部食道にESD瘢痕にかかる0-IIc型病変を認めた.ESD困難のため光線力学的療法(PDT)を施行し,寛解が得られた.しかし2年4か月後,PDT瘢痕口側のESD瘢痕内に0-IIb型病変の再発を認め,再PDTを施行した.寛解が得られ,1年半無再発である.

今月の症例

食道胃接合部の炎症性線維性ポリープの1例

著者: 大久保佑樹 ,   上堂文也 ,   前川聡 ,   北村昌紀

ページ範囲:P.246 - P.249

患者
 30歳代,男性.
既往歴
 特記事項なし.
内服薬
 特記事項なし.
生活歴
 喫煙は15本/day(23年間),飲酒はビール500ml/day.
現病歴
 検診の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy ; EGD)で,噴門部に隆起性病変を認め,精査・加療目的のため当院へ紹介され受診となった.前医の生検ではGroup 1であった.身体所見および血液検査に異常所見は認めなかった.

早期胃癌研究会症例

有茎性の回腸末端原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の1例

著者: 宇賀治良平 ,   長浜隆司 ,   外山雄三 ,   西澤秀光 ,   浅原新吾 ,   宍倉有里 ,   二村聡

ページ範囲:P.345 - P.351

要旨●患者は40歳代,男性.便潜血検査陽性にて当科を受診した.下部消化管内視鏡検査では上行結腸に潰瘍を伴う30mm大の多結節性の隆起性病変を認めた.NBI併用拡大観察やクリスタルバイオレット染色では明らかな腫瘍性変化を認めなかった.大腸X線造影検査では有茎性の大小不同の多結節性病変を認め,バリウム注入時には蟹爪様所見を呈し,送気にて回腸内への重積を来した.生検では肉芽組織のみ認められた.以上の結果より過誤腫性ポリープを考慮し,重積を起こしている経過から回盲部切除術を施行した.病理組織学的および免疫組織化学的に当該病変はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された.有茎性のまれな形態を呈した病変であり,報告する.

追悼

中野 浩先生,長い間お疲れ様でした

著者: 芳野純治

ページ範囲:P.352 - P.353

 中野浩先生は昭和42年に名古屋大学を卒業されました.私は昭和50年の名古屋大学卒業ですので,先生の8年後輩になります.先生は大学卒業後に中澤三郎先生が主宰される名古屋大学第二内科第六研究室に入られました.昭和43年に癌研究会附属病院に1年間,国内留学をされ,熊倉賢二先生に胃X線検査の教えを直接受けたと伺っています.そして,昭和50年に医学部が設置されて間もない名古屋保健衛生大学(現在の藤田医科大学)に移られました.私は昭和54年に先生の後を辿るように,同じ名古屋大学第二内科第六研究室に入りました.そのときには先生は既に大学を移られた後で,直接,教えていただく機会は残念ながらありませんでしたが,先生のお話をたくさん聞くことができました.
 当時の名古屋大学では胃X線検査は暗室にて近接撮影装置を用い,重いX線防護衣を着て行っていました.先生は背が高く,また肩幅が広く,見上げるような巨漢と言って良いような立派な体格をされており,それにX線防護衣を前後に2枚着用して胃X線検査に情熱を注がれておられた姿は語り草になっています.暗室での胃X線検査は昭和56年頃になくなりました.私が名古屋大学に在籍していた当時,研究室では毎週月曜日の夕方に消化管のX線写真の読影会を行っていました.時々,先生は豊明市の名古屋保健衛生大学からわざわざ来られ,ご指導をいただくこともありました.

中野 浩先生を偲んで

著者: 平田一郎

ページ範囲:P.354 - P.354

 2022年9月8日の夜に,中野浩先生が前日の9月7日にご逝去されたとの知らせを受け大変驚きました.小生は,コロナ禍の影響で外出を控え名古屋にも足を運んでおらず,中野先生に長らくお会いしていませんでした.てっきりお元気でお過ごしのことと思っていましたので,突然の訃報に愕然といたしました.
 小生が中野先生を初めて拝見したのは,東京で開催されている早期胃癌研究会でした.背が高く,良く通る太い声で「保健衛生大学の中野です」と言って症例について発言され,随分と貫禄のある先生との印象を受けました.その後,小生は1990年に白壁彦夫先生からのお声がけで,スウェーデン・カロリンスカ病院の放射線科消化器診断部で1年間,消化器内視鏡検査と消化管X線造影検査を担当することになりました.1988年にやはり白壁先生からのお声がけと思いますが同病院に出向されていたのは中野先生で,中野先生の後に続く出向者が小生でした.スウェーデンの医師は,「Dr. Nakanoはstrong manだ」と小生に言っていました.何がstrongなのかつまびらかではありませんでしたが,おそらく中野先生の仕事ぶりを褒めていたのだと思います.

