icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

胃と腸7巻3号

1972年03月発行

雑誌目次

今月の主題 早期胃癌臨床診断の実態(診断成績の推移と問題点) 主題

早期胃癌臨床診断の実態―内視鏡的立場より

著者: 小林世美 ,   春日井達造

ページ範囲:P.281 - P.284

 私共の施設が開かれたのは,1964年末であり,その後1970年末までの6年間に約200例の早期胃癌が発見され,治療の対象となった.これらにつき内視鏡的立場より,いかに術前診断が的確になされたかを検討した.

早期胃癌臨床診断の実態―FGSによる診断水準の年代的推移

著者: 福地創太郎 ,   檜山護 ,   望月孝規

ページ範囲:P.285 - P.289

 早期胃癌の肉眼的形態分類が,日本内視鏡学会によって制定された1962年は,内視鏡の分野では,1958年米国のHirschowitzが創始したファイバースコープが初めてわが国に輸入され,さまざまな欠点を有しながら,従来の胃鏡に優る動的観察性能が注目を浴びた年でもあった.

 この1962年以前の時代には,粘膜癌や初期潰瘍癌の病理組織学に関する先駆的な研究があったが,臨床的に早期胃癌がX線や内視鏡でどうにか把えられるようになったのは,1950年代の末期から1960年代に入ってからのことである.しかし,1962年早期胃癌の肉眼的分類が試案として提案された段階では,未だ今日のような早期胃癌の診断規準は確立していなかった.その後,この内視鏡学会分類を規準として,諸家により多数の症例が集積され,その切除胃肉眼所見や病理組織所見と,X線および内視鏡像を対比することにより次第に早期胃癌の診断規準が確立され,さらに今日のような微細病変の診断も可能になるまで発達したということができる.

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 横山秀吉 ,   長与健夫

ページ範囲:P.291 - P.294

 早期胃癌臨床診断の年次推移に関しては,既に胃癌研究会や1971年10月日本臨床外科医学会総会に於て説述せるごとく,1955年X線だけの時は年平均10例,1959年胃カメラ併用により平均35例,1962年ファイバースコープ併用により平均45例,1966年X線テレビの併用で平均50例,そして1968年生検の併用で年平均60例であった.すなわち,早期胃癌発見の年次別頻度の増加は表のごとく診断用器具の開発とその診断技術の進歩によるといえる.しかし早期胃癌の病態やその発見の動機を詳細に検討してみると,必ずしも症例数の増加は臨床診断にのみ依存するとはいえない.よって今回は色々の要素を考慮して,早期胃癌臨床診断の実態とその問題点につき報告する.資料は1952年2月より1970年12月までの,早期胃癌597例およびこれに関連せる症例144例計741例である.この症例中には集検による例は含まれていない.診断法は,1962年早期胃癌全国集計の頃は,500mAレントゲン,胃カメラⅢ型,Ⅳ型(A・B)およびHirschowitzのファイバースコープのみであった.そして1968年以後はX線テレビ,胃カメラVa,GTFS,町田SLファイバースコープ,生検は町田BLを使用している.その他の詳細は表に示す通りである.

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 白壁彦夫 ,   西沢護 ,   早川尚男 ,   吉川保雄 ,   栗原稔 ,   塚田隆憲 ,   細井董三 ,   池延東男 ,   黒沢彬 ,   山中啓子 ,   高木直行 ,   織田貫爾 ,   勝田康夫 ,   人見洋一 ,   武田儀之 ,   板井悠二 ,   石橋幸夫 ,   村上忠重 ,   信田重光 ,   安井昭

ページ範囲:P.295 - P.300

 早期癌の集計は,これは,正確に扱ってきた.早期癌にかんしては,自信をもって診断の推移を考察することができる.ところが,鑑別診断の成績の一部には,集計にさいして不確かなところがある.では,フイルムを見直そうとすると,昔のフイルムは,いまではどこに行ったのかわからないという始末である.フイルム整理がよく行われていない実情が,しみじみくやまれる.あくまで正確なデーターだけを扱う立場に立つと,いいつけられた項目すべてを満たすことができない.

