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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科10巻4号

1975年04月発行

雑誌目次

視座

畳の功罪

著者: 鈴木良平

ページ範囲:P.293 - P.293

 欧米の整形外科を見て驚くことは,足の疼痛を訴える患者がいかに多いかということである.大部分はいわゆる扁平足障害,とくに小児のそれと,婦人の外反母趾であり,そのほかに胼胝や爪の障害も多い.このような問題が極めて切実な足の外科の課題になつており,Podologieなる診療科や学会もあるくらいである.これに反しわが国では,このような患者は非常に少なく,学会の主題としてとり上げられたのは,いわゆる扁平足障害についての,水野祥太郎名誉教授の詳細な研究のみである.しかしこれとても,第2次大戦前から戦中にかけての,工場医としての経験が主体となつているのであつて,長時間の立位の作業がその原因であつた.戦後労働条件が改善されてからは,このような患者は激減した.
 日本では欧米に比べて足痛の問題が少ないのは,一にかかつてその生活様式に根ざすものと考えられる.わが国の住居が畳を主体とした床でできており,家の中で素足で生活しているのは,1日中靴をはいている欧米の生活様式と根本的に異なるところである.歩きはじめるときから1日中靴の中にとじこめられる足と,素足で適当な弾性を持つた畳の上で歩行訓練を受ける足とでは,その発育の上で大きな差が生じるであろうことは明らかである.

論述

大腿骨頸部内側骨折後の関節軟骨の運命

著者: 広谷速人 ,   伊藤鉄夫

ページ範囲:P.294 - P.302

はじめに
 大腿骨頸部内側骨折は,その特異な力学的要因や大腿骨頭への血行から骨癒合を期待することが難しいだけでなく,骨折自体は治癒しても骨頭の壊死やcollapseが続発しやすいことは,周知の通りである.さらに骨頭への血流も良好であり骨組織の再生が十分であつても,大腿骨頭の関節軟骨が形態学的,機能的に健常に保たれていない限り,神正常の股関節機能を期待できないことは明らかである.
 しかしながら,従来の大腿骨頸部内側骨折についての病理組織学的研究は,骨頭での修復過程やその合併症に焦点がしぼられ1,17),関節軟骨の変化については,僅かにSantos20)(1930),Shermanら21)(1947),Colemanら5)(1961),Catto2,3)ら(1965)の記載があるにとどまり,その系統的観察は今日まで報告されていない.

変形性膝関節症発生の周辺—半月性因子について

著者: 伊勢亀冨士朗 ,   末安誠 ,   水島斌雄 ,   宇田正長 ,   磯田功司 ,   竹田毅

ページ範囲:P.303 - P.313

はじめに
 変形性膝関節症とはレ線上の形而上的変化を基準に判定した膝関節構成体の退行性増殖性変性像に対するbasket nameであり,basketの内容構成について言及するものではない.
 従つてbasketの内容となるその成因や本態については古くから諸説が提唱され今日に到つてもなお見解の一致をみていない.

血管撮影所見より見たthoracic outlet syndrome発症のメカニズムについて

著者: 曽我恭一 ,   立石昭夫

ページ範囲:P.314 - P.321

はじめに
 Thoracic outlet syndromeは1956年,Peetらにより,それまで使われていた前斜角筋症候群,肋鎖症候群,過外転症候群,頸肋症候群,第一肋骨症候群などを総称する症候群として提唱されたものであるが,この症候群の発症のメカニズムについては,いまだ解明されておらず,従つてこの症候群の診断および治療についても確立したものがない現状である.
 われわれは上記の諸症候群を総称するthoraci coutlet syndromeの診断方法として,斜角筋群の関与をしらべるAdsonテスト,肋鎖圧迫テストとしてのEdenテスト,および過外転テストとしてのWrightテストの3つの脈管圧迫テストを採用し,この脈管圧迫テストを重視したわれわれ独自の診断基準を定め,これに基づいて症例を重ねて臨床的研究を行つている.

