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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科1巻7号

1966年10月発行

雑誌目次

視座

頸部脊椎症について

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.655 - P.655

 脊椎症spondylosisという言葉は1930年ドイツの脊椎の病理学の大家Schmorlに創る.
 頸部脊椎症は第2次世界大戦後おもにイギリス学派によつて用いられ,アメリカで骨関節炎osteoarthritis,わが国で京都学派のいう骨軟骨症に相い通ずるものてある.われわれはシュモールの提言に忠実に脊椎症といい,頸部脊椎症の呼称を採る.

論述

骨巨細胞腫の鑑別診断

著者: 前山巌

ページ範囲:P.657 - P.668


 CooperおよびTravers(1818)によつて骨の肉腫の一型としてはじめて紹介されたこの腫瘍はその組織像に多数の多核巨細胞が存在することから,同様の所見を示す数々の類似疾患と混同一括されてきたきらいがあるが,Bloodgood(1919)1)はこの腫瘍の性格を強調して良性巨細胞腫なる呼称の下にその治療法に警告を与えるとともに,その後Jaffe,LichtensteinおよびPortis(1940)2)によつてこれらの類似疾患より区別して真の巨細胞腫なるものの概念が確立されるに至つた.同時に巨細胞腫が必ずしも良性のものばかりではなく,悪性のものや中間型のものもあり,経過とともに悪性化すること等にも注目され,その診断と共にその治療法についても数々の問題点が重視されるに至つた.
 JaffeおよびLichtensteinによつてその組織像について悪性度が論じられてきたが,我国においても三木3,4),鳥山5)および藤本6)等の諸氏によつてエックス線学的にその予後との関連が論じられてきた.然し,実際に個々の症例に遭遇してその腫瘍が果して治療にどのように反応し,叉絶対に遠隔転移をきたさないものかどうか等の点については全く予測を許さず,Jaffeもこの腫瘍をtreacherous lesionsと呼び,Coleyらもunpredictableな腫瘍として嘆いている(第1,2図).

骨巨細胞腫の治療

著者: 赤星義彥 ,   米沢広 ,   柴田大法

ページ範囲:P.669 - P.681

 骨巨細胞腫には,良性から悪性に到る種々の段階があり,臨床像も症例によつてかなり異なるが,私どもが遭遇する巨細胞腫の85ないし90%は病理組織学的には良性と考えられる.しかし他の良性骨腫瘍と比較すれば,本腫瘍は骨の吸収破壊力がより強く,関節に近い骨端部を侵すため,機能的に完全治癒せしめることが難しい症例もかなりあり,また治療後の再発,局所悪性化あるいは肺転移を来す可能性を多分に有していることがその特徴と言えよう.
 また,本腫瘍の10%前後は,組織学的にanaplasticな悪性所見を含んでいると言われているが,このような悪性巨細胞腫は,生命の予後と言う観点からみれば,原発性骨肉腫,Ewing肉腫のように肺転移あるいは広範な転移で急速に死亡するものは少なく,むしろ線維肉腫に準ずるlowgrade malignancyの部類に属すると考えられるが,このような症例では,切除および再建手術がいいかあるいは切断すべきか,慎重な考慮を必要とする.

境界領域

ショックの治療

著者: 稲生綱政 ,   登政和 ,   内田久則

ページ範囲:P.682 - P.688

ショックとは
 ショックの治療について記する前にショックの概念を簡単に述べておこう.
 ショックと言うのはあくまでも臨床症状の一つで,その言葉の定義そのものまで確立されていないが,1948年アメリカの連邦学術会議ショック小委員会では,ショックを血管床容積と血流量の間に一定度以上の懸隔を生じた状態と言つている.すなわち,血管容積に比して循環血液量がひどく減少して循環障筈を起こした状態である.ショックも外力の侵襲に対する生体の反応の仕方で,必ずしも循環系のみの変化とは言えないが,外科臨床上では主なショック症状がやはり循環障害から来るものと見做し得るであろう.

対談

整形外科を歩んで40年—片山良亮教授にきく

著者: 佐藤孝三

ページ範囲:P.698 - P.706

 佐藤 片山先生,この席では雑誌「臨床整形外科」の読者の立場でいろいろお伺いしようと考えております.臨床のご経験40年,教授におなりになつてからも20年以上というような,本当に先達としての先生が,これまでいろいろと貴重な体験をなさつたことを少しこの席で吐き出していただいて,本誌の読者に人間としての先生をお伝えすると一緒に,今までのご経験やら,ご抱負やら,あるいはまたあとに続く整形外科の若い人たちにたいするご希望などを伺いたいと存じております.あまり堅苦しい話では読む方も肩が凝りますから,今夜はやんわりと気楽なお気持でお話を伺わせていただきたいと思います.
 一番はじめに,あまり私ども立ち入つてお聞きするわけにもいかないことですけれども,先生のずつと昔の,生い立ちから,医学を志されるまでの間のことを伺いたいと存じます.これはほとんどどなたもご存じないことと思いますので,その辺から少しお話願えればと思いますが.

