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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸8巻11号

1973年11月発行

雑誌目次

今月の主題 症例・研究特集 症例

20年目に発生した異時性胃重複癌の1例

著者: 福士勝久 ,   黒江清郎 ,   千葉満郎 ,   川上澄 ,   駒場稔 ,   佐藤浩一

ページ範囲:P.1445 - P.1449

 従来,重複癌とは2つ以上の癌が,それぞれ異なった臓器に発生した場合に用いられてきたが,Warren&Gatesの重複癌定義の修正以来,1つの臓器に複数の癌が発生した場合も,その各々が互いに独立したものであれば,重複癌と言われるようになった.

 一方,重複癌は発見時期から,6カ月以内に発見された場合は同時性重複癌といい,6カ月以上の間隔のあるものは,異時性重複癌といわれている1).また,一般に同一臓器内に発生した同時性癌は多発癌と習慣的に呼ばれている2)

興味ある経過を示した早期胃癌の1例―隆起性病変からⅡa+Ⅱcへの過程

著者: 中津川直人 ,   若林敏之

ページ範囲:P.1451 - P.1456

 胃の隆起性病変と総称される疾患のなかには,診断学的にさほど困難を感じない典型的なBorrmann Ⅰ型の癌や,粘膜下腫瘍なども含まれるが,鑑別診断のむずかしい症例も数多く存在する.臨床的にも病理学的にも,そのcriteriaがほぼ確立され,比較的診断の容易な腺腫性ポリープも,時にⅠ型の早期癌との鑑別や癌化の問題,またポリポイド癌との鑑別に際して困難を覚えることがある.

 多くの症例が示すように,両者の鑑別や腺腫性ポリープの癌化の診断を確実に下だし得るものは胃生検でしかなく,しかも陽性データのみである.鑑別診断の困難な症例に遭遇し,しかも何らかの原因で胃生検を施行し得なかった場合,残された方法は症例の経過観察しかない.今回は初回検診で良性の隆起性病変と診断され,生検,手術を施行しないまま,6年間の長期観察を行ない,その間に非常に興味のある経過をたどり,最終的にはⅡa+Ⅱcの早期癌となった症例を経験したので報告する.

胃Adenoacanthomaの1例

著者: 志多武彦 ,   馬渡康郎 ,   前田義章 ,   三好晃 ,   黒田裕介 ,   森松稔

ページ範囲:P.1457 - P.1461

 胃に原発するAdenoacanthomaは稀なもので報告例は極めて少ない.筆者らは最近,臨床的には胃平滑筋肉腫と考えられ,術後,組織学的に壁外性発育をしめしたAdenoacanthomaであった1例を経験したので報告する.

胃カルチノイドの1例

著者: 高見元敞 ,   田口鉄男 ,   藤田昌英 ,   高橋明 ,   芝茂 ,   森口敏勝 ,   石上重行 ,   山崎武 ,   谷口春生

ページ範囲:P.1463 - P.1470

 カルチノイドは,1808年Merling1)が記載したことにはじまり,Langhans2)(1867年),Lubarsch3)(1888年)らによりその組織像が検討されているが,「カルチノイド」の名称をはじめて用いたのはOberndorfer4)(1907年)である.それ以後,この腫瘍をめぐって多くの報告がなされているが,最近になって,ホルモン産生腫瘍として注目されはじめ,多くの関心をよせられるようになった.

 カルチノイドの多くは消化管に発生し,虫垂にもっともよくみられるが,胃のカルチノイドは発生頻度も低く,比較的まれであるとされている.

極めて稀な横行結腸筋腫瘍の1症例

著者: 梅田和夫 ,   岡本十二郎 ,   新谷陽一郎 ,   斎藤勝正 ,   原正博 ,   兼松宏 ,   牧野惟義 ,   相馬哲夫 ,   大石山 ,   金沢築 ,   石谷直昌

ページ範囲:P.1471 - P.1474

 消化管に発生する滑平筋腫瘍は,比較的まれとされている.とくに横行結腸を原発とするものはきわめてまれで,本邦において,筆者らが集め得た症例数はわずか3症例の報告を見出すに過ぎない.われわれは横行結腸の筋腫瘍の1症例を経験したので,ここに文献的考察を加えて報告する.

