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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸58巻5号

2023年05月発行

雑誌目次

今月の主題 壁内局在からみた胃上皮下腫瘍の鑑別診断 序説

壁内局在からみた胃上皮下腫瘍の鑑別診断

著者: 入口陽介

ページ範囲:P.599 - P.600

 従来,非病巣上皮に覆われた腫瘍は,粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)と呼称されてきたが,実際には病巣が粘膜層や粘膜筋板にも存在する場合があり,粘膜下というよりは上皮下と表現するのが適切であることから,上皮下腫瘍(subepithelial tumor/lesion ; SET/SEL)と呼ばれるようになっている.SET/SELという名称が,いつから使用され始めたかあいまいではあるが,2009年にLandiら1)は,“SMTs may arise from deep mucosa to serosa, depending on the histological type. Thus, ‘subepithelial' is perhaps a more appropriate term than ‘submucosal'. Nevertheless, submucosal is still recognised and used”と記述している.
 胃SETの多くは無症状であることから,胃X線造影検査や内視鏡検査による検(健)診で発見されることが多く,また腫瘍性病変だけでなく腫瘍様病変も含まれるため,質的診断を行って治療の必要性などを適切に診断することが大切である.これまで胃SETは,X線造影検査では頂部に淡いバリウム陰影斑を伴うSMTと診断されたり(Fig.1),白色光による内視鏡観察では色調変化や萎縮を認めるSMTと診断されたりと,生検で診断できる症例は少なかった.したがって,確定診断のためには,CTや超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography ; EUS),さらに超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration ; EUS-FNA)を組み合わせて行うことが必要である2)

主題

胃上皮下腫瘍の組織発生と病理診断

著者: 根本哲生 ,   宮地英行

ページ範囲:P.601 - P.610

要旨●近年,胃底腺型胃癌に代表される粘膜内に存在しながら表面は非腫瘍上皮に被覆される腫瘍への関心の高まりとともに,従来の粘膜下腫瘍(SMT)に代わって上皮下腫瘍(SET)という用語が使われるようになっている.SETとは狭義のSETと粘膜下層以下に局在を持つ本来のSMTの両者を包含する概念と言える.粘膜下に中心を置く腫瘍として,浸潤部で膨張性に体積を増す癌,胃壁を構成する間葉成分に由来する間葉系(非上皮性)腫瘍,転移性腫瘍が挙げられる.これらの腫瘍と鑑別となる腫瘍様病変としては,異所性胃腺,膵組織などが挙げられる.これら胃のSETの鑑別診断を考える際には,発生母地となる組織の存在部位を知っておくことが重要である.

胃上皮下腫瘍のX線診断

著者: 依光展和 ,   入口陽介 ,   小田丈二 ,   水谷勝 ,   冨野泰弘 ,   山里哲郎 ,   園田隆賀 ,   金田義弘 ,   安藤早弥 ,   岸大輔 ,   安川佳美 ,   神谷綾子 ,   霧生信明 ,   中河原亜希子 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.611 - P.621

要旨●上皮下腫瘍のうち,粘膜固有層または粘膜下層を主座とする症例を提示し,X線診断を中心に検討した.粘膜固有層を主座とする上皮下腫瘍は10mm以内で,丈が低い隆起が多く,X線側面像での指摘は困難であることが多い.しかし,正面像では周囲粘膜と同様の隆起表面にバリウム陰影斑を伴っており,被覆上皮直下への腫瘍の伸展を反映していると考えられた.粘膜下層を主座とする病変でも,腫瘍が被覆上皮直下に伸展すれば同様の所見を呈するが,側面像から主座が粘膜下層であることが推測可能であった.上皮下腫瘍のX線診断においては,側面像から病変の主座を,正面像から上皮下への腫瘍の伸展を推測し,背景粘膜や部位を考慮し診断することが重要である.

胃上皮下腫瘍の内視鏡診断—病変の壁内局在が粘膜層にある疾患を中心に

著者: 金光高雄 ,   八尾建史 ,   宇野駿太郎 ,   有馬久富 ,   金城健 ,   長谷川梨乃 ,   宮岡正喜 ,   植木敏晴 ,   平瀬崇之 ,   二村聡

ページ範囲:P.623 - P.634

要旨●背景:胃上皮下腫瘍(SET)の診断について拡大内視鏡を含めた内視鏡所見を系統的に検討した報告は少ない.本研究の目的は,特に病変の局在が粘膜層にある胃SETの形態と壁内の局在との関連性を求めることであった.対象と方法:2013年1月〜2022年11月の期間に,福岡大学筑紫病院で上部消化管内視鏡検査を施行され,内視鏡的または外科的切除された,粘膜層,および粘膜層から粘膜下層に病変の中心がある胃SETについて,後ろ向きに内視鏡所見および病理組織学的所見を評価した.本研究の主要評価項目は,胃SETに認められる通常・NBI併用拡大内視鏡(M-NBI)所見と病理組織学的所見との関連性を求めることであった.結果:本研究の解析対象となった病変は24病変で,その内訳は,胃NET G1 10病変,胃底腺型腺癌12病変,胃リンパ球浸潤癌2病変であった.通常内視鏡で観察された病変の立ち上がりについて,急峻な立ち上がりを呈する病変(p<0.001)と病変表面の陥凹を呈する病変(p=0.006)は病変の垂直方向の病変径が有意に大きかった.M-NBIで観察された窩間部の開大(p=0.018),absent MS pattern(p=0.002),開放性のMV pattern(p=0.009)を呈する病変は,表層上皮と病変頂部との距離が有意に短かった.結論:病変の局在が粘膜固有層(または粘膜固有層および粘膜下層)に存在する胃SETについて,内視鏡所見と病理組織学的所見の間に関連性があることが示唆された.ごく少数例を対象とした後ろ向き研究であり,さらに症例を蓄積したうえで,検証が必要である.

胃上皮下腫瘍の内視鏡診断—病変の壁内局在が粘膜下層にある疾患を中心に

著者: 中西宏佳 ,   吉田尚弘 ,   土山寿志

ページ範囲:P.635 - P.641

要旨●胃上皮下腫瘍は,粘膜上皮より深部に存在する壁内病変により,粘膜が挙上されて生じた隆起の総称である.症状がないことが多く,スクリーニングの上部消化管内視鏡検査で偶然発見されることが多い.病理組織学的に病変は多岐にわたるが,GISTや平滑筋腫などの間葉系腫瘍,異所性膵,囊胞,脂肪腫などの頻度が高い.実際の臨床ではGIST診療ガイドラインに沿った対応が基本となり,小さな病変であれば経過観察とすることが多い.通常内視鏡観察での診断には限界があるが,できる限り鑑別を絞り,精査・治療のタイミングを逃さないように努めることが大切である.

胃上皮下病変の超音波内視鏡診断

著者: 平澤大 ,   五十嵐公洋 ,   赤平純一 ,   遠藤希之 ,   名和田義高 ,   田中一平 ,   田中由佳里 ,   伊藤聡司 ,   松田知己

ページ範囲:P.643 - P.651

要旨●上皮下病変(SEL)のEUS診断では,腫瘤の局在とエコー輝度,エコーパターンで診断を行う.腫瘍性病変は一般的にその起源となる組織が存在する層に腫瘤が形成される.腫瘍様病変も基本的にある一定の層に親和性があるため壁局在がみられる.組織の密度や構造を加味することで腫瘤のエコー輝度やエコーパターンが変化する.これらの局在と超音波所見を理解することで,本体を直接視認できないSELであっても,ある程度診断可能である.本稿では「消化器内視鏡用語集 第5版」で記されている代表的なSELとリンパ腫,胃底腺型胃癌のEUS像に関して概説を行った.

主題研究

粘膜下異所性胃腺の遺伝子変異

著者: 張萌琳 ,   橋本大輝 ,   小田一郎 ,   斎藤豊 ,   関根茂樹

ページ範囲:P.653 - P.662

要旨●粘膜下異所性胃腺(HSG)は胃の切除検体でしばしば偶発所見として認められるほか,時に内視鏡的に上皮下腫瘍様の隆起性病変として認識される.一般にHSGは炎症などに伴う二次的変化と考えられており,その発生における遺伝子変異の関与は知られていなかった.筆者らはHSG 63病変に対して遺伝子変異解析を行い,37病変(59%)にKRAS(54%),BRAF(2%),CTNNB1(2%),GNAS(11%)のいずれかの活性化型変異を認めた.KRAS変異は,組織学的に広範な腺窩上皮分化を有する病変(p=0.013)および壁細胞を欠く病変(p=0.0081)に多く認められた.異型成分を伴うHSGは5病変認められたが,検討が可能であった2病変では,いずれも異型を伴う領域と伴わない領域で共通の遺伝子変異を有していた.これらの結果はHSGが癌関連遺伝子の変異を背景とした増殖性病変であることを示唆するものである.

