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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸7巻4号

1972年04月発行

雑誌目次

巻頭言

早期胃癌肉眼分類起草10年に寄せて

著者: 田坂定孝

ページ範囲:P.433 - P.433

 私が昭和37年第4回日本内視鏡学会総会の宿題報告で,本邦における早期胃癌の全国集計を報告する栄誉を得て,会長として代表報告をしてから,早くも10年の歳月が流れた.顧りみれば,昭和25年発明された胃カメラが改良を重ねられ,広く臨床に使用されるようになり,従来は診断できなかった早期の胃癌がようやくみつかり始めた頃であった.

今月の主題 早期胃癌肉眼分類起草10年

早期胃癌の10年

著者: 村上忠重

ページ範囲:P.434 - P.437

 早いもので日本内視鏡学会で決めた早期胃癌の定義と分類案が出されてから10年経つ.昭和37年2月の初めにその委員会を開いたという記録が残っているので,筆をとっている今日はちょうど10年目に当る.そしてその間にこの定義・分類の妥当性は一応認容されたと思われる.

 しかし今から考えると随分大胆なことをしたものだと冷汗が出る.しかし大胆なことをしたのはこの案を決めた委員会だけではなく,早期胃癌のまだ何たるかを決めないまま,その全国集計を企てて症例を集められた田坂先生の無鉄砲さにも呆れる.何百例という症例が全国から集ってきてから,さてこれをどうまとめよう,適当な基準を作らないととても集計できない.ひとつ委員会を作って考えて下さい.これがその時委員会のできた発端である.

早期胃癌肉眼分類 起草の頃の思い出

著者: 崎田隆夫 ,   白壁彦夫

ページ範囲:P.438 - P.440

 確か昭和37年の春であったと記憶するが,当時停年を1年後に控えて,恩師田坂先生が内視鏡学会長を(内科学会会頭と共に)ひきうけられた.内科学会頭もそうであったろうが御自身でつくられそして育てられた内視鏡学会長を停年に際しひきうけられた先生の御心中は感慨も一入深いものであられたであろうし,先生の門下生もまた同じ気持にあった.ここに,会長特別講演としての早期胃癌全国集計の計劃が無理なく,自然にうまれ,まとまったわけである.すなわち,胃癌の早期診断を第1の目標とし,発展をつづけてきた日本内視鏡学会に,その意味で一つのめどをこの際つけておきたいという田坂先生の御心中でもあったろうし,また後から考えてみると,まさに時期を得ていたともいえるようである.

 この企ては幸いにして村上先生の御同意を得,先生の御企劃のもとに,常岡,白壁,芦沢,城所ほかこの道の第一線の方々の御協力を得て,成功の道を歩み,その後更に発展を重ねて現在の輝かしい成果に至ったことは衆知のとおりであり,御同慶に耐えない次第であるが,ふりかえってみると,またけわしいいばらの道を幾度びも歩いたような気持もする.少しく,それらにつきふりかえってみることにしたい.

早期胃癌肉眼分類型別典型症例供覧

著者: 芦沢真六 ,   佐野量造 ,   熊倉賢二

ページ範囲:P.447 - P.479

患 者:H. H. 60歳 女性

主 訴:自覚症状はない.胃集団検診にて胃角上部の腫瘤を指摘された.

胃液検陛:施行せず

便潜血反応:ベンチジン反応(-)

胃内視鏡検査日:昭和43年10月3日

胃X線検査日:昭和43年10月4日

手術日:昭和43年10月8日胃切除術を施行

癌の大きさ:2.0×1.0cm

病理組織所見:乳頭状腺癌

深達度:m

リンパ節転移:なし

早期胃癌の治療成績

著者: 三輪潔 ,   伊藤一二 ,   渡辺弘 ,   平田克巳 ,   北岡久三 ,   吉川謙蔵 ,   矢島睦夫

ページ範囲:P.481 - P.488

 胃のレ線診断,内視鏡診断,細胞診ならびに胃生検の飛躍的進歩によって,胃癌の早期診断は,1960年を境に着々と実績を挙げつつある.早期胃癌とは,癌の浸潤が胃の粘膜(m)または粘膜下層(sm)にとどまるものということが,胃癌研究会において統一定義されたのも,このような早期診断の進歩のもたらした結果といえよう.

