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文献詳細

雑誌文献

胃と腸7巻9号

1972年09月発行

文献概要

一頁講座

胃癌の肉眼形態と酸分泌

著者: 小林世美1

所属機関: 1愛知県がんセンター第1内科

ページ範囲:P.1162 - P.1162

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 ある病変をもった胃の粘膜の形態学的および機能的変化を知ることが,その病変の発生病理を論ずるに不可欠である.つまり,随伴性胃炎と胃液分泌の状態を知ることである.胃癌に隆起を示すもの,反対に陥凹,潰瘍を有するものがあるが,それらの基盤となる粘膜は,どのような胃炎性変化を示すか,また胃液分泌動態は,どのようであるかを知るのは大変興味深い.古くから胃癌の多くは,萎縮性化生性変化の粘膜をprecursorとし,ほとんどの例で無酸を示すといわれてきた.高齢者にみられる隆起型胃癌では不思議でないが,陥凹,潰瘍を有する型では多くの矛盾点に遭遇する.では一体,胃癌粘膜上の陥凹や潰瘍はいかにして生ずるか.Malloryは1940年,癌の消化性潰瘍を主張し,酸分泌がほぼ正常の早期癌では,消化性潰瘍の発生は,比較的ありふれたことだと述べた.Palmerらは1944年,癌の上におこった消化性潰瘍の内科的治療による治癒を報告し,“Malignant cycle”の発端をきった.この議論は,米国学派が早くから良性胃潰瘍の癌化に疑問を投げかけ,癌粘膜の消化性潰瘍化を主張したに反し,日本学派が同じ病像をとらえて,良性潰瘍の辺縁に癌が発生したと老え,1966年の東京での世界消化器病学会でも沸騰した.すなわち,Ⅲ型早期胃癌に関する見解の相異がここにある.筆者は,この議論に深入りするつもりはないが,早期胃癌でのⅢ型病変の存在,あるいは進行癌における潰瘍発生あるいは,潰瘍型癌は,胃液のPeptic activityと密接な関連があるのではないかとの日頃の持論を証明すべく,手許の資料で,肉眼型と胃液中の遊離塩酸の有無との関連を調べた.血管法や,Katch-kalk法は信頼性が乏しいので,HistalogまたはGastrin様peptideで刺激した症例を取上げた.隆起性胃癌では,早期胃癌Ⅰ,Ⅱa,BorrmannⅠ型を含め,無酸性が多く,全例に萎縮性胃炎を認めた.良性の胃ポリープ,異型上皮でも同様な傾向をみた.隆起性病変では,良悪性をとわず,無酸,萎縮性胃炎が優勢だった.隆起,陥凹の混合型であるⅡa+Ⅱc型,BorrmannⅡ型では,過半数が有酸を示した.さて,陥凹型になるとⅡcの28例中27例まで有酸で,粘膜萎縮は半数以上にみられ,Ⅱc+Ⅲ型では,13例全例有酸,萎縮性胃炎は3例にのみ認められた.BorrmannⅢ型でも,有酸が80%以上を占め,萎縮性胃炎は25%にみられたにすぎない.良性疾患では,胃潰瘍での傾向はⅡc+Ⅲ型病変の場合にその傾向が酷似していた.従来,胃癌では無酸性が多いといわれてきたが,これは刺激法が適正でなかったためで,KayのHistamin法,その後世に出たHistalog,Gastrin様peptide等で刺激すると,壁細胞が胃粘膜に存在すれば塩酸分泌があると考えてよい.胃粘膜の組織学的変化を考慮すると,癌が年齢による萎縮性化生性変化の基盤の上に出現する腸上皮型胃癌でも,胃固有腺が完全に消失する例は稀である.ここで,胃癌での刺激前後の有酸,無酸の比率を調べると,刺激前は有酸30%,無酸70%が,刺激後には有酸83%,無酸17%になり,胃癌といえども適正刺激を与えれば有酸者が圧倒的に多いことを示している.なかでも,びらん,潰瘍を有する型の胃癌では90%以上に有酸を証明している.Ⅱc,Ⅱc Ad,Ⅱc+Ⅲ,Ⅱc+Ⅲ Ad.を合計すると41例で,刺激前は27例が無酸だったが,刺激後の無酸はⅡcの1例のみで,これらの例では癌粘膜表層の陥凹性変化,殊にⅢはPeptic digestionによるものと考えられ,その一つの証拠に制酸剤,遮断剤等の潰瘍治療で,みかけ上の治癒を示すものがある.以上より,びらん,潰瘍を伴なった癌またはBorrmannⅣ型の如く,腺構造を余り侵さずに粘膜下間質層を拡がる癌では,胃固有腺が存在し,Locus minorisと考えられる癌粘膜に消化性潰瘍をつくりやすいのではないか.初めの約束を破って,癌が先で,潰瘍が二次的に発生するとの考えを支持する如き結末になってしまった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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