icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科12巻6号

1977年06月発行

雑誌目次

カラーシリーズ 人工関節の手術・5

Lagrange-Letournelの人工股関節

著者: 弓削大四郎

ページ範囲:P.534 - P.537

 J. LagrangeはJean Judet,E. LetournelはRobert Judetの高弟である.それ故Lagrange-Letournelの人工股関節の機構のなかにJudetの考えの一端がのぞいていると言える.Lagrange-Letournelは脱臼しにくいretention方式を採用した独創的なものである.H. D. P.カップ内面は正半球より4mm深く作られているため骨頭を挿入する時はカップ内の空気を外へ押し出すのでコクッという雑音を発する.しかもカップ内面は体温によって骨頭と円滑に接合するように作られている.カップの寛骨臼に接する部分が比較的浅くかつフランジ(つば)がついているためカップの内方移動を防止できる.2つのサイズがあって標準サイズは骨頭径35mm,カップ外径53mm,小サイズは骨頭径30mm,カップ外径47.5mmで,女性の二次性変股症の多いわが国では小サイズのもので十分である(第1図,第2図).

視座

身体障害程度表現の煩雑さと混乱の実状

著者: 野崎寛三

ページ範囲:P.539 - P.539

 身体障害者福祉法,国民年金法,厚生年金法,恩給法,労働者災害補償法等の肢体機能障害判定用診断書の記人を適確に行わしめるという努力が従来軽視されていたのではないか.それは記入法の煩雑さと障害評価の混乱があるためなのであろうか.
 日整学会,日本リハビリ学会合同で設定された基本肢位を0°とする新ROM表現法も発表されて数年になるが,未だ一般の臨床医には普及されていないと思われる一方,恩給法,諸種障害福祉年金や労災法診断書の評価方式は旧ROM法ないしそれに類似する独自の計測法で記入せねばならず,この点では第一線の整形外科医でも困惑していることと思われる.また各種判定用診断書の書式の相違がある他に,診断書指定医は整形外科医とは限られていない点が混乱を助長していると思われる.さらにそれ所か,診断書指定医の診断書さえも不備のものが案外多いということは困つたことである.

論述

血管柄付遊離骨移植術の骨腫瘍への応用

著者: 村瀬雅之 ,   安達長夫 ,   生田義和 ,   渡捷一 ,   渡貞雄 ,   久保敬

ページ範囲:P.540 - P.547

はじめに
 近年microsurgeryの進歩とともに,微小血管吻合術を利用して移植骨の栄養血管と移植床の血管を吻合し,移植骨の血行を保つたまま,骨移植を行うことが可能となつた.
 そこでわれわれは昭和50年より51年にかけて,4例の骨腫瘍症例に対して,病巣剔除後の広範な骨欠損部に腓骨の血管柄付遊離骨移植を行い,ほぼ満足すべき成績を得たので,手術方法ならびに術後経過について報告する.

先天性脛骨完全欠損症の治療—腓骨脛骨化手術(Brown)の経験を中心に

著者: 熊谷進 ,   村上宝久

ページ範囲:P.548 - P.555

はじめに
 先天性脛骨完全欠損症は下腿の短縮,膝および足部の変形を伴い,その治療はきわめてむずかしいものの一つである.われわれは本疾患に対してBrown3)の方法に準じて腓骨の移動法を行つてきたが,現在までの経過をみれば,移動した腓骨は経年的に長径,横径ともに増大し脛骨化(tibialisation)が認められる.
 また,膝関節もかなりの安定性と運動性の獲得がみられ,膝下装具(below the knee prosthesis)を装着してほぼ満足すべき状態にある.本法は症例を選んで行えば脛骨完全欠損症に対する有力な治療法と考えるのでここにその経験を報告する.

胸椎部椎間板症および脊椎症とその手術的治療法

著者: 大谷清

ページ範囲:P.556 - P.565

はじめに
 胸椎部椎間板症および脊椎症は腰椎部,頸椎部のそれに比べて遙かに稀であり,日常臨床で本症患者に遭遇する機会は少い.そのためか本症に対する研究も腰椎,頸椎椎間板症および脊椎症に比べておくれている感がある.最近やつと学会や研究会で胸椎部ミエロパチーなる主題が取り上げられ,本症に対する研究もすすめられつつある.
 胸椎部椎間板症および脊椎症はその臨床像が多種多様で,そのために診断に難渋することもしばしばある.ともあれ,本症の発生部位は脊髄部であるだけに取り返しのつかない脊髄麻痺を惹起することもあり,早期診断,早期治療の必要性が本症に対しても強調されなければならない.

