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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸7巻11号

1972年11月発行

雑誌目次

今月の主題 十二指腸乳頭部病変 主題

十二指腸乳頭部病変のX線診断

著者: 服部外志之 ,   中沢三郎

ページ範囲:P.1437 - P.1445

 十二指腸乳部頭病変をX線診断学の立場より考察するには,乳頭部の持つ特殊性を充分に理解しておかねばならない.即ち,乳頭部は解剖学的には,十二指腸側よりみれば,MASSであり,胆,膵管側よりみれば,SPACEである二面があり,また乳頭部病変は,単に乳頭部の病変にとどまらず,肝,胆道,膵と密接な関連を持ち,互に影響し合うことを理解し,十二指腸側,胆,膵管側,両者の相互関係を検討することが大切である.

 筆者は,乳頭部病変について,基礎的,臨床的な研究1)~3)を進めて来たが,今回は,乳頭部病変で,現在,最も重要な課題である乳頭部癌及び謂ゆる乳頭炎に際し,十二指腸乳頭部像(乳頭部像と略す)および胆管像が如何に変化し,また両者がどのような関連で変化するかを検討し,報告する.

十二指腸乳頭部病変のX線診断

著者: 丹羽寛文 ,   藤野雅之 ,   笹本和啓

ページ範囲:P.1447 - P.1454

 乳頭部は十二指腸の内で独立した特殊の部位であって,X線的・内視鏡的にも特徴ある形態を示し,その病変の頻度も比較的多く,臨床上しばしば問題となる所である.

 本文では,まず筆者らの行なっている検査方法について述べ,ついで正常乳頭の基本的X線像について,2,3の点を検討し,併せて症例を中心に,この部の病変のX線診断について検討を加えてみる.

十二指腸乳頭部病変の内視鏡診断―内視鏡像と生検所見ならびに膵・胆管像

著者: 春日井達造 ,   久野信義 ,   青木勲 ,   木津稔

ページ範囲:P.1455 - P.1465

 ファーター乳頭は胆管および膵管の十二指腸開口部で,胆道疾患および膵疾患と乳頭の関連が古くから論じられて来たことは衆知のことである.しかし,十二指腸ファイバースコープの開発以前は,非観血的に乳頭部を直接観察することは不可能であったが,十二指腸ファイバースコープの開発1)~3)以来,その改良と手技の進歩により内視鏡的に乳頭部を観察することが可能となり4)~8),直視下に生検も行なわれ6)9)~11),さらにファイバースコープを用いた逆行性膵・胆管造影も試みられるようになった9)12)~24)

 私どもは乳頭部の内視鏡ならびに生検所見を検討し,膵・胆道疾患とそれらとの関連,とくに内視鏡的膵・胆管像との関連を追求し,いささか知見を得たので報告し,考察を加えた.

十二指腸乳頭部病変の内視鏡診断

著者: 小林正文 ,   岡部悠 ,   田口武人 ,   太田安英 ,   常岡健二

ページ範囲:P.1467 - P.1472

 十二指腸において,Vater乳頭部は,十二指腸球部についで病変の多い部位であり,特に膵胆道系との関連において重要である.内視鏡的にVater乳頭を観察した記録は,1966年Watoson1)らによるものが当初である.本邦においても,十二指腸鏡開発当初より,乳頭観察は大きな目標の一つであった.そのため,乳頭の観察には意欲的な努力が払われて来た.そして今日,ごく特殊なものを除けば,乳頭観察は全例に可能となった.また,観察のみではなく,生検,逆行性膵胆道造影が可能となり,乳頭部領域,膵胆道疾患の診断に極めて重要な情報を提供してくれる検査法として,臨床的にも次第に評価され,その位置が確立されつつある.

