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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸59巻1号

2024年01月発行

雑誌目次

今月の主題 自己免疫性胃炎—病期分類と画像所見 序説

自己免疫性胃炎—温故知新と最新の知見

著者: 春間賢

ページ範囲:P.5 - P.8

プロローグ
 本誌54巻7号(2019年)の主題は「A型胃炎—最新の知見」であり,その後4年間の本疾患の早期の画像診断を中心とした病態解明が本特集号の骨子である.
 本邦の自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis ; AIG)の研究は,診断基準の確立とともに一気に進んだ.さらに,初期像を捉えることができれば,完成したAIGになるまでにどれくらいの時間がかかるか,また,H. pylori(Helicobacter pylori)陽性のAIGはH. pylori除菌により進展するのか,あるいは改善するのかを検討することができる.特に,筆者の恩師の一人である三好秋馬先生の研究テーマの一つがAIGで,本誌2巻10号(1967年)に総説論文として「慢性胃炎,とくに萎縮性変化の発生機転,主として免疫の立場から」1)を寄稿しておられる.その論文の中では,血中抗胃抗体の頻度について,悪性貧血や橋本病などの自己免疫疾患をはじめとして慢性胃炎,消化性潰瘍,胃癌のさまざまな疾患で検討し〔ここで胃抗体としたのは,各疾患での陽性率が高いので真の抗胃壁細胞抗体(anti-parietal cell antibody ; APCA)であるかが不明のため〕,さらに,イヌでのAIG試作実験を行い,胃粘膜の傷害が胃自己抗体を産生し,胃粘膜萎縮に進展していくことを想定した.本誌は現在では消化管の診断学の流れから画像診断が中心の雑誌になっているが,なんとこのような機能面から胃疾患を検討した総説論文も以前は掲載されていた.三好先生は胃炎の発生機序として自己免疫機序を考えていたが,何分,AIGを発生母地とする悪性貧血(pernicious anemia ; PA)は本邦ではまれな疾患のため,胃炎の発症機序としては興味があったが,AIGそのものは注目を浴びることはなかった.何と50年の時を経て,そのAIGが再び本誌の主題となった.

主題

自己免疫性胃炎の病期に応じた臨床・検査所見,内視鏡所見,病理組織学的所見の包括的理解

著者: 寺尾秀一 ,   鈴木志保 ,   西澤昭彦 ,   今井幸弘 ,   九嶋亮治

ページ範囲:P.10 - P.21

要旨●自己免疫性胃炎(AIG)の病期を早期,中期(活動期),進行・終末期の3つに区分し,それぞれの病期の臨床・検査所見,内視鏡所見,病理組織学的所見の特徴を概説した.抗胃壁細胞抗体の陽性率・抗体価は中期(活動期)にピークがあり,抗内因子抗体の陽性率は進行・終末期に上昇する.ガストリン,pepsinogen I,pepsinogen I/II比は病期に応じた特徴的な変化を示す.鉄欠乏性貧血は早期〜中期(活動期)に多く,悪性貧血は進行・終末期に多い.また,発見契機としての泥沼除菌,D群に留意する.内視鏡的病期のうち,早期では胃小区腫脹が重要で,この所見は病理学的病期の早期から進行最盛期に至る組織像を反映している.中期(活動期)では残存胃底腺でAIGの進行度が把握できる.

自己免疫性胃炎の病理組織学的所見

著者: 九嶋亮治 ,   小寺徹 ,   寺尾秀一

ページ範囲:P.23 - P.33

要旨●自己免疫性胃炎をみる機会が急増している.自己免疫性胃炎は自己免疫性化生性萎縮性胃炎ともいわれ,壁細胞にあるプロトンポンプやビタミンB12の吸収に必須である内因子に対する何らかの免疫反応から始まり,その結果生じた自己抗体と自己反応性T細胞の複雑な相互作用によって胃底腺細胞が傷害され,胃底腺粘膜が萎縮・荒廃していく.腫瘍の発生母地にもなりうる.自己免疫反応に伴う萎縮は経時的に進行していくので,病理組織学的な時相分類が提案されている.壁細胞の変性・消失とリンパ球浸潤に伴い,深部腺は(偽)幽門腺に置換され,ECL細胞過形成と腺窩上皮過形成が生じる.萎縮が進むと完全型腸上皮化生も出現し,深部腺はさらに疎になり,最終的にはリンパ球浸潤も乏しくなる.また,Helicobacter pylori感染に関連した自己免疫性胃炎も注目されている.AIGでは,炎症と萎縮は胃底腺粘膜内で不均一に生じるので,内視鏡的な面診断と病理学組織学的な点診断の連携が重要である.

