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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸8巻1号

1973年01月発行

雑誌目次

今月の主題 急性胃病変の臨床 主題

急性胃病変の臨床―心窩部痛の面から

著者: 並木正義

ページ範囲:P.9 - P.16

 近年,胃内視鏡検査も出血の場合を含めてともかく発症の早期から積極的に行なうといった傾向にあるが,それにともない種々の胃粘膜の急性変化がとらえられるようになってきた.以下かなり激しい心窩部痛を訴える急性胃病変のうち,日常の診療にあたって知っておいたほうがよいと思われる3つの場合をとりあげ,述べることにする.

急性胃病変の臨床―一胃出血の面から

著者: 川井啓市 ,   赤坂裕三 ,   木本邦彦 ,   日高硬 ,   山口勝通 ,   須藤洋昌

ページ範囲:P.17 - P.23

急性胃病変とは

 実際の臨床の場にあって,突発する激しい胃症状,ことに上腹部痛により内科外来を訪れる患者は多く,その中には,X線,内視鏡検査により胃粘膜に急性の出血を証明するものから,軽微な変化を認めるもの,更には他臓器の検索で異常所見を認めず,検査所見と臨床症状との間に大きなギャップの存在する例も少くない.ここでは大学病院を中心とした臨床診断から展開される診断学,内科学の従来の成書の記載とは多くのへだたりを認めねばならない3)10)11)12)13).すなわち,病理組織学的なcriteriaにのっとった胃疾患分類(胃炎,ビラン,胃潰瘍など)を直ちにこれらの例に適用することには無理があり,これらを含めた綜括的なとり扱いが必要となって来る.そこで我々は,突発する胃症状を伴い,X線,内視鏡検査により胃粘膜に異常所見を認める病変を臨床的立場から一つの症候群としてとりあげ,急性胃病変と定義した.しかし,後述するように急性胃病変は独立した症候群というよりも,むしろ下部食道,十二指腸球部下行脚の一部をも含めて上部消化管に生じた病変的化の胃における部分症として理解されねばならないことを結論した.

急性胃病変の臨床―出血性びらん

著者: 大沼肇 ,   唐沢洋一 ,   鈴木博通 ,   安井昭 ,   村上忠重

ページ範囲:P.25 - P.30

 急性胃疾患の中でもとくに超急性病変であるHämorrhagische Erosion(出血性びらん)は,ファイバースコープや胃カメラの最近の著しい進歩によって,しばしば捉えられるようになってきた.この病変は最初は病理解剖の世界でしか知られていなかった1)

 すなわち,生検材料でこの現象を最初に捉えたのはドイツの病理学者のBüchner2)であるといわれている.彼は胃底腺を有するMeckel憩室で同質の壊死組織を見出し,粘膜の壊死のために働いたカは胃底腺より分泌される塩酸及びPepsin,とくに前者であると考えた.そして,猫に塩酸を呑ませてこの現象が胃粘膜に起ることを証明した.これが彼の説いた潰瘍消化説である.しかし,出血性びらんを人の切除胃の中で証明したのは彼の方が早いか,あるいはわれわれの研究グループ3)~8)の方が早かったかは定かではない.

座談会

急性胃病変の臨床

著者: 横山秀吉 ,   唐沢洋一 ,   中島義麿 ,   信田重光 ,   為近義夫 ,   並木正義

ページ範囲:P.46 - P.59

 並木(司会) 今日は昭和48年度の“胃と腸”の最初の座談会として急性の胃病変というテーマを取り上げ,先生方にお集まりいただいたわけですが,ご多忙のところおいで下さいまして,まことにありがとうございました.このテーマからして,どうしても第一線でご活躍なさっておられる先生方に加わっていただき,その豊富な体験談などをお聞かせ願いたいと思いまして,このようなメンバーになった次第ですが,ひとつ新春放談のつもりで気楽にいろいろお話を願えれば幸いと思います.

 急性の胃病変といいますと,ある因子が加わって,胃粘膜に急性の出血やerosion,もしくは潰瘍性の変化の生ずる場合の話が主体になるかと思いますが,まず初めに急性胃炎の問題から入りたいと思います.

胃と腸ノート

出血早期の内視鏡検査

著者: 赤坂裕三 ,   川井啓市

ページ範囲:P.24 - P.24

 1.早期内視鏡検査はなぜ必要か

 消化管出血患者に,顕出血後の早期より内視鏡検査を行なう目的は,①出血源の確認,②早期治療法の確立ことに手術適応の決定,③予後の判定にある.内視鏡検査によってのみ消化管腔内の出血状況が観察できることや,X線検査では描出しにくい,浅い病変(ビラン,潰瘍,マロリーワイス症候群)も容易に診断しえることに加えて,重篤な患者では病巣内の露出血管の観察や直視下生検法による良悪性の判定が内視鏡検査にて可能であるため,治療,予後の面からもその有用性が強調される.

悪性潰瘍の治癒例(8)

著者: 三輪剛 ,   武藤征郎 ,   広田映五

ページ範囲:P.60 - P.60

〔第8例〕M. K. 45歳,男.

主訴:心窩部痛.

理学的検査所見:特に異常なし.

胃液酸度:ガストリン法で最高総酸度72Eq/L.

胃カメラ所見:図1に示すように,胃角部小彎後壁よりに,活動期の潰瘍あり,辺縁腫脹し,潰瘍の中心部に出血がみられる.集中する粘膜ひだは,辺縁まで達し,後壁においては,粘膜の陥凹がみられるけれども,腫脹しているために,悪性所見ははっきりしない.この日に直視下胃生検も行なった.12日後の胃カメラフィルム(図2)では,潰瘍は著明に縮少している.前壁からの集中する粘膜ひだにくびれと中断がみられる.

 胃生検:図3に示すように,潰瘍辺縁より採取された標本の病理組織学的検索の結果,signet ring cell carinomaと診断された.

大腸の炎症性ポリポージス(1)―消化器病学の用語をめぐって

著者: 竹本忠良 ,   長廻紘

ページ範囲:P.68 - P.68

 きわめて数の多い消化器病学の学術用語のなかにはずいぶん問題があり,活発な論議の対象になっているものも少なくない.病因論の未解決な疾患ではいきおい疾患の概念を正確に表現する適切な言葉を探すのに苦慮した結果,なかには現時点からみるとちょっと首をかしげたくなる言葉もないではない.

 内視鏡診断学で日常用いられている用語のなかにも,そのなかには正確な意味が多少あいまいな状態で流通しているものもあるだろう,そこまでいいきるのは言葉がすぎるとしても,Henning徴候,bridging fold等々の内視鏡用語はその起源にさかのぼって,できるだけ正確に意味を知っておくことが必要であろう.

胃癌の経過(4)

著者: 中島哲二

ページ範囲:P.80 - P.80

Case 3

I.M. 57 year old male, no symptoms. Pathologic diagnosis: Cancer of the stomach of Borrmann Ⅲ type

Histology: Adeno. ca. tubulare


隆起を主とした病巣が次第に増大して,中央部の陥凹がはっきりしてきてBorrmann Ⅲ型になったと思われる症例である.

胃癌患者の前検査資料よりみた初回X線検査のあり方―(3)幽門前庭部圧迫法

著者: 八尾恒良 ,   西元寺克礼

ページ範囲:P.86 - P.86

 幽門前庭部を中心とした二重造影像で,この部分の大抵の病変は拾い上げ可能であるが,前壁の病変や小隆起性病変は見逃がされることがある.また,小さなⅡcは描出されていても拾い上げかねることがある.このような欠点を補なうために,我々は幽門前庭部から胃角部にかけての圧迫像を必ず撮影するよう申し合わせている.

 この圧迫像は,二重造影像などを撮影したあと,患者を再起立せしめて撮影することもあるが,前庭部が小腸索と重なって,病変を描出し難くなることが多いので,原則として立位充盈像を撮影する前に撮影している.

早期胃癌の内視鏡的着色法

著者: 鈴木茂 ,   鈴木博孝 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.87 - P.87

 従来より一般に広く利用されている色素撒布法は,胃粘膜病変をより客観的に観察しようとするものであった.すなわち,胃粘膜の凹凸不整を強調して病変部のより一層の明瞭化をはかるものであった.しかし,この方法も,この観点のみから利用されていたのでは自と限界があったように思う.

 私共はこの方法を一歩前進させて,病変部のみに色素が着色するよう前処置を工夫し好結果を得ている.この方法は井田ら1)が発表したと同様に,内視鏡施行前に酵素剤と色素を胃内に注入しておくものであるが,異なる点は酵素剤を服用させてから15分後に鼻腔ゾンデで胃液を含めたこの液を十分に排除し,色素(主として0.5%メチレンブルー液10cc)を注入し,この後は1時間半から2時間放置し,その後に通常の内視鏡検査を施行するようにしたことである.

研究

急性症状を呈する胃アニサキス症―特に胃壁内穿入幼虫の内視鏡およびレントゲン所見とその臨床像

著者: 河内秀希 ,   並木正義 ,   諸岡忠夫 ,   中川健一 ,   太黒崇

ページ範囲:P.31 - P.38

 いきのよい生の魚をたべて“あたった”という話を聞くことがよくあるが,かかる場合,一般に急性胃(腸)炎,食あたり(食中毒)あるいは胃痙攣などとしてすまされることが多い.ところがこのような症例を早期に胃ファイバースコープで観察すると,ときに生きたアニサキス様幼虫が胃壁内に穿入しっっある現場を見出しうることを知り,以来われわれは食あたり様の急性症状を呈する症例と,アニサキス幼虫との関連性に着目し,胃内視鏡の立場から検討をっづけてきた.その後,この虫体はレントゲン写真でもよくうっし出せることが分った.

 これらについては,すでに機会あるごとに発表してきたが1)2)3)4),このような急性胃症状を呈する胃アニサキス症を,われわれは便宜上,“急性胃アニサキス症”と称してきた.これは再感染による劇症型ともいうべきものである.

症例

アルコール性胃病変

著者: 鈴木博孝 ,   田中三千雄 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.39 - P.45

 酒は古代より人類の信仰や日常生活と密接な結びっきをもっ飲料である.酒の害を説く声よりこれを称える讃歌が大きく響き,世間では二日酔いの苦しみもものかは懲りることなく飲み続ける人が多い.酒が胃に悪影響を及ぼす証拠を印象付ける報告も少く,一過性の異常があってもあまり害はないのではないかと錯覚を起すほどである.しかし,種々の臓器,とくに肝膵心にアルコールが関係して障害を与えることは明らかである.アルコールが胃にどのような変化を及ぼすか知るところは少ないが,アルコールの貯留,吸収の第一の関門となる胃に何らかの影響があろうとの推定は成立っであろう.ここに改めて日常のアルコール飲料飲用が胃粘膜に及ぼす影響や変化を協同研究者田中の報告を含めて検討報告する.

アレルギー性胃炎の4症例

著者: 小嶋高根 ,   倉内嘉人 ,   金沢浩吉 ,   吉井隆博 ,   高田一也

ページ範囲:P.61 - P.67

 アレルギー性胃炎は,急性胃炎の分類上,Bockus1)のacute simple exogenous gastritis,Henning1)のakute alimentäre Gastritisの一分型に属するものと考えられる.一般に食餌の不摂生と関係があるため,急性胃カタルとして処理され,その経過も短時日で良好なため,胃X線,胃内視鏡,胃生検が行なわれる機会が少なかった.

 胃X線検査にっいては,最近,第一線で活躍している諸家により,その機会が多くなったが,その特異な所見は,進行癌と誤診される場合がある.

薬剤(ステロイド)による急性胃病変症例―経過観察中に拡大穿通を来した胃潰瘍の2例

著者: 酒井義浩 ,   清水谷忠重 ,   西川貴之 ,   似内滋 ,   永野信之

ページ範囲:P.69 - P.74

 胃潰瘍の経過追求中蛋白同化ステロイド剤投与に由来して拡大穿通を来したと思われる2症例を呈示する.

症例

 〔症例1〕68歳 家婦

 約10カ月にわたる心窩部異和感を主訴として来院既往歴,家族歴に特記すべきものなし.胃X線検査にて胃角の潰瘍と十二指腸球部の変形を指適されて入院.入院時,瞼結膜やや蒼白で心窩部に軽度の圧痛がある他は年齢に担応した現症を示した.入院時諸検査では糞便潜血反応軽度陽性,中等度貧血,血沈充進,梅毒血清反応陽性のほか尿,血液血清化学定量,心電図に異常認めず.入院後の経過を表1に示した.

薬剤(アスピリン)による急性胃病変症例

著者: 常岡健二 ,   瀬底正彦 ,   伊藤武之 ,   桑名荘太郎 ,   田口武人 ,   島津秀寿

ページ範囲:P.75 - P.79

 サリチル酸が臨床的に用いられるようになった1年後の1877年にはすでに,その胃腸障害が注目されるところとなった.そして1938年Douthwaite & Lintott1)2)はAspirinによる胃傷害の内視鏡について始めて記した,以来,いわゆる“Aspirin Gastritis”としてサリチル酸剤による胃病変に関する多数の報告がある.著者らも,サリチル酸剤が関与すると考えられる胃病変37症例を経験し,一部に既に発表し3)4),また現在検討をすすめているが,Aspirinによる2症例を示し,多少の臨床的検討を加えて記す.