10年以上経過したSalter骨盤骨切り術の吟味

著者: 家田浩夫 ,   石井良章 ,   松賢次郎 ,   泉田重雄 ,   鈴木邦雄

ページ範囲:P.566 - P.573

はじめに
 先天股脱児の臼蓋が正常に比べて,より強く前額方向をとつていることをLaurent(1953)8)らは指摘し"Frontal Inclination of the acetabulum"と記載した.Salterの創始による骨盤骨切り術は,この前額面化の矯正と急峻臼蓋の補正を併せ行うことができるという点で大方の賛同を得て今日広く普及した手術法となつている.
 本邦ではSalter(1961)が本手術法を発表してから2年後の昭和38年(1963年)泉田5)が東日本臨床整形外科学会で19例の追試を報告したのが最初と思われる.以後,その適応と限界等について多くの報告がある.しかしSalterの発表以来15年を経た今日でも長期にわたり多数例を調査した報告がなく,この方法の有用性について結論を得るには至つていない.一方,わが国でも10年以上の予後調査報告はまだ見当らないため今回われわれは術後10年以上経過した12症例の予後調査を行いX線所見の変化を中心に検討を加えた.

膝関節メニスクス損傷の診断—特に内側損傷診断における病歴の重要性について

著者: 小林晶

ページ範囲:P.574 - P.581

はじめに
 膝関節メニスクス(以下「メ」)損傷の診断にはかなり困難を感ずることが多いのは衆知の事実である.これまでに種々の症状が記載されているが,いずれも特異的なものとはいえない難点があり,人名症候も多数のものが発表されてきたがその出現率もあまり高いものとは思えない.
 多くの場合,臨床症状を主体としてこれに関節造影,関節鏡所見を参考にして診断を下すことがほとんどと思われる.

境界領域

抗生物質(セファゾリンナトリウム)の頸椎椎体周辺組織への移行

著者: 手束昭胤 ,   近藤憲二

ページ範囲:P.582 - P.586

緒言
 整形外科領域においては脊椎脊髄手術,椎間板造影,椎体静脈撮影などにおける予防的化学療法として,またまれではあるが脊椎周辺組織の感染に対して抗生物質を使用する.臨床医が化学療法を行なう場合感染菌に対する抗生物質の最小阻止濃度および感染菌の抵抗性の他に第3の条件として,その抗生物質が病巣組織内に十分にbacteriostatic concentrationで移行するか否かが問題となる.現在まで抗生物質の椎間板や椎体(骨皮質)などの脊椎周辺組織への移行を臨床的に検討した報告はみられていない.今回われわれは脊椎手術(主として頸椎手術であるが)に際してセファゾリンナトリウムを点滴静注した場合の頸椎周辺組織内濃度を測定したので報告する.なおセファゾリンナトリウム(セファメジン)は1967年藤沢薬品中央研究所において開発されたセファロスポリン系抗生物質で,縁膿菌や変形菌等を除き,創傷感染に重要な因子を示しているブドウ球菌および連鎖球菌の大部分に対してすぐれた最小阻止濃度を有していると報告されているものである.

臨床経験

習慣性膝蓋骨脱臼の治療

著者: 上崎典雄 ,   小林晶 ,   豊永敏宏 ,   光安知夫 ,   安藤善生

ページ範囲:P.587 - P.590

 習慣性膝蓋骨脱臼は主として10歳前後に発生し,ほぼ全例において何らかの外傷が原因となつている.また習慣性となる内因として大腿骨外顆のhypoplasia,膝蓋骨の異常可動性,あるいは外反膝等があげられている.膝の伸展機能の上で重要な役割を果す膝蓋骨はできるだけ早い時期に整復され,不安定感や脱力,転びやすさから解放すると同時に関節面の適合性を獲得することが重要である.膝蓋骨脱臼の治療法は実に多岐にわたり百数十種を数えるといわれる.小児に対する手術法においてもCampbell法,Krogius法等が一般化しているが必ずしも十分とはいい難い.われわれは昭和48年以来Heusner法変法ともいうべき半腱様筋腱移行術を6例9関節に施行してきたが,Macnab評価法に基づく成績で秀5関節,優2関節,可1関節,不可1関節の結果を得た.われわれの手術方法を紹介すると同時に可および不可となつた症例の原因に言及し,さらに成績を向上させたい.

脊髄損傷における痛み

著者: 大井淑雄 ,   鶴見信之

ページ範囲:P.591 - P.597

はじめに
 脊髄損傷は外傷性にも非外傷性にも起こり得るがその臨床像はおかされた脊髄レベル以下の麻痺である.かつては生存率もきわめて低く尿路感染や褥創などの合併症で死亡することが多かつた.しかし今日のリハビリテーション医学の研究と診療における進歩は脊髄損傷患者の余命を延長し社会の受け入れ態勢も彼らに職業復帰の機会を与えるようになつた.急性期そして症状固定期を通して彼らのリハビリテーションプログラムを推進することの妨げになる問題の1つに痙性と疼痛がある.ことに疼痛は患者に大きな苦痛を与え,毎日の機能訓練の意欲を減退させるが患者のみならず医師も常に疼痛をコントロールするために悩まなくてはならない.この疼痛は本来ならば知覚脱失が起こつているはずの領域へも起こるものであり多くの研究者の努力にもかかわらずその発現機序は十分解明されていない.
 われわれは今回諸病院の協力を得てその実態を調査した.その結果を若干の討論とともに報告したい.

