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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸59巻6号

2024年06月発行

雑誌目次

今月の主題 内視鏡治療後サーベイランスの現状—異時性多発病変を中心に 序説

消化管腫瘍の内視鏡治療後サーベイランスの現状

著者: 平澤大

ページ範囲:P.797 - P.799

はじめに
 消化管腫瘍に対する内視鏡的切除はポリペクトミーに始まり,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection ; EMR),内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)と進化を遂げている.この革新的な手法により多くの早期癌が根治可能となった.内視鏡的切除は臓器が温存されるため患者の生活の質(quality of life ; QOL)を損なわないが,一方で癌の発生母地を残すことになる.一度発癌するに至った背景粘膜は,いつ異時多発病変が発生してもおかしくない環境である.低侵襲治療の恩恵を受けていても,その後の管理が非常に重要であることは自明の理であろう.
 サーベイランスの目的には,①遺残再発のチェック,②転移再発のチェック,③異時多発病変のチェック,④他臓器癌のチェック,が挙げられる.本特集号でこれらすべてのサーベイランスのあり方を論じるには紙面が足りないゆえ,今回は③異時多発病変に焦点を当てて論じることとした.異時多発病変の早期発見においては内視鏡検査が重要であることは言うまでもないが,その検査間隔や検査期間に関しては質の高いエビデンスに基づいて行われるべきである.本特集号では各臓器におけるauthorityがエビデンスに基づいた考え方を詳細に解説している.そこで,この序説では,各項目の予習段階として,現在発刊されているガイドラインに記された内視鏡的切除後のサーベイランスのあり方に関して簡単に解説を行う.

主題

中下咽頭癌の内視鏡治療後サーベイランス

著者: 菊池大輔 ,   鈴木悠悟 ,   山下聡 ,   布袋屋修

ページ範囲:P.800 - P.807

要旨●中下咽頭癌の内視鏡治療の後にはリンパ節転移と異時発癌の発生を注意深くフォローする必要がある.リンパ節転移に関してはいまだに完全なコンセンサスはなく,よりいっそうの症例の蓄積が必要である.しかし現在のところ,腫瘍の厚み(tumor thickness)と脈管侵襲が重要な因子と考えてられている.また咽頭癌は異時発癌の発生率が高いため,適切に内視鏡検査を行うべきである.1年に2回程度の内視鏡検査をすることで早期に咽頭癌を拾い上げることが可能であり,内視鏡治療後の患者の予後は極めて良好である.舌,口腔底などの口腔から観察を行い,決められた場所を毎回必ず観察するようにする.また最後にValsalva法を行い,輪状後部の観察を行う.リスクの層別化と決められたプロトコールでの適切なサーベイランスこそが咽頭癌内視鏡治療後には重要である.

食道腫瘍の内視鏡治療後サーベイランス:扁平上皮癌—リスク因子を考慮したサーベイランスの重要性

著者: 北村陽子 ,   山川麻郁子 ,   佐久間裕太 ,   澤貴幸 ,   岡本直樹 ,   岸埜高明 ,   奥田隆史 ,   森康二郎 ,   田中斉祐 ,   金政和之 ,   島田啓司

ページ範囲:P.809 - P.819

要旨●食道扁平上皮癌の内視鏡治療後には,異時性食道内多発癌の他にも,二次原発悪性腫瘍が高頻度に発生する.禁酒・禁煙によって明らかに異時性食道癌と二次原発悪性腫瘍が減少したため,内視鏡治療後に禁酒・禁煙の指導を繰り返し行うことは非常に重要である.ヨード多発不染帯,食道癌リスク検診問診票,アルコール使用障害特定テスト,平均赤血球容積,軟口蓋粘膜のメラノーシスは,食道扁平上皮癌のリスク因子である.これらのリスク因子を考慮し,二次原発悪性腫瘍も加味したサーベイランス検査を行う必要がある.

食道腫瘍の内視鏡治療後サーベイランス:Barrett食道腺癌

著者: 前田有紀 ,   川田登 ,   吉田将雄 ,   山本陽一 ,   小野裕之 ,   下田忠和

ページ範囲:P.820 - P.827

要旨●本邦でも欧米と同様にBarrett食道腺癌の頻度は増加傾向であり,今後もBarrett食道腺癌に対する内視鏡治療は増加することが予想される.本邦と欧米では,Barrett食道腺癌内視鏡治療後の方針は大きく異なる.欧米では残存Barrett粘膜に対する内視鏡的焼灼術が施行されるが,本邦のガイドラインではBarrett食道そのものに対して発癌予防目的に内視鏡治療を行うことは推奨されていない.また,Barrett食道腺癌の内視鏡治療後サーベイランスについては,必要性,方法,検査間隔など,定まっていない部分も多い.本稿ではBarrett食道腺癌の内視鏡治療後のサーベイランスについて,本邦と欧米それぞれの最新のガイドラインも含めて解説した.