Aurothiomalateの副作用—特に肝臓障害と腎臓障害の発生機序とその予防について

著者: 吉野槇一 ,   小坂弘道 ,   五十嵐三都男 ,   益田峯男 ,   興津勝彦 ,   阿部光俊

ページ範囲:P.322 - P.327

はじめに
 金製剤に結核菌の発育阻止作用があることがわかり,抗結核剤として使用していたところ,たまたま慢性関節リウマチ(以後RAと略す)を伴つた肺結核患者でRAの著しい改善を経験した.
 その後RAに対する治療薬として,現在まで本剤の基礎ならびに臨床研究が数多くなされている.しかし本剤のRAに対する作用機序に関し,いくつかの説があるが,まだこれといつた確かな説はない.

ムコ多糖体異状症に対する白血球輸血

著者: 西岡淳一 ,   水島哲也 ,   児島淳之介 ,   中村允人

ページ範囲:P.328 - P.334

はじめに
 Gargoylismと呼ばれる特異な身体的・精神的障害を主とする疾患について,従来より,諸家により遺伝学的,生化学的に検索がなされてきた.20世紀に入り,Berkhan(1907)の報告に端を発し,Hunter1)(1917),Hurler2)(1919)らがこれらの疾患を詳細に調べ,後にそれぞれHunter病,Hurler病と命名され,その後,その他の類似疾患も続々と発見され,McKusickらにより系統的に分類されている.
 一方,1950年代3〜7)にmucopolysaccharideの研究が盛んになり,Brante8)(1952)が患者の肝臓中に,Dorfman9)(1957)らは尿中にmucopolysaccharideが多量に含まれることを発見し,以後Gargoylismとムコ多糖との関係を指摘する報告が相続いでなされるに到つた10〜14,20,31〜35)
 さらに,Van Hoof15)(1964)らはHurler病の患者の皮膚線維芽細胞を電顕的に検索し,細胞内のlysosomeの疾患であることを指摘し,この分野の研究を飛躍させた.

学会印象記

第1回国際義肢装具連盟(ISPO)世界大会に出席して—その印象と,今後の日本の義肢装具の発展に課せられた問題

著者: 沢村誠志

ページ範囲:P.335 - P.339

はじめに
 義肢装具に関連するすべての職種の人達が集り,教育,研究,評価,用語等の問題を討議する国際会議が,初めて,スイスのレマン湖畔の保養地であるモルトルーで昭和49年10月上旬に行われた.この会議を国際義肢装具連盟(International Society for Prosthetics and Orthotics,ISPOと略称)第1回世界大会と呼んでいる.この学会は,Interbor(International Association of Orthotists and Prosthetists国際義肢装具士協会)と,APO(Swiss Association for Prosthetics and Orthoticsスイス義肢装具協会)の共同主催のもとに行なわれた.
 このISPOのこれまでの足跡を簡単にたどつてみると,過去における義肢装具に関連する委員会は既に1951年,ICPO(International Committee for Prosthetics and Orthotics)として存在していた.このICPOは,ISRD(International Society for the Rehabilitation of the Disabled)の一つのsubcommitteeとしての機能をもつていた.

ロンドンでの関節軟骨シンポジウムに出席して

著者: 井上一

ページ範囲:P.340 - P.343

 最近,関節軟骨への関心が高まりつつあるが,今秋ロンドンで開かれた関節軟骨シンポジウムに出席の機会があり,この分野の最近の研究の動向を知ることができたので,概略を報告して参考に供したい.
 英国では,1700年代のW. Hunter頃から関節軟骨に関心がもたれており,これは痛風を始め他の関節疾患を含め早くから社会的背景が広かつたこともあろうが,この国は近年形態,組織化学,生化学あるいはbiomechanicsなどいずれをとつても関節軟骨の研究は,非常にレベルが高い.また,いくつかの研究グループによるユニークな研究は,他に類をみない.こうした基盤から,今回のシンポがロンドンで開かれることになつた.12力国約130名の出席者で,わが国からも私共8名が出席した.

