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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸7巻5号

1972年05月発行

雑誌目次

今月の主題 悪性サイクル 巻頭言

悪性サイクルという言葉のいきさつ

著者: 村上忠重

ページ範囲:P.572 - P.573

 私が悪性サイクルとか聖域とかという言葉を提唱したのは,たしか昭和41年広島における病理学会であったと記憶する.この考えは後に述べるようないきさつで,ある日突然思いついた.

 私は研究のテーマに胃の組織学的研究をしろと命ぜられたが,目標を癌においてよいのか潰瘍においてよいのか一向に定まらなかった.病理学教室の,当時の平福助教授に指導を受けたが,どうも胃潰瘍の方がむつかしく思えた.その理由は,潰瘍は治ったり,悪くなったりする.一つの組織標本を見ても,それが進行性のものか,治癒に傾いているものなのかがなかなか分らない.ところが癌の方は決して治らないだろうと考えられていたために,とに角進行しつつある像と解釈すれば間違いがない.もっとはっきり言えば,大きい癌は小さい癌から進展したものと考えればよいわけで,逆にその発生像をつきつめるにも癌の方が容易であると感じられた.そこで途中で仕事の目標を胃癌の組織発生においた.胃の切除標本の番号が約500例に達したころにどうやら博士論文ができ上った.

主題

悪性サイクルについて

著者: 望月孝規

ページ範囲:P.575 - P.578

 わが国に於て,早期胃癌という概念についての規約がなされて以来,個々の症例についての放射線,胃カメラ,内視鏡などによる診断,手術,切除胃の形態学的検索が,従来よりも正確に行なわれるようになり,またそういう症例を,種々の部門の医師が一緒に検討する機会も多くなった.この過程の中で,胃癌の発生と進展について,多くの新しい所見や考え方が明らかにされた.中でも多数の症例を蒐集しての集計的な資料に止まらず,それらにもとずいての綜合的な考え方が生れて来ていることは,わが国の早期胃癌研究の誇るべき成果といえよう.これらの考え方のうち最も重要なものの一つは,村上によって提唱された悪性サイクルという概念と模式図である.

 以下,この概念と模式図が成立するまでの,わが国に於ける胃潰瘍および胃癌の研究の歴史について簡単に述べ,この概念と模式図の問題点について,論じようとおもう.

悪性サイクル

著者: 崎田隆夫

ページ範囲:P.579 - P.582

 悪性サイクルの理論も,日本では最近,ようやく常識的に認められ,広く理解され始めつつある.一方欧米では,古くこのことを示唆するすぐれた論文を少数ではあるが持ちながら,長年の間,このことは認められなかった.即ち,良性潰瘍は治癒しやすく,また治癒させ得るものであるが,悪性潰瘍は治癒し難いという考え方が現在なお厳存し,日本の医学者の確立したこの悪性サイクルの理論に,大きな反響を示している最近である.

 本特集号では,この悪性サイクルの理論を,より広く且つより詳細に理解を深めてもらおうという企劃の下に,更に本邦で,この理論が臨床ならびに病理組織学的につくり上げられてきた歴史的考察をも含めて,稿を求められた.本稿は,その意味で,先ず著者のせまい経験からの,その歴史的考察のことにふれ,ついで,このことに最近の外国より提起されている疑問の2~3にふれてみたいと思う.

進行胃癌の悪性サイクル

著者: 堀之内幸士 ,   八尾恒良 ,   古賀安彦 ,   岡田安浩 ,   冨岡武 ,   岡部治弥 ,   広門一孝 ,   三井久三 ,   為近義夫 ,   新関寛 ,   安部学

ページ範囲:P.583 - P.592

 胃癌に於いては,癌巣内の潰瘍でも良性潰瘍と同様に縮小・治療・再発をくりかえすことのあることは,欧米では,すでに古くから知られていたが,当時はあくまでも,きわめてまれな,めずらしい現象として理解されていたようである.

