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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科10巻9号

1975年09月発行

雑誌目次

カラーシリーズ

関節鏡診断 5

著者: 渡辺正毅

ページ範囲:P.744 - P.747

 骨関節炎の関節鏡所見としては,滑膜絨毛の増生とその循環障害あるいは軽度の炎症,関節軟骨面の光沢低下,線維化,粗糧化,潰瘍形成,辺縁隆起,半月板の変性断裂などが挙げられる(第3図〜第5図).滑膜絨毛は細長型slender typeで,貧血性であるが,関節鏡開始後数分間で内部の血管が見えてくる.この充血反応は少なくも2週間持続する.関節軟骨,半月板,滑膜の関節鏡所見と骨関節炎の病理,臨床との関係は今後研究が展開されるべき領域である.
 膝関節炎とくに単発性の膝関節炎の診断はむずかしいことが多い.従来の方法で診断困難の単関節炎に対して関節鏡検査と生検を行った症例について当科の武田,守屋が行った調査は第1表のごとくで,その約半数の症例は関節鏡と生検を行うことによって診断が確定されることがわかった.色素性絨毛結節性滑膜炎PVS,osteochondromatosis,結核性滑膜炎など(第1,2図,第6,7図)は比較的容易に診断される.

視座

常識の吟味

著者: 津山直一

ページ範囲:P.749 - P.750

 我が国の整形外科の水準は,欧米で行われている最新の治療がほぼ遜色ない成績で受けられるという意味ではそれほど劣つていないといえよう.医学のみならず応用科学の分野で日進月歩の世界のレベルにたちまち追いつく消化吸収力の旺盛さは日本人の特色とされるが,これをあながち模倣ばかりの徒と難じることは当を得ない.欧米との交流がなくなれば如何なる結果になるか過去の歴史が教えるからである.
 西欧のルネッサンス的体験を経ず黒船に開国をうながされる近々一世紀少し前までの彼我の科学水準の差にさかのぼるまでもなく,近くは,第二次世界大戦前日木は医学に関する限り,国際的に一流であると自負していたにもかかわらず,大戦中欧米との連絡が杜絶し,一時的に交化的鎖国状態を余儀無くされ,終戦後蓋を開けて見た時の欧米ことにアメリカ医学と我々の間に経験した懸絶の甚だしさを思い出すからである.抗生物質,新しい麻酔学やショック対策,蘇生術を挙げるまでもなく無血野での無傷手技による手の外科,椎間板ヘルニア,頸椎症性脊髄症の存在,側彎症の手術的療法,生体内材料,人工関節置換術microsurgery等々今日の整形外科のトピックはいずれも我が国の力のみで開拓し得た分野といい得ない.この意味で我々は軽々に他人を批判する資格を持たないといわねばならない.

論述

後縦靱帯骨化の手術成績と手術法の選択

著者: 彦坂一雄 ,   平林冽 ,   細谷俊彦 ,   大平民生

ページ範囲:P.751 - P.760

はじめに
 1960年,月本の報告以来,頸樵後縦靱帯骨化の成因と治療に関し多くの研究や報告が行なわれてきた.しかしその発生機序については,いまだ各種の推論があるのみで確立されたものはなく,臨床的概念としての存在には異論はないが,本来一個の独立した疾患であるかどうかさえ,未だに疑問を残している.
 治療においては,重症例を対象として観血的治療が行なわれてきたが,その手術法変遷をたどれば,頸部脊椎症と同様に扱われた時代,ついで椎弓切除術を中心とした時代を経て,現在は,年齢,骨化の形態,範囲など種々の要因を考えながら,前方,後方の侵襲を使いわける第3段階にあるといえる.

脛骨板形成術について

著者: 鳥巣岳彦

ページ範囲:P.761 - P.774

 脛骨板形成術(tibial plateau arthroplasty)とは,脛骨顆軟骨面の破壊,陥凹により生じた膝関節の内反あるいは外反変形を(第1図a.b),適当な厚さの脛骨板(tibial plateau prosthesis)でその部分を置換することにより,靱帯のpseudolaxityを矯正し,大腿骨関節面に対応する滑らかな関節面の再建を行なう手術である.その結果,膝の動揺並びに変形は矯正され,疼痛は著しく軽減し,歩容など日常生活動作も改善されて来る.
 また両側の脛骨顆を2枚の脛骨板にて置換し,いわゆるhemiarthroplastyとして川いることも可能である(第2図a,b,c,d).

