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雑誌目次

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胃と腸58巻9号

2023年09月発行

雑誌目次

今月の主題 知っておくべき口腔・咽喉頭病変 序説

知っておくべき口腔・咽喉頭病変

著者: 新井冨生

ページ範囲:P.1097 - P.1099

はじめに
 口腔,咽頭,喉頭は隣接する臓器であるが,その境界は必ずしも明瞭ではない.また,本邦の統計1)では悪性新生物の発生部位としてこれらの臓器は,“口唇,口腔および咽頭”と“喉頭”に分類されており,口腔癌,咽頭癌独自のデータがない.さらに,WHO分類2)では前述の臓器はnasopharynxを除きhead and neckの臓器として記載され,oral cavity and mobile tongue,oropharynx,hypopharynx and larynx,の3領域に分類されている.
 このように,この領域は区分法に多様性がみられるうえ,担当する診療科も歯科口腔外科,耳鼻咽喉科,頭頸部科など多科に及ぶ.これらの領域の病変は,日常診療の上部内視鏡検査で通過する領域も含まれ,消化管を専門とする医師は関与せざるをえない器官でもある.したがって,今回「知っておくべき口腔・咽喉頭病変」としてこの領域に焦点を当てた企画が立案された.本序説では,まず代表的な疾患である扁平上皮癌と異形成について,次いで良性疾患を含めた疾患について概説する.

主題

口腔・咽喉頭癌の病理学的特徴—消化器内視鏡医が知っておきたい口腔・咽喉頭病変:病理の立場から

著者: 根本哲生 ,   相田順子 ,   尾松睦子 ,   小池千尋 ,   二本柳康博 ,   浅井由美 ,   解良仁美 ,   小原淳 ,   神山勇太 ,   安田有沙 ,   栃木直文

ページ範囲:P.1101 - P.1111

要旨●口腔粘膜は角化および非角化重層扁平上皮に覆われ,扁平上皮癌が発生する.発生頻度は舌で最も高く,歯肉,口腔底,頰粘膜,口蓋の順となるが,食道癌との合併頻度が高いのは口腔底・頰粘膜癌である.咽頭は上,中,下咽頭から成り,非角化重層扁平上皮に覆われる.上・中咽頭には扁桃のリンパ装置が存在する.喉頭粘膜は大部分が多列線毛上皮に覆われるが,喉頭蓋の一部と声帯部分は重層扁平上皮が覆う.発生する悪性腫瘍では,いずれの領域も扁平上皮癌が多い.上咽頭にはリンパ球浸潤を伴う鼻咽頭癌が発生し,ほとんどの症例にEBV感染が証明される.中咽頭癌はHPV陽性癌と陰性癌とで予後を含めた性格が異なると考えられ,病理診断の際にはp16免疫組織化学染色を行う.下咽頭の扁平上皮癌は,拡大内視鏡で認識される腫瘍血管パターンを含め,食道と類似した形態を呈する.下咽頭は食道と異なり粘膜筋板が存在しないが,食道では粘膜固有層浸潤(T1a-LPM)と粘膜下層浸潤(T1b-SM)とが同等でないものとしていることを考慮し,下咽頭癌の上皮基底層を越える浸潤の表現として,上皮直下の結合組織を粘膜下層ではなく“上皮下層”と呼ぶ.

口腔表在癌の内視鏡診断

著者: 堅田親利 ,   樋口浩和 ,   岸本曜 ,   清水孝洋 ,   二階堂光洋 ,   井上貴裕 ,   横山顕礼 ,   玉置将司 ,   野村基雄 ,   三谷洋介 ,   近藤雄紀 ,   伊藤寛朗 ,   南口早智子 ,   羽賀博典 ,   古江康明 ,   細野浩史 ,   加納孝一 ,   大橋真也 ,   武藤学