名称

 Vater乳頭部の名称は,解剖学の成書においても多少の異同がみられ,臨床的文献においてもその使い方は統一されていない.内視鏡学的名称もそれに準じており,名称の統一が提唱されてきたが,今だ実現されるに至っていない.解剖学的にも,十二指腸縦皺という名称が,図1①の部分をさしているもの(Spalteholz2),Brous3),金子4)ら),③の部分をさしているもの(Beuninghoff,Goerttler5)),②の部分も乳頭と呼ばず十二指腸縦皺と呼んでいるものもある(Pernkopf6)),また口側から十二指腸縦皺,Vater乳頭,小帯と呼んでいるものもある(Hirsch7),Brausら).臨床的には膵胆道系を主体に考え,その開口部として胆道,膵側からながめる姿勢が底流にあるようである.内視鏡的にも,最初に乳頭開口部の開閉運動を観察記録したWatosonはpapillaという名称を用いずAmpullaという名称を用いている.大井ら8)は内視鏡的立場から乳頭部の詳細な名称を提唱しているので,それを参考に図1に本稿で用いる名称を示す.ここで最も問題になるのは①の部分,および乳頭部という名称である.今日,内視鏡的に部分を区別して観察することは可能であり,また所見も分けて観察することが大切であるとの見解は一致している.大井は,②および③の部分を乳頭部としており,またBoyden9)も②と③を十二指腸縦皺とし,②を乳頭,③を小帯としてこれらを1単位と考えているようである.しかし中沢10)らも指摘している如く,①および②はVaterian systemを被う十二指腸粘膜で,臨床的にも病理学的にも切り離すことのできない1つの単位であると考える.小帯に関しては,今日まだ生理,病理学的な意味付けは充分でなく,臨床的に問題にされることも少ないので,①を十二指腸縦皺,②を乳頭(Vater乳頭,大十二指腸乳頭)両者を合せて乳頭部と呼ぶのが最も簡潔であると考える.細部にわたる名称に関しては大井らの提唱が,次第に一般的に用いられてきているようである.

十二指腸乳頭部病変症例

乳頭部癌の1治験例

著者: 羽白清 ,   三宅健夫 ,   前谷俊三 ,   柏原貞夫

ページ範囲:P.1487 - P.1488

 患 者:66歳 男.

 病 歴:2カ月前に発熱,以後食思不振あり体重10kg減.1週間前黄疸出現.腹痛・嘔吐・出血を見ず,理学的にも高度黄疸のほか著変を認めない.

乳頭部癌の1例

著者: 渋江正 ,   納利一 ,   山口淳正 ,   島田紘一 ,   堀雅英 ,   入佐俊昭 ,   花牟礼文太郎 ,   菊池二郎 ,   北国敏 ,   久木元宏哉

ページ範囲:P.1489 - P.1491

 患 者:46歳 男.

 主 訴:黄疸.

 昭和46年10月悪心吐嘔,12月末高度黄疸,一時軽減するも再度黄疸増強,47年6月当科受診,第2外科へ入院

 現 症:黄疸著明,心窩部3横指肝触知.

乳頭部癌の1例

著者: 木下昭雄 ,   松江寛人 ,   市川平三郎 ,   神田裕三 ,   岡崎伸生 ,   服部信 ,   小黒八七郎 ,   北岡久三 ,   広田映五 ,   佐野量造

ページ範囲:P.1492 - P.1494

 患 者:S. S. 59歳,女

 主 訴:黄疸および発熱.

 現病歴:昭和46年3月より無痛性黄疸あり,発熱を伴う.内科的治療にて黄疸軽減せず.6月3日当院受診し11日入院する.

 現 症:体格小,栄養不良,全身に黄疸貧血を認め,肝2横指および腫大した胆囊を触知す.

乳頭部癌の1例

著者: 檜山護 ,   中島幹夫 ,   吉田貞利 ,   斎藤建

ページ範囲:P.1495 - P.1497

 患 者:T. K. 45歳 男性

 既往歴:12年前胃潰瘍で胃切除(BI法)

 経 過:発症と同時に増強する黄疸のため昭和45年4月11日入院.Courvoisier's signを認め,下部胆道閉塞の診断で外胆のう瘻設置.X線,内視鏡検査で乳頭部癌と診断し,黄疸軽減を待って膵頭十二指腸切除を行なった.肝,リンパ腺転移なし,術後2年を経過した現在健在.