 早期胃癌の治療成績は,5年生存率で90%を越すという報告が,すでに多くの施設から報告されている.内視鏡学会において,東大分院の林田の行なった全国集計では,深達度mの早期胃癌では,184例中の5年生存例は174例で,5年生存率は94.6%,深達度smの早期胃癌では,167例中5年生存例146例,5年生存率は86.8%,早期胃癌全体の5年生存率は91.1%となっている.

アンケート紹介―「早期胃癌」に就いて

ページ範囲:P.507 - P.519

 早期胃癌の定義ならびに肉眼分類が内視鏡学会より提出され,十年を経た.この間,この定義や分類が斯界の発展に役立って来たことは広く認められているが,十年経過を一つの契機にこの際反省と吟味の機会をもつため,特に御造詣の深い諸先生に改めて下記アンケートにつき御返事いただいた.

 お寄せいただいた御意見は,いずれも多岐にわたり,かつきわめて個性的であるため,特に総括整理することなく,広く読者に公開して,今後のさらに有効な検討に資することとした.

海外からのメッセージ

日本の肉眼分類10年に寄せて

著者: W.Frik ,   ,   高侊道 ,  

ページ範囲:P.442 - P.446

日本の早期胃癌肉眼分類に関して,アメリカ,ドイツ,韓国の四氏から自国での早期胃癌診断の現状を中心としたメッセージが寄せられたので紹介する.

座談会

早期胃癌肉眼分類起草10年

著者: 芦沢真六 ,   森純伸 ,   白壁彦夫 ,   増田久之 ,   古沢元之助 ,   五ノ井哲朗 ,   高木国夫 ,   竹本忠良 ,   田中弘道 ,   信田重光 ,   岡部治弥 ,   熊倉賢二 ,   高田洋 ,   春日井達造 ,   村上忠重

ページ範囲:P.490 - P.506

早期胃癌肉眼分類が起草されてから10年になる.本分類法は外国にも普及し,国内では研究者,臨床家の間に完全に定着したが,その間に種々の問題が生れた.ここでは早期胃癌の名称やⅠ,Ⅱa,Ⅱb,Ⅲ,Ⅱa+Ⅱc型について,起草当時の思い出を含めて話し合っていただいた.

印象記

第4回アジア太平洋消化器病学会議に出席して

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.480 - P.480

 1972年2月7日から12日まで,第4回アジア太平洋消化器病学会がフィリッピンのマニラ市において開かれたので,ごくおおざっぱな印象について御報告する.

 出発前から,マニラの治安の悪さは強く印象づけられていたし,事実マニラでの学会という理由だけで出席を断念された方も多かったろうと思っている.

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欧文目次

ページ範囲:P.431 - P.431

早期胃癌肉眼分類雑感

著者: 市川平三郎

ページ範囲:P.441 - P.441

 近頃,海外を旅行する機会に恵まれて思うことは,この分類が胃の診断とか病理の進歩に寄与して来たことは大変なものだということである.この10年間で,最も深い印象は,いくら説明してもこれは肉眼的分類ではなくて,内視鏡的分類であると思い込んでいる人が5年目位では驚く程多かったということである.そして今や,この種の誤解が外国で多いことも,かつての日本と同様なのである.この見地から見ても,多少の不便さはあっても,この分類を容易には変えて貰っては困るという実感がある.

 分類というものは,起草のときには明瞭な目的があり,その目的のために,かなり思い切った単純化した基準があるものである.その基準を変えてしまっては,たとえ一見して便利なようになったとしても,その思想の根底に於て複雑化し,かえって本来の目的を達成し難くなるばかりでなく,下手をすると,昔の症例との比較もむずかしくなってしまうであろう.早期胃癌のこの分類では,手術した時の肉眼的の形で決めるのが適当と思われるのであるから,更に詳細に,組織学的に見て,将来おそらくこういう型に変って行くであろうなどという予見から,その型を決めてしまっては困るのだ.例えば,その分類が不充分だからといって,もともとはないボールマンⅤ型と言ってみたり,Ⅱc進行型と言いたくなるような型のものを,ボールマンⅣ型ではない,などという言い方は,余程注意しないと,混乱を招く危険がある.むしろ,そういった予見を議論するための共通の言葉として分類の各型名を使用すべきなのであろう.所謂,Superficial Spreading Typeという病変の動きを規定した名称が,どうもうまくなじまないのも同じ理由であると思われる.

