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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸59巻8号

2024年08月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床と病理のマリアージュ 序説

臨床と病理のマリアージュ—生きた診断学を求めて

著者: 二村聡

ページ範囲:P.1041 - P.1041

 「臨床と病理のマリアージュ」という「胃と腸」誌らしからぬ特集号の序説の執筆がなかなか進まない.それは,テーマがあまりにも深遠だからである.フランス語は全くわからないが,マリアージュ(mariage)という言葉は聞いたことがある.筆者の浅い知識によれば,異なる2つの存在が融合,調和し,ひとつにまとまった存在になるさまを表現する言葉である.文学における詩的な場面で用いられることが多いが,色彩芸術学でも用いられる.
 さて,本誌における臨床と病理のマリアージュを実現するためには何が必要か.①美しい写真が必要,②飽くなき探究心が必要,③ある程度の経験が必要,の3つが挙げられる.しかし,何かしっくりこない.煎じ詰めてみると,「動機は不純でよい」という結論に達した.つまり,上手くマリアージュしている方々の真似をすればよいのである.そして,真似をしながら自分なりのやり方を見つけ出し,確立していけばよいのである.これはまさに「守・破・離」の境地にほかならない.時には伝統という名の呪縛から自分を解放する勇気も必要だ.

主題

消化管切除標本の取り扱いと肉眼診断・肉眼写真撮影法の基本

著者: 中野薫 ,   河内洋

ページ範囲:P.1043 - P.1054

要旨●切除標本の取り扱い工程には,“標本の展開,貼付け,ホルマリン固定,肉眼観察,写真撮影,切り出し,組織切片作製”が含まれる.新鮮切除標本は,できるだけ検体を変性させないよう可及的速やかにホルマリンに浸漬することが重要である.固定後は適切な肉眼観察と良質な画像の撮影を行ったうえで,切り出しの方針を決め,実行していく.肉眼観察すべきものには,癌の存在および進展範囲,組織型,深達度などが含まれる.正確な肉眼所見の認識・評価は必要十分な切り出しのためには必須であり,最終的には病理診断の精度を左右する.さらには,肉眼所見と病理組織学的所見との対応を日常的に確認することにより,より正確な肉眼診断が可能となる.

消化管外科切除標本の切り出し法

著者: 藤原美奈子

ページ範囲:P.1056 - P.1064

要旨●消化管外科切除標本切り出しの目的は,正確な病理診断につながる病理組織標本を作ることであり,臨床画像との対比が可能な標本が作製できれば,臨床医と病理医との対話もスムーズに行える.臨床画像との対比が可能な標本を作るには,病理医と臨床医の情報共有が必須であり,病理医は標本を切り出す前にできる限り正確な臨床情報を収集し,加えて切除標本を徹底的に肉眼で観察し,どこをどのように切り出せば適切な標本が作製できるかを想像することを心掛けなければならない.

消化管内視鏡切除標本の切り出し法

著者: 名和田義高 ,   鈴木康介 ,   五十嵐公洋 ,   濱本英剛 ,   松田知己

ページ範囲:P.1065 - P.1075

要旨●治療前の内視鏡診断を細かく検証するには美麗なマクロ像が必要となる.美麗なマクロ像を得るためには,きれいに内視鏡治療をすることが大切である.内視鏡的切除標本は比較的小さい被写体のため,マクロ像撮影には適切な機材が必要となる.撮影機材の考え方と切除標本の取り扱いについて解説する.

消化管顕微鏡写真の撮影法

著者: 海崎泰治

ページ範囲:P.1076 - P.1083

要旨●消化管顕微鏡写真は消化管画像診断との対比のうえで非常に重要な資料である.顕微鏡写真撮影に最も重要なことは病理組織学的所見を精確に伝えることで,そのためには写真の中に必要な情報を過不足なく取り込むことが必要である.本稿では,顕微鏡写真の撮影法について示す.精確な病理組織学的所見を提示するためには,示したい病変を的確に捉え,美麗で精確な写真を撮影し,適切に写真を組み立てるというサイクルを繰り返し行うことによって,病理組織学的所見を体現し,臨床画像所見との対比を生きたものとすることができる.

内視鏡像と病理組織像の対比方法の双璧—KOTO MethodとKOTO Method II

著者: 岸本光夫 ,   藤田泰子 ,   森永友紀子 ,   吉村亮 ,   中川有希子 ,   木村礼子 ,   間嶋淳 ,   石田紹敬 ,   安田剛士 ,   落合都萌子 ,   土肥統 ,   吉田直久

ページ範囲:P.1084 - P.1098

要旨●内視鏡像と病理組織像を正確無比に対比する2つの方法,KOTO methodとKOTO method IIを紹介する.前者は,検体の固定と撮像,検体画像と病理組織像の重ね合わせ,検体画像と内視鏡像の対応および内視鏡像と病理組織像の重ね合わせ,の3段階で行う方法で,腺管レベルで詳細に対比できる.後者は,薄切後のパラフィンブロックを融解させて粘膜の表面と断面を撮像し,切り出し時の検体画像や内視鏡像と対比して,粘膜表面の薄切箇所と病理組織像を重ね合わせる3次元的な観察方法で,細胞レベルで詳細に対比できる.この2法は少し手間がかかり,後者は病理スタッフの協力を要するが,費用はほぼ不要で,内視鏡像の理解をかなり深めることができる.