臨床経験

末梢神経原発性腫瘍について—Malignant Schwannomaを中心として

著者: 荻野幹夫 ,   浅井春雄 ,   阿部光俊 ,   林泰史 ,   鈴木斌

ページ範囲:P.344 - P.349

要約
 本文においては①末檎神経原発性腫瘍の理解を容易ならしめるために,神経支持組織たるSchwann細胞の由来と特徴について述べ,②Schwann細胞以外の起原を持つ腫瘍のないことを示し,③Schwann細胞よりの良性腫瘍としてneurilemomaとneurifibromaの2者の存在することとその差違について述べ,④Malignant schwannomaの発生はneurilemomaよりは認められず,neurofibromaより続発するか,または初めよりmalignant schwannomaとして発生することを述べ,⑤その臨床症状について自験例6例の簡単な報告を付し,⑥Malignant schwannoma(Neurilemoblastomaおよびplexiform neurofibromaを含む)の治療方針について述べた.

大腿骨頸部外側骨折に対する新しいキュンチャー髄内釘固定法の試み

著者: 藤田邦浩 ,   岡本佼 ,   三河義弘

ページ範囲:P.350 - P.353

 大腿骨頸部外側骨折は高齢者に多く,手術侵襲を少なくし,早期離床せしめて各種の合併症をなくすことが重要である.われわれはKuntscher,Riskaらの報告に基づき,大腿骨内顆直上部より上行性にキュンチャー髄内釘を骨頭に挿入する手術法を昭和49年2月より,数例に試み,手術操作,手術時間,手術侵襲,整復固定力,早期リハビリテーション等の諸点において従来までの手術法に優るとも劣らず,良好な成績を得たので,若干の考察を加え各症例の経過の概要について報告する.

胸椎椎間板ヘルニア—急激に両下肢完全麻痺をきたした1例と文献的考察

著者: 青木信彦 ,   種村孝 ,   湯建治 ,   水谷弘 ,   池田彰宏 ,   益沢秀明 ,   上条裕朗

ページ範囲:P.354 - P.358

はじめに
 胸椎椎間板ヘルニアは頸椎部,腰椎部に発生したものにくらべ比較的稀であるが,最近,われわれは外傷の誘因なく,用便中急激に両下肢運動・全知覚完全麻痺をきたした第7-8胸椎間ヘルニアの一例を経験した.本症例はこれまでみられた胸椎ヘルニアと対比して急激な経過をたどつたことで,若干の文献的考察を加えて報告する.

当科における距骨骨折例の検討

著者: 小野沢敏弘 ,   奥泉雅弘 ,   今井純郎 ,   依田有八郎 ,   村松郁夫

ページ範囲:P.359 - P.364

 距骨骨折の発生は稀で,諸家の報告をみても,全骨折に対する発生比率はいずれも1%以下とわずかであるが,頸部骨折はその中でももつとも高頻度に起こり,かつその治療経過中に体部壊死,関節症等の発生をみることが多く,治療上困難な問題を含んでいる.われわれは過去2年間に合計4例(第1表)の距骨頸部骨折を経験したので,治療成績について検討を加えた.

巨大な太鼓バチ指を呈したGlomus腫瘍の1例

著者: 斎藤潔 ,   菅原正信 ,   服部彰 ,   遠藤博之 ,   鈴木堅二

ページ範囲:P.365 - P.367

 Glomus腫瘍は主として皮膚真皮網状層のGlomuscutaneumに原発する良性腫瘍で,指趾尖端に単発性の有痛性小結節または単なる圧痛点として発見される場合が多いとされている.最近われわれは長期間放置され,手指に巨大な太鼓バチ状変形を来たすに至つた本腫瘍例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

カラーシリーズ 整形外科手術・9

腰椎侵襲法 2.下位腰椎

著者: 池田亀夫

ページ範囲:P.288 - P.291

 下位腰椎および仙椎に対しては腹膜外直達法を常用する.高度の腹膜外癒着が予想されるときは経腹膜的あるいは腹壁斜切開法を用いて到達する.
 第3腰椎以下仙椎に対しては臍の上方約3横指部から恥骨結合上に至る正中線皮切(第1図)を常用する.第5腰椎以下の展開には臍以下の皮切でたりる,腹膜外式に病巣へ達する(第2図).輸尿管は腹膜につけたまま内方へ排する.左右いずれの側からでも侵襲できるが,左側侵襲は処置しやすい腹大動脈がよき指標となる.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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