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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科1巻2号

1966年05月発行

雑誌目次

視座

手の知覚

著者: 伊藤鉄夫

ページ範囲:P.115 - P.115

 運動機能について考える場合には,当然知覚の役割についても充分な考慮を払わねばならない.脳性麻癖においても,知覚障害を合併していることが運動障害の重要な要因になっている.義肢の大きな欠点の一つはそれが情報伝達系をもっていないことである.運動器と知覚器とは一つの閉鎖回路を構成しているのであるから,それを別個に考慮することはできない。視器や聴器はそれぞれ専門の分野として深く研究されているが,四肢の皮膚・筋・関節の知覚についてはその重要性が充分に認識されていないように思われる.錐体路が最もその機能的特徴を発揮するといわれる手の巧緻運動はその知覚が極めて鋭敏であって手の状態についての正確無比な情報が刻々と大脳に伝達されることによって調節される.
 上肢の神経損傷の治療においては,運動の能力と共に知覚の能力をできる限り完全に回復させるよう努力が払われなければならない.従来の治療法では,一応運動と知覚が回復していると思われる場合でも,詳細な検査を行なってみると知覚の回復が甚だ不充分であることがしばしば発見される.閉眼させてピンをつまむよう命ずると(picking-uptest),それができないものが多い.したがって手の知覚検査では,単に皮膚知覚の有無を検するだけでは不充分である.このような動作を正確に行なうためには,知覚に基づく対象物の認識が完全でなければならない.

シンポジウム 頸肩腕症候群

頸部脊椎症—病因論

著者: 泉田重雄

ページ範囲:P.116 - P.122

 Strümpell(1888),Marie(1898)等に始まる脊椎の変形性変化に起因する脊髄の障害はその後やや暫らく,世に埋れて経過したが,Adson(1925)Stookey(1928)等によつて,頸部椎間板ヘルニアが発見・解明され,いわゆる頸腕障害が時代の脚光を浴びるにおよんで,頸腕障害の本態として頸部脊椎症が,頸部椎間板ヘルニアをしのぐ重要性を有することが認識され,同時に従来,筋萎縮性側索硬化症・進行性脊髄性筋萎縮症等のいわゆる系統脊髄疾患とされていたものや,多発性神経炎,脚気,高血圧等として処置されていた患者の少なからぬものが本疾患であることが明らかにされた次第であつて,頸部脊椎症の解明は脊髄外科における近年の最大の進歩と称しても過言ではない.
 しかし今日なおこの疾患の原囚本態に一歩立入つてみれば,疑問の点は少なくなく,さらに詳細な病態・発症機序に至れば一層その感が深い.これら原因,本態・発病機序の解明は治療の根本策の確立に不可欠のことである.われわれは永年この究明に携わつて来たが今回,ここに過去の歩みをふり返つて要約し,本疾患の本態解明の一道標としたい.なお個々の神経症状の分析はあまりに錯雑しているのでしばらく措き,本質的な病因論に限つて論述する.

頸肩腕症候群—症候論

著者: 高岸直人 ,   国東易径

ページ範囲:P.123 - P.129

 鎖骨下叉は腋下動静脈や腕神経叢が異常圧迫を受けると種々の症状を起こしてくるが,その圧迫の原囚となる場所によつて一般に次の症候群名がつけられている.
 1)頸肋症候群
 2)斜角筋症候群
 3)肋鎖症候群
 4)過外転症候群

頸肩腕症候群—脳神経外科の立場から

著者: 都留美都雄

ページ範囲:P.131 - P.141

 頸肩腕症候群cervico-omo-brachial syndromeという言葉は甚だ漠然とした内容を有するもので,用いる人によつてその内容とする疾患群に差異があると思われるが,私は神経症候を主として考え,何らかの自他覚的神経症状が,頸部,肩部及び腕部に見られる疾患を,頸肩腕症候群の中に含まれる疾患として取扱うことにする.従つてその中には,頸髄及び頸髄神経根から腕神経叢更に上肢における末梢神経に至る,すべての神経系に障害を及ぼす疾患をすべて含むことになり,神経系に障害を与えない疾患は除外されることになる.
 このような定義に従つて,頸肩腕症候群に含まれる疾患をあげてみると第1表の如くになる.

頸肩腕症候群の治療—とくに頸部脊椎骨軟骨症

著者: 小野村敏信 ,   藤田仁

ページ範囲:P.143 - P.152

 頸・肩・腕の疼痛,時としてシビレ感を伴なつて来院する患者に屡々遭遇するが,その疼痛は程度の軽いものから,重いものに至る迄種々であつて,叉その部位と範囲は頸肩部に限局するものや,上腕から前腕,手指に波及するまで様々である.このような頸肩腕の疼痛,シビレ感,知覚障害を主体とした臨床症状を綜合的に観察すると,明らかな局在性の疾患を除いては,頸,肩,腕の症状は,脊柱,脊髄系の原因に起因するものが多く,これにもとづいて神経,筋,血管系を通じて共通した臨床症候群を示している.
 教室の症例の調査では.頸椎椎間板の一次性老化現象により頸椎椎間板が後方に突出し,或は椎体後縁が隆起して,頸部脊髄,頸部神経根を圧迫,障害して起こる頸部脊椎骨軟骨症が本症候群の大半を占めている.