膝関節滑膜組織にみられる血管腫について—わが国の膝関節滑膜血管腫29症例の統計的観察を中心にして

著者: 浦野良明 ,   小林晶

ページ範囲:P.775 - P.785

はじめに
 血管腫は血管組織からなる腸瘍様の先天性組織奇形と考えられており,皮膚や皮下組織などには好発するが,関節内に発生することはまれである.
 1856年Bouchutにより初めて膝関節滑膜血管腫の1例が報告されて以来,内外の文献には現在までに膝関節滑膜血管腫としておよそ165症例が記載されている.

装具・器械

大腿四頭股筋拘縮症におけるバネ付伸展装具を中心としたリハビリテーションプログラム

著者: 田中晴人 ,   野島元雄 ,   松家豊 ,   小松忠雄 ,   田中明 ,   森中義広 ,   川本敏恵

ページ範囲:P.786 - P.788

 最近,大腿四頭筋拘縮症に対する関心が昂まり,その予後,要因などにつぎ論議されるようになつた.
 我々は,約10年来,現在治療中の症例を含めると52例に達している.治療開始後1年未満で現在治療中の8症例を除く44症例の予後調査をした結果,保存的,観血的治療の成績がほぼ満足すべき結果を得,しかも,治療成績の向上のためには,治療方法の選択ならびに適切な機能訓練プログラムを樹立することが必要であることが痛感された.以下,大腿四頭股筋訓練プログラムの要点につき述べる.

臨床経験

距骨脱臼骨折の治療—特に距骨骨髄造影を中心に

著者: 大渕真爾 ,   赤堀治 ,   檀浦生日 ,   越宗義三郎 ,   小比賀薫 ,   角南義文 ,   尾上寧 ,   定金卓爾 ,   原靖隆

ページ範囲:P.789 - P.796

はじめに
 距骨骨折は,Aviator Astragalus1)ともいわれ,第二次大戦中の飛行士に多発したが,労災事故,交通事故の多い今日でも,決してまれな外傷ではない,そして距骨は,全体の3/5は軟骨で被われた複数の関節面をもち,筋肉の起始,付着をもたないといつた解剖学的特殊性のため,外傷性関節症や無腐性壊死をも合併し,これらが治療大上の問題点となることがある.
 とくに,無腐性壊死は,長期間の免荷固定を続けるか1〜4),距骨下関節の固定術等を行なえば5〜8)多くの場合,血流の再開をきたすが,荷重の時期を誤まると,collapseを生じ重篤な合併症となることがあるといわれている.しかし実際には単純X線などで荷重の時期を決定することは困難なことが多い.

先天性ハムストリング筋拘縮症とおもわれる2症例

著者: 三浪明男 ,   奥泉雅弘 ,   今井純郎 ,   樋口政法 ,   平井和樹

ページ範囲:P.797 - P.801

 最近,骨格筋の拘縮症,特に大腿四頭筋拘縮症が注目を集めて,数多くの症例が発見,報告されているが,最近当科外来を訪れた先天性ハムストリング筋拘縮症と考えられた二症例に対して手術的治療を行い,良好な結果を得たのでいささかの文献的考察を加えて報告する.

骨内ganglionについて—自験3例を中心として

著者: 荻野幹夫 ,   古谷誠 ,   浅井春雄 ,   蜂須賀彬夫 ,   村瀬孝雄 ,   田中秀 ,   呂明哲

ページ範囲:P.802 - P.809

はじめに
 骨外のganglionは日常もつとも多く見られる嚢腫病変で,歴史的にもHippocrates14)以来多数の記載がある.骨内の嚢腫病変については,unicameral bone cyst,fibrous dysplasia中の嚢腫様変化,関節リウマチの嚢腫病変や変形性関節症の嚢腫病変等はよく知られていたが,ganglionの存在は,Woods30)によつて1961年に7例の報告が為されて以来知られるようになつた.本文の目的は,自験3例の骨内ganglionを報告し,その臨床像を述べ,骨外ganglionに関する知見をまとめ,それが骨内ganglionについても妥当であるかを,他の関連のある骨内嚢腫病変に関する知見と比較しながら検討し,発生機序の仮説を示すことである.