自己免疫性胃炎の内視鏡診断—早期,中期,終末期の内視鏡所見—AIG-atrophic stage(AIG-AS)の提案

著者: 丸山保彦 ,   安田和世 ,   馬場聡 ,   吉井重人 ,   景岡正信 ,   大畠昭彦 ,   寺井智宏 ,   星野弘典 ,   稲垣圭佑 ,   乾航 ,   馬場皓大 ,   丸山巧

ページ範囲:P.34 - P.46

要旨●自己免疫性胃炎(AIG)の内視鏡所見は経過中に大きく変化し,萎縮の進み方も均一ではない.病期を判断するうえで病理学的所見は参考になるがあくまで“点”の診断であり,胃底腺領域に不均一に進行する“胃全体”の病期を反映するとは限らない.従来,内視鏡的萎縮度評価として用いられてきた木村・竹本分類はHelicobacter pylori胃炎を念頭に置いたもので,萎縮進行様式の異なる本症には適用しにくい.AIGを一連の時間軸で俯瞰するため,病期を内視鏡検査で診断する基準として残存胃底腺粘膜に注目しAIG-atrophic stageを提唱したい.

自己免疫性胃炎を背景とした胃癌の臨床病理学的特徴

著者: 池上幸治 ,   蔵原晃一 ,   大城由美 ,   白井慎平 ,   野坂佳愛 ,   江頭信二郎 ,   水江龍太郎 ,   下司安春 ,   田中雄志 ,   森山麟太郎 ,   原裕一 ,   八板弘樹

ページ範囲:P.47 - P.61

要旨●自己免疫性胃炎(AIG)は胃癌の発生母地となり,H. pylori感染の減少に伴い,胃癌の背景疾患としての重要性が相対的に高まってきている.自験AIG 194例について遡及的に検討を行ったところ,胃癌合併は36例(18.6%)に47病変認められた.胃癌合併例と非合併例を比較すると,胃癌合併例のほうが高齢で,内視鏡所見では固着粘液陽性率が低く,生検標本のupdated Sydney systemによる評価で前庭部腸上皮化生スコアが高かった.AIG合併胃癌の特徴は0-IIa型の早期癌で,胃型形質の分化型腺癌が典型例と考えられた.AIGには胃腺腫も26例(13.4%)に認められ,胃癌のうち4例4病変は胃腺腫として経過観察していた症例が悪性化したもので,腺腫にも注意を要すると考えられた.

自己免疫性胃炎を背景とした胃癌の臨床病理学的特徴

著者: 平澤俊明 ,   東佑香 ,   中野薫 ,   山本浩之 ,   福山知香 ,   並河健 ,   渡海義隆 ,   吉水祥一 ,   堀内裕介 ,   石山晃世志 ,   由雄敏之 ,   藤崎順子 ,   河内洋 ,   後藤田卓志

ページ範囲:P.63 - P.75

要旨●自己免疫性胃炎(AIG)は,本邦ではまれな疾患とされてきたが,近年報告例が増加している.内視鏡所見または病理所見からAIGを診断することは,特にH. pylori感染合併例では困難な場合がある.また,AIG合併胃癌の詳細な特徴については解明されていない.今回,当院で経験したAIG 86例(うち胃癌合併35例,46病変)を遡及的に検討した.AIG合併胃癌は,隆起型の分化型早期胃癌が典型とされているが,当院では,肉眼型は0-IIcが最も多く39.1%を占め,組織型では未分化型癌が28.3%,進行癌も19.6%と比較的多くみられ,既報と相違があった.AIGの診断契機に関しては,内視鏡所見からAIGを診断できずに,病理所見からAIGの診断に至った症例が36.0%を占めた.特に胃癌合併例では,65.7%が病理診断契機となっており,病理診断の有用性が示された.また,H. pylori感染例では内視鏡所見からAIGを診断できたのは約半数のみであり,AIGにH. pylori感染が加わると,AIGの内視鏡診断が困難になる可能性が示唆された.

