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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸8巻12号

1973年12月発行

雑誌目次

今月の主題 十二指腸疾患の最新の診断 主題

十二指腸潰瘍の診断とその問題点―内視鏡診断を中心に

著者: 佐久本健 ,   沖田瑛一 ,   栗原達郎 ,   岡本英樹 ,   三好洋二 ,   古城治彦

ページ範囲:P.1593 - P.1599

 1961年Hirschowitzによるファイバースコープを用いた胃および十二指腸球部の内視鏡検査についての報告以来,十二指腸粘膜を内視鏡的に観察,撮影しようとする試みが,欧米のみならず本邦においても多くの研究者により報告されてきた.教室の田中らが球部撮影用に長くした胃カメラを用いて,初めて十二指腸潰瘍の撮影に成功したのは1962年であった.

 以来,わが国においては,オリンパス光学および町田製作所で十二指腸ファイバーの開発が進められ,現在ではほぼ満足すべきファイバースコープが完成され,内視鏡検査手技についても,多くの研究者の努力により,安全かつ容易に検査を行ない得ることが判り,膵,胆道疾患へのアプローチと同時に,十二指腸疾患の診断上,十二指腸内視鏡検査は不可欠なものとなってきた.

十二指腸潰瘍の診断とその問題点―レ線所見から見た治癒判定について

著者: 野本一夫 ,   西沢護

ページ範囲:P.1601 - P.1607

 今日では,十二指腸潰瘍を探し出すことはレ線的にも内視鏡的にもさほどむずかしいことではない.しかし見つけ出された潰瘍が,まだ活動性なのか,もう治癒しているのかという治癒判定の基準については,各研究者により,また研究方法により種々であり,いまだに確たるものはない.今回はレ線所見と切除標本とを対比検討し,レ線所見をしてどこまで治癒判定に結びつけることができるかということを目的として検討を行なった.

 十二指腸潰瘍の治癒判定に関しては,確立されたレ線学的業績はない.病理に関しては,村上1)岩堀2)が修復度からみた治癒判定の基準を設けている.レ線診断に関しては,平山・日野3),山形4),岡部・八尾5)らの経過観察の報告,八尾6),白壁7)らの組織像とレ線像との対比の報告などがあるくらいのものである.

十二指腸悪性腫瘍の内視鏡診断

著者: 竹腰隆男 ,   馬場保昌 ,   舟田彰 ,   佐々木喬敬 ,   杉山憲義 ,   丸山雅一 ,   熊倉賢二 ,   松原長樹 ,   出雲井士郎 ,   高木国夫 ,   遠藤次彦 ,   西俣嘉人 ,   中村恭一

ページ範囲:P.1609 - P.1623

 十二指腸悪性腫瘍は胃癌に比し極めて稀で,ややもすればその存在すら忘れられがちである.ために十二指腸診断学は胃癌診断学に比し著しく遅れていたが,低緊張性十二指腸造影(HPD)の発達により詳細な十二指腸X線検査が行なわれるようになった.さらに1969年より各種ファイバースコープの開発改良により,十二指腸の内視鏡検査が可能となり,しかも逆行性膵胆管造影(EPCG)が加わり,膵胆管系疾患の診断に役立つようになった.このような進歩によって十二指腸膵頭部腫瘍診断も容易となり,徐々に症例報告が増してきている.そこで本文では症例を呈示しながら内視鏡診断にふれる.

潰瘍を除く十二指腸病変のレ線診断とその問題点

著者: 武内俊彦 ,   伊藤誠 ,   加藤紀生

ページ範囲:P.1625 - P.1637

 十二指腸のレ線像に異常所見を与える病変としては十二指腸固有の疾患のほかに,近隣接臓器ときには遠隔臓器の病変がある.なかでも十二指腸係蹄と解剖学的に密接な位置関係をもつ膵胆道疾患に対しては十二指腸のレ線像そのものが有力な診断法の1つである.したがって,十二指腸病変のレ線像を扱うときには膵胆道疾患の有無を念頭に置く必要があるばかりか,ときには膵胆道を同時に造影して,初めて診断が可能になる.

