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雑誌目次

雑誌文献

胃と腸9巻5号

1974年05月発行

雑誌目次

今月の主題 症例・研究特集 症例

嘔吐に続発した食道噴門接合部出血の2例

著者: 積惟貞 ,   遠藤良一 ,   本田毅彦 ,   石館卓三

ページ範囲:P.569 - P.573

 頻回の嘔吐のために食道あるいは胃噴門部などに急性の亀裂様裂創を生じ,これが出血源となって大量の吐下血を惹起する疾患は,Mallory-Weiss症候群として知られているが,比較的稀な疾患で,わが国ではこれまでに22例の報告を見るに過ぎない.

 今回われわれは,Mallory-Weiss症候群に極めて類似した食道噴門接合部の出血性潰瘍の2症例を経験したので報告する.

食道リンパ肉腫の1例

著者: 山際裕史 ,   竹内藤吉 ,   大西武司 ,   稲守重治 ,   山脇武敏

ページ範囲:P.575 - P.580

 消化管に発生する腫瘍の大半は上皮性腫瘍であり,非上皮性腫瘍は比較的少ないものであるが,部位によっても,発生頻度にかなりの差がある.

 本稿では,食道に生じたリンパ肉腫の1手術例を報告し,併せて,本邦における消化管の非上皮性腫瘍の文献的報告を集計し,若干の考察を加える.

臨床的に診断しえた微小Ⅱb型早期胃癌の1例

著者: 池田成之 ,   井林淳 ,   三国主税 ,   別役孝 ,   高沢敏浩 ,   今村哲理 ,   相川啓子 ,   荻田征美 ,   市川健寛 ,   佐藤利宏 ,   藤田昌宏 ,   高橋達郎 ,   氏家忠

ページ範囲:P.581 - P.586

 術前診断が可能であったⅡb型早期胃癌の報告はきわめてまれである.さらにまた最大径が5mm以下の癌は微小癌として特別に扱われる傾向にあるが,微小癌の中でも典型Ⅱbは特殊な例を除いて臨床診断の対象にはならないとさえいわれている.著者らは臨床的に診断可能であり,切除胃の組織学的検討から確かめられた5mm以下の微小典型Ⅱb型早期胃癌を経験したので報告する.

Borrmann Ⅱ型進行癌を思わせた胃穹窿部のReactive lymphoreticular hyperplasiaと癌の合併例

著者: 尼川紘史 ,   森藤清輝 ,   伊藤一郎 ,   島筒志郎 ,   松村豪晁 ,   横山吉宏 ,   林雄三

ページ範囲:P.587 - P.591

 胃のReactive lymphoreticular hyperplasia(以下RLHと略す)は中村らにより臨床的に幽門前庭部にみられるび漫扁平型と,噴門部にみられる限局肥厚型の2つに分けられ,特に早期胃癌やMalignant lymphomaなどの悪性腫瘍との鑑別が問題とされている1)2)3)

 以前筆者らは幽門部のび漫扁平型を経験し,経時的に内視鏡で追求したものを本誌に報告しているが4),最近胃穹窿部癌に合併したいわゆる限局肥厚型とみなされる1例を経験した.胃癌とRLHとの合併例は幽門前庭部における数例が報告されているが3)4)5)6)7)8),噴門部における合併例の報告はない.RLHについては,その組織発生および病変の拡がり等に関して必ずしも明確な枠付けがなされておらず,特に癌との関係では一般に癌に伴ってみられる反応性リンパ球浸潤といわゆるRLHをいかにして区別するかという問題がある.この点を充分に老慮しつつ今回経験した症例を報告する.

胃切除後にみられたinsulinomaの1例

著者: 宗像雅丈 ,   田崎睦夫 ,   岸本宏之 ,   提嶋一文 ,   安達秀雄

ページ範囲:P.593 - P.596

 過剰なインシュリンの分泌によって低血糖症状を来たす膵臓の機能性腫瘍であるinsulinomaについては,最近ではその報告例は相い次いでなされているが,まれな疾患の1つであることに変わりはない.