 早期癌分類が制定された時期は,これは万人に公平なときであったといえる.ところが,内視鏡や生検器具の使用にかんしては,万人に共通な使用開始時期というものがきめられない.なぜならばふりかえってみても,新製品の使用は,始めのうちは限られた人たちのものであった.われわれが使用できたのは,はるかに遅れた.

早期胃癌臨床診断の実態―細胞診による早期胃癌診断の進歩

著者: 信田重光 ,   沢田好明 ,   荒川征之 ,   松沢良和 ,   池口祥一

ページ範囲:P.301 - P.306

 胃内容より癌細胞を発見して癌の診断を下そうとする試みが19世紀後半より文献上に散見されるようになり,今世紀に入りPapanicolaou(1941年)による子宮癌の細胞学的診断法の大系づけにより,この方法が胃癌の診断に導入されて以来,細胞採取法にみられる幾多の変遷を経て現在に至っているのが胃細胞診の歴史である.この間,X線,内視鏡診断学の進歩と相俟って,早期胃癌の質的診断の面で,細胞診がとり上げられるようになって以来ほぼ10年になる.

 本稿では胃細胞診のこれらの歴史的な歩みを背景として早期胃癌診断において細胞診が果たした役割について述べたい.

早期胃癌臨床診断の実態―診断成績の推移

著者: 崎田隆夫 ,   小黒八七郎 ,   福富久之 ,   三輪剛 ,   霞朝雄 ,   谷礼夫 ,   小林正己 ,   午山直樹 ,   熊谷博彰 ,   島田昌輝 ,   阿南郷一郎 ,   黄沾 ,   畑俊一 ,   武藤征郎

ページ範囲:P.307 - P.311

 われわれの病院においては開院以来450例の早期胃癌を経験しているが,現在にいたる約9年間の期間を振り返えってみると大きな四つの時期を区分することができる.これを図1に示したが,時代の四区分というより四つの流れとでもいった方がよいかもしれない.第一の時期は胃カメラの時代である.

 開院の1962年,丁度この頃は早期胃癌分類起草の時期であったが,この時には主としてV型胃カメラが使用されていた.以後胃カメラは強く屈曲することによって盲点の解消をはかる方向と,細く柔らかく患者の苦痛を軽減する方向へと改良の道をすすんできた.われわれの病院ではV型からVA型,P型P1,2型などが使用され,現在一応屈曲し盲点の解消がなされ,かつ細く患者にあたえる苦痛の少ないカメラとしてPA型が多く用いられている.

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 八尾恒良 ,   古賀安彦 ,   岡田安浩 ,   富岡武 ,   岡部治弥 ,   広門一孝 ,   三井久三 ,   為近義夫 ,   増田信生 ,   藤原侃 ,   堀之内幸士 ,   谷啓輔 ,   崎村正弘

ページ範囲:P.313 - P.317

 内科医であるわれわれにとって「早期胃癌臨床診断の実態を把握することは,極めて困難である.その理由は,同じ内科の同じ研究室員が発見し,早期胃癌と診断した症例であっても,外科手術や病理学的検索は,1カ所で同じ方法で行なわれるとは限らず,種々の病院で,しかも種々の方法で行なわれるためである.従って,良性潰瘍と診断したものの中に,実際は癌であって,しかもわれわれがその間違いに気付いていない症例があることが当然予測される.これは大学病院内科,殊にその関連施設にまで診断の場を求める消化器研究室の避け難い悩みであろう.

 今回は,表記したメンバーが九大第2内科消化器研究室に在籍した期間に診断したもののうち,九大癌研病理,九大第2病理,九大第2外科,国立福岡中央病院にて病理学的検索の行なわれた症例のみを対象として,与えられた表を作製した.

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 田中弘道

ページ範囲:P.319 - P.321

 1959年末にⅡc型早期胃癌を初めて術前に粘膜癌疑と診断してから,1970年末までの11年間に教室でX線,および内視鏡検査を行なった早期胃癌症例は114例である.このうち術前に早期胃癌と診断できたものは83例,73%であり,進行癌と誤診したもの8例,7%,良性疾患と誤診したもの23例,20%であった.