診療の経験から

先天性股関節脱臼に対する観血的治療の問題点

著者: 猪狩忠 ,   氏家和国

ページ範囲:P.707 - P.712

 四肢の機能障害を治療するわれわれ整形外科医にとつて,以前治療した患者が果して初めに予期した通りの効果をあげているか否かを確認することは重要なことである.まして先天性股関節脱臼(以下先天股脱)の観血的治療法のごとき今なお問題の多い治療法においてはことさらのことである.本症に対する観血的治療法については内外の手術書などに詳細に記載されているが,いずれの方法においても一長一短あり,したがつて人おのおのの好みとでも云おうか,各自が日常比較的多く実施している方法があるようである.私たちはこれまで本症に対してColonnaの関節包式関節形成術,臼蓋形成術,および転子下骨切り術を主として実施してきているが,今回術後2年以上を経過したこれら症例の成績を調べてみたのでいくつかの問題点について考えてみたい.

手術手技

四肢悪性腫瘍に対する制癌剤動脈内持続注入療法の実際

著者: 増田元彦

ページ範囲:P.713 - P.720

 四肢に発生する悪性腫瘍は,罹患肢の切断あるいは関節離断によつて,腫瘍が完全に除去されるにも拘わらず,その予後は極めて悪い.九大整形外科におけるこれら骨悪性腫瘍の治療法とその成績を検討したところでは,切断あるいは離断などの根治的手術のみで治療された場合よりも,これら根治的手術に制癌剤の投与あるいは放射線療法を併用した力が,良好な予後を期待出来る,従つて骨悪性腫瘍の治療も手術的療法に,化学療法,放射線療法などの補助的療法を併用するのが,その予後をよくする治療法であると思われる.しかし現在の制癌剤は有効な制癌作用を示す反面,なお骨髄に対する機能抑制をはじめ,種々の強い副作用をもち,全身的に大量を用いることがむずかしいので,その十分量を使用し,腫瘍細胞に高濃度を作用させ,然も全身的な副作用を出来るだけ少くしようとして工夫されたものが,動脈内注射・動脈内持続注入・局所灌流などの局所投与法である.

歴史

日本整形外科学会雑誌から—第15から16巻まで

著者: 天児民和

ページ範囲:P.721 - P.721

 第15巻には第15回日本整形外科学会の宿題報告「淋疾性関節炎」(島田信勝,小泉次郎)がある.これは化学療法の行われなかつた当時の淋疾の難治性とそれから起こる合併症としての関節炎を詳細に論じた論文である.これには指導者前田和三郎教授と担当者島田教授の性格が極めて鮮やかに現われている.即ち臨床的観察が緻密で親切で優れた臨床的な業績である.もう一つは特別講演「臨時東京第三陸軍病院において経験せる戦傷と整形外科」(大江捷次郎,水町四郎,伊藤原)がある.学会も漸くこの当時から戦時色濃厚となり,有能な整形外科医が陸海軍の病院に応召してそこで存分にその能力を発揮したのもこの時代である.そしてこの論文により戦傷患者の多くが整形外科領域に属するものであることを明らかにし,特に補装具,義肢に関しては注目すべき業績をあけている.戦時中にも拘らず第15巻には多くの優れた業績がある.「陳旧性肘関節脱臼の研究」(神中正一)は肘関節脱臼の手術々式,殊に三頭筋の腱延長の必要なことを説いて後療法にまで及んでいるが現在もなお我々はこの手術術式を用いている.我が国の椎間板ヘルニアの最初の手術例は東陽一,市村平八郎によつて昭和7年雑誌「グレンツゲビート」6年,12号,1に発表せられている.不幸にしてこの業績は日本整形外科学会雑誌にはのつてないが,これに刺戟せられて前号に続いて脊椎椎間軟骨後方脱出に続発せる線維軟骨腫の1例」(甲斐太郎,和田進)の発表もある.

臨床経験

骨原性肉腫の肺転移予防を目的とせる制癌剤の気管支動脈注入

著者: 大野藤吾 ,   御巫清允

ページ範囲:P.724 - P.731

はじめに
 骨原性肉腫の5年生存率は,諸家の統計によれば4,5,7,8,9,10,11,14,15,22),第1表の如く5%から26%,東大の症例では,経過観察できた46例中,5年以上生存した例が7例,即ち5年生存率は15.2%と,概ね極めて悪い.しかも,第2表の如く,東大の局所潅流13)後根治手術を施行した28例中,16例に転移が発生し,転移例の1年以内の転移発生率は81.3%,しかも,最初の転移部位が肺であつた症例が,転移例16例中,13例あつた.即ち骨原性肉腫の転移は肺転移が,大多数で,しかも,1年以内に肺転移の起る率が高い.予後改善上,肺転移の処理が重要となるが,実際に肺転移の発生した症例に対しては,肺転移巣の切除術という手段もあるが,多発性転移が多いので,適応例が少ない.従来,肺伝移の予防を目的として,根治手術後制癌剤の連日或は間歇全身投与を施行して来たが,血中濃度が極めて低く,その効果は余り期待できない.