結腸Polyposisを合併したMénétrier病の1例―胃瀰漫性polyposis兼巨大皺襞症

著者: 長野一雄 ,   佐野博之 ,   田原信一 ,   安田侑二 ,   森山裕 ,   高橋正宜

ページ範囲:P.1475 - P.1482

 臨床的に胃粘膜の巨大皺襞は,大別してただひだが大きいだけのもの,始めてMénétrierが唱えたような概念のもの,及び悪性腫瘍に関連のあるものに分けられる1).このうち良性の巨大皺襞を青山2),高木3)は巨大皺襞症と呼び,わが国では広く用いられるようになってきた.しかし,これが以前より学者によって種々の名前4)5)で呼ばれ,その診断基準や病理組織像についても随分相違する所に問題があった.Ménétrier病をめぐる従来の主な混乱は,巨大皺襞と本病との混同で,X線検査で認めるgiant rugae内視鏡検査で認めるgiant foldを組織像の裏付けもなくhypertrophic gastritisと呼んだものがあることもあって,両者を等しいとする見解が生じたものであり,現在Ménétrier病は巨大皺襞を示す疾患の一つであるが,原著者6)がもっとも力を入れている組織学的所見が具っていることが本症の条件となっている7)8).筆者らは最近,広汎な胃polyposisを伴った胃巨大皺襞症を経験した.血清蛋白動態は正常であったが,切除標本の検討などからこれがMénétrierのPolyadénomes polypeuxとPolyadénomes en nappeの併存例に相当することを知った.さらに本例にはS字状結腸,直腸にpolyposisを合併しており,Ménétrier病の場合の下部消化管病変については意外に報告が乏しいので多少の文献的考察を加え報告した.

急性局所性上部小腸炎の2例

著者: 中村裕一 ,   中村勁 ,   谷啓輔 ,   岡田安浩 ,   渡辺英伸

ページ範囲:P.1483 - P.1488

 非特異性局所性腸炎については,本邦においても数多くの報告がみられる.Crohn1)が記載したEnteritis regionalisのⅠ期(急性型),Ⅱ期(亜急性型),Ⅲ期(慢性型),Ⅳ期(腸瘻期)の4病型のうち,外国報告例ではⅢ,Ⅳ期の慢性型が圧倒的に多く,急性型は3~15%と少ない.しかるに本邦では長洲2)の集計で局所性腸炎511例中,急性型(亜急性型を含む)は72%であり,石倉3)4)は急性型876例に対し慢性型(亜急性型を含む)227例と報告しており,圧倒的に急性型が多いことが注目される.従って本邦で報告されている急性型の局所性腸炎が,総てCrohn病の急性型であるとは考え難く,現に報告例の大多数は治癒しており,慢性型への移行を証明された症例も見当らない.外国でもBockus5)は病理学的に急性型から慢性型への回腸終末炎の移行を証明されたものはないというRappaport et al.の言を支持しており,本邦においても同様の考え方が強く,長洲2)は本邦急性局所性腸炎の報告例のうち,Crohn病急性型(非特異性局所性腸炎と呼称)の存在は否定し得ないが,大部分は別個のentity(急性局所性腸炎と呼称)に入れている.また石倉3)4)6)は北海道に多発した急性局所性腸炎は,アニサキス幼虫の感染によるアレルギー性変化であり,本邦報告の急性局所性腸炎の大部分が組織学的にアニサキス症またはそれに酷似あるいは類似のものであると述べている.本邦では急性虫垂炎またはイレウス等の急性腹症の疑いで開腹された結果,回腸の急性局所性腸炎であったという例が主として外科の立場から報告されたものが圧倒的に多く,臨床経過あるいはX線像についての経過観察を行なった症例にはほとんど接しない.

 筆者らは非手術例ではあるが,特異な臨床像を示し,X線検査,内視鏡検査および生検を行なって,経過を観察し得た十二指腸から空腸上部に限局した非特異性の急性局所性腸炎を経験したので報告する.

