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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科13巻6号

1978年06月発行

雑誌目次

カラーシリーズ Microsurgery・5

足指の手への移植術(Hallux or toe-to-hand transfer)

著者: 玉井進 ,   大塚寿

ページ範囲:P.536 - P.539

〔概説〕
 古くは1900年,Nicoladoniによって,有茎皮弁移植の要領で行なわれた足指の手への移植術を,micro-neurovascular anastomosisを応用してone-stageに手に移植しようとするものである.Buncke & Schulz(1966)の猿における実験を端緒として,Cobbett(1969)が最初の臨床例を報告し,手指再建術の新しい方法として一世を風靡するに至った.足の母指を母指欠損部に移植するものをhallux-to-thumb transfer,足の第2あるいは第3指を母指に移植するものをtoe-to-thumb transfer,手指欠損部に足指を移植するものをtoe-to-finger transferといい,近年,本邦でも多数の報告がみられるようになった.

視座

痛覚

著者: 伊藤鉄夫

ページ範囲:P.541 - P.541

 皮膚を針で刺すと鋭い痛みを覚える,また昆虫に刺されたり,高熱によつて焼けるような痛みを発する.このように鋭い機械的刺激のほかに化学的刺激や熱刺激も痛みの原因になる.痛みの研究には未解決の問題がなお多く残されているが,最近の研究によつて痛みの生理がかなりよく解るようになつた.
 痛みを伝える求心神経にはAδ線維と無髄のC線維があることが知られている.いずれも小径の神経線維であつて,Aδ線維は径3-1.5μ,興奮伝導速度6-30m/secであり,無髄のC線維は径1μ,興奮伝導速度は非常に遅く0.5-2m/secである.その受容器は樹枝状に分岐した自由神経終末であつて,体を侵害刺激から護るためのnociceptorである.皮膚を針で刺したときにおこる鋭く速やかに消える痛みはAδ線維によつて伝えられ,その局在が明瞭で,判別的epicriticであり,receptorは純粋の機械的刺激に反応する.C線維は皮膚だけでなく,筋膜,関節包,血管,内臓に広く分布しており,長く持続する局在が明瞭な痛みを発する.これは未分化の原始的protopathicな感覚と考えられている.

論述

随意性肩関節脱臼の病態について

著者: 水野耕作 ,   武部恭一

ページ範囲:P.542 - P.551

はじめに
 習慣性肩関節脱臼は肩関節疾患のうちでもかなりの頻度にみられる疾患である.その病態ならびに成因については多くの報告がある,しかし,"肩が脱けやすい"という患者の訴えだけで簡単に習慣性肩関節脱臼と診断され誤った治療をされる場合もある.その一つが随意性肩関節脱臼である.
 1722年Portalは習慣性肩関節脱臼のうち,患者自身の意志によつて肩を脱臼させ整復できる症例に気づき,これをvoluntary recurrent dislocation of the shoulder(随意性習慣性肩関節脱臼)として発表し,明らかな外傷の機序をもつ通常のtraumatic recurrent dislocation of the shoulder(外傷性習慣性肩関節脱臼)と区別した.随意性肩関節脱臼は「患者自身によつて脱臼および整復できる肩関節脱臼である」という特徴以外の記載はなく現在でも病態には不明な点が多い.従つて,それに有効な治療法がないとされている.
 そこで教室における典型的な随意性肩関節脱臼の症例をもとにその病態を明らかにし,いわゆる動揺肩loosening shoulder,習慣性肩関節脱臼ならびに亜脱臼との鑑別,関節靱帯の弛緩を主徴とするEhlers-Danlos症候群との関連について述べる.

産科学的背景よりみた先天性筋性斜頸の成因とその問題点

著者: 沖高司 ,   篠田達明 ,   村地俊二 ,   若山日名夫 ,   石川忠也

ページ範囲:P.552 - P.558

いとぐち
 先天性筋性斜頸(以下筋性斜頸と略す)の成因に関しては,1838年Stromeyerの分娩外傷説を始めとし,胎内圧迫説,外傷炎症説,野崎説等幾多の仮説が提唱され,同時に,それらを立証,もしくは反証すべく産科学的,病理学的および実験的研究が多数報告されている。近年,その中で胎内圧迫による虚血説および野崎説が注目されているものの,十分に解明されるに至つてはいない.その上,これらの研究より,筋性斜頸の発症に対して産科学的要因の関与は明らかとなつて来たが,未だ,産科学的背景についての十分な検索がなされているとはいえない.
 著者らは名古屋第一赤十字病院における新生児検診の結果,発見された171例の筋性斜頸児15)の産科学的背景について調査を行ない,興味ある所見をえたので報告する.またこれらの結果にもとついて,筋性斜頸の成立機転について考察を加える.