動脈閉塞症に対するcross over femorofemoral bypassの小経験

著者: 保田勉 ,   蓮江国彦 ,   松崎浩已 ,   柴野紘一 ,   阿部貞義

ページ範囲:P.598 - P.601

 1側の腸骨動脈域の閉塞症に対しMcCaughanの報告以来cross over femorofemoral bypassが,直達的血行再建術不可能な症例に対して,有効な手術法として用いられている.
 われわれは,最近自家静脈によるcross over femorofemoral bypassの2例を経験し術後良好な結果を得たので若干の文献的考察を加え報告する.

腰椎後側方固定術の成績と適応について

著者: 田島直也 ,   皆川敦 ,   河合尚志 ,   田口厚 ,   菅尚義 ,   三原和夫 ,   保野浩之

ページ範囲:P.602 - P.608

はじめに
 脊椎固定術は主に前方侵入路と後方侵入路に2大別される.歴史的には後方侵入が早く1911年のAlbeeに始まり,Hibbs,Henle,Bosworth,本邦では光安,西,河野その他多くの発表がみられる.後方侵入の椎体固定法は1953年Clowardの報告があり,最近,山口らの発表がみられる.一方前方侵入法は,1948年のLaneをはじめ,Harmon,Hodgson,鈴木,岩原,井上,中野をはじめ,多くの優秀な成績が報告されている.ここ10数年の脊椎固定術の成績は手術法の難易,侵襲度の大小が術式によつてあるにせよ,ほぼ優秀でいずれも甲乙つけ難く,術者の習熟された方法が選択されることが多い.
 私達は昭和46年以降,主に腰椎後側方固定を行ない,現在まで200余例に達した.昭和50年10月の時点で術後2年以上経過し,かつ直接検診できた96症例,136椎間につき,その成績を発表し,さらに本法の適応について述べる.

重度身障リウマチ患者に対する外科的治療

著者: 吉野槇一 ,   小坂弘道 ,   内田詔爾

ページ範囲:P.609 - P.612

はじめに
 慢性関節リウマチ(RA)に患り,歩行困難または歩行不可能といつた重度身障リウマチになるには,大別して3つの原因がある.その第1は荷重関節に破壊が生じ,変形または疼痛が起きた場合,第2はRAの活動性が高く,荷重関節を含めて全身の関節に疼痛などが起きた場合,そして第3は第1と第2の原因が同時に起きた場合である.なお,これら原因は適切な治療がなされていないとか,また,適切な治療がなされていても,RAの活動性が満足にコントロールできない場合に生じ易い.
 RAで荷重関節である股関節ならびに膝関節に破壊が起き,歩行困難になり,屋内しか歩行できないとか,または全く歩行不可能となり,寝たきりになつたこれら重度身障リウマチ患者に対して,人工関節を用いて関節形成術を行なつたところ好成績を得たので,術後最低一年以上経つている26症例について術後成績ならびに関節形成術,特に人工関節の間題点などを中心に述べてみたい.

Synovial chondromatosisについて—関節例10例の自験例を中心として

著者: 荻野幹夫 ,   古谷誠 ,   浅井春雄 ,   蜂須賀彬夫 ,   村瀬孝雄 ,   笹哲彰 ,   小坂正 ,   岩野邦男 ,   工藤洋 ,   山崎典郎 ,   曾我恭一 ,   角谷文祐 ,   岡井清士 ,   東晃 ,   高橋洋 ,   長坂与一 ,   司馬正邦 ,   奥津一郎 ,   三上隆三

ページ範囲:P.613 - P.621

はじめに
 Synovial chondromatosis(またはosteochondromatosis)と呼ばれる特異な,滑膜中の軟骨組織および骨組織の出現を特徴とする疾患は,Reichel16)(1900)の報告以来,報告例数の増加とともに,病態が明らかになつてきた.しかし比較的稀な疾患であり,わが国の報告例数も150例を越えないと思われる19).滑膜中に軟骨塊や骨化巣が出現する条件の詳細については不明な点が多いが,この現象は臨床的には各種慢性関節疾患にも時に見られる.また関節遊離体もこれら種々の疾患で見られ,遊離体が関節液中で成長することとともに,遊離体の存在のみから,原疾患が何であつたかを決定することは困難であることが多い.これらの事実を考慮し,かなり厳密な意味でsynovial chondromatosisを定義した人々8,9,11,13)によると,synovial chondromatosisは組織学的に一次性の滑膜内軟骨化生像を示すものとなる.この定義に従つて8例の確診例と2例の疑診例(X線像のみによる)をまとめた.これに多少の文献的考察を加えることが本文の目的である.まず症例の報告をする.

脊髄腫瘍と誤診した脊髄硬膜外膿瘍の2例

著者: 木村功 ,   嘉本崇也 ,   那須吉郎 ,   塩谷彰秀 ,   赤松凱彦 ,   新宮彦助

ページ範囲:P.622 - P.625

 戦後,化学療法の画期的進歩により一般炎症性疾患は激減した.しかし,今後も化膿性疾患が皆無となることは到底のぞめない.
 わたくし達は,最近,脊髄不全麻痺を伴い脊髄腫瘍と誤診した2例の脊髄硬膜外膿瘍を経験したので報告する.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら