主題
陥凹性早期胃癌の診断学的問題点―X線微細診断と肉眼標本所見の関連,肉眼標本所見と内視鏡上の色調および癌の組織型との関連性について
著者:
藤原侃
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広門一孝
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八尾恒良
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古賀安彦
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堀之内幸士
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増田信生
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三井久三
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上月武志
,
為近義夫
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岡田安浩
,
新関寛
,
富岡武
,
岡部治弥
ページ範囲:P.157 - P.174
胃疾患に対する各種診断法の最近の進歩発達はめざましい.1966年第4回日本内視鏡学会秋季大会では2cm以下の胃癌の,1969年第7回日本内視鏡学会秋季大会では1cm以下の微小胃癌の診断が検討され,胃癌に対するX線診断の限界も,肉眼的診断の限界にまで迫らんとする勢いである.また一方では,Ⅱb~Ⅱb類似の表面凹凸の少ない胃癌の診断が,重要な課題としてクローズアップされつつあり,最近では,術前に性状診断されたⅡb病変の報告もみられる.しかしながら,微小胃癌や,Ⅱb~Ⅱb類似病変の,X線内視鏡単独,あるいは両者を併用しても,その性状診断は未だ困難なのが現状で,生検診断の重要性が強調されている.しかしながら,スクリーニング検査の段階で,見落されたり,良性と判定されて,生検診断の網目をくぐりぬけるものがないわけではない.また悪性疑診を置かれていても,微小な病巣のばあい,あるいは病巣と判定された部のごく一部にしか癌が認められない病変では,false negativeを出すことが報告されており,X線・内視鏡による性状診断,癌巣の拡がりの判定に関しては,より一層の精密度が要求されているわけである.したがって,病理組織学的な裏づけを基本にして,X線診断と内視鏡診断をより一層緊密にむすび合わせた,綜合診断学の確立が当面の課題ではなかろうか.
筆者らの経験した早期胃癌症例をふり返えってみると,初期の頃のX線写真は病巣の描出が不十分で,微細な検討に耐えるものは少ない.しかし,次第に小さな,凹凸変化の小さな胃癌が発見されるにつれて,細かい所見が描出されるようになり,最近の症例では,微小な胃癌でも,その微細な変化がよくとらえられており,肉眼標本との対比検討が,十分微細な所までできるようになっている.したがって,肉眼標本に関する微細な所見の検討で得られた知見が,直接X線診断に生かされることが多い.そういった意味から,今回は肉眼標本を対象として検討を行ない,X線診断における,性状診断,微細診断に役立てようと試みた.またX線診断と内視鏡診断をより一層緊密につなぎ合わせる意味で,肉眼標本上の所見と内視鏡上の色調とのむすびつき,さらには癌の組織型との関連についても検討を加えて見た.