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文献詳細

雑誌文献

胃と腸6巻12号

1971年11月発行

文献概要

一頁講座

胃粘膜表面のAH法実体顕微鏡観察―(3)Ⅱc型早期胃癌

著者: 吉井隆博1

所属機関: 1日本医科大学病理学教室

ページ範囲:P.1568 - P.1568

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 Ⅱc境界は,1)単純な曲線を描き,段形成の鮮鋭な型(断崖型と名付けた),2)複雑なヂグザグな線を描き,しばしば多数の非癌粘膜島を伴う型(リアス海岸型と名付けた),3)段形成が不鮮明でⅡc壇界がはっきりしない型(遠浅型と名付けた)の三型が区別される.図1はAH法実体顕微鏡観察をした断崖型Ⅱc境界である.非癌粘膜は明瞭な網状SP(6巻10号:第1回参照)を示しているが,下2/3のⅡc面ではそれが不明瞭で,ヘマトキシリンに不規則に淡染し,所々にカニの穴状に散在した不鮮明な胃小窩の残存が認められる.網状SPの網眼部に相当する粘膜部を胃微細区areolae gastricaeと名付けたが,図2のごとくⅡc境界の非癌部でこのareolaeが完全に保たれ,従って境界線が内側に向って凸の微細な弧を描いていることがある.これはareola完全型Ⅱc境界である.また時には,Ⅱc境界の非癌粘膜部のSPが乱れ,areolaeが不規則にくずれていることがある.これは,areola崩潰型Ⅱc境界である.図3はリアス海岸型で,右下半分は非癌粘膜,左上半分がⅡcである.リアス海岸型にもareola完全型とareola崩潰型とがあるが,この例は一部areola完全型,一部areola崩潰型を示す.リアス海岸型境界部Ⅱc面には肉眼的大きさから実体顕微鏡的大きさまでの非癌粘膜島が散在する.島の最も小さいものは図4に示すように一コーコになったareolaで,これを微細島(microislet)と名付け,数コのareolaの集団からなる島を小島(islet)と表現している.図5も断崖型Ⅱc境界であるが,下1/3のⅡcと上1/3の非癌粘膜(FSPが明瞭)との間にFP,SPが乱れて,不鮮明になった帯状の領域が認められる.この部はⅡb状癌粘膜である.従って厳密に言えば,これはⅡbでふち取られたⅡc境界である.また時にはⅡaでふち取られたⅡc境界もある(しかしこのⅡbやⅡaのふち取りは肉眼では読みとれない位のものであるから早期胃癌の型判定には考慮する必要はない).図6は遠浅型Ⅱc境界である.下1/3は非癌粘膜(FSPが明瞭)で,上の方向に進むに従って段々とFSPは乱れ,崩潰し,不明瞭となり遂には消失している.上1/3はⅡc面である.この遠浅境界部では非癌胃小窩と癌性胃小窩とが混在している,あるいは粘膜の基本構造が一部保たれ,一部くずれ,その固有層に癌細胞が浸潤増生している.Ⅱc面はすでに述べたように,FP,SP,FSPが不明瞭で,あるいは崩潰消失しているが,所々にカニの巣のような小溝,あるいは不鮮明で乱れた小溝が散在していることがある.これは残存した非癌性胃小窩や胃小窩,または形成された癌性の胃小窩や胃小溝である.カニの穴や小溝が全く認められないⅡc部は単純癌のことが多く,組織学的に見ても非癌胃小溝は全く残存していない.一般にはⅡc面はヘマトキシリンに染まりにくいことが多い(H不染性Ⅱc).これは第2回目で少しふれておいたH不染性びらんと同一の理由によるものである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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