足関節Osteochondromatosisの症例

著者: 有馬亨

ページ範囲:P.732 - P.736

 Osteochondromatosisは,1900年Reichelがはじめて独立の疾患として発表して以来数多くの報告例があるが,足関節Osteochondromatosisの例は外国でも少く,本邦でも極めて稀である.私は最近本症の1例に遭遇したのでここに報告する.

術後4年6ヵ月を経たSkin arthroplastyの再手術所見

著者: 吉永栄男 ,   児島忠雄 ,   佐藤隆久

ページ範囲:P.737 - P.741

 われわれの教室では昭和33年以来,股関節形成術のさいに皮膚全層を中間挿入膜として応用している.今日までの症例数は股関節48例,膝関節13例の計61例で,その成績はすでに報告1,2,3)したように,股関節では一般に良好な成績であるが,術後の大腿骨頭の骨吸収は他の中間挿入膜の場合よりもやや強い3,4,5).術直後,化膿あるいは再発した症例はないが,最近,術後4年6ヵ月を経て疼痛を訴え,その後,大転子部に瘻孔を形成したので再手術を行なつた症例がある.そのさい,中間挿入膜として用いた皮膚弁について興味ある知見を得たので報告する.

検査法

テトラサイクリン・ラベリング法—テトラサイクリン標識法

著者: 星野孝

ページ範囲:P.742 - P.746

はじめに
 物質が光エネルギーを吸収すると励起状態となるが,多くの場合は直ちに熱エネルギーに転換して基底状態にもどり,またある場合には化学エネルギーにかわつて化学反応がおこる,しかしある種の物質では光エネルギーを放出して基底状態にもどる.その際,螢光fluorescenceまたは燐光phosphorescenceを発する.
 螢光と燐光のちがいは,前者では光照射が続く間光が出るが,光照射がやむとすぐ消えるのに対して後者ては照射がやんでも光が出るという点である.また両者のスペクトルの波長域及びスペクトル構造にも差がある.

装具・器械

エアドリルの使い方

著者: 藤本憲司

ページ範囲:P.748 - P.752

まえがき
 著者がこのair drillをはじめて見たのは,1963年にウィーンで開催された第9回国際整形災害外科学会の会場であつた.非常な高速度で回転する錐で,骨を自由自在に切つている光景を見て驚いた次第である.それは今までの電気鋸にくらべて比較にならぬほど細かい細工ができるようであつた.翌年これを輸入して実際に使用してみると,骨切り,孔あけ,整形などの骨手術に大変便利なものであることがわかつた.その反面,精巧な機械であるだけに,正しい使い方をしないど十分な効果を発揮させることができないし,また故障の原因にもなるので,以下,著者の使用経験と使用解説書をもとにして,その正しい使い方について解説することにする.
 本器はアメリカの口腔外科医Robert M. Hallによつて開発されたもので,1963年春のAmerican Academy of Orthopedic Surgeosの学会でHall Air Drillとしてはじめて紹介され,さらに同年9月,国際整形災害外科学会に展示されたことは前述のとおりてある.その後Air Surgeryの器具として広告され,1965年はじめ以来,Hall Surgairtome,Hall OrthairtomeおよびHall Neurairtomeと,少しずつ性能と用途の異なつた3種類になつたが,そのうちSurgairtomeがHall Air Drillとほとんど同じものてあるらしい.

質疑応答

瘢痕ケロイドの治療

著者: 伊藤盈爾

ページ範囲:P.754 - P.755

はじめに
 ケロイドの治療はなかなか難かしく,現在これといつたきめ手はない.しかし,症状に応じた治療を行なえば,相当な効果をあげることができる.それには,ケロイドの発生を促進する因子を知り,極力これを除去することが必要で,治療は常に予防と平行して行なわなければ,かえつて逆効果を招く危険をはらんでいる.
 皮膚が損傷をうければ,瘢痕によつて治癒するが,殆んど目だたぬものから醜悪な塊状のものまで,あらゆる段階がある.その分類にも異論があるが,治療面は大差はないので,今回は肥厚,硬化した瘢痕をすべてケロイドとしてその治療法をのべる.

海外だより

ハイデルベルク大学医学部整形外科クリニック

著者: 村地俊二

ページ範囲:P.756 - P.757

 西ドイツの南西部を占めるBaden Wurttemberg州の北西端に,romantische Stadtとして世に知られるわがハイデルベルク市(Heidelberg)がある.古来この町は壮麗なる古城を含むネッカ河畔の景勝と共に,ドイツ最古を誇るハイデルベルク大学の存在によつて世界各地より観光客と留学生を集めている.加えてわが国においてはWilhelm Meyer Forster作"Alt Heidelberg"という若き王子の恋物語によつてハイデルベルクの名はあまりに有名である.
 筆者は1965年7月より,文部省在外研究員として当ハイデルベルク大学医学部整形外科教室において勉強できる身となり,この山紫水明の地に居住している.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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