乳頭部癌の1例

著者: 松沢良和 ,   武藤邦彦 ,   横田勝正 ,   林田康男 ,   池口祥一 ,   信田重光

ページ範囲:P.1498 - P.1500

 患 者:佐○ゆ○子 46歳 女子

 診 断:乳頭部癌.

 主 訴:発熱,右上腹部痛.

 現病歴:入院2カ月前より突然39度台の高熱を来たし近医で感冒として治療を受けていたが,好転せず,その後1週間に1回の割で発熟したために本院入院する.

乳頭部腫瘍(異型上皮)の1例

著者: 田中弘道 ,   佐久本健 ,   栗原達郎 ,   岡本英樹

ページ範囲:P.1501 - P.1503

 患 者:神○義○ 59歳 男

 主 訴:空腹時心窩部痛

 現病歴:約8カ月前に上腹部膨満感を訴え,某医にて治療を受け,自覚症状軽快した.1カ月前に胃透視を受け,十二指腸下行部に異常陰影を指摘され,当科は紹介された.

 入院時には空腹時心窩部痛が著明であった.22歳の時肺炎にて加療した以外,家族歴,既往歴ともに特記すべきことなし.

乳頭部の良悪性境界病変

著者: 福本圭志 ,   鹿岳研 ,   三崎文夫

ページ範囲:P.1504 - P.1506

 患 者:森○運○助 72歳 男

 昭和45年8月,疝痛発作あり,救急病院に入院し,総胆管結石の診断にて手術を施行された.しかし,術後も時に38℃~39℃の発熱があり本院に紹介される.

 入院時検査成績では,便潜血陽性,軽度貧血,GOT,GPT,Al-phの軽度上昇を認めた.胃十二指腸X線検査(図1,2)では乳頭部に一致して腫瘤陰影を認め,PTC(図3)では乳頭部の腫大と,総胆管の拡張,その末端の硬化狭小化を認め,これに続く乳頭内での造影剤の不規則な流れがとらえられた.内視鏡像(図4,5)で,乳頭部は粘膜面に多数の小白斑と1個の発赤した結節を有し,全体として著明な腫大を示した.生検を試みたが鉗子レバーの故障により目標組織の採取ができず,確診は得られなかったが,この結節部の所見を重視し,X線所見と合わせて乳頭部癌と診断した.

乳頭部の良性隆起性病変

著者: 森井健 ,   竜田正晴 ,   遠藤義彦 ,   奥田茂 ,   谷口春生 ,   大西明 ,   小味淵智雄

ページ範囲:P.1507 - P.1509

 患 者:S. H. 65歳 女

 病 歴:3年来糖尿病で通院し,Controlは良好であった.約20日前右上腹部に疝痛発作があり,2日前より悪感,発熱と共に黄疸が出現し入院.その後症状は比較的急速に消失し,1年後の現在も経過良行である.

座談会

十二指腸乳頭部病変

著者: 松崎松平 ,   武内俊彦 ,   大井至 ,   小越和栄 ,   三田正紀 ,   岡田安浩 ,   白壁彦夫 ,   高木国夫

ページ範囲:P.1474 - P.1486

 白壁(司会) きょうは十二指腸の乳頭部のあたりについて,第一流の方々から最近の話題を伺って,われわれうんと知識を吸収しようという試みです.

 まず第1に,十二指腸の診断,それからきょうの話題の中心である乳頭部の診断,これは近年非常に盛んになって,診断がずっと向上してきた.まずその歴史的な点について,高木先生,大井先生.

症例

残胃断端に発生したⅡc+Ⅲ型早期胃癌の1例

著者: 中村曙光 ,   綿引定清 ,   洲崎兵一 ,   中村玄行

ページ範囲:P.1513 - P.1516

 筆者らは良性潰瘍の胃切除後18年目に,残胃吻合部近くに発見されたⅡc+Ⅲ型早期胃癌を経験したので報告する.

症例

 患者は68歳の男子で事務系の会社員である.家族歴には特記することはない.既往歴としては,昭和24年胃潰瘍穿孔のために開腹手術をうけているが,この時は胃切除は行なわれていない.昭和27年再度穿孔のために2/3胃切除(Billroth Ⅱ)が行なわれている.