 また,わが国に於いても,潰瘍縮小の観察された胃癌例を筆者らが「悪性潰瘍の表面変化」と題して報告を行なった昭和40年4月頃までは,かかる現象も,非常にまれな奇異なできごととしてしか受けとられていなかったようである.しかしながら近年わが国に於ける胃X線ならびに胃内視鏡検査の著しい普及により,次第にこのような症例が数多く,しかも明瞭に観察されるようになって来た.癌巣内潰瘍でも縮小,瘢痕化することがあるというこの事実は,われわれ臨床医にとっては,胃の潰瘍性病変の診断にあたって潰瘍が縮小したからといって決して油断してはならないという診断上の警告として受け入れられたが,いっぽう,当時潰瘍癌の判定規準をめぐって論争中の病理学者の間では特に潰瘍底の再生粘膜の解釈に非常に重要な情報を提供し,大きな波紋を投げかけたことは周知のごとくである.そして昭和40年村上は胃癌病巣内潰瘍の,このような現象を良性潰瘍に於けるライフサイクルに対応して悪性サイクルと呼ぶことを提唱したが,以来悪性サイクルに関する報告は数多くみられ,今日に於いては陥凹性早期胃癌で悪性サイクルの認められることは常識として考えられるようになっている.

malignant cycle症例

著者: 五ノ井哲朗 ,   五十嵐勤 ,   斉藤光正

ページ範囲:P.593 - P.596

患 者:65歳 男子

初 診:昭和42. 5. 30日.

主 訴:上腹部鈍痛.

検査所見 胃液酸度,正酸(K.K.法).便潜血反応,+~-(グァヤック法).他に理学的並びに臨床諸検査所見上格別の異常を認めない.

malignant cycle症例

著者: 中村克衛 ,   籐本茂博 ,   佐藤康 ,   河村奨 ,   白石徹 ,   西明義晃

ページ範囲:P.597 - P.600

患 者:木○和○ 72歳 ♂

職 業:医師

主 訴:眩暈,冷汗およびタール便

現病歴:以前より時々腹部膨満感,胸やけを来たしていた.昭和43年10月30日早朝,眩暈,一時的意識障害を来たし,タール便に気づいて来院し即時入院.貧血(++).図1,2及び3は,その時のレ線,内視鏡像で隣接再発性潰瘍と考えたが,内視鏡的に辺縁の不整から癌も考えられた.その後潰瘍は著しく縮小し,約2カ月余後にはほぼ瘢痕化したので一応良性と判断して退院.しかしⅡc+Ⅲの疑いもあり,以後,昭和46年3月までに,レ線検査9回,内視鏡検査11回(図4と5,6と7はそれぞれ同時期)施行している(この間明らかな潰瘍の再発は認めていない).また,昭和44年6月に胃生検を行なっているが癌陰性であった.昭和46年4月6日夜再び眩暈,冷汗,タール便を来たし再入院.

malignant cycle症例

著者: 芦沢真六

ページ範囲:P.601 - P.602

症 例:K. T. 49歳 ♀

現病歴:昭和44年1月の成人病健診で,胃体下部小彎側に潰瘍を指摘され,その後は良性潰瘍として内視鏡検査で経過を追うことになったが,同年11月の内視鏡像(3回目)で悪性が疑われ,当院にて胃生検の結果Group Ⅴと診断され入院した.入院時の胃液検査(ヒスタローグ法)は過酸であった.

malignant cycle症例

著者: 中島哲二 ,   吉田貞利 ,   湖山聖道 ,   福地創太郎 ,   望月孝規

ページ範囲:P.603 - P.606

 患 者:T. M. 61歳 男性

 68年10月,心窩部痛とくに空腹時痛を主訴としてわれわれの病院をおとずれ,広範なビラン性胃炎がみとめられたため,この治療をうけていた.

malignant cycle症例

著者: 井田和徳 ,   宮岡孝幸

ページ範囲:P.607 - P.609

患 者:片○梨○ 43歳 女性

既往歴:特記事項なし.

現病歴:昭和40年4月,41年9月及び43年9月に心窩部痛を訴え,胃潰瘍としてそのつど医師による治療をうけ軽快した.当科には精密検査の目的で43年11月にはじめて受診した.

malignant cycle症例

著者: 崔相羽 ,   北川睦生 ,   竹田彬一 ,   佐田博 ,   川口和夫 ,   高田洋 ,   近藤台五郎

ページ範囲:P.610 - P.612

 本症例は,1970年4月より1971年1月までの約9カ月間に,潰瘍の縮小と再発を認め,その初回検査時より生検による経過観察を行なったⅢ型早期胃癌の悪性サイクル例である.