早期胃癌肉眼分類雑感

著者: 城所仂

ページ範囲:P.446 - P.446

 早期胃癌の肉眼分類を決めた当時については私も一員として参加させて戴いたが,その当時のことについては村上教授をはじめ多くの先生方のお話しの中につくされているので省略し,その頃の回顧余話を述べてみたい.

 型分類決定と前後してエーザイの会議室で症例をもちよって小グループの検討会が行なわれ,自由な討論がもたれたが,当時私どもの第1例のⅡcを内視鏡的に診断し,切除材料を検討の材料として出したところはっきりした癌の診断を肯定されたときのうれしさは今も忘れない.

早期胃癌肉眼分類雑感

著者: 並木正義

ページ範囲:P.489 - P.489

 早期胃癌の肉眼分類が示されてからすでに10年をへた.今日この分類に対する意見や反省がいろいろいわれているが,ともかくこの分類が世にでたことによって,早期胃癌への関心が高まり,胃癌の診断技術が向上し,多くの人が救われたことの意義はきわめて大きい.

 ところで,この分類が,あくまでも肉眼分類であることを,ともすると忘れてしまう傾向がある.ここに混乱をひき起こす大きな理由がある.それは胃癌の予後にも関連して,深達度という病理組織学的レベルのはなしが肉眼分類の論議のなかに入ってくるために当然生ずる混乱である.病理の専門家をまじえての早期胃癌の研究会で鍛えられた臨床家達は,この分類の当初の定めである肉眼分類から,いつしか病理組織学的所見までもよみとろう(当てよう)と苦労し,あげくのはてに,つい迷いに入ってしまうわけである.しかしこれが肉眼分類であることを常に原点に立って認識し,肉眼判定の限界をよくわきまえ,わりきってことにあたるなら,それなどの矛盾は感じないであろうしひとつの共通の定めとして今後とも残されてよい立派な分類であると思う.分類の各型についての問題点をいちいち述べる余裕はないが,たとえばⅡc+Ⅲなどは,Ⅲの因子の消長による表現上の考慮をはらう必要があろう.また厳密な意味でのⅢ型は,きわめて稀であるかもしれないが,やはり分類としては残しておきたい気がする.

編集後記

著者: 常岡健二

ページ範囲:P.520 - P.520

 早期胃癌肉眼分類起草10年を記念しての特集号である.このさい,この分類の功罪を改めて検討することは意義深いものと考える.もともとこの分類が肉眼的形態を主としたものであるだけに,病理組織学的関連において,胃癌発生の因果律において,また胃癌の進展過程において,さらにもっと都合の悪いことに“早期”という定義に関係して,種々不満な点を抱えているということもやむをえないといえよう.臨床的にみれば,その存在の疑わしい,ポリープ癌(Ⅰ型)と潰瘍癌(Ⅲ型)を両極においての分類にすでに無理があり,さらにⅡc病変に加わる潰瘍(Ⅲ)の消長が明らかにされ,その極限の状態としてはじめて純粋Ⅲ型を理解するしかないともいえるに至ったとすれば,Ⅲ型の独立性はもはや否定的といわざるをえない.しかし,一方の大きな利点としては,肉眼的分類であり,記号的表示であるだけに,臨床的診断には大変に有用であることである.現在凹凸病変として表現しうるものについては,X線検査であれ内視鏡検査であれ,肉眼的病変をよく整理しうれば,他疾患との区別はほとんどすべてに可能であり,さらに生検を併用すればまず完壁な診断が下せるといってよい.今後の問題は恐らく胃癌の出発点とみられるⅡb病変の発見と診断であり,その可能なことも近いとみている.この分類について今更変更の必要もないが,記号式表示については若干の修正を加える必要があるものと考えている.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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