胃腫瘍の内視鏡治療後サーベイランス

著者: 魚住健志 ,   関口正宇 ,   水口康彦 ,   野中哲 ,   阿部清一郎 ,   鈴木晴久 ,   斎藤豊

ページ範囲:P.829 - P.839

要旨●早期胃癌内視鏡治療後の異時性多発胃癌の発生率は年率3.5%と報告されており,初回内視鏡治療から5年以上経過後も累積胃癌発生率は経時的に上昇する.初回内視鏡治療がeCura Aであっても,その後に外科的胃切除が必要な異時性多発胃癌が発見される症例や転移性胃癌で死亡する症例も存在する.内視鏡治療後は5年経過後も可能な限りサーベイランスを継続し,異時性多発胃癌を早期に発見するのが望ましい.近年,高齢胃癌患者を診療する機会や,H. pylori除菌療法の普及に伴う除菌後胃癌およびH. pylori未感染胃癌に遭遇する機会が増えている.胃癌を取り巻く環境は大きく変化しており,これまで内視鏡治療後に一律に行われていたサーベイランスのあり方を見直す時期が来ている.

十二指腸腫瘍の内視鏡治療後サーベイランス

著者: 峯﨑大輔 ,   中山敦史 ,   加藤元彦

ページ範囲:P.841 - P.848

要旨●近年,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)に遭遇する機会が増えている.それに伴い内視鏡治療件数も増加しており,必然的に内視鏡治療後サーベイランスの必要性も高まっている.しかしながら,SNADETにおけるサーベイランスの手法は確立されていない.粘膜内癌までの病変ではリンパ節転移率は極めて低く,内視鏡サーベイランスが行われている.治療時の病理組織学的診断で断端不明瞭あるいは陽性となった病変では,遺残・再発病変のリスクが高い.該当する症例では比較的早期に上部消化管内視鏡検査(EGD)を行い,その後も2〜3年程度はサーベイランスを継続することが望ましい.また,少数ながら異時性病変の報告もあり,治療瘢痕部以外もしっかりと観察を行うことが重要である.

大腸腫瘍の内視鏡治療後サーベイランス:通常型腺腫/癌(鋸歯状病変を含む)

著者: 鴫田賢次郎 ,   松本健太 ,   朝山直樹 ,   青山大輝 ,   福本晃 ,   永田信二

ページ範囲:P.849 - P.856

要旨●大腸ポリープ切除後の大腸癌死亡抑制や大腸浸潤癌の発生予防と腸管温存を目指して,2020年に日本消化器内視鏡学会により「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」が作成された.初回大腸内視鏡検査における腺腫性病変を個数,最大径,病理組織診断により層別化し,サーベイランス間隔を規定している.鋸歯状病変(SSL)の取り扱いや2回目以降のサーベイランス方法,高齢者における中止基準についても今後の改定で策定されることが望まれる.また,見逃し癌や不完全切除による癌のリスクを減少させるために内視鏡技術の精度向上は重要であり,AIなどの最新技術の適切な使用方法やエビデンスの構築が期待されている.

大腸腫瘍の内視鏡治療後サーベイランス:炎症性腸疾患を背景としたdysplasia/癌

著者: 渡辺憲治 ,   高嶋祐介 ,   伊藤顕太郎 ,   渡邊かすみ ,   皆川知洋

ページ範囲:P.857 - P.861

要旨●潰瘍性大腸炎関連腫瘍に対する内視鏡的切除は現状の本邦のガイドラインでは適応外で,その適応の判断には慎重さを要する.可視的病変周辺のinvisible flat dysplasiaによる範囲診断困難や,事前の生検診断より切除標本の最終病理診断のほうが悪性度が悪化する可能性がある潰瘍性大腸炎関連腫瘍の病理学的特徴による質的診断の困難性を理解する必要がある.このため切除標本の根治度判定を含めた病理診断は非常に重要で,切除後も遺残再発や異時性再発のリスクがあるため,フォローアップのサーベイランス内視鏡検査の励行も大切である.