急性胃ヘテロケイルス症―Terranova decipiensによる

著者: 長野一雄 ,   高木皇輝 ,   柳川一成 ,   大石圭一 ,   影井昇

ページ範囲:P.81 - P.85

 並木ら1)の提唱による所謂急性胃アニサキス症は,最近では本道を中心として多数発見され,充分な観察を以てすれば発見困難な疾患ではなくなって来ている.われわれも偶然31歳家婦の胃にアニサキス様幼虫を発見摘出したが,この虫体が従来のアニサキスと異っているところからTerranova疑として47年2月27日第8回北海道胃疾患ゼミナールにおいて紹介した.その後の同定で本虫体はTerranova decipiensであることが判り,また本邦および欧米の文献を渉猟してもTerranovaの入体寄生の報告は皆無であることを知った.47年4月6日第41回日本寄生虫学会に共同発表者の影井2)が報告したが,唐沢3)(旭川)グループによっても同じく本症の報告があり,急性胃アニサキス症と同様にいわゆる急性胃テラノーバ症もさほど稀有なものでないことが確認されたわけである.以下,本症の概要を報告する

アルコールによる急性胃病変症例

著者: 小林世美 ,   水野宏 ,   春日井達造

ページ範囲:P.89 - P.92

 急性胃病変,殊に出血性胃炎をおこす代表的なものとして,アスピリンと共に挙げられるのがアルコール性飲料である.欧米諸国でアルコール性飲料といえば,ウィスキー等の高張液が好まれ,アルコール摂取後の急性胃炎,急性潰瘍の頻度が高く,それらにっいての報告も多い.日本では,酒,ビール等の比較的低濃度のものが従来多用され,大出血をおこすような症例に遭遇することは稀であった.しかし,最近生活が益々洋式化するにっれ,外国製のウィスキー等の輸入が盛んとなり,一方,国産でも高級洋酒の販路はますます拡大されっっあり,日本人とても高濃度アルコール性飲料を大量摂取する機会が多くなってきた.さて,急性消化管出血に対する内視鏡検査は,米国ではEmergent endoscopyとして早くから積極的に実施されている.この面では,私共の経験は彼らに比して乏しいと思う.近年,内視鏡器械の改良により安全性が強調され,出血巣の早期診断の必要性から多くの施設でEmergent endoscopyが応用されるようになった.

 私共に与えられたテーマは,アルコールによる急性病変であり,各Stageの代表例をあげてみよう.

胆汁酸腸石

著者: 伊藤英明 ,   大里敬一 ,   為末紀元 ,   永光慎吾

ページ範囲:P.93 - P.99

 胆汁酸腸石は大変稀で,K. A. H. Mörner20)(1908)により報告されて以来,Hellström13),Grettve12),Atwell2),Bewes4)らにより欧米で34例報告されているが,本邦での報告は見あたらない.なかでも,一次胆汁酸腸石は,1965年Fisher9)が胃切除術後輸入脚十二指腸に発生した1例の報告があるのみである.筆者らは,胃切除術後に,一次胆汁酸腸石を生じた症例を経験したので報告する.

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欧文目次

ページ範囲:P.7 - P.7

編集後記

著者: 川井啓市

ページ範囲:P.100 - P.100

 急性胃病変といった概念は未だ確定したものではない.たぶん原因の複雑さは別にして,臨床的に急激に発症する胃病変と理解してよいのであろうが,これを成書の中に探しても見つけ出すことは難かしい.甚だpopularでありながら,なおざりにされていたものである.このような概念が比較的明確にされてきたのは,最近のように救急時と言わないまでも,疾患の発症時に直ちにX線検査,ないし内視鏡検査を行なえるだけの器種の進歩と,これを駆使できる医師が,一般臨床の場で定着するようになったことによる.

 勿論,急性胃病変が胃に限定したものと捉えるには問題があろうが,いずれにしろ「主題」の中で盛られた並木の精神的ストレスと潰瘍の発生,大沼らの出血性びらんは日本においてこそ診断され,その病像ないし病理所見と臨床像の結びつきが非常にクリアカットに証明されて来た新しい分野だと言えよう.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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