 1962年に早期胃癌の肉眼分類(内視鏡学会)が設定されるまでの2年間はBorrmann分類にあてはまらない小規模の病変を粘膜癌,あるいは粘膜癌疑としていた.この2年間に15例の早期胃癌例を経験しているが,術前に正診したものは疑診を含めて,9例(60%)に過ぎない.なお,この2年間は私たちが胃カメラ検査を始めた時期であり,地区病院あるいは先輩から胃カメラ検査を依頼される機会が頻繁であったが,この期間に早期胃癌の誤診による良性疾患の切除例はほぼ同数の13例である.

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 奥田茂 ,   遠藤義彦 ,   谷口春生

ページ範囲:P.323 - P.325

 Ⅰ.早期胃癌発見例数と内視鏡検査の年次別推移

 私達の施設で癌部門が発足したのは昭和36年4月である.昭和40年5月癌部門の拡張が行なわれ,昭和43年4月には施設集検が併設された.

 早期胃癌の年次別発見例数は次頁表2のごとく昭和30年代では年間ほぼ10例前後であったが,昭和40年を境として飛躍的に増加し,昭和41~43年頃では年間40例を越え,昭和44年以降は60例以上となっている.

早期胃癌臨床診断の実態―とくに内視鏡診断の立場から

著者: 並木正義 ,   村島義男

ページ範囲:P.327 - P.330

 われわれが胃内視鏡検査を本格的に始めたのは1956年1月であるが,ルーチンな検査として,さかんに行なうようになったのはV型胃カメラが作られた1960年からである.1964年11月までに延べ7,415例に検査を実施している.

 1964年になり,アメリカのHirschowitzのファイバースコープの開発に刺激されて,国産ファイバースコープが製作された.われわれは同年11月より町田製のFGS-Aおよびオリンパス製のGTFを使用し,1967年11月までに延べ9,390例に胃内視鏡検査を施行した.

早期胃癌臨床診断の実態―内視鏡的立場より

著者: 高木国夫 ,   池田靖洋 ,   淵上在弥 ,   藤井彰 ,   原島三郎 ,   竹腰隆男

ページ範囲:P.331 - P.338

 現今の早期胃癌の臨床診断は,X線,内視鏡ならびに胃生検の3本柱によって,その診断技術はほぼ確立し,発見され診断される病巣も漸次小さい病巣に移っている,なかんずく,胃生検によって,胃内に発見される限局した小病変の組織診断も可能であって,直径5mm前後の病変でも適確なる胃生検により,その質的診断もできるまでに発展した.このように胃疾患,とくに早期胃癌の診断法の急速な発展は,現今世界の消化器学者の注目を集めるに至っている.かかる診断法の発展は,一朝一夕にでき上がったものでなく,その発展のかげには幾多の問題もあって,その解決には10年以上にわたる臨床医ならびに病理学者の努力がなされてきた.早期胃癌の診断上もっとも重要な早期胃癌の肉眼分類が,1962年に発表されて,本年(1972年)は丁度10年目に当っている.この間,X線検査の進歩,および内視鏡の進歩と共に,胃生検法が確立されている.このような診断法の進歩を背景にして,早期胃癌の診断水準の推移とその問題点について,1962年の早期胃癌肉眼分類起草の時期,胃生検法の確立期を軸として各種の内視鏡検査による早期胃癌の診断を検討してみたい.

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 山形敞一 ,   石川誠 ,   大柴三郎 ,   石岡国春 ,   上野恒大郎 ,   五味朝男 ,   望月福治 ,   三田正紀 ,   北川正伸 ,   久道茂 ,   小檜山満雄 ,   成田雄 ,   立川治俊 ,   野崎公男 ,   山形紘 ,   白根昭男 ,   松本恭一 ,  

ページ範囲:P.339 - P.343

 早期胃癌臨床診断の実態の調査に先立って,集計に用いた病変の診断成績の解析にあたり,われわれの取った基本的態度の幾つかについてまず説明を加える.

 a)臨床診断はX線および内視鏡診断のlevelに止め,細胞診および生検組織診成績を導入しなかった.したがって,診断の経過については,初診時の検査成績の記載を重要視し,臨床的に経過を追った症例では,その経過中一度でも早期胃癌を考えたものについては早期胃癌疑いとして記載した.