手術手技

慶大式人工膝関節について

著者: 伊勢亀冨士朗 ,   冨士川恭輔 ,   戸松泰介 ,   竹田毅

ページ範囲:P.559 - P.567

はじめに
 Charnleyは1950年後半に股関節は境界潤滑をするものとの確信にもとづいて人工股関節を開発し,1960年代に入つてその臨床成績を発表している.その後股関節全置換術(THR)は多くの工学的改良がなされていくつかのモデルに集約され,臨床における信頼性も次第に確立されて今日の隆盛をみるようになつている.
 一方膝関節では股関節とは運動性を異にすることもあつて膝関節全置換術(TKR)の開発はやや遅れ,はじめは従来のWalldiusやShiers,片山などのHinge型人工膝関節が好んで行なわれていた.その後1960年代に入ると膝関節のころがりやすべり,回旋などを加味したSheehan,Rossah,Malthews,西などのSledged Hinge型やLink型が膝のspherocentricな運動を目的として開発されている.1970年代になるとsurface replacementとかshell typeと言われるモデルの開発が進み,PolycentricやGeomedicに代表される多くのTKR1,4)が開発され本邦においても岡大式,北里大式,独協大式,聖マリアンナ大式,吉野式,慶大式などが報告されている(第1表).

臨床経験

Swanson分類による当科における上肢先天奇形の分析

著者: 荻野利彦 ,   石井清一 ,   三浪三千男 ,   薄井正道 ,   村松郁夫 ,   三宅哲

ページ範囲:P.568 - P.575

緒言
 四肢先天奇形の統計学的報告1,2,12)は多くみられるが,それぞれの分類方法が異なるために,個々の奇形の出現頻度の実態を把握することははなはだ困難である.一方,四肢奇形の分類については,種々の試み3,10,14,20)がなされているが,いまだに確立した方法はない.1976年にSwansonは四肢奇形を成因別に7大別した分類を報告しており,この方法が最近,広く用いられてきている.
 当科においては,石井ら12)が昭和23年から昭和42年までの20年間の当科の手の奇形の統計的観察を行なっている.今回,著者らは昭和42年から昭和51年3月までの間に,当科外来を訪れた上肢先天奇形患者をSwanson分類を用いて分類した.性別,左右別,各疾患別出現頻度,合併奇形,家族発生についても引き続いて観察した.得られた結果にもとづき,当科における上肢先天奇形の実態を把握すると共に,Swanson21)分類のもつ問題点に検討を加えた.

Holt-Oram症候群の2例

著者: 梁瀬義章 ,   上羽康夫 ,   須藤容章 ,   東正一郎

ページ範囲:P.576 - P.580

はじめに
 先天性心疾患に心臓以外の部位の奇形を伴つた症例については数多くの報告がなされている.中でも骨筋肉系や中枢神経系の奇形が多い.しかし上肢の奇形を取り扱う整形外科領域においては,先天性心疾患の合併についてあまり論じられていない.上肢奇形に先天性心疾患を伴うものとしては染色体異常に起因するもの,ムコ多糖類異常症,遺伝的素因をもつ症候群などが知られている.
 1960年HoltとOram9)により上肢とくに母指や橈骨の形成不全と心房中隔欠損,不整脈を合併した常染色体優性遺伝と思われる一家系四世代が報告されて以後,小児科,循環器科領域において同様の症例の報告がみられる.われわれは最近5年間に29例の母指または橈骨の形成不全症例を経験しているが,そのうち2例に先天性心疾患を伴つたHolt-Oram症候群の散発例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

注射によると思われる殿筋拘縮症31例の臨床的検討

著者: 中村武 ,   高橋公 ,   黒羽根洋司 ,   新井実 ,   岩瀬育男 ,   田島健 ,   佐藤喜三郎 ,   倉持英輔

ページ範囲:P.581 - P.587

はじめに
 注射による筋性障害については,大腿四頭筋および三角筋拘縮症等が報告されているが,殿筋拘縮例の報告は少ない.しかるに我々は昭和49年,50年の自主検診および福島県検診で,殿筋拘縮症例を多数診察したので,長期follow up例を加えて,31例について臨床的に分析検討し,殿筋拘縮症の検査法および障害度判定基準の私案と殿筋拘縮症の概要について報告し注意を喚起したい.なお,ここにのべる検査法は日本整形外科学会筋拘縮症委員会に私案として提出したものである.

