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文献詳細

雑誌文献

胃と腸8巻4号

1973年04月発行

文献概要

胃と腸ノート

良性疾患手術残胃における胃癌発生

著者: 小林世美1

所属機関: 1愛知県がんセンター第1内科

ページ範囲:P.474 - P.474

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 良性疾患,例えば胃潰瘍,十二指腸潰瘍などで胃切除後長年月をへて,時には40年近くたって残胃に癌が発生することがある.そのほとんどは吻合部から発生するといわれる.このテーマを扱った報告は欧米に多い.日本でも,外科系の学会では,チラホラと報告のあるのを耳にする.私は数年前,シカゴ大学に在任中,このような症例2例を経験し,過去10年のカルテからさらに5例を発見し,合計7例の報告と共に,術後胃の内視鏡的,組織学的検索を行い,残胃における発癌の病理発生について論じた(Am. J. Dig. Dis.,15:905,1970).

 残胃癌が,良性胃疾患による胃切除患者で,一般人口より高頻度に発生するか否かは,議論のあるところだが,Hilbeらは,剖検例で約2倍を数えたと報告している.手術理由については,十二指腸潰瘍患者が多く,私の調べた症例でも,7例中5例は十二指腸潰瘍が手術理由であった.手術々式では,Billroth Ⅱ法および,単なる胃腸吻合術の場合に多く,Billroth Ⅰ法ではおこりにくい.初回手術後癌の発見されるまでの期間は,私の例では,14~38年で,平均23年だった.10年以内におこる場合もあるかも知れないが,前回手術時の癌病変の共存の可能性を否定するには,多くの文献では,10年以上を必要条件としているし,著者もこれには賛成である.吻合部が,ほとんどの例で侵襲されているのは興味深い.私の7例でも,全例吻合部がおかされ,うち4例は,吻合部が主なる浸潤領域だった.他の3例では,広範な侵襲のため,吻合部から発癌が始まったかどうか論ずるのが困難だった.他の報告も同様で,このあたりに病理発生上の要因が存在するのではないか.そこで手術胃と非手術胃の内視鏡的観察と,術後胃での部位別生検による組織学的変化を調べ,発癌に関する推論を試みた.手術群では,非手術群に比較して,正常胃粘膜は少く,胃炎(表層性胃炎・萎縮性胃炎)を示すものが多かった.Billroth Ⅲ法および胃腸吻合では,Billroth Ⅰ法に比べて,吻合部でのポリポイド形成を高頻度にみた.胃粘膜生検では,吻合部で萎縮が最も強く,それより遠ざかるにつれて萎縮の程度は弱くなっていた.萎縮陸変化の程度は,手術後期間に必ずしも比例せず,1年位で強い変化を示すもの,13年後でも比較的軽度のものもあった.これは手術前の粘膜変化の状態が生検で調べてないので分らないこと,術後に粘膜に影響を及ぼす諸因子に個人差が考えられることなどから,明確な比較が困難である.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1219

印刷版ISSN:0536-2180

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