研究

内視鏡にて観察された十二指腸乳頭近傍の総胆管十二指腸瘻―胆石の自然脱落機序に関する考察

著者: 池田靖洋 ,   田村亮一 ,   岡田安浩

ページ範囲:P.1489 - P.1502

 筆者らは,1971年4月から1972年12月の間に胆膵疾患を中心に200例の逆行性膵胆管造影を施行したが,そのうち11例の特発性内胆道瘻を経験した.その内訳は,総胆管十二指腸瘻9例(球部開口1例,乳頭近傍開口8例),胆のう十二指腸瘻1例,胆のう気管支瘻1例である(表1).

 胆石による胆道系の穿孔部位は,胆のうにもっとも多く,まれに総胆管,胆のう管,肝管にもおこるが,総胆管では十二指腸乳頭部附近にみられるものが多いと言われている.しかし,文献上,このような総胆管十二指腸瘻の報告は少なく,わずか数例をみるにすぎない1)~3).しかも,術前に確診されたものは皆無のようである.従来,レ線検査にて胆道内ガス像,あるいは,消化管透視の際バリウムの胆道内逆流があり,Oddi氏筋閉鎖不全症として報告された症例の中にも,とくに乳頭部の検索の不十分なものにおいては,このような乳頭近傍に開口する内胆道瘻をOddi氏筋閉鎖不全症と誤診している可能性もあると考えられる.

食道表在癌診断上の問題点

著者: 遠藤光夫 ,   矢沢知海 ,   羽生富士夫 ,   岩塚廸雄 ,   小林誠一郎 ,   榊原宣 ,   木下祐宏 ,   御子柴幸男 ,   浜野恭一 ,   鈴木博孝 ,   山田明義 ,   鈴木茂 ,   井手博子 ,   門馬公経 ,   林恒男 ,   中山恒明 ,   竹本忠良 ,   市岡四象

ページ範囲:P.1503 - P.1511

 1966年以降,食道癌でも胃癌に準じ癌の浸潤が粘膜下層までのものを仮に早期癌とよび,症例報告のかたちで報告されてきたが,その後「食道癌取扱い規約」(1969年)のなかで,改めて“癌の浸潤が粘膜下層までのもの”と定義された.この場合,リンパ節転移の有無は考えず,また,術前放射線治療をおこなったものはR-早期癌として,同じ範疇に入れるものの,区別して取扱うことにした.

 早期癌の定義も含め,この規約は,その後検討され,1972年10月には変更されて,早期癌についてはリンパ節転移を問題にし,癌の浸潤が粘膜下層までということとともに,手術によりリンパ節転移のないもののみをよぶようにした.癌の深達度のみを問題にする場合は表在癌として,結局,表在癌のなかで,リンパ節転移のないもののみが早期癌(stage 0癌)となるわけである.

急性胃ヘテロケイルス症(アニサキス症・テラノーバ症)の臨床―とくにレ線的,内視鏡的鑑別診断を中心に

著者: 土井一彦

ページ範囲:P.1513 - P.1518

 並木1),飯野2)により急性胃アニサキス症が,鈴木3),長野5)により急性胃テラノーバ症が報告されているが,筆者は1971年9月より1973年7月までの1年10カ月間にAnisakis幼虫1型24例,分類不明Anisakis幼虫1例,Terranova幼虫A型10例を人の胃から摘出しこれらを同定し得た.

 アニサキス亜科幼線虫の文献的考察,寄生虫学的所見,寄生虫学的分類,同定の方法,虫体摘出の要領などについては序にくわしく報告されているので,ここではそれらについてはふれず,主としてそのレ線所見,内視鏡所見ならびにその鑑別診断について考察してみたい.

大腸腫瘍の発生に関する研究

著者: 吉川宣輝 ,   安富正幸 ,   広瀬俊太 ,   陣内伝之助

ページ範囲:P.1519 - P.1527

 いままで多くの議論がなされたにもかかわらず,結腸直腸のポリープの発生や良性ポリープの癌化など解決されていない問題が多い.われわれはヒトの手術材料およびラットの実験的大腸癌を組織学的,酵素組織化学的に研究することによって,大腸ポリープと大腸癌の発生する過程を解明することを試みた.

大腸の内視鏡診断(3)―過形成性ポリープ

著者: 長廻紘 ,   生沢啓芳 ,   ,   鈴木博孝 ,   矢沢知海 ,   竹本忠良

ページ範囲:P.1529 - P.1534

 大腸によくみられる上皮性のポリープには,組織学的に2種類ある.腺腫と過形成性(化生性)ポリープである.両者を肉眼的に鑑別することは困難なことが多く,生検組織像によって,はじめて診断できる.将来悪性化する可能性もある腺腫と,発育に限度があり,かつ悪性化のまったく心配のない過形成ポリープとでは,自らその扱いが異なり,両者の正確な鑑別診断は臨床的にきわめて重要である.大腸のファイバースコープのイメージの向上,冷光光源の改良などによって非常に小さな隆起性変化まで詳しく観察することができる上,鮮明な記録写真の撮影,正確な狙撃生検を行なうことが容易になった.過去3年間にファイバースコープで観察した大腸の上皮性のポリープにつき,過形成性ポリープを中心に検討を加えた.なお本邦では過形成ポリープと腺腫の異同があいまいに考えられている傾向があるので,冗長とは思うが,文献的考察を併記した.

大腸のMetaplastic Polyp(化生性ポリープ)についての一考察―その病理組織像と鑑別診断

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1535 - P.1540

 大腸,直腸に発生する隆起性病変のうち,metaplastic polyp(Morson)1)またはhyperplastic polyp(Lane)2)と呼ばれる病変は日常しばしば遭遇し,とくに高齢者に高頻度に認められ,Alterspolypen(Westhues)3)とも呼ばれている.この病変の本態に関しての研究は数少く,腺腫あるいは癌との関連を指摘するものもあるが,大方の考えは非腫瘍性病変であって,腺腫,癌とはまったく関係がないというものである1)~3).しかし,その本態に関しては未だ不明な点が多い.近年,疫学の立場から剖検例を用いて大腸癌と大腸ポリープ(metaplastic polypを含む)の関連性が論じられているが4)5),metaplastic polyp(hyperplastic polyp)の診断基準は諸学者の間で必ずしも完全に一致していないようである.

 ここで,Morsonのもとで約2年間過した経験をもとに,metaplastic polyp(hyperplastic polyp)の臨床病理学的問題点を明かにしてみたい.

