特集II Myelopathy・Radiculopathy
胸,腰椎移行部椎管狭窄によるミエロパチーと脊髄動脈像
著者:
米沢元実
,
手束昭胤
,
山本博司
,
土居昌宣
,
井形高明
,
滝川昊
,
佐々木徹
,
山地善紀
,
成瀬章
,
森本博之
,
小川維二
,
湊省
ページ範囲:P.1115 - P.1123
はじめに
人の胸腰椎移行部は脊椎損傷の最大好発部位であり,常に過大なstressが要請されていることは周知のとおりである.しかしこの部位では従来より脊椎・脊髄の外傷疾患が主体的に論じられており,いわゆる脊柱原性のミエロパチーについては深く追求されていないように思われる.ところで胸腰椎移行部は脊髄の第二膨大部と円錐部を囲い,また馬尾神経が円錐部を中心に包むような配列で分岐している,従つて,この部位の障害では特異な脊髄症状を呈するばかりでなく,馬尾神経症状,更に根症状をも加わつて多様な神経学的所見を呈する.また脊髄血行動態の解剖学的見地より,これら麻痺発生には神経要素に対する単なる機械的圧迫のみでなく循環障害の関与が十分に予測される,我々は脊髄血管撮影より胸腰椎移行部の椎管狭窄によるミエロパチーが脊髄下端部の主流前根動脈である,Adamkiewicz's arteryと前脊髄動脈の血行循環障害に大きく関係していることを明らかにした.さて,脊髄血管撮影はDjindjian(1961年)1),Doppman,Di Chiro(1964年)2)らより始められ,最初は主として脊髄のA-V malformationの診断に応用された.最近では脊髄血管腫に対し本法は欠くべからざる補助手段となつている.更にDjindjian(1970年)3),Di Chiro(1970年)4)により血管腫以外の脊髄腫瘍においても髄内,髄外の局在性や前脊髄動脈および根動脈との関係が述べられ,診断に有用であることが判つて来た.しかし,その他の脊髄疾患に対する本法の診断価値についての報告は少なく,また脊髄症の脊髄血行障害について多く論じられながらもその血行動態把握の試みは実に少ない.我々は1972年来,400例の諸種の脊椎・脊髄疾患に脊髄血管撮影を施行し,その病態把握と診断価値について検索を重ねて来た.そのうち,胸腰椎部疾患は167例である(第1表).今回は関連病院(小松島赤十字病院)を中心に検討した22例の椎管狭窄に起因した胸腰椎移行部の複雑な神経障害とAdamkiewicz's arteryとその前脊髄動脈との関係について報告する.