境界領域

脳性麻痺

著者: 馬場一雄

ページ範囲:P.161 - P.165

I.定義について
 脳性小児麻痺(zerebrale Kinderlahmung)もしくは脳性麻痺(cerebral palsy)は,単一な原因に基づく疾患でないという意味で,一つの症候群と見なされている.しかし,この場合の症候群は,特定の症状の組合せを言うのではなく,いわば一種の類概念である.換言すれば,本症に特徴的な症状を枚挙することによつて外延的に規定することの困難な症候群である.それでは,どのような概念規定を行なうべきであろうか.
 この点について福山は,過去の文献を精細に検討し,脳性麻癖というためには,中枢性運動障害の存在が必要条件であるが,ほかにいくつかの制限条件が満足される必要のあること,このような制限条件として,年齢的制限,脳の病変が非進行性であること,運動障害が一過性でないことの3者をあげた.そしてさらに,つぎのような定義を掲げている.「受胎から新生児期(生後1ヵ月以内)までの間に生じた大脳の非進行性病変に基づく,永続的な,しかし変化し得る運動および肢位(posture)の異常である.その症状は満2歳までに発現する.進行性疾患や一過性運動障害または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する.」

対談

整形外科学に36年—天児民和教授にきく

著者: 玉置拓夫

ページ範囲:P.167 - P.176

 玉置 今度,医学書院が,『臨床整形外科』という雑誌を創刊されるに当つて,天児教授との対談を計画されまして,その聞き手に私が選ばれましたことを大へん光栄に思います.私,個人的なことを申して何ですが,日ごろから天児先生を大へん尊敬申し上げております.対談ということになると,何かこう固くなつてしまつて,やや不安なところもあるんですが,しかし私も九州に来ましてから10年かれこれ,その間いろいろな機会で先生にお話を伺うことがありましたり,ほかの先生よりもずつと親しながあるものですから,その点はむしろたのしみにして今日参つたわけです.そこていろいろなことをお伺いしたいと思いますが,恐らくこの雑誌を読まれる人たちは,若い人たちが多いと思いますので,まず話の糸口として,先生の御略歴のようなところから始めていただきたいと思いますが.

診療の経験から

四肢開放創の救急治療の反省—手の外科の経験から

著者: 佐藤孝三

ページ範囲:P.177 - P.180

はじめに
 この一文はすでに整形外科医としてでき上がつた方々に対するものではない.第一線で実際に四肢創傷治療に当たつておられる若い方々に対して,筆者の経験から得られたいくつかの反省事項をのべて御参考に供したいと思うのである.

手術手技

椎体前方侵襲法—Ⅱ.胸椎に対して

著者: 池田亀夫

ページ範囲:P.181 - P.187

胸椎に対して
 側臥位ないし半側臥位にて対側に枕をおき,手術側を伸張させて施行する.骨移植による脊柱固定術を行なうことが多い関係から原則として肋骨切除,開胸する.胸膜内または胸膜外(胸内筋膜下)で剥離を進めて,椎体に達する.胸椎カリエスなどで胸膜癒着の存するときは胸膜外開胸術が,出血は多少増すが良く,最近は寧ろ好んで行なつている.右側侵襲は心臓に与える影響が小で,視野が広いが,ときに脊椎カリエスなどにおいて右縦胸静脈が膿瘍壁と癒着している場合にはこれを損傷する危険がある.一方左側侵襲は胸大動脈が手術遂行上好筒の示標となり,肋間動脈を捕捉し易い,などの優点をそれぞれ有するが,術後開胸による呼吸障害や残存呼吸能の良否をまず考慮,検討して侵襲側を決定することが何よりも肝要である.

歴史

日本整形外科学会雑誌から—第5巻から第6巻まで

著者: 天児民和

ページ範囲:P.189 - P.190

 日本整形外科学会も第5回を迎えると共に次第に学会としての組織を強化していつた.従来総会は1日で行なわれていたがこの時から2日に延長された.第5巻で先ず注目されるのは日光療法の問題が取り上げられてきたことである.日光療法はスイスでRollierらが大きな成果をあげたことに刺激されてわが国でも漸く本格的研究が行なわれるようになつてきた.その現われとして鈴江瑞穂氏の日光浴の蛋白代謝に及ぼす影響についての業績がある.当時高山日光療法がよいと言われていたことに対して平地の日光療法も新陳代謝その他に大きな影響を与えることを明らかにした.また長谷盛三郎の赤血球沈降速度におよぼす影響という論文がある.その当時は赤血球沈降速度の研究は1つの流行になつていたと思われる.その他にも骨折治癒経過における赤血球沈降速度の動揺についての論文が慶応の井上によつて発表されているし,同じく慶応大学から赤血球沈降速度の測定法としてWestergren法とLinzenmeier法との比較をした論文もあり,Westergren法が簡便という結論に達している.

臨床経験

Cervical Root Avulsion(Klumpke型)の診断

著者: 伊藤鉄夫 ,   田中三郎

ページ範囲:P.191 - P.194

 末梢神経損傷の臨床的研究には,統一的,画一的な臨床検査法に立脚した長期間の経過観察が不可欠である.われわれはWoodhallの調査様式に若干の修正,補足を加えて簡略化した一連の様式を設けて検査を実施しているが,その内容の詳細は第25回中部整災学会において既に発表した.この検査様式をroot avulsionを例として,具体的に述べてみたいと思う.

薬物注射による四肢軟部拘縮関節内感染

著者: 小林晶 ,   橘寛 ,   石川春律

ページ範囲:P.195 - P.198

 われわれの整形外科領域において,注射によると思われる障害がしばしば見出される.ことに神経麻痺については幾多の文献がみられる.われわれは,昭和35年から昭和39年までの5年間に,九州大学整形外科を訪れた注射障害と思われる症例について調査検討したので報告する.なお,ここでは注射による神経麻痺は除外した.

検査法

リウマチ検査法

著者: 三方一澤 ,   木村武 ,   河合健

ページ範囲:P.207 - P.211

はじめに
 従来「リウマチ」という言葉は,痛みや,こわばりや,はれを来たす一連の症候群に対してばくぜんと使われてきたきらいがなくもなかつたのであるが,他の医学分野と同様に,近年の疫学的,免疫化学的,病理組織学的ないし遺伝学的研究の進歩につれて,「リウマチ」に関する数々の新しい知見が得られて,1957年第8回国際リウマチ学会において国際的なリウマチ性疾患の分類と命名が提示された.この分類は,必らずしも多くの識者の全面的承認を得ているわけではなく将来の改訂が考えられうるが,一応の分類が出来たことは,リウマチ性疾患の検査法の進歩・確立によるところが大と言うべであきろう.ここではレントゲン,心電図,心音図,筋電図などの機械的検査法は別にゆずるとして,リウマチ性疾患ことに慢性関節リウマチ(以下RA)とリウマチ熱(以下RF)の診断に必要とおもわれる血清検査法を主としてふれてみることとする.

装具・器械

手の手術器械について

著者: 津下健哉 ,   橋本正弘 ,   松本保

ページ範囲:P.213 - P.216

 手の手術に際しては,atraumaticの操作が必要な事は一般に良く知られている所である.
 組織の損傷は瘢痕を増大するであろう.

質疑応答

異物使用(人体に使う金属はどのようなものがよいか)

著者: 飯野三郎

ページ範囲:P.217 - P.218

 人体内に使用する金属は骨折接合用,固定用,人工関節用など,目的に応じていろいろ検討されているが,結局,体組織への物理的,化学的刺激,すなわち生物学的障害を惹起せず.骨metabolismに悪影響なく,ことに骨折治癒機転を阻害することなく,むしろ促進的に働くものが望ましい.ほとんどの場合,骨と密接して用いられるから,骨組織と親和性を示すものほどよく,その意味で金属自身の耐蝕性が重要視される.一方,一時的または永久的に骨に代用さるべき固定性・支持性が要求さるから,上述の条件が満されても,金属学的にみた個々の金属の各種の強度が十二分に大なるものでなければ役に立たない.さらに易加工性が必要である半面,加工によつて金属の諸性質,ことに金属結晶系の変換がおこつて強度の変化,腐蝕,疲労折損を来すようなものは適当でない.
 実際的の観点からみると,Zieroldが1924年にCuの骨過剰形成促進性,Au,Ag,Pb,Al,Stelliteの低刺激性,更にFeおよび各種炭素鋼,Mg,Ni,Znなどの骨再生障害性を実験的にみている.このように単体金属を単独に用いるか,合金として用いるかにも問題があり,以前はAg線などを骨折締結に用いたが,引つぱり強度が弱く,その後,不銹鋼合金に代つている.往時の(今なお地方などで散見する恐るべき)金メッキ材料のごときは言語同断で,毒物を体内に包埋するに等しい.

副腎皮質ステロイドの離脱はどうするか

著者: 児玉俊夫

ページ範囲:P.218 - P.219

 1.慢性関節リウマチに対して,正しく使われている副腎皮質ステロイドは中止する必要はない.Rothermichは重篤な副作用を主たる治療薬剤別にすると
 金:78例中35% フエニールブタゾン:54例中44% ステロイド:158例中10%と報告しており,私もそのように感じている.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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