 立場は逆になるが,筆者らは経皮胆管造影の適応となる膵胆道疾患に対して,低緊張性十二指腸造影を併用して良好な成績をおさめており1)2),目指すところは胆道と十二指腸の変化を同時に把握することであって,十二指腸のレ線診断に際して膵胆道疾患を念頭におくべきことと同じ意義をもつものである.

十二指腸疾患症例

十二指腸球部の線状潰瘍,とくに環状潰瘍について

著者: 竹本忠良 ,   丸山正隆 ,   山田明義

ページ範囲:P.1638 - P.1642

 線状潰瘍の定義は胃においては比較的明らかで,一般には3cm以上の長さの潰瘍をいう.十二指腸においてはまだはっきりした基準はなく,いわゆる線状潰瘍の存在を認識しながらも,はっきりした定義となると人により多少異なっている.

 十二指腸の線状潰瘍が胃の場合と同様な意義をもつものかどうかまだ多少の疑問がないわけではないが,多くの十二指腸潰瘍を内視鏡的に観察していると,成因的にも経過の上でも円形・不整形などの潰瘍を含めた「線状以外の潰瘍」とはやはり多少異なるという印象をいだく.この中でもとくに長く,ほぼ完全に十二指腸全周を取り巻いており,輪状の変形を内視鏡的に呈するような線状潰瘍をとくに環状潰瘍(circular line ulcer)と称してはどうかと考えている.

十二指腸カルチノイドの1例

著者: 平林久繁 ,   野村益世 ,   木山保

ページ範囲:P.1643 - P.1647

 本邦における消化管カルチノイドの報告例は,近年次第に増加し,阿部1)によれば110例に達する.このうち十二指腸カルチノイドは9例であるが,筆者らの集計したところでは,自験例を含めて15例であった.昨年筆者らは,良性の十二指腸カルチノイドの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

十二指腸細網肉腫の1例

著者: 田中一雄 ,   仁井弘 ,   黒川由一 ,   笠井洋介

ページ範囲:P.1648 - P.1653

 十二指腸肉腫の本邦における報告は,1939年藤岡1)が最初である.われわれは,本邦における78例を集計し得たが,そのうち1939~1963年の25年間の報告は27例で,1964年以降約9年間の報告は実に51例と飛躍的にふえており,とくに1971年以降は23例となっている.しかも術前に十二指腸悪性腫瘍68)72)74),十二指腸肉腫47)50)85)92),さらには十二指腸平滑筋腫81)87)89)と質的診断がつけられるようになった.これには,本疾患に対する病態への理解,なかんずく,診断技術の向上が最も大きい役割を果たしている.われわれも,術前に十二指腸肉腫の診断をなし得た症例を経験したので報告する.

十二指腸第Ⅲ部の平滑筋肉腫の1例

著者: 川上當邦 ,   高橋稔 ,   白川和夫 ,   柳沢文哉 ,   西里吉則 ,   進藤捷介 ,   斎藤利彦 ,   芦沢真六

ページ範囲:P.1654 - P.1658

 十二指腸に原発する悪性腫瘍の中で,癌腫は小腸のうち十二指腸に比較的多くみられるが,肉腫はきわめて稀で,Rocklin1)によれば癌と肉腫の比は10:1とされている.

 著者らは最近,十二指腸第Ⅲ部の「粘膜下腫瘍」と診断し,悪性を強く疑って手術し,術後「平滑筋肉腫」であった症例を経験したので,内外の文献的考察を加えて報告する.

十二指腸のブルンネル腺腺腫の診断―自験例2例と文献的考察から

著者: 郡大裕 ,   宮岡孝幸 ,   中島正継 ,   加藤三郎 ,   川井啓市 ,   親康庸 ,   松井喜彦

ページ範囲:P.1659 - P.1665

 十二指腸に原発する良性腫瘍はきわめて稀とされており,中村ら1)によると,欧米では十二指腸の良性腫瘍280例中腺腫が113例(40%)と最も多く,Brunner腺腫が45例(16%)とこれに次いでおり,本邦では逆にBrunner腺腫が56例中25例(45%)と最も多く,腺腫は10例(18%)となっている.以前にわれわれが検討した本邦例の集計でも2),良性十二指腸腫瘍38例中Brunner腺腫が16例(42%)と最も多かった.しかし,いずれもX線診断ないしは剖検時の観察によって発見された症例ばかりであり,最近十二指腸への内視鏡検査法が確立され,広く応用されるようになってみると,微細な病変まで含めると,十二指腸の隆起性病変は従来報告されているほど頻度の低いものではないことがわかってきた.

 今回,われわれは最近経験したBrunner腺腫2例について報告し,併せて若干の文献的考察を試みた.

十二指腸平滑筋腫の1治験例

著者: 寺島肇 ,   長井章 ,   村上忠重 ,   宮下美生

ページ範囲:P.1666 - P.1671

 わが国において,従来稀とされてきた十二指腸良性腫瘍は,X線診断の進歩,十二指腸内視鏡の普及とともに報告例が増加の傾向をたどりつつある.しかしそのうちでは十二指腸球部良性腫瘍が多く,かつ腺腫が大部分を占める.われわれは十二指腸上行部に原発した平滑筋腫の1例を経験したので報告し,あわせて若干の考察を行なった.

術前診断しえた十二指腸平滑筋腫の1例

著者: 広岡大司 ,   湯浅肇 ,   吉田脩一 ,   松永信正 ,   茂木安平 ,   玉川勤 ,   森本峻一 ,   甲田安二郎 ,   春日井達造 ,   久野信義 ,   福田芳郎 ,   高木俊孝

ページ範囲:P.1672 - P.1676

 十二指腸良性腫瘍は比較的稀であるが,最近われわれは内視鏡検査及び生検により十二指腸平滑筋腫と確診しえた1例を経験したので報告する.

症例

Gardner症候群の1例

著者: 亀山仁一 ,   内海範夫

ページ範囲:P.1677 - P.1681

 1951年Gardnerは大腸ポリポージスに全身骨格,とくに下顎骨および頭蓋骨に発生する多発性骨腫(hard tumor)と体表の軟部腫瘍(soft tumor)の両者が共存する症例を報告し,1958年Smithはこの3主徴を合併する症例をGardner症候群(以下本症と略)と呼称した.本症は遺伝性多発性腫瘍素因が原因として推測される,きわめて稀な疾患であるが,最近著者らも典型的な本症を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

胃と腸ノート

潰瘍性直腸炎

著者: 小林世美

ページ範囲:P.1600 - P.1600

 30歳女子.主訴は1カ月間にわたる時折の血便排出で来院.大腸X線透視では異常なしなので,多分痔疾患による出血といわれ放置しておいた.約1年後再び同様な症状が続き,下痢もあるので気になって来院,大腸X線検査を受けた.放射線科の診断では異常なしだったが,筆者がみると,写真のごとく,直腸膨大部に限局してトゲ(Spicula)を認め,潰瘍性直腸炎(Ulcerative proctitis)を疑った.大腸ファイバースコープ検査では,肛門より15cmくらいまでに出血性びらんと顆粒状粘膜を認め,潰瘍性直腸炎と診断.生検組織は炎症像を示していた.サラゾピリン3g投与を開始し,20日後には出血,下痢とも消失した.以後経過観察しているが,経過は良好である.

 代表的1例を挙げたが,直腸に限局したこのような炎症にはしばしば遭遇する.昭和45年から48年5月までに筆者が扱った非特異性慢性大腸炎症38例で,潰瘍性大腸炎11例,大腸クローン氏病(Granulomatous colitis)5例,残りの22例に潰瘍性直腸炎の診断をしている.