ページ範囲:P.1112 - P.1119

要旨●世界における口腔癌の罹患数,死亡数は喉頭癌・中咽頭癌・下咽頭癌よりも多い.また,field cancerization現象として食道癌や頭頸部癌の治療前後に発生することをしばしば経験する.JEC試験は330例の食道癌内視鏡的切除例を対象に6か月ごとの上部消化管内視鏡検査と12か月ごとの耳鼻咽喉科診察を継続しながら経過観察する前向きコホート研究である.2年累積異時性頭頸部癌発生率は3.7%であり,耳鼻咽喉科診察により1例の口腔癌(硬口蓋)が表在癌で発見された.112例の食道癌患者を対象に頭頸部領域をNBI拡大内視鏡で観察する前向き研究では,3例の口腔癌(舌2,硬口蓋1)が表在癌で発見された.口腔癌の予後やQOL改善に貢献するためには,消化器内視鏡を用いた適切な口腔観察方法や早期診断を目的としたサーベイランス方法を確立する必要がある.

咽喉頭表在癌の内視鏡的診断—経鼻内視鏡の立場から

著者: 川田研郎 ,   河邊浩明 ,   春木茂男 ,   藤原尚志 ,   小郷泰一 ,   坂野正佳 ,   奥野圭祐 ,   谷岡利朗 ,   德永正則 ,   大野十央 ,   田崎彰久 ,   岡田隆平 ,   伊藤崇 ,   朝蔭孝宏 ,   絹笠祐介

ページ範囲:P.1120 - P.1127

要旨●1996年8月〜2023年4月に501例810病変の頭頸部表在癌を経験した.このうち前治療なく経口的切除を行い,1年以上経過の追えた396例652病変(下咽頭462,中咽頭149,喉頭41)において上皮内癌174例249病変には転移を認めず,上皮下層浸潤癌295例403病変(T1 213,T2 159,T3 31)のうち28例(9.5%)30病変に後発リンパ節転移を認めた.腫瘍の厚さが1,000μm以下の305病変中2病変(0.7%),1,000μmを超えた98病変中28病変(28.6%)に転移陽性であった.IEE併用経鼻内視鏡にて領域性のあるbrownish area,brown dotsが拾い上げに有用であった.深達度診断では,Valsalva法で咽頭粘膜をよく伸展し,1,000μm以上の厚さの0-I型病変に注意すべきである.

咽喉頭表在癌の内視鏡的診断—経口内視鏡の立場から

著者: 竹内学 ,   加藤卓 ,   高綱将史 ,   高橋奈央 ,   味岡洋一

ページ範囲:P.1128 - P.1139

要旨●咽喉頭表在癌は腫瘍の厚みとリンパ節転移が相関することが報告されており,内視鏡診断において深達度診断を行うことは重要なポイントである.当院でESDを行った咽喉頭表在癌57病変の内視鏡所見と病理組織学的所見を詳細に検討し,肉眼型・JES-SCC分類に関して0-IIb型・0-IIa型あるいはType A・B1血管の場合EPあるいはSEP浸潤(<1,000μm),0-Is型あるいはType B2・B3血管の場合SEP浸潤(≧1,000μm)が有意に多い結果であった.また肉眼型→隆起型表面性状→JES-SCC分類をもとにしたフローチャート式での深達度評価より,①0-IIb型では深達度はEPあるいはSEP浸潤(<1,000μm),②0-Is型では深達度はSEP浸潤(≧1,000μm),③0-IIa型では顆粒状+Type B1血管であれば深達度はEPあるいはSEP浸潤(<1,000μm),平滑であればSEP浸潤(≧1,000μm)と診断することが妥当と考えられた.

口腔・咽喉頭領域における非腫瘍性病変の内視鏡的特徴—頭頸部科医の立場から

著者: 高原幹

ページ範囲:P.1140 - P.1144

要旨●炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)やその類縁疾患の腸管外病変として再発性,難治性アフタなどの口腔・咽頭粘膜病変を有する頻度は高い.口腔・咽頭粘膜病変が初発する症例も存在するため耳鼻咽喉科・頭頸部外科医はそれらの疾患も念頭に置き,口腔・咽頭粘膜病変の診療を行う必要がある.