主題研究

自己免疫性胃炎初期/早期例の内視鏡像と病理組織像—H. pylori感染合併例を含めた検討

著者: 小寺徹 ,   九嶋亮治 ,   春間賢

ページ範囲:P.76 - P.83

要旨●当院で経験した初期/早期の自己免疫性胃炎症例7例の内視鏡像,病理組織像を遡及的に検討した.男性5例,女性2例で平均年齢は61.3歳であった.6例に偽ポリープの縦走配列,4例に胃小区の発赤腫大を認め,これらは初期/早期の自己免疫性胃炎に特徴的な内視鏡所見である可能性が示唆された.除菌後に胃小区の発赤腫大が出現した症例は,H. pylori感染胃炎に潜在的に合併していた自己免疫性胃炎が除菌後に顕在化したと考えられる.自己免疫性胃炎初期/早期症例の報告はいまだ少なく,今後の症例の蓄積が望まれる.

ノート

H. pylori感染・未感染・既感染診断の現状と問題点—自己免疫性胃炎とH. pylori感染の関連について

著者: 角直樹 ,   春間賢 ,   井上和彦 ,   間部克裕 ,   久本信實 ,   木村典夫 ,   渡辺哲夫 ,   青木利佳 ,   小寺徹 ,   綾木麻紀 ,   眞部紀明 ,   河本博文 ,   梅垣英次 ,   塩谷昭子 ,   鎌田智有 ,   高尾俊弘

ページ範囲:P.84 - P.91

要旨●自己免疫性胃炎(AIG)の報告の増加に伴い,H. pylori感染が胃炎所見を呈するためAIG診断を困難にすることが問題となっている.H. pylori感染が,AIGの臨床所見,内視鏡所見に及ぼす影響と問題点,AIGとH. pylori感染との関連について検討した.AIGをH. pylori感染状態(H. pylori関連群と非関連群)に分けて検討すると,H. pylori感染を合併することでAIGの血清学的所見(血清ガストリン値や血清ペプシノゲン)や内視鏡所見に影響を及ぼすことが明らかとなった.H. pylori感染を合併したAIG症例の長期経過を追跡していくことで,H. pyloriとAIGの関連について新たに解明できる可能性がある.

H. pylori泥沼除菌症例からみた自己免疫性胃炎診断への方策

著者: 古田隆久 ,   山出美穂子 ,   樋口友洋 ,   高橋悟 ,   石田夏樹 ,   田村智 ,   谷伸也 ,   岩泉守哉 ,   濱屋寧 ,   大澤恵 ,   杉本健

ページ範囲:P.93 - P.99

要旨●H. pyloriの除菌療法において,除菌失敗を繰り返す場合,特に,尿素呼気試験(UBT)で除菌判定にて除菌失敗と判断された場合には,自己免疫性胃炎(AIG)であることを強く疑う.AIGでは自己免疫機序により壁細胞が破壊されて胃酸分泌がほとんどないため,胃内にH. pylori以外の雑菌が生息できるが,そうした細菌の多くはH. pyloriほどではないがウレアーゼ活性を有しているため,UBTを行うと陽性となり除菌不成功と判断されてしまう.特にUBTが低値陽性の場合には,AIGの可能性を考え,内視鏡所見の見直し,血清ガストリンなどの測定,病理診断,便中抗原検査などの検査を活用することが肝要である.