色素撒布法を応用した十二指腸球部粘膜の微細観察(1)―観察方法およびほぼ正常な絨毛像について

著者: 中島正継 ,   川井啓市

ページ範囲:P.1624 - P.1624

 胃内視鏡検査における色素撒布法の応用の意義については,すでにわれわれがたびたび報告しているように,病変部の詳細な観察や粘膜の微細観察にきわめて有効である.同様の色素効果は十二指腸内視鏡検査においても期待されたが,実際に275例397回の十二指腸球部への色素撒布においても90%以上に満足すべき効果を認めた.

 現在われわれの行なっている十二指腸球部への色素撒布方法は,通常どおりの観察後いったんscopeを胃内にもどし,附属のテフロン管を幽門輪近くまで出して経幽門輪的に色素液を撒布する方法である.色素液は0.2%のインジゴカルミンまたはメチレンブルーで,撒布量は15~20mlの大量を用いている.もちろん1~2mlの少量を直接目的病変に撒布しても,その部位の微細観察には充分であるが,時に撒布が不均等になったり,色素液が十二指腸液と混じて像がまだらになったりすることがある.大量撒布法はこのような欠点を防ぎ,病変部のみならずほぼ球部全体の微細観察を可能にする.もっとも,この方法では色素液が球部小轡側(左側臥位にて)に溜まることがあるので,その部位の観察には適時体位変換や過剰色素液の吸引を要する.なお,腸上皮や腸化生上皮はメチレンブルーに対して染色性を有するので,メチレンブルー液撒布後は時間の経過とともに絨毛が染まってくる.したがって,メチレンブルー液を使用した時には,染色絨毛の観察を目的とする場合を除き,できるだけ素早く観察する必要がある.

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欧文目次

ページ範囲:P.1591 - P.1592

書評「超音波医学―基礎から臨床まで」

著者: 小林充尚

ページ範囲:P.1608 - P.1608

 最近の超音波診断学の発展は,まことに目ざましいものがあり,各科臨床分野において,不可欠のroutineの検査としての確固たる地位を築きつつあるのは,周知の事実である.

 日本における超音波診断学の研究は,世界においてもパイオニア的地位を占めているといっても過言ではなく,1966年に,この初版が発行された日本超音波医学会編の「超音波医学」は,当時,世界にさきがけて出版されたものであった.

書評「The Human Digestive System―Its Functions and Disorders」

著者: 小林世美

ページ範囲:P.1671 - P.1671

 今私の手もとにある英文の小冊子は,全191ページに“The Human Digestive System”を簡明にまとめている.

 20のchapterと医学用語を説明するglossaryから成っていて,各chapterは,疾患の理解のために必要な基礎的知識を重視し,各臓器の構造と機能をまず述べて各論にはいっている.

編集後記

著者: 五ノ井哲朗

ページ範囲:P.1682 - P.1682

 ものの歴史がみなそうであったように,十二指腸潰瘍診断の歴史にも幾つかのふしのようなものがあり,現在もまた,まさにそのような時期のひとつであると思われる.

 Moynihanがこの疾患の臨床的記述をした当時(1901),十二指腸潰瘍とは既往歴ことにその疼痛の性状によって診断される疾患であった.胃におけると同様,十二指腸においてもまたX線ニッシェが潰瘍の直接症状であることを,Haudeckがはじめて述べたのは1911年のことであったが,これが十二指腸潰瘍診断の不動の基準となるまでには,さらに20~30年の歳月を要している.Albrecht(1927~29)が十二指腸潰瘍のニッシェ証明率90%と報告し,わが国ではややおくれて山形(1934~40)がニッシェ証明率79.5%,手術による適中率100%と記述した.疼痛潰瘍からX線潰瘍への変転がひとつの完了をみた時期である.それからさらに30年を経過していま,再び十二指腸潰瘍のX線診断に新しい展開が起こっていると思われる.一方,1911年Elsnerによってはじめて実用性のある胃鏡が作製されてから60年,内視鏡による潰瘍の観察はもっぱら胃のそれに限られ,その間文字通り暗闇の中に措かれてきた十二指腸潰瘍が,ようやく視野に捉えられたということは,まさにひとつの画期であり,十二指腸潰瘍の臨床における新しい進展の可能性を孕んでいよう.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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