患 者:石○冨○弥 35歳 男.

主 訴:空腹時心窩部痛.

既応歴:特記すべきことなし.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:初診 1965年4月16日.

 約5年前より,むねやけが強かったが,3週間前より食事摂取により緩解する空腹時の心窩部痛があり当院を訪れた.

malignant cycle症例

著者: 西沢護 ,   野本一夫 ,   奥井勝二

ページ範囲:P.613 - P.616

患 者:田○淳○ 44歳 男 銀行員

主 訴:空腹時痛

家族歴・既往歴:特記すべきものなし.

現病歴:昭和41年2月,職場の胃集検にて間接X線施行異常なし.昭和42年1月再び間接X線施行,要精検,直接X線を施行し胃潰瘍の診断を受く.その後,図1の如く経過検査を行なったが,昭和44年7月,空腹時痛強く胃生検陽性,同年10月千葉大学第1外科にて手術を施行した.

malignant cycle症例

著者: 種子田哲郎 ,   今村進一

ページ範囲:P.617 - P.619

 主に内視鏡像にて,良性潰瘍→縮小・瘢痕化→Ⅱc+Ⅱa→良性潰瘍,という変化を観察し得た,Ⅲ+Ⅱcの1例を報告する.

 症 例:63歳 男子

 経過観察期間:約7カ月.

malignant cycle症例

著者: 金子栄藏

ページ範囲:P.620 - P.662

 Patient: K. S. ♂,Chief Complaint: Hunger pain.

 First Examination: 1959. 6. 24 (49-years-old).

 Operation: 1967. 12. 14 (58-years-old).

症例

Reactive plasmacytoma of the stomachの症例と発生機序

著者: 吉井隆博 ,   奥山山治 ,   真木実 ,   大類十三雄 ,   小野儀太郎

ページ範囲:P.627 - P.632

 形質細胞腫は,①多発骨髄腫,②単発性骨髄腫,③形質細胞性白血病,④髄外性形質細胞腫の4型が分けられる.そのうち,①,②,③は悪性だが,④には良性,悪性,およびその中間型(移行型)がある.髄外性形質細胞腫は現在までに約250例の報告がある.その発生部位は上気道,口腔が圧倒的に多く,髄外性骨髄腫の約80%を占める.その他には,消化管,肺,リンパ節,顎下部,甲状腺,眼瞼結膜,皮膚,腟,乳腺,腎,睾丸等に発生する.消化管における発生頻度は,小腸,胃,大腸の順である.胃の髄外性形質細胞腫は,Vasiliu(1939)が第1例目を報告して以来,約33例が報告された.本邦における報告は1例にすぎず,しかもそれは一部細網肉腫の性格を有する悪性型であった.筆者らは今回本邦第2例目の胃の髄外性形質細胞腫を経験したが,それは良性型であって,reactive lymphoreticular hyperplasia(R. L. H.)と近似関係にあると思われる興味ある症例であった.このような良性型は本邦最初の症例であるので報告し,その発生機序と周囲病変との関係について述べる.

胃体部大彎側Ⅱc+Ⅲ型早期癌の1例

著者: 新海真行 ,   白井佑治 ,   竹内淳一 ,   宮津喬彦 ,   大橋計彦 ,   小林由樹 ,   植田正昭 ,   河合信太郎 ,   中野浩 ,   三木洋

ページ範囲:P.633 - P.640

 胃X線診断学の目ざましい進歩によって,胃のどの部位の早期癌も殆んど診断できるようになった.今なお,診断の比較的むずかしいといわれている部位の早期胃癌は,前壁側のある部位,体部大彎側及び高位に発生したものであろう.著者らは,胃X線検査で前庭幽門部に多発性ポリープを有し,体部大彎側やや前壁寄りに比較的広範なⅡc+Ⅲ型早期癌を疑い,胃X線精密検査,胃カメラ検査及び胃生検にて,確定診断し得た症例を経験したので,X線検査法を中心に報告する.