胃と腸ノート

アメリカ人と早期胃癌

著者: 小林世美

ページ範囲:P.1450 - P.1450

 早期胃癌の発見または胃癌の早期発見は,日本の消化器s科の医者のお家芸となって久しい.しかしながら,胃癌の早期発見の歴史をふりかえると,欧米に数々の業績のあることを知る.1973年,NewYorkのMemorial病院のEwingは“The Beginnings of Gastric Cancer”と題する論文の中で,“early”という語を用い“early curable stage”の癌を早期胃癌としている.型としては“Superficial eroding carcinoma without tumor formation or excavation”と述べているところから察すると,日本の早期胃癌のⅡc型を指しているらしい.同じ頃フランスでは,GutmannがⅡc型の早期胃癌を経験しているが,仏語で書かれたその著書は,余り読まれていないようだ.1942年,コロンビア大学外科病理のStoutが,固有筋層に達しない胃癌15例を経験し,これらは表層性に横に拡がったと考え,“Superficial spreading type”と名付けた.うち9例は,癌が消化性潰瘍の辺縁におこったと解釈された.つまりⅢ+Ⅱc型またはⅡc+Ⅲ型である.他の例はびらん状を呈し,Ⅱcに相当する.その後も早期癌または表在癌に関する報告は少なからずあるが,大きなシリーズをまとめたのは,Mayo ClinicのFriesenで,1962年,“Superficial carcinona”と題する論文の中で,ⅡcまたはⅡcとⅢの混合型,つまり陥凹型を記載した.報告された症例は,X線で胃潰瘍と診断され,手術後癌性潰瘍と判明したものや,偶然潰瘍の近くに癌を病理学的に発見したもので,早期胃癌ⅠおよびⅡaの如き隆起型について,Friesenは“Raised lesion”の存在可能性をのべているだけで,実例を挙げていない.Raised growthを示すものが表層性であるとき,これが真の“Superficial carcinoma”だと述べている.Stoutには全くこの記載がない.アメリカで,内視鏡的に術前確診されたRaised lesionは,私の知る限りでは“シカゴ大学で発見された早期胃癌の1例”(胃と腸,5:365,1970)が最初である.これほどの先人を輩するアメリカで,胃癌の診断学が日本に比べて遙かに遅れた理由は何か.私の2年半におよぶ滞米中,特にこの分野に携ったものの見聞を少しばかり述べてみたい.1969年ワシントンのアメリカ内視鏡学会で“Gastroscopic diagnosis of early gastric cancer based on Japanese classification”を発表したとき,Dr. RumbalはDr. 小林の研究の評価はむずかしい.何故なら,このような早期胃癌は,米国では極めて稀だから.とのコメントを述べた.また小黒博士と私の両者に,“Ⅱa型の病巣で経過をみた例はないか”との質問が投ぜられた.欧米では今も,癌としての生物学的特性,即ち人を死に到らしめるか否かを問題にしている.Dr. Mersonの早期直腸癌に関する定義の如く,invasive carcinomaでなければ癌といわない人々がある.その立場からは,日本でいうⅡa型病変に,Carcinoma in situ或は異型上皮的なものを,時に含めているのではないかとの疑問は生ずるであろう.私共は後にⅡc型早期胃癌例を見つけ,これらが決して日本人特有の胃癌型でなく,早期には表層にとどまっていることを示している.既に胃と腸6巻1337頁に書いたように,シカゴ大学の1955年以後の胃癌症例中に16例の早期胃癌をみつけた.つまりこれらの早期胃癌はアメリカでも存在する.では一体如何なる要因が早期発見を阻んでいるのか.第1に,胃癌の頻度が非常に低い.死亡率は,10万に10,日本の7~8分の1に過ぎず,世界で最低なるが故に,医療側,患者側共,胃癌に対する関心が薄い.第2に,殆どの胃癌患者は,症状がひどく進んで後医者を訪れる.高い医療費が患者の早期受診をはばんでいる.GTF検査の値段が約100ドルで,日本のそれの10倍に相当する,第3に,上述の理由から,日本で早期胃癌発見に寄与している集団検診方式は,経済的にも実現不可能である.第4に,診断能力が低い.一流の大学,病院では内視鏡が普及しつつあるが,X線検査は,殊に上部消化管検査に関しては,インターン,レジデント,あるいは若いFellowの入門コースとして行なわれ,日本のように優れた専門家が育たない.第5に,癌の病理診断基準に相異があるかも知れないこと,invasiveであることを必須条件とする病理学者が多い.隆起型早期胃癌の中には,米国の病理学者により癌と認められない例が存在するだろう.

 以上に述べた諸問題は容易でなかろう.

ⅡcのX線像―とくに術前X線像と術後X線像との対比成績から(5)

著者: 五十嵐勤

ページ範囲:P.1462 - P.1462

 前回まで3コのⅡcのX線像を分析し,病変部の胃壁硬化の違いによってⅡcは種々のX線パターンを呈することを見てきました.その3コのⅡcのX線像のそれぞれの動きをまとめてみたのが下の図です.

 図の中央段には,切除胃を素直にのばして固定した時の割面所見をシェーマにしてあります.この状態は空気中等量の二重造影像の胃壁伸展度に相当します.上段は胃壁が縮んだ時の割面所見では.術後のX線像では観察できなくて,術前の生体のX線像のみにみられることは既に述べたところです.下段は胃壁が伸展させられた時の割面所見です.つまり,空気少量の二重造影では上段のように,空気多量の二重造影では下段のようになるというわけです.癌の浸潤は点で,線維化巣は斜線で示してあります.それぞれのⅡcの動きを検討します.

色素撒布による胃粘膜の生体染色―腸上皮化生の内視鏡診断

著者: 井田和徳 ,   川井啓市

ページ範囲:P.1528 - P.1528

 間接色素撒布法と同様,粘液除去の前処置をおこなってから,生体染色色素であるメチレンブルーを経口的に投与すると,ある種の胃粘膜や,胃ポリープ,異型上皮が染まることを発見し,47年日本内視鏡学会総会に発表したが,ここでは胃粘膜の染色現象について,その後の知見を加えて述べてみる.

