icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科13巻9号

1978年09月発行

雑誌目次

カラーシリーズ Microsurgery・8

血管付骨移植術(Vascularized bone graft)

著者: 玉井進

ページ範囲:P.804 - P.807

〔概説〕
 従来よりおこなわれてきた自家遊離骨移植術は,骨の血行を無視した"dead bone graft"であるため,移植された骨は一たん壊死におちいり,吸収と置換の経路をたどる運命にある.従って,移植床の条件が悪いときには,骨が吸収されて消失したり,骨癒合が得にくいことが少なくない.
 一方,ここで紹介する血管付骨移植は骨の栄着血管を温存して採取し、移植床の血管に吻合して移植する"livingbone graft"であるため,かなりの悪条件下の移植床でも,骨折の治癒過程と同じ経過で生着しうる.本法はいまだ歴史が浅く,1973年頃よりMcCullough,Fredrickson,Östrupらによって犬の血管付肋骨をmicrovascular anastomosisを応用して移植する実験が開始され,1975年,Taylorらにより腓骨を用いての最初の臨床例が報告された.

視座

腰痛症の問題点

著者: 青池勇雄

ページ範囲:P.809 - P.809

 どこの整形外科外来も腰痛患者で賑わつておるが,腰痛には診断と治療の面でも,社会的な面からも重要な問題が含まれている.X線像を始め,いろいろの検査でも診断が確定しないものは一応"いわゆる腰痛症"として取り扱われるので,どの腰痛にしても,兎に角どこかの診断カテゴリーに当てはめて整理される.
 このことは大変便利で都合のよいやり方であるが,反面,腰痛の本態を究明しようとする努力を欠くことになり易い.

論述

大腿骨頭回転骨切り術の成績と適応

著者: 杉岡洋一

ページ範囲:P.810 - P.821

はじめに
 大腿骨頭前方回転骨切り術1,3〜7)は本来特発性大腿骨頭壊死の治療に考案された術式で,その目的は病巣が多くの症例で骨頭の前上方にかたよつて位置することから,この病変部を最も有効に荷重部より逃し,温存された後方の関節面と健常な骨梁が支持部に移動することで陥没を防止するとともに関節の整合を得ること,また進行例で陥没により亜脱臼位に移動した骨頭も再び求心性を獲得し,安定した関節を得ることにあつた.
 もとはといえば過去に行なつた骨移植の成績が不良であり,病理像,臨床像からみて壊死骨頭には程度の差はあつても本来旺盛な修復機転が存在し中心部に向つてある程度修復が進む事実と,陥没がその修復を阻害すること2,5,6),すなわち"壊死骨頭の陥没変形を防止"することで既存の修復力を助け,その修復能に期待することが治療の本筋であるという理念に立つて考案された術式である.

骨盤輪不安定症(仮称)—その病態と保存的療法について

著者: 田中宏和

ページ範囲:P.822 - P.831

はじめに
 腰椎椎間板症の概念が導入されて以来その浸透はめざましいが,一方腰痛をすべてこの考え方で説明しようとする傾向がないわけではない.そのために見逃がされる疾患も少なくないように思われる.
 我々は女性腰痛患者の中に骨盤の不安定性が原因していると考えられる症例がかなりの頻度で存在するのに気づき,先人の文献をひもとくと共に解剖学的な病態の検討を試みた.そしてその病態像にもとづいて保存的治療,特に機能的装具を考案し現在まで比較的よい成績をおさめているのでここに報告し,諸賢の御批判を仰ぎたい.

変形性膝関節症のpathomechanics—特に動的安定装置の変化について

著者: 新野徳 ,   長岡勇 ,   遠藤哲 ,   佐々木奉文 ,   篠原一仁

ページ範囲:P.832 - P.838

緒言
 近年における平均寿命の伸びにより,整形外科外来患者のうち老人の占める割合が大となり,変形性膝関節症例はますます増加の傾向にある.
 変形性膝関節症の高度なものには,関節軟骨の変性や骨棘の形成と共に,大腿四頭筋萎縮,膝の伸展障害ならびに内反変形がみられる.これらの関節構成体の変化によつて生ずる膝の安定機構の破綻が,本症を悪化せしめる大きな要因をなしているものと考える.