レ線追跡調査により発見された表層拡大型早期食道癌の1例

著者: 山下忠義 ,   中谷正史 ,   多淵芳樹 ,   稲積恒雄 ,   川口勝徳 ,   高階正博 ,   伊藤悟 ,   藤田忠雄 ,   石川羊男 ,   伊藤信義

ページ範囲:P.1517 - P.1523

 近年,消化器癌の早期発見,早期治療の概念が普及し,胃癌においては多数の早期胃癌症例が集積され,その治療遠隔成績が非常に良好であることが報告されている1).しかし食道癌に関しては進行癌がほとんどであり,それの早期癌症例は1970年鍋谷の集計28例2)と,その後の報告例を加えても30数例3)~5)にすぎない.最近,筆者らは約1年間の愁訴が続いた症例で,頻回のレ線検査により食道の異常を指摘されて,食道ファイバースコープ,生検により確認しえた表層拡大型ともいいうる広範な早期胸部中部食道癌を経験したので報告する.

症例

 患 者:K. Y. 68歳,♂ ボイラーマン.

 家族歴:既往歴ともに特記すべきことなし.

 嗜好品:酒1日約2合,煙草1日約20本.

 主 訴:えん下障害.

 現病歴:昭和45年11月頃より,水を飲んだり,食事をした時に胸骨後部でしみる感じがした.その後症状は持続し,昭和46年初め頃よりえん下障害が加わってきた.某医で同年3月31日食道胃レ線透視をうけたが,異常所見はないといわれた.しかし依然としてその愁訴は持続したので,8月31日再度の食道透視をうけたが,やはり異常を指摘されなかった.9月1日3回目の透視の結果,中部食道の不整陰影を指摘されて本院内科を紹介され,再度にわたる食道精査をうけたが,何らそれをうらづけるものは指摘されなかった.しかし,その後も水を飲んだり,食事をした時にかえってえん下障害が増強し,10月2日および11月9日の透視の結果,最後に中部食道の異常所見を再指摘され,精査の目的で当科へ紹介されてきた.

重複Ⅱc型早期微小胃癌の1例

著者: 竹腰隆男 ,   山瀬祐彦 ,   落合英朔 ,   氏家紘一 ,   杉山憲義 ,   丸山雅一 ,   熊倉賢二 ,   高木国夫 ,   馬場保昌 ,   西俣嘉人 ,   中村栄一

ページ範囲:P.1525 - P.1531

 早期胃癌の診断が漸次微細な変化を問題とし,極く小さなⅡcや,Ⅱb型早期胃癌を診断する必要が大きく叫ばれている.筆者らは7×5mmと4×4mmのⅡc型早期微小胃癌の多発癌を経験したので報告する.

症例

 患 者:ハ○タ○子,44歳 女

 既往歴:特記事項なし.

 現病歴:5カ月前より心窩部痛および背部痛を訴え,某医を受診し胃X線検査・胃内視鏡検査の結果,胃潰瘍と診断され,2カ月間内科的治療をうける.しかし体重減少,胃部不快感を主訴として45年6月25日来院する.

胃サルコイドージスの1例

著者: 藤間弘行 ,   新井政幸 ,   斉藤脩司 ,   町谷肇彦 ,   垣添忠生 ,   角田洋三 ,   大原毅 ,   片柳照雄

ページ範囲:P.1533 - P.1539

 サルコイドージスは原因不明の全身性類上皮細胞肉芽腫症であり,縦隔および末梢リンパ節,肺,肝,脾,皮膚,眼,指骨,耳下腺その他の臓器を侵すが,胃に発生することは稀であり,欧米で30数例1),本邦で11例2)~11)の報告をみるにすぎない.

 われわれは,直視下胃生検にて,確診にはいたらなかったが類上皮細胞肉芽腫を証明することのできた胃サルコイドージスの1例を経験したので報告する.

一冊の本

Gastroesophageal Reflux and Hiatal Hernia

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.1446 - P.1446

 ある本が名著といわれるまでには大体数年を要することが多いが,臨床医学とくに消化器病関係の本は数年もたてばふるくなりすぎるのが普通である.