口腔・咽喉頭領域における非腫瘍性病変の内視鏡的特徴—内視鏡医の立場から

著者: 小野陽一郎 ,   髙野恵輔 ,   武田輝之 ,   安川重義 ,   古賀章浩 ,   石川智士 ,   金光高雄 ,   高津典孝 ,   宮岡正喜 ,   久部高司 ,   植木敏晴 ,   田邉寛 ,   原岡誠司 ,   二村聡 ,   八尾建史

ページ範囲:P.1145 - P.1155

要旨●消化管内視鏡を用いた口腔・咽喉頭観察の重要性が広く認知されるようになり,腫瘍性病変を早期発見する機会が増加している.一方で,口腔・咽喉頭領域には細菌・ウイルス・真菌による感染症,Crohn病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患,Behçet病などの全身性自己免疫性疾患,天庖瘡や類天疱瘡などの皮膚粘膜疾患といった,種々の原因による粘膜病変が生じる.また,癌との鑑別に苦慮する炎症性変化や上皮の菲薄化などの非腫瘍性病変,色調変化を来す腫瘍様病変を少なからず経験する.本稿では,口腔・咽喉頭領域における非腫瘍性病変および腫瘍様病変の内視鏡的,病理組織学的特徴について概説した.

咽頭表在癌に対する局所切除と治療成績—ESDの立場から

著者: 高橋亜紀子 ,   小山恒男 ,   塩澤哲 ,   荒川愛子

ページ範囲:P.1157 - P.1168

要旨●当院で2006年4月〜2020年4月の期間にESDを施行した咽頭癌75例102病変を対象とした.病理結果は,上皮内癌(EP):上皮下層癌(SEP)は60:42であった.一括切除率は100%,一括完全切除率91%(93/102),深達度別ではEP群で97%(58/60),SEP群で83%(35/42)であった.偶発症については,輸血を要する術中出血は0%,内視鏡的止血術を要する後出血は1%(1/102)であった.EP群に局所再発を来した病変はなく,SEP群で2.4%(1/42)に認めた.転移再発はEP群ではなく(0/40),SEP群で35例中8例(23%)に認めた.8例中,リンパ節転移のみ5例,遠隔転移のみ2例,リンパ節転移と遠隔転移1例であった.転移部位は甲状軟骨,骨,肝,肺であった.SEP群での原病死率は全体で8.6%(3/35),ly0,v0では3%(1/30),ly1 and/or v1では40%(2/5)であった.EP群40例中20例(50%)で異時多発癌を認め,その部位は多岐にわたっていた.5年疾患特異的生存率はEP群100%,SEP群86%であった(log-rank検定,p=0.0269).5年全生存率はEP群100%,SEP群51%であった(log-rank検定,p<0.001).EP・SEP咽頭癌に対するESDの短期成績は良好であり,ESDは第一選択手技と考えられた.一方EPであっても半数に異時多発癌を認めるため,全身のサーベイランスが必要である.またSEPでly1 and/or v1の場合は転移率,原病死率が高く,adjuvant chemotherapyなどの追加治療を検討すべきと考えられた.

咽喉頭表在癌に対する局所切除と治療成績—ELPSの立場から

著者: 渡邉昭仁 ,   木村有貴

ページ範囲:P.1169 - P.1179

要旨●頭頸部表在癌の治療として彎曲喉頭鏡を用いて咽頭を広く展開し切除するELPS(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery)は本邦で開発され,多くの施設で行われている.この方法は表在癌を一括切除できることから良好な治療成績につながっている.一方,術中の出血のコントロールに難渋することや,術後出血対応をしなければならないことが課題としてある.さらに,術後気道の状態把握も大切であり,喉頭浮腫が懸念される場合には気管切開術や翌日までの挿管管理も必要となる.頸部リンパ節転移の頻度は少ないものの,生命予後に影響することから確実な対応が望まれる.また,初回の治療経過が良好であっても,異時性に発癌することが少なくなく,長期に経過観察することが必要となる.

