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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科11巻12号

1976年12月発行

雑誌目次

視座

手術のasepsisと予防的抗生剤投与

著者: 田島達也

ページ範囲:P.1073 - P.1073

 我々外科系医師にとつて術後の感染防止は最大の関心事の一つである.それにはasepsisが最重要事項で,それに予防的抗生剤投与も重要な問題点といえる.これらの問題について私共は半ば習慣的に一定の方法を行つているがその根拠を問いつめられると答えに窮する点もあり,「所変れば品変る」という諺のように国,病院あるいは科によつても随分異る方法が行われているようである.そこで時々我々自身が行つている方法も反省してみる必要があろう.
 特に整形外科では関節全置換術の普及に伴いbioclean roomの必要性が強調されている.実はこれについては我々以上に関心をもつべき人工弁置換を行う心臓外科医がサッパリ関心を示さないことや,欧米の整形外科でも「経済的理由」からばかりでなく,その意義に対する疑問もあつてその普及率は必ずしも高いとはいえない.しかしその効果を肯定するとしてもその他の点においてこの"ultra-asepsis"に匹敵する厳重なasepsisを実行しなければ「最小利用の法則」が働いてその真価は発揮できないはずである.英国でかつて強調された"non-touch法"が有効かつ実際的asepsis法といえるかは別としてわが国で,手術野の皮膚のasepsisは術者の「手洗い」と同程度の厳重さで行われているだろうか? ところで皮膚の剃毛については米国では日本ほど神経質には考えていないようである.

論述

3例の全身性エリテマトーデスの剖検例に認められた大腿骨頭の変化—特に大腿骨頭無腐性壊死との関連について

著者: 塩原治男 ,   芦沢真臣 ,   臼井宏 ,   石井良章 ,   泉田重雄 ,   山口寿夫

ページ範囲:P.1074 - P.1081

はじめに
 全身性エリテマトーデス(以下SLEと略す)の経過中,大腿骨頭無腐性壊死を伴うことは,1960年Dubois, E. L.1)の報告以来注目されており,爾来今日までわれわれの渉猟し得た報告例は,内外合せて三十数例にのぼる.成因については,SLEに伴つて生ずる血管炎に求めるもの2,3),SLEの加療中に投与されるステロイドホルモンの影響によるとする4,5,6)ものなど未だその定説を見ない.
 われわれは,慶応義塾大学病院リウマチ研究班で,加療中のSLE患者101例のうち,X線上明らかに大腿骨頭無腐性壊死と診断された8例を経験している7).われわれは,今日SLEをはじめとする血清病の原因として抗原抗体複合物の生物学的活性が重要視されていることに注目し8,9,10,11),血清病に伴う骨,関節病変の病態およびその発生機序の解明を目的として,可溶性抗原抗体複合物を用いて動物実験を行い,その一端を報告して来た12)

膝Charcot関節の初期病像と外科的療法の選択

著者: 廣畑和志

ページ範囲:P.1082 - P.1091

はじめに
 これまでの文献や成書にみられるCharcot関節の病像や治療法は,ほとんど末期に達したclassicalな症例に関するものである.そのために最近の整形外科医のこの病気の診断と治療に対する認識はCharcot(1868)の命名した頃とはやや異つているのではないかと案じられる.そこで,著者は最近の症例の中から特に本症の初期病変とその後の臨床経過を紹介し,早期診断の意義と人工関節を含む観血治療法の選択について述べたい.

多発性無腐性骨壊死を来たした1潜水士の症例—特に病理組織学的検討

著者: 北野元生 ,   川島真人 ,   鳥巣岳彦 ,   林晧

ページ範囲:P.1092 - P.1099

序言
 潜水士および潜水に従事する人に無腐性骨壊死が高率に発生するが(Ohta and Matsunaga 1974,Amako et al. 1974)骨頭における進行性の壊死性変化は,重篤な関節破壊を招来することがあるので,特に注目されている(Amako et al. 1974,鳥巣ら1974).
 このたび,臨床的に進行性であると考えられた両側大腿骨頭壊死と左側月状骨壊死を有す潜水士の1治験例を経験した.摘出した両側大腿骨頭および左側月状骨を病理学的に検索したが,進行性の壊死性変化がこれらの骨組織に生じているのが認められた.進行性の壊死性変化をもたらす機序についても,いささかの知見を得たので報告する.