 最近,私どもは胃切除後にみられたinsulinomaの1例を経験したが,本症例は胃切除後にみられ,低血糖症状を呈する後期ダンピング症候群との鑑別に甚だ難渋したので,その概要を報告するとともに,その鑑別点についても検討を加えた.

X線・内視鏡にて1年2ヵ月間経過を観察したFormalinによる腐蝕性胃炎の1例

著者: 七海暁男 ,   塩谷敏夫 ,   兼谷俊 ,   山田敏雄 ,   山辺紘猷 ,   熊田六郎 ,   蕭光麟 ,   金沢浜子

ページ範囲:P.597 - P.602

 腐蝕性胃炎のX線,内視鏡所見の経過を観察した報告は少ない.また,蝕腐毒がFormalinであった症例の報告もまれである.著者らは自殺の目的で,Formalinを飲んだ患者を診療して,発症後,1年2カ月間にわたり食道および胃の所見の変化をX線および内視鏡で追跡して,従来の報告に記載のない所見を観察した.多くの点で興味深い症例と思われるので報告する.

早期胃癌(Ⅱb+Ⅱc)に多発性結腸癌を伴った1症例

著者: 千葉満郎 ,   棟方昭博 ,   福士勝久 ,   黒江清郎 ,   川上澄

ページ範囲:P.603 - P.607

 わが国での平均寿命の延長,悪性腫瘍に対する診断技術の進歩などによって,近年重複癌の頻度が増加しつつある.

 われわれは,最近,早期胃癌に上行結腸と横行結腸の多発性結腸癌を伴った症例を経験したので,ここにその概要を報告する.

十二指腸脂肪腫の1例

著者: 木林速雄 ,   渡部寛 ,   藤田琢二 ,   木本克彦 ,   吉田照代

ページ範囲:P.609 - P.613

 十二指腸良性腫瘍は比較的まれな疾患とされており1)4)5),現在まで,本邦では100余例の報告をみるにすぎない.その大部分は腺腫であり,脂肪腫は本邦では極めて少なく現在までの報告例は2例のみである1)3).われわれは最近,胆石症の症例で術前に施行した経皮的肝内胆造管影により十二指腸下行脚にポリープ様陰影を認め,手術により十二指腸脂肪腫であった1例を経験したので若干の考察を加えて報告する,

リンパ組織の増殖を伴った回盲部非特異性炎症性腫瘤の1手術例

著者: 黒須康彦 ,   松永一郎 ,   吉田光毅 ,   平田成竜 ,   西村五郎

ページ範囲:P.615 - P.618

 回盲部における非特異性炎症性腫瘤については,比較的数多くの症例が報告されているが,各報告者によりその名称も種々で,またその病態に関しても明らかでない点が多い.

 われわれは,回盲部に腫瘤を形成し回盲部リンパ組織の著明な増殖を伴った慢性虫垂,盲腸,回腸炎と考えられる興味ある1症例を経験したので報告する.

比較的稀な腫瘤形成型大腸小腸結核の1手術治験例

著者: 山元勇 ,   橋本俊明 ,   佐藤克明 ,   折田薫三 ,   柏原瑩爾

ページ範囲:P.619 - P.622

 近年化学療法の発展その他の影響で,腸結核の報告も減少しているが最近われわれは回腸と右結腸曲に発生した腫瘤型腸結核の1例を手術治癒し得たので報告する.

研究

感染性腸炎の内視鏡像―細菌性赤痢,サルモネラ腸炎,腸炎ビブリオ性腸炎,ブドウ球菌腸炎,アメーバ赤痢

著者: 菱沼義興 ,   村上義次 ,   名尾良憲 ,   平石浩 ,   長廻紘

ページ範囲:P.623 - P.628

 感染性腸炎とは,赤痢菌,サルモネラ,腸炎ビブリオ,病原大腸菌,ブドウ球菌,エルシニアエンテロコリチカ,プレジオモナス,モリニア,赤痢アメーバ,日本住血吸虫,ある種のウイルスなどを病因とする腸炎のことである.これら疾患の内視鏡像については,硬性の直腸鏡による報告が過去に数多くあるが,われわれはfibersigmoidscopeの使用により,今まで観察されえなかったS状結腸上部まで,観察範囲をひろげることができたので報告する.