主題症例

癌性リンパ管症を伴い上皮下腫瘍を形成した胃癌の1例

著者: 金田義弘 ,   入口陽介 ,   小田丈二 ,   依光展和 ,   冨野泰弘 ,   安藤早弥 ,   安川佳美 ,   神谷綾子 ,   霧生信明 ,   岸大輔 ,   山村彰彦

ページ範囲:P.663 - P.669

要旨●患者は70歳代,男性.健診でCEA高値を指摘され精査目的のため当科へ紹介され受診となった.EGDではSMT様隆起の肛門側に白色調の不整形陥凹を認め,0-IIa+IIc型早期胃癌と診断した.SMT様隆起のNBI拡大観察では,頂部粘膜の窩間部に不整な血管拡張・蛇行所見を認めたため生検を施行した.腺窩上皮直下の粘膜層に低分化腺癌を認めたため,胃全摘術を施行した.病理組織学的診断では,moderately differentiated tubular adenocarcinoma,pType 1,pT4a(SE),55×35×8mm,(tub2≫por),gastrointestinal type,HER2(0),intermediate,INFc,Ly1c,V1cであった.本症例は,原発巣である0-IIa+IIc型早期胃癌の形態を保ったまま上皮下に進展し,口側に癌性リンパ管症を伴って上皮下腫瘍を形成していた.SMT様隆起のNBI拡大観察から,腺窩上皮直下への癌の進展を診断できた症例を経験したので報告する.

発赤調隆起型の胃底腺型胃癌(胃底腺粘膜型腺癌)の1例

著者: 池田厚 ,   上山浩也 ,   上村泰子 ,   岩野知世 ,   山本桃子 ,   内田涼太 ,   宇都宮尚典 ,   阿部大樹 ,   沖翔太朗 ,   鈴木信之 ,   赤澤陽一 ,   竹田努 ,   上田久美子 ,   北條麻理子 ,   八尾隆史 ,   永原章仁

ページ範囲:P.671 - P.679

要旨●患者は60歳代,男性.胃体上部大彎前壁に胃底腺粘膜を背景に10mm大の発赤調隆起性病変を認めた.表面に拡張した樹枝状血管,辺縁に上皮下腫瘍様の隆起を認めた.NBI併用拡大観察では,微小血管構築像/表面微細構造ともにregularであり,非癌と診断された.生検結果と特徴的な内視鏡所見から胃底腺型胃癌と診断され,ESDを施行した.病理組織学的に,表層には腺窩上皮への分化を伴う低異型度の高分化腺癌と,その深部には胃底腺型腺癌を認め,胃底腺粘膜型腺癌と診断された.萎縮のない胃底腺粘膜を背景に,上皮下腫瘍様の隆起に加え,樹枝状の拡張血管,表面構造の軽微な変化を伴う隆起性病変を見つけた際には胃底腺型胃癌を疑い,生検を行う必要がある.

粘膜下腫瘍様の形態を呈した早期胃粘液癌の1例

著者: 秋吉大輔 ,   平川克哉 ,   西山憲一 ,   中尾凜 ,   西田美沙子 ,   岡村活揮 ,   和智博信 ,   野村亜貴子 ,   工藤哲司 ,   青柳邦彦

ページ範囲:P.680 - P.687

要旨●患者は60歳代,男性.EGDで胃噴門部に隆起性病変を指摘され,生検で診断が確定しないため当院へ紹介され受診となった.噴門部前壁に立ち上がりなだらかな10mm大の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認め,中央部が陥凹し多量の粘液が付着していた.NBI併用拡大観察で,陥凹内に乳頭状構造,陥凹辺縁部に不整な微小血管構築像を認めた.EUSでは,第2〜3層に隔壁を有する低エコー性腫瘤を認めた.診断的治療目的でESDを施行し,病理組織学的に上皮下に粘液結節を伴い,粘膜下層に浸潤した胃粘液癌と診断した.早期胃粘液癌の報告は希少であり,診断には粘膜下腫瘍様の形態に加え,陥凹部の粘液付着と乳頭状構造に注目すべきと考えられた.