内視鏡的に除去し得た乳頭部の嵌頓結石の1例

著者: 穴沢貞夫 ,   高木国夫 ,   久野敬次郎

ページ範囲:P.641 - P.644

 総胆管結石が乳頭部に嵌頓すれば,多くは黄疸を発生し,時に膵炎を併発する.乳頭部に嵌頓した結石に対しては,多くは外科的処置によるが,内科的治療により,乳頭に嵌頓した結石の十二指腸への脱落した報告がある.筆者らは近年発達した十二指腸ファイバースコープを用いて,直視下に乳頭部を観察し,乳頭部に嵌頓した結石を生検鉗子を用いて十二指腸内に脱落せしめ得た症例を経験したので報告する.

興味ある周堤Ⅱcを伴なったⅡc様胃癌の1例

著者: 原口幸昭 ,   椎崎敏臣 ,   神代竜之介 ,   犬尾修三 ,   平野雅士 ,   清成秀康

ページ範囲:P.645 - P.649

 症例

 患 者:U. K. 47歳 女

 主 訴:とくになし.

 家族歴:母が57歳で胃癌にて死亡.

 既往歴:21歳のとき虫垂切除術をうける.

 現病歴:昭和46年4月,耳下腺炎にて某病院に入院中,健康診断をかねてたまたま胃レ線検査をうけたところ,異常所見が見つかり,精査した結果,手術をすすめられて同年5月本院に紹介され入院した.とくに自覚症状なく,食欲は良好で体重減少も認められない.便通は1日1行規則的である.

盲腸に発生した非特異性結腸潰瘍の2例

著者: 山形敞一 ,   渡辺晃 ,   五味朝男 ,   奈良坂俊樹 ,   藤井功衛 ,   今井大 ,   上江洲ジュリオ

ページ範囲:P.651 - P.656

 最近,筆者らは盲腸に発生し,手術によって治癒せしめえた非特異性結腸潰瘍の2例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

研究

内視鏡的立場からみた放射線照射による胃癌の肉眼的変化

著者: 菅原伸之 ,   千葉寛 ,   山形淳 ,   武田鉄太郎 ,   庄司忠実 ,   二階堂昇 ,   浅川洋

ページ範囲:P.657 - P.660

 癌の治療法としては,外科的療法,放射線療法,化学療法,ホルモン療法などがあげられるが,胃癌に関しては,早期のものは外科的療法,末期のものは化学療法を行なうのが普通で放射線療法は必ずしも広く行なわれているとは言えない.

 胃癌を放射線照射療法により治癒せしめようとする試みは古く1886年Despeignesの報告があり,わが国では1928年山川が初めて胃癌の放射線照射療法を行なって以来,幾つかの報告がみられるが,他の分野に比べてその数は甚だ少ない.

一頁講座

胃噴門部の内視鏡診断―(1)観察法

著者: 小林世美

ページ範囲:P.623 - P.623

 1.食道ファイバースコープによる胃噴門部の観察

 胃噴門部とは胃の近位端,食道,胃粘膜境界部に接する部分を呼称する.この部位を観察するに,通常食道ファイバースコープが用いられる.食道ファイバースコープを食道に挿入し,約30cmの位置に達すると,管状に見える食道の下端に,放射状に閉鎖している噴門部が見える,更に進むと,約40cmの位置に,食道・胃粘膜境界部を見,殆んど同時に噴門部が開いて,胃内腔が前方に見える.この位置は,身長の如何に拘ず,38~42cmの深さにあるのが正常で,身長の高い米国人でも殆んどこの範囲内にあり,日本人との差は認められない.食道・胃粘膜境界部は,横隔膜裂孔(Diaphragmatic hiatusまたはEsophageal hiatus)に近接していて,胃内へ開口する少し手前に見える場合と,開口した瞬間に見える場合がある.その境界部は,通常明瞭である.何故なら食道粘膜は白っぽく,主として縦走する毛細血管が容易に認められるに反し,胃噴門部の粘膜は橙赤色で,その色調の差異が境界部を明瞭に映しだす.境界線は,通常鋸歯状を呈している.検査時この粘膜境界部の位置を,門歯からの距離で記載する.正常者では,境界部の生理的狭窄がHiatusにほぼ一致しているが,この位置が異常に異なると,粘膜境界部とHiatusの2つの狭窄部を認め,Hiatus Hernia(横隔膜裂孔ヘルニア)が存在することになる.これらの狭窄部は,いわゆる生理的狭窄であり内視鏡の挿入により柔軟に対称的に開き,胃内挿入を許す.何か器質的な病変が存在する場合は挿入を妨げたり,非対称的な開き方をする.

悪性潰瘍の治癒例(1)

著者: 三輪剛 ,   武藤征郎 ,   広田映五

ページ範囲:P.626 - P.626

 胃潰瘍の良悪性鑑別に,内科的治療によってcomplete healingが得られるかどうかを基準とするいわゆるtherapeutic trialが従来重要視されて来た.

 近年わが国において多数例の早期胃癌が発見されてからは,このtherapeutic trialが早期胃癌に対しては役に立たないということがわかった.すなわち陥凹型早期胃癌の中にある潰瘍は,抗潰瘍治療によって著明に治癒傾向がみられる.しかし今まで報告された多くの症例は初診時よりそれが癌であったという確証を欠いている.

無透視下の結腸鏡挿入

著者: 長廻紘 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.650 - P.650

 ファイバースコープが放射線によって変質することは,周知の事実である.食道鏡,胃ファイバースコープなど,特殊な場合を除いて,透視の助けをかりずに挿入できるので問題はない.十二指腸ファイバースコープは,膵胆管造影を行なう場合,スコープを挿入したままでレ線撮影を行なうので,スコープが被曝することはやむをえない.一方結腸ファイバースコープの場合,レ線透視の助けを借りると,そうでない場合に比べて挿入が楽になる.その結果として,できるだけ被曝しないように透視を用いても,100例位使用するとファイバーが変質して像が黄色っぽくなってくる.

 透視を用いないで結腸ファイバースコープを深部まで挿入できることが,われわれの念願である.

印象記

第4回アジア太平洋消化器病会議(マニラ)に出席して

著者: 春日井達造

ページ範囲:P.624 - P.625

 1972年2月7日より12日までフィリッピンのマニラにおいて,第4回Asian-Pacific Congress of Gastroenterologyが会長Prof. Recioのもとで開催され,地元フィリッピンを始め日本,タイ,マレーシア,台湾,インドネシア,インド,イラン,オーストラリア,ニュージーランド,韓国,米国,その他より多数の消化器病学者が参加し盛大な会議であった.

 学会全体の印象については前号で竹本教授から報告されているので,私は私が聞いたpaperを中心に少しふれてみたいと思う.

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欧文目次

ページ範囲:P.570 - P.570

編集後記

著者: 岡部治弥

ページ範囲:P.661 - P.661

 昭和41年,広島の病理学会に出席した研究室のK君が村上教授の御発表をテープにとって帰って来た.テープから流れ出す悪性サイクルという言葉を聞いた時,なんとまあ上手い表現をしたものだと,感嘆した.筆者は昭和38年に内視鏡上潰瘍が急速に縮小した時点で手術された症例が,組織学的に割りに小さなⅡcの中心部が良性再生上皮におおわれた潰瘍瘢痕であることを経験し,これを当時の早期胃癌研究会に発表したが,帰りぎわに,崎田博士が近づいてこられて,たしかにこういうことがありますよと賛意を表してくれたことが鮮やかに私の脳裏に残っている.この現象を胃癌の表面変化と名づけて研究室の同僚と一緒になって一例一例一生懸命あつめて,既にかなり集めていた時であった,村上教授が良性潰瘍の経過と比較して悪性サイクルと命名されたのである.虚をつかれてハッとしたという表現がピッタリの心境であった.正に言い得て妙というべき命名である.九大癌研の今井教授の御指導のもとで,この表面変化のテーマで組織像を研究していたH君に“君早くかかぬから先をこされたネ”となげいたものであった.しかし,その後文献をあさるうちに,米国の内視鏡学者が,少数例ながらすでにこの現象に気づいており,しかも縮小した潰瘍は再生上皮でおおわれている事も記してあり,その時は本当にガッカリすると共に妙に感心もしたものである.とまれ,今や悪性サイクルの現象は,少なくとも胃癌の診断学にたずさわるものにとって周知の事実となって来たが,その間,この現象は病理学者の潰瘍癌の判定規準に大きな問題を投じたし,また陥凹型早期癌の自然史についても多くの事を我々に教えてくれた.今初めて集大成された本号が出るのであるが,ゲラ刷りを手にして感慨新たなものがある.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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