成人脳性麻痺におけるcervical radiculo-myelopathyの経験

著者: 手束昭胤 ,   片山幸俊 ,   森浩 ,   加藤直則 ,   米沢元実

ページ範囲:P.588 - P.593

はじめに
 脳性麻痺は大脳に種々の病変を有し,原始的異常反射を残存しているものである.このような中枢神経性機能障害およびこれに併存する四肢変形に関する研究は比較的多くみられている.しかし脳性麻痺の脊柱に関しては脊柱側彎についての二,三の論文以外皆無といえる.1975年,今井,中原らは成人脳性麻痺の頸椎の変化について発表し,それらは比較的年少者にも変化がみられ,不随意運動型に多く,多椎間にわたり変化をみることが多いとした.私共も同時期に成人脳性麻痺患者でせつかく社会復帰したものにcervical radiculo-myelopathyを来たし,ADLの低下した4例を経験した.この中2例には頸椎前方固定術を適用し,他の2例には保存療法を行なつたので,これらの症例を報告すると共に治療の特異性についても言及する.

ロゼット形成著明なユーイング肉腫の一剖検例

著者: 北城文男 ,   谷村晃 ,   森松稔 ,   大野和男 ,   後藤琢也 ,   日高紀幸 ,   稗田寛 ,   生田久年

ページ範囲:P.594 - P.597

はじめに
 最近,われわれは,14歳女性の脛骨に発生し,臨床的にはユーイング肉腫と考えられたが,組織学的に著明なロゼット形成を伴い,神経芽細泡腫との鑑別が極めて困難であつた興味あるユーイング肉腫の一剖検例を経験したので報告する.

肩腱板損傷に対する手術経験

著者: 山本龍二 ,   片山国昭 ,   片山雅宏 ,   田那村宏 ,   鈴木純一 ,   吉野誠

ページ範囲:P.598 - P.603

はじめに
 1934年Codman1)が腱板損傷について詳しく紹介発表して以来,欧米では肩腱板損傷についての多くの報告をみている.
 本邦では腱板損傷に対する観血治療を行なう機会が少なかつたせいか,その手術法や治療成績についての報告が欧米に比して少ない.しかし近年になつて1966年高岸2)棘上筋症候群を発表し,1968年信原3)が肩腱板損傷について報告して以来,診断技術の向上とともに観血治療を行なう機会が多くなり,その報告も多くなつてきている.
 我々は1966年より腱板損傷に対して興味を持ち,現在までに手術適応と思われる34例に手術を行なつてきた.今回術後1年半以上を経過した29例の成績を検討したので報告する.

座談会

習慣性肩関節前方脱臼

著者: 山本龍二 ,   福田宏明 ,   石井清一 ,   戸祭喜八 ,   森岡健 ,   岩原寅猪 ,   高岸直人

ページ範囲:P.604 - P.617

 第4回肩関節研究会に寄せていただき,その主題であつた習慣性肩関節前方脱臼の話をうかがい,習慣性前方脱臼の手術法もいよいよ出揃つたという感を深くした.5つの代表的な手術法にはそれぞれ長所,短所もあり,またしたがつて,適応も少しずつちがつてもよかろうという気もする.ここらで,一度知見をまとめてみるのも有意義であり,有益であるだろうと考えて座談会を組むことにした.

学会印象記

日米脊柱側彎症合同会議を終つて

著者: 大木勲

ページ範囲:P.618 - P.621

 わが国の側彎症研究会とアメリカおよびカナダのメンバーを中心とするScoliosis Research Society(SRSと略す)との初めての合同会議は,美しい紅葉に色どられた京都会館で昭和52年10月20日および21日の両日開かれました.外国からはアメリカ,カナダを始めヨーロッパ,中南米およびオーストラリアなど14カ国から129名の医師と111名の家族同伴者の参加があり,日本からは側彎症研究会の会員を始め,猪狩日整会会長御夫妻,岩原名誉教授,河邨および津山両教授など約150名の医師と30名の婦人の参加があつて,国際色豊かな会となりました.

第12回S. R. S. meeting(香港会議)印象記

著者: 玉置哲也

ページ範囲:P.621 - P.622

 前日までの日米合同脊柱側彎症会議を好評のうちに終えることができ,ほつとした安緒感を味わいながら大阪空港より香港に向けて出発した.
 第12回S. R. S.(Scoliosis Research Society)のannual meetingは1977年10月24日より4日間にわたり香港大学のProf. YauをLocal Affair Chairmanとして開催された.S. R. S.発足以来,12年の歴史のなかで4回目のアメリカ合衆国国外におけるmeetingであり,アジアにおいては,初めての機会であつた.それだけに日本人参加者も多く,山田憲吾先生御夫妻をはじめとして約65人が出席し,東南アジア諸国からの参加者も加わり,例年になく国際色豊かな学会となつていた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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