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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科1巻6号

1966年09月発行

雑誌目次

視座

今一度Listerを思い出そう

著者: 天児民和

ページ範囲:P.555 - P.555

 制腐手術の創案者としてのListerが制腐手術を初めて行なつてから昨年が100年になるというので英国ではお祝いをし記念切手まで発行している.しかしListerの論文は1867年のLancetに発表されている.その論文をよく調べてみるとListerが最初に取扱つた症例は1865年であるので昨年の100年祭はこの第1例の成功を記念して祝典が行なわれた模様である.今日Listerは優れた外科医者として認められているが,当時の外科医者の大半は四肢の外傷,炎症を主として扱つていたもので現在整形外科で取扱つている患者をそのまま外科医者が取扱つていたのである.

論述

いわゆるKantenabtrennungとシュモール軟骨結節

著者: 岩原寅猪 ,   土方貞久

ページ範囲:P.556 - P.568

はじめに
 いわゆるKantenabtrennung(以下K. Abtr.と略す)及びシュモール軟骨結節の病因,病態に関しては,すでに1920年代の病理学者Schmorlによる詳細なる観察を始めとして数多くの報告があるが,その臨床的意義に関しては今日まで深く考慮されることがなかつたようである.
 このことは,これらのものの病態に椎間板組織が関与することをみとめても,従来の椎間板ヘルニアとちがつて,直接後方の脊髄ないしは神経根を圧迫することが少なく,根症状のような明確な他覚的所見を欠くこととともに,後方ヘルニアに較べ頻度も少ないため深くかえりみられることかなかつたためと思われる.

Z-plastyの理論と実際

著者: 難波雄哉

ページ範囲:P.569 - P.575

まえがき
 Z-plastyがわが国で一般的となつたのは,ここ10年来のことであるが,西欧では約100年前Denvonilliersがectropionの形成術として本法を用いたのが文献上最初の報告とされており,その後,その理論や臨床応用については多くの報告があり,現在では形成外科における基本的手術手技の一つとして,いずれの形成外科書にも記載されているものである.
 Z-plastyは広義には,いわゆるZ-plastyの他に,俗にzig-zag形成と呼ぼれている手技をもふくむもので,これらの手技は形成外科のみでなく広く外科領域一般に用いられるべきものである.

境界領域

輸血の最近の問題点

著者: 村上省三

ページ範囲:P.576 - P.582

 ここ数年来輸血による血清肝炎が増加し,さらに一力医学の常識を無視した頻回採血による売血者層の供血者貧血が多発したため,わが国の供血制度が世のきびしい批判をうけるに至り,遂に政府も1昨年8月可及的すみやかに献血血液をもつて医療用血液をまかなう大力針をたてるに至つた.これを機に世界に冠たりし売血国日本もどうやらまともな方向に転換しはじめた.それから約2年たらず,その間地方庁または日本赤十字社が献血の窓口となることが決定され,さらに昨年12月には東京弁護士会から頻回採血による供血者貧血の発生は人権じゆうりんの疑ありとの関係筋への警告が発せられ,これに対して日本血液銀行協会所属血液銀行の売血自粛など,相ついて大きな転換が続き,遂に本年6月には献血53%,予血34%,売血17%と献血が過半数をしめ,売血が遂に20%を割るに至つた.このことは数字的にはとにかく一応慶賀すべきことがらではあるが,解決すべき諸問題をそのままにしての発展であるので,これ以上の前進はこれらの問題の解決してからでないと至難であろう.

診療の経験から

関節形成術について

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.583 - P.587

 臨床経験を書けと言われても,それは大変にむずかしいことで,どこまでが成書に記載するところで,どこからが自分の経験であるのか,その境が明らかでない.成書に記載してあることや,自分の動物実験などの成績の間に経験が入り,それが織りまじつて診療上の知識ができあがつているものらしい.したがつて経験のみを取り出して書くことは,ほとんど不可能であるかも知れない.
 しかし,考えてみると診療上の知識の構成状態は,その人,その人によつて異なつていると思う.ある者は学問上の知識が主で経験が少なく,ある者は,その反対に学問上の知識よりも,経験が主になつているであろう.しかし,その何れも,あまり好ましいことではなく,学問上の知識と経験が,お互いに,ほどほどに混つている場合が,真の名医ではないかと思う.

手術手技

骨折に対する圧迫内固定法

著者: 宮城成圭 ,   井上博 ,   境野正武

ページ範囲:P.597 - P.606

いとぐち
 骨折の観血的療法は近来著しい進歩をとげたが,中でも長管骨々折に対しては骨髄内固定法,内副子法等により治療成績は著しく向上した.然し之等の方法によつてもなお満足し得ない症例も少くない.
 スイスのMüller教授は1958年に圧迫内副子法(Compression Fixation with Plate)を開発し,内副子固定を行う際に骨折端に圧迫力を加えて,固定を一層強固にする事を考案した.後に記述するようにMüllerはこのために特殊な内副子と圧迫器を用いている.従つて氏の方法はわが国で市販されている螺子や内副子では実施することは出来ない.

歴史

日本整形外科学会雑誌から—第13巻から第14巻まで

著者: 天児民和

ページ範囲:P.607 - P.607

 第13巻の出た昭和13年はすでに支那事変が勃発していたがこの雑誌には全く戦時色は見られない.しかし昭和13年京都で行なわれた日本医学会総会には多くの陸海軍軍人の特別講演が行なわれたことは未だ記憶に残つているところである.しかし第13巻ではスポーツによる骨変化と脊髄外科に関する論文が多い.特に注目をひくものは脊髄後根切断による人体皮膚知覚像の臨床的吟味(野崎寛三)である.これは日本人で臨床的にはじめて後根の皮膚知覚支配を明らかにしたもので脊髄外科における高位決定上有益な業績である.また足圧痕の研究(横倉誠次郎)がある.これは横倉氏の多年に亘る扁平足の研究の一環である.また剖検上よりみたる頸椎頸髄損傷の知見補遺(西新助)は7例の頸椎頸髄損傷死亡例について詳しく検討し,所謂頸椎損傷において椎間板損傷の頻度が非常に高いことと意義の重大なことをその当時において指摘した.特にラミネクトミーを行なつた場合脊髄後面に殆んど変化がない場合でも椎間板損傷による脊髄前面の変化の多いことを指摘した.これらの業績は今日においても脊髄損傷の初期治療に関して種々な意見が出ているがなお参考にすべき業績である.なお昭和13年日本医学会総会の整形外科分科会においてペルテス氏病の成因に関する諸学説の批判(名倉重雄)が発表せられている.この講演が名倉教授のペルテス病の成因に関する研究の最初の発表であつてその当時から長坂清人氏との間に激しい論争が行なわれていた.

臨床経験

いわゆるリュックサック麻痺について

著者: 岡崎清二 ,   川上登 ,   水田早苗

ページ範囲:P.608 - P.614

緒言
 スポーツの振興が叫ばれ老若男女を問わず種々のスポーツが行なわれるようになり,中でも都会の騒音をさけて白然の中に帰る登山は年々盛んになつてきている.しかし登山に際して普段は筆記などの軽い作業のみを行なつている人達が十分な鍛練をせずに重装備をすると,思わぬ障害を来たすことがある.体格に適さない重いリュックサックを担いだために起る腕神経叢麻痺,すなわちいわゆるリュックサック麻痺もその一つである.
 我々は最近この様なリュックサック麻痺の5例を経験したので,その発生機序やその治療などについて若干の考察を加えて報告する.

Entrapment Neuropathiesと思われる橈骨神経深枝単独麻痺について

著者: 安部龍秀 ,   星子正義 ,   篠原典夫 ,   高松鶴吉

ページ範囲:P.617 - P.621

緒言
 末梢神経には他の組織によつて特に機械的刺戟を受け易い解剖学的な部位がある.
 他の組織とは筋,腱,骨,靱帯等であり,機械的刺戟の反復は局所の炎症と瘢痕組織を生じ,その結果神経線維は変性を受けることになる.また神経が周囲組織からしめつけられ易い解剖学的特色は筋緊張等によつて変化する.Carpal tunnel syndromeはその好例であるが,正中神経に限らず,殆んど全ての末梢神経はこうした種類の損傷を受け得るわけで,1962年Harvey P. KopellとWalter A. L. Thompsonは,これらを"Entrapment neuropathies"という言葉で総称している.これは全く解剖学的問題であるが,整形外科外来での"Pain syndrome"はきわめて多く,KopellやThompsonも"Peripheral neurology"に対する興味と知識が医界に不足しているために,患者は開業医,神経科,整形外科,神経外科,精神科を往復するだけであるとなげいている.われわれは根気よく"Pain syndrome"を追求しなければならない.こうした対象の中からわれわれが最近1年半の間に経験した橈骨神経深技単独麻痺の4例について報告する.

整形外科における問題行動

著者: 芝田仁

ページ範囲:P.622 - P.624

 疼痛それも主に下肢の痛みを主訴として整形外科を訪れる小児のなかに,他覚的所見の全くないものがかなりの頻度に見られる.従来これらは成長痛Wachstumsschmerzとして取り扱われてきているが,我々はこれらを小児神経症の一種と考えて問題行動と呼び,両親に患児の環境調整を指示しているが,再度来院するものは殆んどない.
 私はこれらの患児につき予後調査を行なうと共に,患児の環境,性格などに関する調査を併せ行なつたので考察を加えて報告する.

脊髄性癲癇(胸髄不全麻痺例にみる持続性間代性痙攣)と思われる1例

著者: 木下博 ,   福原照明 ,   小林一平 ,   片山国昭

ページ範囲:P.625 - P.629

まえがき
 頸・胸髄損傷では完全・不完全の別なく,受傷後一定期間を経ると,損傷部以下の反射が現われて痙性麻痺を呈する.腰髄損傷でも損傷部以下の仙髄に中枢をもつ反射は回復する.したがつてBastian Bruns lawから開放される時期になると,反射は再び現われて痙性になる,がことに胸髄損傷では高度の痙性麻痺をみることが多い.我々は胸髄不全麻痺例で,自発的に,あるいは,わずかな外的刺激で麻痺部に間代性痙攣が現われて30分以上も持続する所謂Brown-Séquardの脊髄性癲癇(Spinal epilepsia)1)と思われる症例を経験したのて報告する.

検査法

関節液の簡易検査とその意義

著者: 荒井三千雄

ページ範囲:P.633 - P.640

 古くから,関節液に関する研究は多数あるが,本稿では日常診療に際してもごく簡単に行なえる検査法について述べ,その意義について少しく考察してみたい.

海外だより

アメリカの形成外科学会について

著者: 藤野豊美

ページ範囲:P.644 - P.645

 日本の形成外科が生れて未だ日も浅く学会の中では最も小さく若いものの1つであり,厚生省から標傍科目としてさえまだ認められていない現状である.これを1人前に育ててゆくためには,今後関係者一同のいつそう大なる努力が必要である.7ヵ年の留学生活の経験をもとにしてこの分野では最も先進国であるアメリカの形成外科学会の歴史および現状を一瞥するのも無駄ではないと思い,乞われるままに,ここに筆をとる次第である.

質疑応答

大腿骨骨折の処置法—四頭筋の処置について

著者: 河野左宙

ページ範囲:P.646 - P.648

大腿骨骨折治療の原則と非観血的療法の成果
 大腿骨体部骨折の治療にあたり,それが正しく治療されたかどうかは正常の機能を損わずに骨折が治癒したかどうかという点にあると思う.このことは骨折を解剖学的に正しい位置に整復するのみでなく,関連運動器,特に膝関節の機能に何らの障害を残さず治癒せしめるということにある.膝関節などに障害が残ることが予測される時でも,これを最小限度に止めることが治療の要点であろう.大腿骨々折を観血的に取扱う場合,特にこの点に注意を払うことが大切であり,とりわけ骨折治癒の自然の過程をさまたげるような不適当な手術は厳に避けられねばならない.
 近時大腿骨々折に対する治療はKüntscher髄内釘の応用により一段と進歩を遂げ,最近では大腿骨骨折すなわちKüntscher法と考えられる傾向にさえある.この手術と後療法が理想的に行なわれる場合には問題はないが,実際には必ずしもそうではないようである.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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