主題研究

超拡大内視鏡(Endocytoscopy system)による咽頭癌診断

著者: 鈴木孝弘 ,   古川和宏 ,   古根聡 ,   廣瀬崇 ,   飛田恵美子 ,   平井恵子 ,   柴田寛幸 ,   倉田祥行 ,   田中仁 ,   中村正直 ,   川嶋啓揮

ページ範囲:P.1180 - P.1186

要旨●咽頭表在癌はESD(endoscopic submucosal dissection)やELPS(endoscopic laryngopharyngeal surgery)などの低侵襲治療を行うことで患者のQOLを維持することが可能であり,早期発見が望まれる.しかし,咽喉頭は狭く,複雑な構造に加え,咽頭反射が出現しやすいため,内視鏡観察が困難な部位である.また,病変部位や大きさによっては喉頭展開を行わないと病変が認識できないものも存在する.超拡大内視鏡を使用すると,術前に指摘困難であった病変に対しても,切除範囲や切除の必要性について正確な評価が可能になると考えられる.

経口エコーによる咽喉頭癌の深達度診断

著者: 卜部祐司 ,   上田勉 ,   福原基允 ,   石橋一樹 ,   小西宏奈 ,   水野純一 ,   弓井康平 ,   築家伸幸 ,   檜山雄一 ,   瀧川英彦 ,   小刀崇弘 ,   樽谷貴之 ,   弓削亮 ,   濱本隆夫 ,   竹野幸夫 ,   岡志郎

ページ範囲:P.1188 - P.1196

要旨●近年,内視鏡機器の進歩により多くの咽頭表在癌が発見されるようになったが,術前深達度診断法は定まっていない.今回,咽頭表在癌に対する経口エコーの深達度診断能について検討を行った.当院で内視鏡的咽喉頭手術を施行した46例51病変に術前経口エコーを施行した結果,上皮下浸潤癌(SEP癌)の正診率82.4%,感度85.2%,特異度79.2%,陽性的中率82.1%,陰性的中率82.6%であった.また,腫瘍厚が1,000μm以上のSEP癌(SEP-deep)に対する経口エコーの診断能の正診率は86.3%,感度は91.7%,特異度は84.6%,陽性的中率は64.7%,陰性的中率は97.1%であり,経口エコーは咽頭表在癌の深達度診断に対して有用であると考えられた.

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目次

ページ範囲:P.1095 - P.1095

欧文目次

ページ範囲:P.1096 - P.1096

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.1094 - P.1094

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1119 - P.1119

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1139 - P.1139

次号予告

ページ範囲:P.1198 - P.1199

編集後記

著者: 小山恒男

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 竹内学(長岡赤十字病院消化器内科),根本哲生(昭和大学横浜市北部病院臨床病理診断科)とともに,「胃と腸」58巻9号「知っておくべき口腔・咽喉頭病変」の編集を担当した.「胃と腸」で初めて中・下咽頭癌が特集されたのは,2005年の40巻9号「表在性の中・下咽頭癌」であった.当時は,咽喉頭領域の表在癌の早期診断は困難であったが,NBIやBLIなどの画像強調システムの開発や経鼻内視鏡の画質向上によって,咽喉頭癌が数多く発見されるようになった.治療面ではESD・ELPSをはじめとした低侵襲治療による,中下咽頭癌・喉頭癌に対する内視鏡治療が開発された.その後,2010年に45巻2号「中・下咽頭表在癌の診断と治療」,2012年に47巻3号「咽頭・頸部食道癌の鑑別診断」,2017年に52巻13号「咽頭・頸部食道癌の診断と治療」,2021年の56巻11号「咽頭表在癌の内視鏡診断と治療」と続いたが,一貫して対象は癌のみであった.
 今回,「知っておくべき口腔・咽喉頭病変」を企画するにあたり,「胃と腸」としては初めて口腔領域にまで対象を拡げた.また,癌のみならず非腫瘍病変までを網羅的に取り上げ,口腔・咽喉頭の悪性および良性疾患の内視鏡的・病理学的特徴をまとめる方針とした.そして,初学者からexpertまでに役立つ内容を目指し,その道の達人に原稿を依頼した.

奥付

ページ範囲:P.1202 - P.1202

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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