消化管病変の病理プレゼンテーション法

著者: 市原真

ページ範囲:P.1099 - P.1106

要旨●臨床画像との対比を目的として病理組織像をプレゼンテーションする手法について述べる.デザインに配慮し,診断の要点を序盤に述べ,目次や写真の提示順を工夫して聴衆の理解を助けつつ,病理組織のルーペ像・弱拡大像・強拡大像それぞれが臨床画像の何と対応するのかを踏まえて,体系的に画像を提示する.聴衆の視線や思考を惑わせないための気配りが求められる.臨床と病理の間に新たな推論を構築するにあたっては病理医の一人語りにならないための工夫が必要である.病理診断において病理標本と向き合うときの心構えと,病理標本を用いてclinical questionと向き合うときの心構えが異なることに留意する.

臨床医の考える臨床画像と病理所見の対比—咽頭・食道

著者: 竹内学 ,   加藤卓 ,   小関洋平 ,   味岡洋一

ページ範囲:P.1108 - P.1121

要旨●咽頭・食道領域における癌の内視鏡像と病理組織像の対比において大切なことは,臨床医が何を知りたいかである.特に最近ではNBI拡大内視鏡を用いて狭い領域の表面微細構造や血管所見を捉えて診断することが多く,その関心領域の病理組織像を正確に描出することが求められる.そのためには,まず目的をもってきれいな画像を撮影すること,対比を行う際の指標となるメルクマールを見いだすことや関心領域を挟む2点マーキング法を活用することが重要である.そして切除した病変の適切な貼り付け,固定,画像撮影,固定後の割入れなど切除標本の的確な処理を行うこともポイントである.さらに病理医による正確なマッピングも必要不可欠である.以上のことを一つひとつ丁寧に行い,最終的に内視鏡像と固定標本マッピングとを2点マーキングを初めとしたいろいろな指標をもとに対応させ,最終的に関心領域の病理組織像を知ることで対比は完了する.

臨床医の考える臨床画像と病理所見の対比—胃・十二指腸

著者: 吉村大輔 ,   深浦啓太 ,   佐々木泰介 ,   大久保彰人 ,   今村壮志 ,   武内翼 ,   小笠原愛 ,   藤原美奈子 ,   桃崎征也 ,   加藤誠也

ページ範囲:P.1123 - P.1137

要旨●臨床医と病理医は,ともに適切な治療による患者の利益を目標としなくてはならない.画像診断は消化管病変の性質を正確に把握するために重要であり,内視鏡検査やX線造影検査などの臨床画像所見と病理組織学的所見との整合性を確認することでのみ,その精度を向上させることが可能となる.対比を通じて診断能力を向上させるためには,病理医との適切な連携が必要であり,対応する設備拡充や技術の向上も求められる時代となった.特に拡大内視鏡診断が普及した現在,“高い解像度を目指した”胃・十二指腸腫瘍性病変の診断と治療,病理医の負担に配慮した検体の取り扱いとコミュニケーション,病理組織学的所見との対比について,自施設の経験と取り組みを供覧する.

臨床医の考える臨床画像と病理所見の対比—小腸

著者: 佐野村誠 ,   廣瀬善信 ,   能田貞治 ,   中沢啓 ,   川上研 ,   柿本一城 ,   中村志郎 ,   疋田千晶 ,   門坂里菜 ,   奥井寛太 ,   山田達明 ,   𥔎山直邦 ,   西谷仁 ,   植田初江 ,   西川浩樹

ページ範囲:P.1139 - P.1151

要旨●小腸病変の臨床画像と病理組織学的所見の対比について,Meckel憩室内翻症,小腸GIST,小腸Peutz-Jeghers型ポリープの3例を提示する.臨床上注目する部位に割を入れ,病理組織像と対比する必要がある.X線造影検査・内視鏡検査時には,ルーペ像・病理組織像を想像しながら施行するよう心がける.また切除した病理標本は必ず自ら顕微鏡で確認し,臨床所見と病理組織学的所見について病理医とディスカッションする姿勢が肝要である.

臨床医の考える臨床画像と病理所見の対比—大腸

著者: 渡邊昌人 ,   斎藤彰一 ,   十倉淳紀 ,   鈴木桂悟 ,   安江千尋 ,   井出大資 ,   千野晶子 ,   五十嵐正広 ,   高松学

ページ範囲:P.1153 - P.1162

要旨●大腸における病変の内視鏡像を含む臨床画像と病理組織像を対比することは,臨床の術前画像診断が切除検体の病理診断に対して正しかったのか,誤っていたならばどこがどのように誤っていたのか,病理診断の結果のみならず,症例の振り返りとして極めて重要である.そのためには関心領域における適切な内視鏡像を撮像すること,適切な位置に割が入るよう切り出しを行うことが必要である.臨床医自らが切り出し業務に関わりつつ,病理医と十分に連携をとって関心領域を正確に切片に出すことで,既知の診断の確認,そして新しい診断学の発展の一助になりうる.