 そこで今年出版されてまもない消化器病関係の本を1冊紹介しょう.

一頁講座

胃癌患者の前検査資料よりみた初回X線検査のあり方―(1)幽門前庭部二重造影法

著者: 八尾恒良 ,   西元寺克礼

ページ範囲:P.1466 - P.1466

 前回,幽門前庭部を中心とした二重造影法の必要性と,その撮影法について述べた.この部の二重造影法は,胃角部を中心とした至適空気量の二重造影像で,盲点となる部分を予測し,空気注入前に比較的少量の空気で幽門前庭部を描出することを目的とする.この際,幽門輪まで十分に描出することが大事である.

 図1は,一応前庭部中心の二重造影像が撮影はされているが,幽円輪近傍の描出がない.図2は,その圧迫像であるが,矢印の部に小さい陰影斑とその周辺の透亮像が認められ,小さいBorrmaⅡ型またはⅡa+Ⅱc型癌であろう.この時点では,この1コマの圧迫スポットフィルムを見落した.

胃体部の変形について(2)―(とくに多発潰瘍および線状潰瘍における小彎の変形について)膨隆型変形

著者: 政信太郎

ページ範囲:P.1473 - P.1473

 熊倉は,多発潰瘍にみられる小彎の局所的変形を分類しているが,中でもこの膨隆型は目新しいものであった.

 この膨隆型変形をさらに詳しくみていくと,小彎の健常のふくらみと殆んど鑑別できない軽度のもの,小彎にとってつけたようにはっきりとびだしたものまで,その程度はさまざまである.程度の軽いものは単発潰瘍にもみられるが,しかし,膨隆がある程度強くなると(図1,2),多発潰瘍および線状潰瘍におおむね特徴的になる.

胃癌の経過(3)

著者: 中島哲二

ページ範囲:P.1511 - P.1511

 この症例では,術前1年5ヵ月前のフィルムがえられた.手術直前のX線像とくらべるとその変化が少ないのに驚かされよう.

悪性潰瘍の治癒例(7)

著者: 三輪剛 ,   武藤征郎 ,   広田映五

ページ範囲:P.1524 - P.1524

 〔第7例〕

 患 者:T. K. 48歳,男

 主 訴:心窩部痛

 理学的検査所見:特に異常なし.

 胃液酸度:ガストリン法で最高総酸度116mEq/L.

 胃カメラ所見:図1に示すように,胃角小彎に,円型の活動期の潰瘍あり.辺縁は発赤,腫脹している,集中する粘膜ひだは階段状のヤセ,虫喰状の中断,および,ペン先様細まり等,著明である,潰瘍の白苔は,いくぶんはみ出し肛側前壁よりには,不正出血がみられる.胃角の弧の変形あり.

腸上皮化生の内視鏡拡大観察

著者: 丸山正隆 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.1532 - P.1532

 まず図1をごらんになって頂きたい.幽門洞粘膜の拡大内視鏡所見である,この図がなにを意味しているか説明を加えないと理解できないであろう.近接拡大像とはいっても,なにも拡大用胃ファイバスコープというような特殊目的の内視鏡を使用して得られた像ではない.すでに今日ではかなり多く使用されているGIF type Dをもちい,われわれのいう特異型類似の腸上皮化生性顆粒を観察したものである.

 これによって,かなり特徴的な像が現われている.次の図2は0.05%エバンスブルーを撤布し同様近接観察したものである.この2枚の内視像をよくみて頂くと,周辺と比較的明瞭に境された扁平隆起の表面にかなり規則的な小腸絨毛よりもはるかに短かく,長さも比較的均一な糸状絨毛に類似した表面構造を示している.

寄稿

早期胃癌の40年

著者: René-A. Gutmann

ページ範囲:P.1540 - P.1543

 貴誌1972年4月号「早期胃癌肉眼分類起草10年」の主題である討論に参加することをお許し願いたい.また,10年という表題に,40年という私のタイトルを追加させて頂きたいものである.私は分類の重要性,早期胃癌の定義など,二三の点を検討し,併せて,貴誌の読後感を率直にのべてみたい.