主題研究

家族性大腸腺腫症およびLynch症候群に対する内視鏡治療後サーベイランス

著者: 石川秀樹

ページ範囲:P.863 - P.868

要旨●家族性大腸腺腫症(FAP)とLynch症候群におけるサーベイランス方法を紹介した.FAPでは,大腸,胃,十二指腸,デスモイド腫瘍に対するサーベイランス法を中心に説明した.最近開発された,大腸ポリープを内視鏡的に積極的に摘除する治療法(intensive downstaging polypectomy ; IDP)も紹介した.Lynch症候群では,大腸,胃,子宮,卵巣,尿路系に対するサーベイランス法を説明した.Lynch症候群で認める大腸腫瘍は,散発性の腺腫に比して異型度が高く,増大速度も速いため,より間隔を狭めた大腸内視鏡検査が必要であることを強調した.「遺伝性大腸癌診療ガイドライン」は2024年に改定されることを紹介した.

小腸腫瘍の内視鏡治療後サーベイランス

著者: 壷井章克 ,   重信修宇也 ,   松原由佳 ,   平田一成 ,   岡志郎

ページ範囲:P.869 - P.876

要旨●近年カプセル内視鏡やバルーン内視鏡などの小腸内視鏡が広く普及したことにより,小腸腫瘍の診断が容易になった.しかし,小腸腫瘍に対する内視鏡治療の適応や治療後のサーベイランスについては,十分なコンセンサスはない.小腸腫瘍の種類は多岐にわたるが,消化管ポリポーシス合併の小腸病変は生涯にわたりサーベイランスが必要である.その際,小腸内視鏡のみならず,従来の体外式超音波検査,X線造影検査,造影CTなど他の診断法の特性を十分に理解したうえで適切なサーベイランスを行う必要がある.

ノート

内視鏡治療後サーベイランスに関わる病理組織学的診断の問題点

著者: 伴慎一

ページ範囲:P.877 - P.881

要旨●消化管粘膜に生じた腫瘍あるいは腫瘍類似病変の内視鏡的切除検体の病理組織学的検索とともに,その後のサーベイランスの過程においても生検や追加切除検体の病理組織学的検索は必須・重要である.それらに関連した問題点としては,切除断端評価に関する精度・方法の限界,再発病変と新規発生病変の鑑別をめぐる困難,背景粘膜の状態が生検や追加切除検体の病理組織学的診断に影響する場合,といったことが考えられる.これらの点を内視鏡医も認識しておく必要があるとともに,日常的に担当病理医と議論し,双方でコンセンサスを得る努力が必要と思われる.

主題症例

15か月で急速な発育進展を来したと考えるSSL由来進行大腸癌の1例

著者: 山川司 ,   山野泰穂 ,   中村隼人 ,   三宅高和 ,   菅原太郎 ,   吉井新二 ,   長谷川匡 ,   仲瀬裕志

ページ範囲:P.883 - P.887

要旨●患者は80歳代,男性.肝腫瘤の精査目的のために当科に紹介され受診となり肝細胞癌と診断された.貧血があり大腸内視鏡検査を行ったところ,上行結腸に5mm大の0-IIa型病変を認めSSLと診断した.その後,高齢のため肝細胞癌は経過観察となっていたが,初回の内視鏡検査から15か月後に血便を生じ,再度大腸内視鏡検査を行ったところ,上行結腸に進行大腸癌を認めた.病変の裾野には鋸歯状と考えられる開大した腺管構造を認め,腫瘍の遺伝子変異解析ではBRAF変異陽性であった.病理組織学的にも大腸鋸歯状病変由来の癌として矛盾せず,本症例は15か月の経過で増大したSSL由来進行大腸癌と考えられた.

内視鏡治療後サーベイランス中に急速に発育した異時性食道癌の1例

著者: 小田丈二 ,   入口陽介 ,   吉永繁高 ,   依光展和 ,   園田隆賀 ,   岸大輔 ,   清水孝悦 ,   中河原亜希子 ,   山村彰彦 ,   細井董三

ページ範囲:P.888 - P.895

要旨●患者は70歳代,男性.20XX年7月に胸部下部食道の0-IIc型病変に対し内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)を施行した.病理組織学的には高分化型扁平上皮癌,T1a-MMであったが,Ly0,V0,pHM0,pVM0であり,その後は経過観察の方針となった.切除後3か月,10か月,21か月に行った経過観察目的の上部消化管内視鏡検査(EGD)では特に明らかな異常は指摘できなかった.さらに1年後の20XX+3年5月,ESD施行後34か月のEGDで前回ESD後瘢痕部近傍に0-Is型の隆起性病変を認めた.術前にSM浸潤癌と診断したが,本人の希望でEMR-Cの方針となった.病理組織学的には中分化扁平上皮癌,0-Is+IIb type,14×12mm,pSM2,Ly0,V1であった.