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 城所仂 ,   竹添和英 ,   城島嘉昭 ,   片柳照雄 ,   大原毅 ,   横堀孝

ページ範囲:P.345 - P.349

 東大分院外科における早期胃癌症例は,昭和36年より昭和46年10月までの間に98例である.その詳細を別表に示してある.その他内視鏡で早期胃癌を疑ったが手術の結果進展癌であったもの16例内視鏡で早期胃癌を疑ったが手術後の組織検査で良性と決定したものが4例あった.

 これらの早期胃癌症例および内視鏡で早期胃癌を疑った進展癌または良性疾患について,その診断の過程および問題点について検討を加える.

早期胃癌臨床診断の実態―診断成績の推移と問題点

著者: 井田和徳 ,   植松寿樹 ,   郡大裕 ,   小林顕彦

ページ範囲:P.351 - P.355

 近年になって,胃疾患に対するX線,内視鏡検査および直視下胃生検など個々の検査法の進歩とともに,これら各検査法の連携にもとづく綜合診断法が確立され,胃疾患の形態診断法はほぼ完成された感がある.このような時期にわれわれが歩んで来た診断の実態をふりかえりながら,現状における早期胃癌診断の問題点を探ることも無意味ではないと考える.

座談会

早期胃癌臨床診断の実態

著者: 白壁彦夫 ,   高木国夫 ,   青山大三 ,   竹本忠良 ,   田中弘道 ,   長与健夫 ,   岡部治弥

ページ範囲:P.356 - P.367

わが国の早期胃癌診断の水準の高さは,今日広く海外にまで知れわたっている.しかし外国に行った医師達に一様に浴びせられるのは,“それではそれだけの早期胃癌を見つけるためにどれ程の非早期胃癌を切っているのか”という質問である.

本日は臨床・病理の両面より永年早期胃癌の診断に携わってこられた先生方にお集まりいただき,そうした疑問に答えていただいた.

症例

結腸癌を併存した多発早期胃癌の1例

著者: 岩崎有良 ,   高橋淳 ,   児泉肇 ,   林貴雄 ,   前田久 ,   服部俊男 ,   磯部賢士 ,   桑原龍雄 ,   武居隆之

ページ範囲:P.369 - P.374

 筆者らは最近,Ⅱa+Ⅱc+Ⅱb型とⅡa型の多発早期胃癌と原発性結腸癌とが同時に存在した重複癌とこれに日本住血吸虫症が合併した症例を経験したので報告する.

胃細網肉腫の1例

著者: 中野浩 ,   中沢三郎 ,   伊藤順二 ,   落合英朔 ,   山本義樹 ,   市川正章 ,   安部堯 ,   椙山直敏

ページ範囲:P.375 - P.382

 従来,胃肉腫の臨床診断は困難とされている.私どもは,術前に診断しえた胃細網肉腫の1例を経験したので,そのX線,内視鏡所見を中心に報告する.

一頁講座

緊急胃内視鏡検査

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.290 - P.290

 1971年の日本内視鏡学会総会では「上部消化管出血と内視鏡」というシンポジウムが開かれた.6月にはPrahaでUrgent Endoscopy of Digestive and Abdominal Diseasesという主題の国際シンポジウムが開催され,日本からもかなり参加した.いよいよ緊急消化管内視鏡検査の機運が盛りあがってくるように思う.食道鏡では出血のほかに,異物などの閉塞も緊急検査の対象となるであろうし,止血,異物剔出のような緊急治療も問題となるが,胃の方では緊急内視鏡検査はほとんど吐・下血に焦点がしぼられてくる.