分類の重要性

 私の感じでは,日本の方たちは分類というものの評価が大袈裟だと思う.そのため,早期診断の新しい研究まで,日本式分類「以前」と,「以後」の,二つの時期に分類されてしまった.また,「以前」には,もう時代おくれになった肉眼的定義が使われていたとお考えのようだ.しかしながら,日本式分類は,まさしく肉眼分類そのものではないだろうか?切除胃で観察した病変の代りに,ファイバースコープを通して眼でみた病変の,肉眼的外観を提案するだけのことではないのだろうか?どちらの記載法にしろ,顕微鏡の助けなくしては,粘膜内に限局する癌(後でわかるように「早期癌」)に関係があるのか,癌が境界を越えて浸襲しはじめているのか(これはまさに「進行癌」のはじまり),決定でき得ない.したがって,私が40年前に行なった分類(ulcer-like,infiltrating,tumorous forms)は,日本式分類に劣らず正確であり,それと同様不十分でもある.なぜなら,両方とも「早期癌」に先がけて存在すべき,分類の確実さを立証するためには,ひきつづいて,顕微鏡的検査を必要とするので,両時期間の新分野となるには不十分なのである.

話題

胃内視鏡検診車の開発と活動

著者: 熱海明 ,   水戸省吾 ,   菊地隆三 ,   松田忠三 ,   大内敬一 ,   桐生徳義 ,   古沢晃宏 ,   沼沢誠 ,   高橋邦弘 ,   山形敞一 ,   渡辺一男

ページ範囲:P.1544 - P.1547

 胃癌を撲滅するためには胃癌を早期に発見して手術するのが目下唯一の方法であり,そのためには主として胃集検によって無症状の者から早期癌を発見しなければならない.

 胃集検は経験的にいって,数をふやせばふやす程多くの癌がみつかるのであるが,胃集検の数をふやすということは左程簡単なことではない.かなりの数の間接フイルムの読影,その数の約20%とはいえ,一度に纒った数となる要精検者の処理.これらの処理には,かなりの数の専門医・専門設備が必要である.

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欧文目次

ページ範囲:P.1435 - P.1435

書評「胃癌の病理―微小癌と組織発生」

著者: 長与健夫

ページ範囲:P.1445 - P.1445

 中村恭一君は癌研病理部に奉職する中堅パソロヂストで,ここ10年近く胃癌の病理組織とくに組織発生の問題に没頭してこられた.昔から胃癌の病理組織に専心してきた病理学者は少なくなかったが,いかんせん当時は対象とする材料の殆んどが進行癌か末期癌であったために,癌と非癌粘膜の組織形態の間の断絶が余りにも大きく,その間に橋をかける術がなかった.戦後胃癌の早期発見や早期治療の面での進歩は著しく,就中X線二重造影法や内視鏡検査法により胃癌の初期の姿を目の前にすることが可能になった.

 このことは臨床医学の一大成果であるばかりでなく,病理学者が多年夢見ていたもろもろの断絶を埋めるに願ってもない好機会を提供することとなった.

編集後記

著者: 春日井達造

ページ範囲:P.1548 - P.1548

 ファーター乳頭は十二指腸における悪性腫瘍の好発部位であり,膵,胆管の十二指腸開口部として古くから注目され,膵・胆道疾患との関連において種々検討されてきたことはよく知られている.しかし,その臨床診断となると上部消化管X線検査やLiottaにより初めて開発された低緊張性十二指腸造影法が唯一の形態学的検査法であった.しかし,この数年来ファイバー十二指腸鏡の開発進歩により直視下にこれを観察し,生検や細胞診が行なわれるようになり診断成績も更に向上した.

 本号においては十二指腸乳頭部病変の臨床診断における最近の進歩を主題とし,X線と内視鏡診断をとりあげた.わが国におけるこの方面の最新の診断法と研究成果が集録されたわけだが,要するに,十二指腸も胃や食道と同様,診療の第一線の医師にとって自由に料理し得る臓器となったことは特筆すべきであり,肝,胆,膵への従来とは異ったデイメンジョンからのアプローチも試みられつつあり,今後の進展が楽しみである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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