 前処置液80cc投与後,メチレンブルー,0.7%20ccを経口的に投与すると容易に胃粘膜の青染現象を観察することができる.この際,胃粘膜表面の粘液を充分除去し,色素液が胃内全域に間接撒布されるように臥位による充分な体の回転が必要である.染色部位と染色様式には後述のようにある一定の様式が認められ,もちろん直視下に染色部を洗滌しても脱色しないことから,色素液がたんに粘膜表面に附着している現象でないことは明らかである.凍結薄切切片を作製して染色部粘膜を観察すると被蓋上皮層に同色素がとり込まれており,粘膜の染色は上皮層へのメチレンブルーのとり込みにもとつく現象であることが判った.その機序はまだ明らかでないが,本現象は一種の生体染色であると考えることができる.

一冊の本

Chronic Ulcerative Colitis A Lifelong Study

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.1512 - P.1512

 すでにこの「1冊の本」の欄に何冊かの本を紹介してきた.この欄の特長といえば,紹介した本が,いわゆる書評という形式で依頼されてからはじめて目を通したものではないことである(しぶしぶ重いペンをやっとのことで握るような本は紹介しないつもりでいる).

 この潰瘍性大腸炎のmonographにしてもそうである.学生にたいする講義の準備のために再読してやっぱりいい本だなと思ったから頼まれもしないのに紹介することにした.

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欧文目次

ページ範囲:P.1443 - P.1444

書評「経皮的胆道造影―肝・胆道・膵の診断」

著者: 三輪清三

ページ範囲:P.1527 - P.1527

 われわれ臨床医家が,肝臓,胆道,膵臓などの疾患に関し,その診断について胆道系の状態をX線学的に少しでも詳しく知りたいという念願の切なるものがあるということは,またそれがきわめて大なる意義を持つものであるからである.従来.実施されてきた胆囊造影法で,胆囊も胆管も全く造影されないことがしばしばあることは,臨床医家のよく経験するところであるが,しかし,それがまた病的状態を意味することが多いので,何とか胆道造影法を工夫してこれを明らかにすることこそ,この疑問を解明する大きな鍵であると思う.すなわち,それによって胆道閉塞の有無,ひいては黄疸の鑑別診断,肝内,肝外胆道,胆囊の模様,膵疾患のX線診断,乳頭部病変の意義など明らかにされつつある.今まで,この種の検査はわれわれ内科教室でも時々実施はしてきたが,主として外科医によりその手術症例で行なわれてきた.近年,X線テレビの応用とそれに伴う手技の研究,改善によって,内科医においても安全に実施しうる段階になってきた.

 本書の著者達はいずれも,私が千葉大第一内科教室に在職していたとき,この方面の研究を担当し,現在なお熱心に研究を続けている若い研究者達である.本著書を見るに,経皮的胆道造影法の歴史にはじまり,その方法,またその応用については適応と成績,ことに黄疸の診断について書かれている.また胆管穿刺法は大切な手技であるが,その基礎的知識より穿刺の方法について詳述されている.また臨床的に応用するうえで最も大切な合併症,禁忌,その対策などについてもよく書いてある.また著者達が強調しているところの胆道像読影の基本と考え方は,そのまま一般造影にもあてはめて応用しうるものと考えられる.また経皮的胆道造影法による実際の症例につき,肝疾患,胆道疾患,膵疾患など写真とともに詳述し,あわせて低緊張性十二指腸造影法についてもその読影と実際について症例をあげて記載されている.

編集後記

著者: 高田洋

ページ範囲:P.1541 - P.1541

 本誌も創刊以来早期胃癌を中心に胃・十二指腸潰瘍を始め消化管の疾患あるいは各領域での検査法の進歩をテーマとして各号にとりあげ,投稿原稿についてもでき得る限り主題に応じた号に掲載されるように考えてきたが,全国各地から寄せられる貴重な論文の数は年々増加し,掲載も遅れがちになっている現状であるが,本号は症例と研究を特集した.

 症例の7編の内容も,珍しい胃Adenoacanthoma,術前に生検により診断し得た胃carcinoid,20年目に発生した異時性胃重複癌,あるいは早期胃癌の発育に示唆を与えるⅡa+Ⅱc型早期胃癌の経過観察例を始め,漸次注目をあびてきた腸疾患に関しても急性局所性上部小腸炎,横行結腸筋腫及び結腸ポリポージスを合併したMénétrier病等と多岐にわたり各々興味深い論文ばかりである.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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