 緊急胃内視鏡検査によって正確な診断をつけることの有益なことを頭では理解していても実際に最初の1例を安全に検査してみるまでは随分と術者は緊張するものである.われわれも最初の2,3例ではよく白衣に吐出する血液をぶっかけられたりしながら,また冷汗も流しながら検査した.どんな検査でも,処置でもそうであるが,緊急時には普段の力を完全に発揮することがたいへんむずかしい.

肛門乳頭の肥大

著者: 長廻紘 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.312 - P.312

 直腸鏡検査を始めて,先ず悩まされるものの一つに肛門乳頭の肥大症があげられる.知っていれば何でもないことであるが,知らないと痔核あるいは腺腫などと間違えてしまうことが少なくない.肛門の触診だけではそれらの鑑別は一層難かしいといわねばならない.

 この肥大乳頭は下部直腸諸疾患の鑑別診断において,意外と等閑に付されている.

胃粘膜表面のAH法実体顕微鏡観察―(6)進行癌

著者: 吉井隆博

ページ範囲:P.318 - P.318

 進行癌の表面はきわめて多彩で,簡単には説明できないが,大体つぎのようなものが代表的な型である.

十二指腸球部粘膜の微細観察―特に絨毛の観察法について

著者: 丸山正隆 ,   大井至 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.368 - P.368

 十二指腸内視鏡もここ1,2年の間に急に盛んになり,われわれが現在使いうる十二指腸鏡も既に数種類を数えるに至り,個々の器械もほぼ完成した機能を有していると言って良い.

 現在われわれはFiberduodenoscope(FDS町田),Jejunofiberscope(JF type B,オリンパス),Fibergastroscope CL long type(FGDS,町田),等を使用しているが,前二者は乳頭を中心とした下行脚ないしそれ以下の観察,および経十二指腸鏡的胆道膵管造影に適しており,十二指腸球部を含めた胃内の観察には長過ぎることとイメージがやや暗いことなどのためあまり適しているとは言えない.FGDSは十二指腸球部を胃内観察に含め容易に行なえるように作られたもので,普通のFGS-CLより15cm長く作られている他はCLと全く同一である.

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.279 - P.279

書評「レントゲン撮影法」

著者: 榊原聰彦

ページ範囲:P.294 - P.294

 努力作であり,これをものされた両氏にまず深い敬意を表したい.通読するに,表題のごとく,X線写真の基礎にはじまって撮影全般にわたりあまねく述べられている.就中,消化器の項には力が入っており,全体の1/4にあたる100頁をさいてこれにあて,検査技術の細部にまで立ち入って理論に基き縷々説明を加えているが,その間著者永年の研鑚の結果が各所に光彩を放っており,大きな特色であるといえよう.最近わが国において消化器X線診断が重視され,われわれの日常作業中大きな比率を占めるに至っていることについては改めてのべるまでもなかろうがその中心は在来の透視からフィルム読影にうつっており,したがって読影に値するフィルムを作り出すことが正しい診断の第一歩であるところから,細かな病変までも明確に表現することについて撮影者の払う苦心は誠に大きい.この点本書の説明は懇切丁寧,かゆいところに手が届くようであり,一読後撮影されたフィルムのできばえは,それ以前に比べ一段と進歩の跡を示すことであろう.誠に時宜に叶った本書の出現と申さざるをえない.また基礎部門においても同じく綿密な解説が行なわれていて図や写真などを多用し読者の理解を容易ならしめている点効果的であり,よい写真を作るためにはまず基礎づくりからと考える両氏の真意がうかがわれ,私も双手をあげてこの企てに賛成申し上げたい.しかし,反面,書物があまり厖大になるのを避けるための余儀ない措置であったかとは思うが,骨格系撮影法の記述は消化器の部のそれに比べてやや簡単であり,今少し説明を加えられてもよく,たとえば各部位ごとの出来上りフィルムは,それぞれどのようなものであるべきかなど,具体的に指されれば,錦上さらに花を添えることになったのではなかろうか.なお本書全般を通じて撮影対象が成人に限られているが,乳幼児の場合の撮影方法や条件などについてもふれてほしかった,次版には是非御加筆をいただきたい.また解剖学的記述の部にも,用語その他の点につき若干の注文なしとしないが,しかしとにかく力作であり,このようなユニークな撮影指導書が出現したことを心から歓迎し,読後感をのべさせていただくとともに,各位の御一読をお奨めする次第である.