追悼 “恩師・馬場 保昌先生を偲ぶ”

著者: 中原慶太

ページ範囲:P.355 - P.356

 本邦の胃X線診断の発展に貢献されてきた馬場保昌先生が2022年10月6日に逝去されました.ここ数年,先生は体調を崩され静養されていましたが,コロナ禍もあってゆっくりお話しすることもできないままでした.こんなにも早くお別れの日を迎えるとは,先生を尊敬する弟子たち一同は深い悲しみでいっぱいです.馬場先生,謹んでご逝去を悼み,生前の多大なるご指導に対してお礼申し上げます.

恩師・馬場 保昌先生を偲ぶ

著者: 吉田諭史 ,   富樫聖子 ,   梶本昌志 ,   佐藤清二 ,   安藤健一 ,   杉野吉則

ページ範囲:P.357 - P.358

 お別れにはふさわしくないかもしれませんが,私どもは次のことを思い起こさずにはいられません.
 ひとつ 馬場先生の前では,腕時計を見るな.
 ひとつ 馬場先生の前では,椅子に座るな.
 ひとつ 馬場先生の前では,忙しいと言うな.

追悼 滝澤 登一郎先生

著者: 小池盛雄

ページ範囲:P.359 - P.360

 元「胃と腸」編集委員の滝澤登一郎先生が2022年9月9日に逝去された.享年73歳である.あまりにも若すぎる死であった.
 滝澤先生は1974年に東京医科歯科大学医学部を卒業,同大学院で病理学を専攻し,故 畠山茂教授のもとで行った睾丸の病理学的研究により学位を授与されている.このときの研究で,シリコン・ラバーを動脈から注入した透徹標本を作製しており,その技術は後の胃の研究に活かされることになる.その後,病理学教室助手を経て,1981年に故 望月孝則先生が率いる都立駒込病院で病理科医員として就職された.望月先生とは胃癌の班会議で面識を得て誘いを受けたとのことであった.翌1982年に望月先生の転出に伴って私が駒込病院に赴任することとなり,それ以降,滝澤先生とは病理科で机を並べてともに働く間柄となった.2000年に私が東京医科歯科大学に転出した際には,滝澤先生も附属病院病理部の副部長となり,その後,2004年に東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科分子病態検査学の教授に就任された.

追悼 滝澤 登一郎先生

著者: 吉田操

ページ範囲:P.361 - P.361

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目次

ページ範囲:P.243 - P.243

欧文目次

ページ範囲:P.244 - P.244

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.242 - P.242

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.285 - P.285

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.317 - P.317

次号予告

ページ範囲:P.362 - P.363

編集後記

著者: 新井冨生

ページ範囲:P.365 - P.365

 内視鏡ESDが食道表在癌の第一選択の治療法となってから十数年が経過した.現在では,ESD後の経過観察中,瘢痕上に出現する病変をどう診断し,治療するかといった新たな難問が出現してきた.そこで本号では,食道ESD後の瘢痕部およびその近傍の病変に焦点を当て,実態の解明,診断・治療に関する問題点を抽出し,このような病変にどう対応するかについてまとめることを目標とした.
 かつて食道癌の治療法として開胸外科的切除術が主流であったが,医学の発達とともに化学放射線療法,内視鏡的切除術などの選択肢が増えてきた.特に表在癌に対しては低侵襲性の内視鏡的切除法が開発され,2008年に食道ESDが保険収載された.その後,内視鏡ESDを実施した患者の瘢痕部およびその近傍に新たな病変が認識されるようになってきた.この経緯について,序説の小山論文が簡潔にまとめている.また,序説では今後の課題についても言及され,本号の注目点を解説している.

奥付

ページ範囲:P.366 - P.366

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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