早期胃癌研究会症例

静脈内進展を来した8mm大0-Is+IIc型大腸SM癌(小腸型)の1例

著者: 神谷綾子 ,   冨野泰弘 ,   入口陽介 ,   小田丈二 ,   水谷勝 ,   山里哲郎 ,   岸大輔 ,   依光展和 ,   金田義弘 ,   安藤早弥 ,   板橋浩一 ,   霧生信明 ,   清水孝悦 ,   橋本真紀子 ,   山村彰彦

ページ範囲:P.897 - P.905

要旨●患者は66歳,男性.便潜血陽性の精査目的で当センターを受診した.大腸内視鏡検査でS状結腸に境界明瞭で段差を伴う星芒状〜面状陥凹を呈する10mm大の0-Is+IIc型病変を認めた.二段陥凹を呈したが,陥凹部の拡大観察でVI型軽度〜中等度不整であった.cT1bと診断し手術を施行した.病理組織学的診断では高分化管状腺癌pT1b(SM 1,350μm),Ly0,V1a(SM)(EVG染色)であった.2段陥凹を呈する0-Is+IIc型早期大腸癌はSM深部浸潤癌であることが多いが,陥凹内のpit pattern診断でcT1bを示唆する所見に乏しい場合は,EUSを含めて慎重に深達度診断をする必要がある.

追悼

「親分」,長い間お世話になりました

著者: 芳野純治

ページ範囲:P.906 - P.906

 中澤三郎先生は昭和33年に名古屋大学を卒業され,名古屋大学第2内科に入局されました.松山市,湖西市などに赴任され,がん研究会病院にも研究に行かれた後,第2内科第6研究室(2内6研)を主宰されるようになりました.私は昭和50年の卒業で,昭和54年に2内6研に入れていただきました.
 私が入った当時の中澤先生は講師で,2内6研は消化管形態グループ,胆膵グループ,消化管機能グループに分かれ,大勢の医局員がいて大変賑やかで強く団結した活気ある研究室でした.そして,先生は医局員の間で尊敬と畏怖を込めて「親分」と呼ばれていました.学生時代にはバスケットボールをされ,長身で当時は随分太っておられた堂々たる体格で,医局を取り仕切っておられたことから「親分」はぴったりな呼び名でした.いつも朝早く大学に来られ,私が研究室でコーヒーを沸かしていると,突然入って来られてコーヒーを入れたカップに少し水道水を足して,それを飲みながら研究のことやこれからの指示を出して,忙しそうに出ていかれたことを思い出します.また,泉から水が湧き出るようにアイデアを次々に出されました.1976〜1993年まで「胃と腸」の編集委員を務められ,早期胃癌研究会の終了後に武内俊彦先生(当時 名古屋市立大教授)とホテルの一室でビールを片手に研究会で提示された症例について楽しそうに話をしておられたこともありました.

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目次

ページ範囲:P.795 - P.795

欧文目次

ページ範囲:P.796 - P.796

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.794 - P.794

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.807 - P.807

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.848 - P.848

次号予告

ページ範囲:P.908 - P.908

編集後記

著者: 山野泰穂

ページ範囲:P.909 - P.909

 今回のテーマは,咽頭から大腸までの消化管癌に対する内視鏡治療後サーベイランスに関して問うものであった.サーベイランスとは,“経済や感染症において調査によって監視する.悪い部分を見逃さないようによく調べて監視することを表す”(国立国語研究所ホームページ)と定義されている.医療,中でも腫瘍や癌を扱う立場としては,腫瘍の発生の有無を何らかの医療行為で監視し,早期発見を目指すことがサーベイランスであり,仮に腫瘍が発生した場合には早期に対処し癌死亡を防ぐことがサーベイランスを行う目的となる.
 筆者は,消化管腫瘍治療後にある一定の間隔で内視鏡検査を行い,直接的に消化管を観察することでサーベイランスは成立するものと単純に考えていた.具体的なサーベイランス期間について問われれば,1〜3年程度と幅をもって回答してきたのは事実であり,たとえ再発したとしてもサルベージできる段階で対処できるのではないかとの予測のもとに応えていた.もちろん患者の状態,切除した病理組織診断結果も踏まえて,あくまで経験的な振り分けをしてきたわけで,恥ずかしながら明確な根拠があるわけではなかった.

奥付

ページ範囲:P.910 - P.910

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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