主題症例

自己免疫性胃炎に合併した幽門腺腺腫内癌の1例

著者: 佐野村誠 ,   疋田千晶 ,   山田達明 ,   辻沙也佳 ,   冨永真央 ,   松尾奈々子 ,   𥔎山直邦 ,   西谷仁 ,   豊田昌夫 ,   植田初江 ,   廣瀬善信 ,   西川浩樹

ページ範囲:P.101 - P.109

要旨●患者は70歳代,男性.食後の上腹部不快感を主訴に当科外来を受診した.EGDを施行したところ,胃体上部後壁に結節が集簇した7cm大の隆起性病変を認めた.胃前庭部に萎縮性変化は認めないが,胃体部は高度萎縮を示していた.ガストリン高値,抗胃壁細胞抗体陽性,ペプシノゲンI/II低下を示し,自己免疫性胃炎(A型胃炎)に合併した胃腫瘍と診断し,腹腔鏡下胃全摘術を施行した.病理組織像では,自己免疫性胃炎に合併した幽門腺腺腫内癌であった.

自己免疫性胃炎に合併した胃扁平上皮癌の1例—胃全摘・全割標本の検討を含めて

著者: 水江龍太郎 ,   蔵原晃一 ,   大城由美 ,   平田敬 ,   八板弘樹 ,   池上幸治 ,   原裕一 ,   南一仁 ,   米湊健

ページ範囲:P.111 - P.122

要旨●患者は70歳代,男性.大球性貧血の精査目的に施行したEGDを診断契機とし,精査の結果,進行最盛期の自己免疫性胃炎を背景とした進行胃癌(扁平上皮癌),早期胃癌(高分化管状腺癌,胃型形質)と胃神経内分泌腫瘍(NET)を認めた.胃全摘術を施行し切除標本を全割して病理組織学的に検討した結果,胃体部大彎前後壁を中心とした内分泌細胞微小胞巣(ECM)の分布が明らかとなり,NET(計4病変)はその分布領域内に位置していた.

早期胃癌研究会症例

孤発性直腸神経節細胞腫の1例

著者: 髙田淳 ,   齊郷智恵美 ,   九嶋亮治 ,   清水雅仁

ページ範囲:P.123 - P.130

要旨●患者は60歳代,男性.背景に遺伝性疾患なし.結腸憩室出血後の大腸内視鏡検査にて,上部直腸(Ra)に径40mm大の境界不明瞭な上皮下腫瘍様の扁平隆起性病変を認めた.病変内には結節状小隆起を伴っていた.NBIでは拡張した血管が観察され,クリスタルバイオレット染色では不均一に疎に分布するI型のpitが観察された.EUSで第2〜3層にかけて,壁肥厚を伴う境界不明瞭な軽度低エコー領域として描出された.診断的加療目的にESDで切除し,病理組織学的所見にて上皮直下の粘膜固有層〜粘膜下層にかけて神経線維と紡錘形細胞がびまん性に増生し,内部に神経節細胞が散見され,神経節細胞腫と診断した.

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目次

ページ範囲:P.3 - P.3

欧文目次

ページ範囲:P.4 - P.4

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.46 - P.46

書評

ページ範囲:P.110 - P.110

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.130 - P.130

次号予告

ページ範囲:P.132 - P.132

編集後記

著者: 小澤俊文

ページ範囲:P.133 - P.133

 自己免疫性胃炎(AIG)が,H. pylori感染に伴う慢性炎症の内視鏡像と異なることは以前から知られているが,近年では(超)早期診断例の報告が散見されるようになった.本邦で少ないとされてきたAIGの頻度もおよそ200〜250人に1人と決してまれな疾患ではなく,早期診断に有用な内視鏡所見を知っておくべき時代にきている.炎症や萎縮性変化の経時的変化,すなわちステージ別の臨床病理学的特徴もほぼ明らかとなった.内視鏡的所見(粘膜変化)が病理組織学的にどう対応するか,面と点での診断対比が可能となったのである.
 実は2019年54巻7号の本誌主題は「A型胃炎—最新の知見」であったが,わずか4年間での内視鏡を中心とした早期診断の進歩ゆえに本特集号の再登場となったわけである.表現についてもA型胃炎ではなく,成因による幅広い疾患を表現するAIGの名称がより好ましい.

奥付

ページ範囲:P.134 - P.134

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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