ノート

胃病変における拡大内視鏡像と病理組織像の対比方法

著者: 上山浩也 ,   八尾隆史 ,   中村駿佑 ,   岩野知世 ,   山本桃子 ,   内田涼太 ,   宇都宮尚典 ,   阿部大樹 ,   沖翔太朗 ,   鈴木信之 ,   池田厚 ,   赤澤陽一 ,   竹田努 ,   上田久美子 ,   北條麻理子 ,   永原章仁

ページ範囲:P.1163 - P.1169

要旨●消化管内視鏡診断において,内視鏡所見の特徴を証明する科学的根拠として病理組織像との対比は必須であり,特に拡大内視鏡像と病理組織像との正確な対比が症例検討において重要である.今回,自施設における胃病変に対する拡大内視鏡像と病理組織像の対比方法について概説する.生体内での内視鏡観察方法,内視鏡治療時のマーキング,内視鏡治療直後の検体(ホルマリン半固定後)の割入れと観察方法が手技として必要である.病理検体(ホルマリン固定後)の画像と内視鏡治療直後の検体の画像を用いることで,生体内の拡大内視鏡像と病理組織像を対比することが可能であり,条件さえそろえば内視鏡医のみでも実施可能である.

今月の症例

拡大内視鏡所見から分化度の類推が可能であった腺腫内癌の1例

著者: 山崎晃汰 ,   田中義人 ,   松下弘雄 ,   吉川健二郎 ,   加藤文一朗 ,   萬春花 ,   髙木亮 ,   東海林琢男 ,   榎本克彦

ページ範囲:P.1037 - P.1039

患者
 80歳代,男性.
既往歴
 特記すべきものなし.
現病歴
 スクリーニング目的に施行した大腸内視鏡検査にてS状結腸に病変を認めたため,当院に紹介され受診となった.

第23回臨床消化器病研究会

「消化管の部」の主題1,2,4のレビュー

著者: 渡辺憲治 ,   穂苅量太 ,   後藤田卓志 ,   八尾建史 ,   山野泰穂 ,   大宮直木

ページ範囲:P.1170 - P.1178

 2023年7月15日(土)に第23回臨床消化器病研究会がオンラインにて開催された.「消化管の部」と「肝胆膵の部」に分かれ,「消化管の部」では主題1.炎症性腸疾患(IBD):「症例から学ぶ炎症性腸疾患(Season 6)」〜今こそもう一度腸結核を考える〜,主題2.消化管癌(形態学)上部消化管:「感染性・炎症性胃疾患(ヘリコバクター感染を除く)」,主題3.機能:「便通異常を如何にコントロールするか」〜見逃してはいけない疾患を含めて〜「便通異常症診療ガイドライン2023を踏まえた慢性便秘症および慢性下痢症診療のポイント」,主題4.消化管癌(形態学)下部消化管:「直腸・肛門病変の鑑別診断」の4セッションが行われた.本レビューでは主題1,2,4を取り上げる.

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目次

ページ範囲:P.1035 - P.1035

欧文目次

ページ範囲:P.1036 - P.1036

バックナンバー・定期購読のご案内

ページ範囲:P.1034 - P.1034

早期胃癌研究会 症例募集

ページ範囲:P.1083 - P.1083

「今月の症例」症例募集

ページ範囲:P.1121 - P.1121

次号予告

ページ範囲:P.1180 - P.1180

編集後記

著者: 海崎泰治

ページ範囲:P.1181 - P.1181

 消化管画像診断学は,切除標本の肉眼所見および顕微鏡所見と画像所見との対比により発展してきた経緯がある.画像診断学の理解を深めるには,画像所見と切除標本の病理所見との対比を行うためのできる限りの適切な取り扱いを実践すべきである.切除標本(病理検体)の正しい取り扱いを知り,関心領域をうまく病理標本化するためには,病理医との意思疎通が重要である.一方で最近の内視鏡装置,内視鏡診断の発展は著しく,拡大内視鏡や画像強調内視鏡の普及により,詳細な組織構築を反映した内視鏡診断が行われており,臨床画像に対応できる病理所見の把握が病理医には求められている.
 そこで,本号では切除標本の取り扱いや病理所見との対比の方法について,基本的な作法を踏まえながら,工夫やこだわりを交えて解説いただいた.臨床と病理,双方の立場のマリアージュにより,現在の高いレベルの画像診断学が成り立っていることが再認識できる号になると期待される.

奥付

ページ範囲:P.1182 - P.1182

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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