切除胃拡大撮影による胃癌粘膜像の検討

著者: 古賀充 ,   清成秀康 ,   稲倉正孝 ,   田中誠 ,   古賀成昌 ,   古沢元之助 ,   楢本純一 ,   野辺奉文

ページ範囲:P.633 - P.639

 最近の胃疾患診断学の発展はめざましく,特に胃癌については,それが陥凹もしくは隆起を呈しているものであれば,1cm以内のものでも診断可能になって来ている.しかし,平坦型,すなわち,肉眼分類ではⅡbに属するものでは,少なくともレ線診断では,診断基準が確立されているとは言い難い.今までに,多くのⅡbの症例報告がなされているが,その診断の多くは生検によってつけられているのが現状であり,レ線学的には,癌の存在を疑わせるような所見にとどまっているようである.Ⅱbに対するレ線所見として述べられているものには,胃小区の異常,壁不正,不整の小Ba斑などがあるが,胃小区の異常を除いては他の所見はいずれも,浅い陥凹や隆起の所見といえそうである.そこで平坦型胃癌をレ線学的に診断するにはやはり胃粘膜模様によって行なわねばならないと思うが,従来いわれてきている胃小区の異常という言葉だけでは,あまりにも曖味過ぎて,胃炎との鑑別さえも困難と考えられる.そこで,われわれは切除胃の直接4倍拡大二重造影像を撮影し,胃癌部分と非癌部分の粘膜像の精密な描写を行なった.このようにして得られた粘膜像を切除胃固定標本および組織標本と照合しつつ,詳細な検討を行なった.

大腸腺腫性ポリープにおけるPseudocarcinomatous invasion―その組織像と成因について

著者: 武藤徹一郎 ,   ,  

ページ範囲:P.641 - P.646

 大腸直腸の腺腫性ポリープの組織学的検索に際して,腺腫性組織が粘膜筋板を越えてポリープの粘膜下へ侵入している像が見出された.一見,浸潤癌を疑わせるこの所見も,詳細に観察すると一定の組織学的特徴を具えた非癌性の病変であることが明らかになったので,これをpseudo-carcinomatous invasionと呼ぶことにした1)

 この奇妙な所見が浸潤癌と診断される可能性は十分にあり,特に粘膜下腺腫組織に異型が強い場合はその可能性が高い.文献上にも既にその実例と思われるものが散見される2)3).本病変の組織学的特徴を詳細に述べて浸潤癌との相違を明かにし,合わせてその成因について多少の考察を試みた.

臨床的・内視鏡的立場からみた潰瘍性大腸炎をめぐる2・3の問題

著者: 宮岡孝幸 ,   多田正大 ,   小林顕彦 ,   竹田彬一 ,   加藤三郎 ,   木本邦彦 ,   酉家進 ,   中島正継 ,   橋本睦弘 ,   郡大裕 ,   川井啓市

ページ範囲:P.647 - P.653

 潰瘍性大腸炎は1859年Wilks1)の報告を始めとするといわれるが,その後,数多くの報告が相次ぎ欧米では比較的popularな大腸疾患とみなされている2).他方,本邦では1928年稲田3)の報告を嚆矢とするが,1958年松永4)の報告を契機に次第に注目されるようになるまでは,比較的稀な下部消化管疾患の一つに過ぎなかった.しかし,内視鏡検査をはじめとする診断技術の進歩にあいまって,今日では本邦でもそれ程稀な疾患とはいえなくなってきている5).すなわち,本症の内視鏡による観察は,近年グラスファイバーの導入による大腸ファイバースコープの開発・進歩によって病変部位の一層広範囲な把握も可能となり6),いわゆる慢性大腸炎の概念も改めてこのような立場から検討される機運となってきた.すなわち慢性大腸炎のうち,病因の不明なものは非特異性炎症性大腸疾患として本症に包括される傾向にあり7)8),本症の概念そのものも変遷しつつあることも見逃せない9)

 本症はその病因,病型分類,さらには肉芽腫性大腸炎との異同など,現在なお多くの未解決な問題を残しているが10).本文では教室の自験例を中心に,2,3の臨床的,内視鏡的知見を述べる.