遠隔転移をおこしたdermatofibrosarcoma protuberansの1剖検例

著者: 里見和彦 ,   福田宏明 ,   石井寿晴 ,   佐々木正 ,   小出紀

ページ範囲:P.810 - P.817

 全経過38年間にわたり頻回の摘出にもかかわらず局所再発を繰り返したdermatofibrosarcfoma protuberans(隆起性皮膚線維肉腫)の1例を経験した.この腫瘍は遠隔転移をおこすことは稀とされているが,本症例は長い経過ののち,両肺,後腹膜,腰椎に転移をおこし死亡した.剖険の機会が得られたので,臨床経過とあわせ報告する.

Larsen症候群の経験

著者: 岡義範 ,   小山明 ,   高橋惇 ,   三笠元彦 ,   伊藤恵康 ,   石井良章

ページ範囲:P.818 - P.825

はじめに
 日常の整形外科臨床において経験する先天奇形の中で,多発性関節脱臼に遭遇する頻度は誠に少ない.1950年Larsenらは先天性多発性関節脱臼を主徴とし,骨格の変形と特微ある顔貌を伴う症例を報告した.爾来欧米では数例の報告を見るが,本邦ではわれわれの渉猟しえた範囲では,松葉ら(1970)の類似例,小池ら(1971)の1例およびわれわれの口演より約1年後に発表された塚田ら(1973)の報告例を見るにすぎない.Latta(1972)の命名による"Larsen症候群"なる呼称は,いまだ日が浅くその命名基準も定かでない点があり,類縁疾患との関連性にも間題がある.今回われわれは本症候群と思われる症例を経験したので,文献例も含めて検討し,その命名を中心に考察を加える.

小児の一次性亜急性骨髄炎(Primary subacute pyogenic osteomyelitis)

著者: 熊谷進 ,   村上宝久 ,   加藤哲也 ,   松賢次郎 ,   海村昌和

ページ範囲:P.826 - P.830

はじめに
 化学療法の発達は近年化膿性骨髄炎の臨床像を変えつつあるといわれている7).これはすでに1950年代にCapencr5),Kessel6)らが指摘しているが,われわれも最近教科書的でない非定型的な病像を示す化膿性骨髄炎に遭遇する機会が多くなつた感がきわめてつよい.すなわち発症が緩徐で,全身症状に乏しく,部位も定型的でなく,単に局所の圧痛や軽度の腫脹を認めるのみで,レ線所見もとぎに骨腫瘍と紛らわしい像を示すもので,Harris2)らのいうprimary subacute pyogenic osteomyelitisの範疇に属するものである.われわれが最近経験した8例を中心に,いささかの考察を加えるとともに,大方の注意を換起したい.

尺骨神経麻痺を伴う上腕骨内側上顆形成不全症の1例

著者: 塚田忠行 ,   司馬正邦

ページ範囲:P.831 - P.833

 棈松ら1)は上腕骨尺側顆形成不全というきわめてまれな変形に,尺骨神経麻癖を伴つた3症例を経験し ①内側顆形成不全はMead4)のニグロの家系にみた滑車部無形成症の報告があるにすぎないこと ②外傷の既往がなく両側対称的変形であること ③松本市郊外の同一地区にみられたこと,以上3つの特徴と,尺骨神経麻痺の発生原因を上腕骨滑車部形成不全に伴つて尺骨神経溝の形成不全を生じ,さらに軟部支持組織の異常も加わり,尺骨神経の走行異常をきたし,その遠位部で円同内筋による圧迫という結果を招き,習慣性尺骨神経脱臼と同一機序でfriction neuritisを起こしたものと考察した.最近我々も同様の症例を経験したので報告する.日本の脊髄損傷専門病院の将来のあり方,脊髄損傷のリハビリテーションの方向が,現状のままでよいか否かは大いに疑問のある所である.

対談

東大整形外科の昔を聞く

著者: 浜田三郎 ,   天児民和

ページ範囲:P.835 - P.841

 天児 今日はわざわざこういうところまでお出いただきましてどうもありがとうございます.
 まず,先生,お幾つになられましたか.

海外見聞記

欧州の脊髄損傷専門病院の現状

著者: 赤津隆

ページ範囲:P.842 - P.845

いとぐち
 わが国の脊髄損傷の多くが次第に頸髄損傷によつて占められつつあることは,第6回日本パラプレジア学会で報告し,その対策の急ぐべきことを訴えたのであるが,その後なんら改善をみず,われわれの脊随損傷病棟も次第に永久収容施設と化しつつある.社会復帰の実態についても第9回日本パラプレジア学会で報告した通り,われわれの病院でも,7年前に比べて,確かに社会復帰率は向上しているが,残念ながら職業復帰率の向上は僅かで,家庭復帰者のみが増加している現状である.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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