生検により変性した粘液が“naked fat sign”様に流出した粘膜下異所性胃腺の1例

著者: 丸山保彦 ,   吉井重人 ,   景岡正信 ,   大畠昭彦 ,   寺井智宏 ,   星野弘典 ,   稲垣圭祐 ,   佐藤大輝 ,   馬場皓大 ,   安田和世 ,   馬場聡

ページ範囲:P.688 - P.692

要旨●粘膜下異所性胃腺の多くは開口部の特徴的形態から画像的に診断が可能であるが,生検では証明されないこともある.筆者らは二こぶ隆起の粘膜下隆起を呈する粘膜下異所性胃腺を経験した.一方の隆起部上には開口部がみられ,画像的には粘膜下異所性胃腺を疑ったものの,開口部からは生検では間質系細胞のみしか得られなかった.もう一方の隆起部の生検では,軟らかい固形物が脂肪腫でみられるnaked fat sign様に出てきた.確定診断がつかずESDにて一連の胃粘膜下異所性胃腺と診断した.生検で得られた検体は病変内の肉芽組織で,軟らかい固形物は変性した粘液と考えられた.

早期胃癌研究会

2022年7月の例会から

著者: 佐野村誠 ,   上山浩也

ページ範囲:P.693 - P.696

 2022年7月の早期胃癌研究会は,7月20日(水)にオンラインにて開催された.司会は佐野村(北摂総合病院消化器内科),上山(順天堂大学医学部消化器内科),病理は田中(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腫瘍病理)が担当した.忘れられない1例シリーズのレクチャーでは「心に残る悪性黒色腫の1例」を斎藤(がん研究会有明病院下部消化管内科)が担当した.

2022年12月の例会から

著者: 中島寛隆 ,   斎藤彰一

ページ範囲:P.697 - P.700

 2022年12月の早期胃癌研究会は,12月21日(水)にオンラインにて開催された.司会は中島(早期胃癌検診協会附属茅場町クリニック),斎藤(がん研究会有明病院下部消化管内科)と,病理を下田(東京慈恵会医科大学病理学講座)が担当した.忘れられない1例シリーズのレクチャーでは「EBV関連胃癌の1例」を海崎(福井県立病院病理診断科)が担当した.

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目次

ページ範囲:P.597 - P.597

欧文目次

ページ範囲:P.598 - P.598

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.596 - P.596

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.669 - P.669

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.696 - P.696

次号予告

ページ範囲:P.702 - P.702

編集後記

著者: 小野裕之

ページ範囲:P.703 - P.703

 58巻5号「壁内局在からみた胃上皮下腫瘍の鑑別診断」を手に取られた皆さまの中には,上皮下腫瘍という用語にやや違和感を覚えた方も多いと思われる.序説(入口論文)に記載されているように,従来,非病巣上皮に覆われた胃腫瘍は胃“粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)”と呼称されてきたが,病巣が粘膜深層に存在する場合もあるため,近年は胃“上皮下腫瘍(subepithelial tumor ; SET)”と呼ばれる.理屈はそうでもやはり長年慣れ親しんだ胃粘膜下腫瘍(SMT)という言葉のほうが筆者にはしっくりくる.初学者のころから上皮下腫瘍という言葉で育つようになるこれからの若手は,いずれSMTという呼称のほうが違和感を覚えるようになるかもしれない.個人的には,もともと“粘膜下層腫瘍”ではなく“粘膜下腫瘍”なのだからこの用語のどこが悪い!と繰り言を言いたくなるのであるが.
 由無しごとを書き綴ったが,今回の企画のねらいについて,少々説明したい.最近,H. pylori(Helicobacter pylori)感染率の低下によって未感染胃の胃底腺型腫瘍や自己免疫性胃炎に併存する神経内分泌腫瘍など,上皮下に進展する腫瘍性病変を診断する機会が増えている.胃上皮下腫瘍は壁内局在(発生母地となる細胞)により,それぞれに特徴的な形態所見があると考えられるが,十分に整理され普遍的な知見となっているとは言い難い.また,X線や白色光,色素観察,拡大内視鏡観察で診断する際に,表面に病巣がないため,間接的な所見から診断せざるをえない場合が多い.本号では,主に粘膜固有層や粘膜下層に局在する胃上皮下腫瘍を対象として,壁内での病変の局在を,発生母地となる細胞を踏まえて組織学的に解説するとともに,各疾患についてアトラス的に画像を供覧し,炎症を除く,腫瘍/腫瘍様病変の鑑別診断に役立つ内容としたい,というのがねらいである.

奥付

ページ範囲:P.704 - P.704

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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