炎症性ポリープと腺腫性ポリープの臨床的鑑別

著者: 金沢利定 ,   柏原貞夫 ,   倉本信二 ,   前谷俊三 ,   殿塚健司 ,   佐藤守 ,   谷川允彦 ,   市島国雄 ,   相馬俊臣

ページ範囲:P.655 - P.660

 大腸ファイバースコープが開発されて約5年になり,大腸疾患の診断は,それ以前にレ線診断や直腸鏡等にたよっていた時代に比し,著しい向上が見られるようになった.著者らも昭和45年1月よりオリンパス社で製作された大腸ファイバースコープCF Type SB,CF Type MB型を用い,レ線を併用せず,Routine検査の一つとして,現在まで205例259回の大腸内視鏡検査を行なって来た.以下われわれが行なっている大腸内視鏡検査の方法をのべ,その症例の中から特に大腸粘膜に見られた炎症性ポリープ,腺腫性ポリープ,ポリープ癌の内視鏡像につき,組織像と対比させながら検討を加えて見た.

内視鏡的膵・胆管造影用カニューレの改良―コック付マンドリン留置式カニューレ

著者: 納利一 ,   山口淳正 ,   喜入昭 ,   島田紘一 ,   花牟礼文太郎 ,   渋江正

ページ範囲:P.661 - P.663

 近年,十二指腸ファイバースコープの開発により,内視鏡的膵・胆管造影(EPCG)が可能になり,これは膵・胆道系疾患の診断に欠かせない検査法となっている1)

 EPCGを行なうには,造影剤を注人するカニューレが必要である.われわれは市販のカニューレに若干の改良を加えたところ,より良好な造影像が得られるようになり,さらに検査時間の短縮,造影率の向上,副作用の減少など著明な改善をみたので報告する.

胃と腸ノート

胃潰瘍癌のレントゲン像(3)

著者: 安井昭

ページ範囲:P.574 - P.574

 図1はⅡc+Ⅲ型早期癌(症例1)の立位充盈軽度第1斜位像である.胃角小彎の矢印の部に濃淡2種の扁平なNischeが目立つatonischな胃である.胃角上部からNischeにかけての小彎線は硬く,伸展性にとぼしい.またNischeから幽門側にかけての辺縁も硬く,いくらか陥凹しているように見受けられる.小彎を中心とする病変による変化が大彎にまでおよんでいるとは思われない.Nischeそのものの良悪性の判断はつけにくいが,Nische上下の小彎線の硬さや,濃淡2種の扁平なNischeなどの組み合せから判断して,やはり悪性を疑い,胃角小彎を中心に精査する必要がある.

 図2は胃角部前壁のレントゲン像である.2つの小さい方の矢印はいずれも癌性Nischeである,上の方のNischeは胃角部のもので輪廓の不規則な深い潰瘍のまわりに陰影の淡い浅い潰瘍がとりまき,胃体部方向から2~3本の皺襞がのびていて,その尖端は棍棒状の丸味をおびている.下の方のNischeは硬い感じで丸味がなく,癌性Nischeそのものの像を示している.上下2個の大きな矢印の間が癌病変の口側および幽門側の境界を示すもので,切除胃の小彎線の縦に長い陥凹性病変と一致する所見である.図3は立位軽度第1斜位の圧迫像である,小彎を中心に後壁側に大小さまざまな浅い斑状陰影が多数みられる.小彎線上の2個の太い矢印がⅢの部をあらわし,Ⅱcがそのまわりをとりかこんでいる.その下方の小さな矢印でかこんだ不規則な多数の陰影斑は小さな粘膜びらんを表わしている.このように微細な質的診断には圧迫像1)~4)が有利である.

胃液分泌抑制とH2-Receptors Blockade

著者: 三輪剛

ページ範囲:P.592 - P.592

 消化性潰瘍治療に対して,最近の思想からすれば,できることなら酸分泌抑制と鎮痙は分離して治療法にとり入れたいと考えられていた.近年このような立場からは興味ある報告が出されているので紹介する,

 ヒスタミンには①消化管や気管支等の平滑筋収縮のほかに②胃酸分泌,心搏促進,ラット子宮収縮阻害などの作用がある.このうち①に対する拮抗剤としてAshらはMepyramineを開発した.このようなヒスタミン作用に反応するReceptorをH1-Receptorという.②の作用に反応するReceptorをH2-Receptorとして,Blackらはこの阻害物質を求め約700の物質をスクリーンして,N-methyl-N'(4-(4(5)-imidazolyl) butyl) thioureaをみつけた.この物質はH2-Receptorに特異的に拮抗する.Burimamideと呼ばれヒスタミンとよく似た構造式をもっている.この物質がH2-Receptorを特異的に阻害し,Catecholamine β-Receptors,H1-ReceptorsやAcetylcholine Receptorsとの間に交叉性がないことが判った.

日本人の大腸憩室

著者: 小林世美

ページ範囲:P.614 - P.614

 消化管の憩室は,食道から大腸に到る各所に発生しうる.最近の日本内視鏡学会で,十二指腸憩室の諸問題がシンポジウムとして取上げられたり,京都の第1回アジア太平洋内視鏡学会では,消化管の憩室がテーマとして取上げられ,注目されつつある.食道,胃,十二指腸における憩室の多くは先天性のもので,症状発現は稀である.一方大腸憩室は,症状の発現を頻繁に認め,時に傍憩室炎,出血,疼痛など重大な合併症をおこすことがあり,臨床上きわめて重要である.

 一般に大腸の憩室は,発生において2つの異なるものをみる.1つは,右側結腸あるいは盲腸に単発または多発するもの,他は左側結腸殊にS状結腸に多発するものである.欧米では,後者つまり左側結腸に多発する傾向が強く,全症例の約90%と報告されている.一方,日本人では反対に右側,つまり盲腸や上行結腸に多いといわれる.事実私どもの愛知県がんセンターの症例では,放射線科三原によれば,約60%が右側結腸及び盲腸におこっていて,多くは単発だが,上行結腸には多発しているものもあるという.かかる著明な相違は,欧米と日本における大腸憩室の病理発生に関する基本的な違いを示唆するものと思われる.いま少し詳しく述べると,大腸憩室の頻度は,欧米では,全大腸透視の5~25%にあるといわれるが,仮にBockusに記載された6.8%をとると,このうち右側結腸の憩室は約10分の1で,0.7%位になる.当院三原によれば,4,736の大腸X線検査中,76例(1.6%)に大腸憩室をみ,うち60%が右側にあった.つまり約1%に相当する.先の0.7%に比べて統計的に意味のある差とは思われない.要するに欧米と日本における大腸憩室の違いは,左側結腸に発生するものの相違で,後に述べるような後天性の因子が関与しているのではないか.一方先天性因子が関連するものが多いと思われる右側の憩室の頻度は,欧米と日本の間で,有意の差をみない.

Boerhaave症候群について―消化器病学の用語をめぐって

著者: 竹本忠良 ,   田中三千雄

ページ範囲:P.640 - P.640

 “特発性食道破裂”は別名Boerhaave症候群と呼ばれ,欧米で300例以上,本邦で20数例の報告がある,人名辞典によれば「ブールハーフェ」と発音するらしい.postemetic ruptureとかeffort ruptureあるいはspontaneous ruptureともいわれる症例を1724年最初に報告した人はHermann Boerhaave(1668~1738)で,彼はオランダの有名な学者であって,ライデン大学の医学,植物学,化学の教授をかねた学識豊かな人であった.70頁にもおよぶ原著にはオランダの艦隊長Baron van Wassenerの人柄の描写からはじまって,過食後の嘔吐から死にいたるまでのさまざまな症状,さらに剖見所見の詳細が熱っぽく述べられている,この原著は3回位英訳されているが1),それを通じて,観察と記録に徹した彼の科学者としての姿勢を十分にうかがうことができるし,読物としてみても,普通の症例報告とまったく異質でおもしろい.