手術手技

人工関節手術の術後感染予防策について—特に抗生物質混入骨セメントならびに層流式無菌手術室に関して

著者: 木下勇 ,   岡崎亀義

ページ範囲:P.1100 - P.1111

はじめに
 高度に荒廃した関節の機能再建法として,最近人工関節による置換手術が広く行われるようになつてきた(第1図).我が国でもここ数年来本手術は頓に普及してきたが,この種手術では人工関節の耐用年数,術後人工関節のゆるみ(loosening)と並んで術後感染の問題が常に重大合併症として云々されている.特に大型異物を永久的に体内に遺残するため,術後感染の予防には万全の措置を講ずる必要がある.一度感染を惹起するならば手術本来の目的が失われるのみならず,極めて難治性の深部感染を招来する.欧米における多数例での発生率は1%〜10数%と報告され,大部分は人工関節の抜去を余儀なくされている.これは患者ならびに医療担当者にとつて誠に不幸なことであり,確実な術後感染予防策の樹立は本手術に関係する全ての医療担当者の重大な関心事でもある.
 筆者は1971年以来当教室ならびに関連病院において股関節を主としてprosthesisによる関節置換手術を行つてきたが(第1表),当初から術後感染には多大の注意を払つてきた.

検査法

軟骨のサフラニンO染色について

著者: 廣谷速人

ページ範囲:P.1112 - P.1116

 酸性ムコ多糖の組織化学的証明法には数多くのものがあるが12,20,22),safranin O染色8)は最近に至り,主として関節軟骨の染色に広く用いられるようになつた方法である.しかし本法に関してはRosenberg14)以外にその報告をみず,その組織化学的応用についての検討も充分でないように思われる.
 そこでわれわれは,本法の実際について種々検索しその標準的手技を確立したので,本法の特長とともにここに報告する.

臨床経験

当科における癌の骨転移の治療について

著者: 三上一成 ,   姥山勇二 ,   山脇慎也 ,   後藤守

ページ範囲:P.1117 - P.1124

はじめに
 昭和43年8月,国立札幌病院に北海道地方がんセンターが設置されて以来,6年間に当科で取扱つた入院患者の6割は,骨軟部の悪性腫瘍患者である.これらは適応を検討の上,根治手術,化学療法,放射線療法等を積極的に行なつてきた.しかし,さらにその延命効果を期待するためには,転移の予防と抑制が重要な課題となる.一般に癌の骨転移は,転移巣としては,リンパ節,肺,肝に次いで多く,TNM分類ではStage-Nとなり,その治療は絶望的なものとして我々整形外科医に取扱われがちである.今回我々は,過去6年間に当科で取扱つた癌の骨転移症例につき,検討して報告する.

墨汁法による完全切除を試みた軟部および骨悪性腫瘍の22例—中間報告

著者: 荻野幹夫 ,   古谷誠 ,   浅井春雄 ,   蜂須賀彬夫 ,   村瀬孝雄 ,   笹哲彰

ページ範囲:P.1125 - P.1129

要約
 ①現在までに軟部原発性悪性腫瘍とこれに準じる再発性腫瘍および骨原発性悪性腫瘍の軟部にまで及んだものの22例に完全切除を墨汁法をもつて試みた.
 ②本法の実施要領を述べた.
 ③全例22例中完全切除が確認されたのは20例であり,その中遠隔転移で死亡した1例と局所再発1例以外は全例再発なく生存している.
 ④本法の特によい適応と思われるのは,分化型線維肉腫やそれに準じる腫瘍であり,放射線や化学療法による治療効果の少いものによいと考える.
 ⑤切断との優劣は論じられないが,④に述べた適応例では,切断に劣らない治療成績が期待される.
 ⑥初回の手術が最良の根治の機会である.