書評「医用サーモグラフィー図譜」

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.326 - P.326

 体温測定は診断における基本的な手法の一つとされているが,詳しく言うと水銀温度計を用いて体内深部の温度,すなわち,“核温”を測定するものである.

 一方,体表の温度上昇は発熱の他,血流増加,あるいは,炎症,腫瘍の存在を,示唆し温度低下の場合は血流障害を意味するものとして古くより診断情報に用いられてきたが,有効な測定手段をもたなかったため,その変化の程度,拡がりなどを客観的にとらえることができず,主観的判断に頼らざるをえなかった.

書評「電子顕微鏡による細胞組織図譜 第6巻 腫瘍」

著者: 飯島宗一

ページ範囲:P.350 - P.350

 「電子顕微鏡による細胞組織図譜」(山田英智・内薗耕二・渡辺陽之輔総編集)の第6巻として「腫瘍」の編が刊行された.この巻は太田邦夫教授の編集によって成り,小野江為則教授以下86名の執筆者が参加した.執筆者のなかには台湾大学,南カリフォルニア大学など若干海外の大学の研究者も加えられている.内容は総論と各論より成り,総頁372頁,偶数頁が説明および記述に,また奇数頁はすべて写真にあてられているから,およそ340の図版を収載して,A4版の堂々たる図譜である.最近,類書は皆無というわけではないが,腫瘍一般を内容とする電子顕微鏡図譜としては,内容,体裁とも第一級の書物ということができる.基礎・臨床を問わず,腫瘍学に関心をもつ専門の人々にとって好個の参考書であるばかりでなく,ひろく生物学にかかわる人々にも有用であろうと思われる.

 ただ,私は全巻の内容を通覧し,さらに太田教授の序文を拝見して,図譜という形での,腫瘍の電子顕微鏡的取扱いの表現と整理のむつかしさをあらためて痛感した.腫瘍形態学への電子顕微鏡の導入において,究極的に期待されるのは分子レベルでの構造と機能の相関に即しての「腫瘍」の理解であり,序文の言葉を借りれば「動的な病理学的特徴や生化学的動態の場の同定」であろう.そして,それは「総論」において整理・表現されるはずのものである.しかし,太田教授もいわれるように実は現状では「総論,は各論領域での所見の抽象であるが,残念ながらまだ望むべき多くのものをのこしている」これは,本書の場合でも決して「総論」執筆者の不勉強ということではない,否,むしろこの本の総論には,石川栄世教授らの腫瘍細胞核への正面からのアプローチを中核に,小野江教授ら,菅野博士らの力作が組込まれ,腫瘍ウイルスについても一流の担当者の寄与がある.それにもかかわらず,あるいはむしろそれ故にこそ,この領域になお「望むべき多くのもの」があることをあらためて思い知らされるのであり,その意味でこの本の総論はひとつの道標として評価されよう.

編集後記

著者: 青山大三

ページ範囲:P.383 - P.383

 早期胃癌の分類が提唱され10年になるということで,Ⅱb,Ⅲの特集が既刊となり,今回は実態を主として述べることになった.これは歴史の一部である.昔,とても迷った症例でも,今日では生検不用で,レ線,内視鏡で自信を持って早期胃癌といいうる.

 反面,最近の「胃と腸」の症例では,生検を以ってしても,なおかつ自信のない症例ばかり見せつけられるような気がする.その中でもⅢやⅡbでは,全く自信がないというのが実情ではなかろうか.Ⅲでは,生検で確実に術前に決定できるだろうか.また,Ⅱbではどの部を生検したらよいかの見通しが不明である.生検となると一回に200個ぐらいほしくなるのを,どこでがまんするかである.深達度の診断もミクロのようにはできない.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?