 本症候群の原因はMallory-Weiss症候群と同様,飲酒などによる悪心・嘔吐をはじめ,時には喘息,腹部打撲,排便,分娩等による食道内圧の上昇とともに,食道の運動失調が関係するといわれている.通常,食道の長軸にそった単一の病変で,2~8cmのたてながの形をしており,下部食道で,ことに左側に多い.この部位は1930年Marchによって解剖学的に弱いことが指摘されている.

一冊の本

Gastroscopy with the Fiberscope; Principles, Technique and Diagnostic Possibilities (Piccin Medical Books, Padua)

著者: 竹本忠良

ページ範囲:P.654 - P.654

 たいへんとぼしい財布の中味ではあるが,それでも自分の専門分野の消化器病学の本となるとつい手がでて,たいがい買ってしまう.もちろんツンドクものもあるが,消化器外科学の手術関係の本などは必要を感じなければなかなか読むひまもないのが現状である.

 こうしていつの間にか消化器病学の本だけはちょっとした図書館にはないものまでそろってしまったが,ファイバースコープ専門の本となると非常にすくない.ファイバースコープが出現してからかなりたって十数年を経た今日,むしろ不思議に思うくらいである.自分のもっとも得意としている領域だけにそうそう見落とすはずはないとうぬぼれているし,医学書院などからも,いちはやく情報をいれてもらっているから,ファイバースコープ専門書が少ないのは事実であろう.

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欧文目次

ページ範囲:P.567 - P.568

書評「正常値 改訂第2版」

著者: 守屋美喜雄

ページ範囲:P.608 - P.608

 臨床検査が日常診療にとりいれられるようになってから,すでに時久しく,それが臨床医の診断能力や診療内容の向上に非常に貢献していることは,万人の認めるところであろう.しかし,反面,臨床検査がかえって診断を誤らせ,患者に無用な負担を与える原因となっているケースがあることも,また見逃すことができない事実といえよう.

 たとえば,倦怠感を訴える患者のGOT・GPTが,50ぐらいの軽度上昇を示したために,これを肝炎と診断し,それがかえって患者の精神的不安をよびおこし,数値のわずかな上下に一喜一憂するいわゆる比喩的な意味でのトランスアミネーシスに陥らせてしまったというような例が,ときおり,みかけられるようである.

質疑応答

著者: 堀越寛 ,   城所仂 ,   吉田隆亮

ページ範囲:P.629 - P.632

日頃の臨床体験で疑問を持ちながら,解決してくれる書物がない,というようなことはありませんか? 本欄は日常の診療や勉学上の疑問にお答えする場です.質問をどしどしお寄せ下さい.

(尚,質問の採否,回答者の選定につきましては,編集委員会にお任せ下さい)

海外文献紹介「胃部分切除後発症したKuwashiorkor類似症候群」/他

著者: 渡部和彦 ,   小林世美 ,   鶴原一郎

ページ範囲:P.664 - P.664

Syndrome Resembling Kwashiorkor after Partial Gastrectomy: Richard Waldram (British Medical Journal 2: 92~93, 1973)

 Kwashiorkorは,浮腫,精神症状,萎縮性皮膚病変,毛髪の紅変などを主徴として離乳後の小児に発生する病態であるが,通常成人ではみられない.成人発症例は稀であり,全例胃切除後に発症し,上記徴候の他,腸症状,膵不全,食欲不振等がみられる.

編集後記

著者: 青山大三

ページ範囲:P.668 - P.668

 本巻は症例集である.各々の症例をみせて頂くと著者の苦心の跡がありありとわかるのは,消化器病をあつかっている医師ならば当然であろう.

 このような労苦と立派な足跡をもっていられる医師が一人でも日本で増加することは,患者にとって福音といわなければならない.

基本情報

胃と腸

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1219

印刷版ISSN 0536-2180

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