左大腿骨周囲より発生し骨浸潤を呈した血管肉腫の1例

著者: 片岡善夫 ,   松本正郎 ,   武田好弘

ページ範囲:P.1130 - P.1134

 最近,我々は,大腿骨周囲より発生し,骨浸潤を呈した比較的稀なる血管肉腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Hypochondroplasiaの症例

著者: 生越英二 ,   月村泰治 ,   川村順彬

ページ範囲:P.1135 - P.1141

はじめに
 低身長をきたす疾患はachondroplasiaをはじめ,多くの疾患が分類されてきている.臨床上,その鑑別に困難をおぼえる類のものも少なくはない.HypochondroplasiaはMaroteaux and Lamy3)により,1960年に呼称され,それ以前にRavenna4)(1913)はChondrohypoplasiaとしてAchondroplasiaより分類して報告している.またKozlowski and Zykowicz1)(1964),Kozlowski2)(1965),Rodney5)(1969)らの報告例もあるが我が国では我々の渉猟しえた範囲内では報告例に接していない.
 今回我々はhypochondroplasiaの症例を経験したのでachondroplasiaと比較しながら若干の文献的考察を加えて報告する.

胸椎後縦靱帯および黄靱帯骨化症例について

著者: 手束昭胤 ,   米沢元実 ,   長谷川秀太

ページ範囲:P.1142 - P.1147

はじめに
 頸椎後縦靱帯骨化については最近,多数の報告がみられ,私共も現在まで約130例の症例を経験し,うち約40例に観血的療法を施行してきた.一方,胸椎後縦靱帯骨化症例の報告は少く,いまだまとまつた研究報告も少い.本骨化症はしばしば他の脊柱諸靱帯にも骨化を認め,その障害脊髄レベルの診断あるいは治療の適応,方法などに多くの未解決な問題があると考えられる(第1図).私共は現在まで本骨化症13例を経験しているが,今回これらの臨床像ならびにレ線学的所見などについて検討するとともに本骨化によると考えられた高度脊髄障害2症例に対し,椎弓切除術を施行したのでその手術経験についても報告する.

指骨に発生したepidermal cystの1例

著者: 北城文男 ,   林逸郎 ,   谷村晃 ,   角田栄一

ページ範囲:P.1148 - P.1150

緒言
 表皮嚢腫(Epidermal cyst)は,通常手や指の掌側面の軟部組織に好発し,その壁は扁平上皮より成る嚢腫で,1855年Wernher1)により初めて記載されている.Epidermal cystが骨内に発生することは極めて稀であり,1923年Sonntag2)が44歳女性の左中指中節骨に発生したTraumatische Epithel Zysteを記載して以来,内外の文献上40例を数えるに過ぎない.ことに本邦では,現在まで3例の報告が有るのみである.
 著者らは,最近指骨に発生した嚢腫の1例を経験したので報告するとともに,現在までに報告されている表皮嚢腫に関する文献を検討して考察を加えたい.

Juxtacortical chondromaの1症例

著者: 長谷川壮八 ,   渡辺真 ,   須田昭男 ,   柳沢正信

ページ範囲:P.1151 - P.1154

はじめに
 Juxtacortical chondroma(Jaffe)1)は稀な腫瘍である.1937年Masonがchondromaのperiosteal type2),Robertsがeccentric chondroma3)と報告して以来,我々が渉猟し得た限りでは,欧米で40数例,本邦では20例を数えるにすぎない.最近我々は,右脛骨骨端骨幹移行部内側に発生した症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

先天性四肢障害対策

著者: 杉浦保夫

ページ範囲:P.1155 - P.1155

 あの痛ましいサリドマイド被害児問題は,長い苦しい裁判闘争の末,やつと国も製薬会社も「サリドマイド奇形はサリドマイド剤服用によるものである」との因果関係を認め,被告と原告団との間に和解が成立して一応の解決をみたが,サリドマイド胎芽症以外の四肢障害児については何らの因果関係の究明も,その実態調査さえも,充分には行なわれていないのが実情である.
 先頃厚生省によつて行なわれた,裁判に加わらなかつたサリドマイド被害児の補償と救済を目的とする「サリドマイド被害児認定調査」の結果,新たに190名の子供がサリドマイド被害児と認定されたものの,類似の症状を持つた162名の子供たちは認定から外された.「サリドマイド剤が原因の先天異常ではない」という理由だけで,救済の対象から外されたわけで,この162名という数字は先天性四肢障害児のほんの氷山の一角に過ぎず,四肢障害児の数はその数百倍,いや数千倍に及ぶものと考えられる.

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基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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