Shiers型人工膝関節

著者: 鳥巣岳彦 ,   前川正幸

ページ範囲:P.839 - P.846

 第2回の人工関節研究会でShiers型人工膝関節置換術の5症例の経験について報告して以来15),すでに6年が経過した.
 その後,Geomedic型を主体とした人工膝関節置換術が行なわれるようになつたこと,脛骨板形成術はなお行なわれていること,Shiers型の人工関節は50歳以上の関節破壊の高度な症例に限定して使用されていること等の事情により,Shiers型人工膝関節置換術の症例はこの8年間でわずかに20症例22関節である.

境界領域

軟骨形成の分子生物学

著者: 鈴木旺

ページ範囲:P.847 - P.852

緒言
 医化学あるいは生化学の名のもとに呼ばれる領域は伝統ある学問でありあえて説明を要しないが,分子生物学というとその学問的性格は必ずしもはつきりしていない.筆者の所属する学部には大学院専攻の分子生物学研究施設(5部門)があり,多くの学生や研究者が所属しているが,その実体が生化学や生物物理学とどう違うか必ずしもはつきりしていないし,またそんなことを詮索するほど暇な人もいない,医化学や生化学という看板をかかげると化学の色彩が強くなりすぎるので,それにとらわれず(いいかえると,物理学や生物学の色彩を強くして)生命現象を分子レベルで研究するための施設だという人もいる.もつと皮肉の好きな人は,生化学と分子生物学の違いは後者は前者ほど高度(?)の化学知識や化学実験技術を必要としない点だけであるなどという.何といわれようと分子生物学における中心プロジェクトの一つ-遺伝情報の解読-は今世紀最大とまでいわれる輝かしい成果をおさめてきたことは事実である.それは,ひと言でいうと核酸の4種の塩基が三つずつ組になつて異なる20種のアミノ酸の並び方,つまりタンパク質の構造を決めるということであり,なるほど初歩的な化学知識で十分理解できる.

紹介

膝関節部分同種移植の紹介

著者: 渡辺雄

ページ範囲:P.853 - P.859

はじめに
 この度,変形性膝関節症に対して新鮮同種移植を行なつているMount Sinai Hospital(Toronto,Canda)のDr. Grossのもとに1年間留学する機会に恵まれ,膝関節新鮮同種移植についていささかの経験を得ることができたので,その概要をここに紹介する.
 関節の同種移植は1908年Lexerが切断肢や死体から得た関節を臨床的に初めて用いて以来,Loeb(1926),Capurro & Pedemonte(1953)等が試み,更にその後massive frozen graftを用いてWilson & Lance(1965),Ottolenghi(1966),Volkov(1970),Parrish(1973)等が行なつている.Lexer自身,17年後のfollow-upで彼の行なつた34症例のうち半数以上に好結果を得ることができたと述べている.

臨床経験

Kienböck病に対する穿孔術の効果の検討

著者: 国下正英 ,   島巌

ページ範囲:P.860 - P.864

緒言
 1910年に,Kienböckが,月状骨軟化症について報告して以来,多くの報告がみられるが,その発生病理,その治療法は未だ確立されていないのが現状である.我々の教室では,これまでギプスあるいは装具による固定,穿孔手術を主に治療法としてきた.穿孔手術は,血流改善をはかる方法としてなされてきたが,田島・高田等はその結果は良くなかつたと報告している.今回穿孔手術を施行した症例を主に予後調査を行ない,穿孔術の効果について検討したので,若干の文献的考察を加え報告する.

骨に発生したdesmoid tumorについて—Desmoplastic fibromaとperiosteal desmoid

著者: 川井和夫 ,   水野耕作

ページ範囲:P.865 - P.869

はじめに
 骨に発生するdesmoid tumorと考えられている腫瘍性疾患には,病巣が骨髄内に位置するdesmoplastic fibromaと骨膜部に位置するperiosteal desmoidの2つの型の報告がみられる.
 両者共,その組織像は軟部のdesmoid tumorに類似しており,前者は1958年Jaffe7)により,後者は1951年Kimmelstiel8)によりはじめてそれぞれの名称のもとに報告された,その後いくつかの症例が追加されたが現在までに前者は53例,後者は8例の報告がみられるに過ぎない.

肘関節部ガングリオンによる橈骨神経麻痺の2例

著者: 町田正文 ,   柴野紘一 ,   蓮江国彦 ,   佐藤雅人 ,   峯島孝雄

ページ範囲:P.870 - P.872

 肘関節部ガングリオンによる橈骨神経麻痺は稀である.われわれは,最近ガングリオンによる橈骨神経深枝麻痺の1例と,橈骨神経分岐部で浅枝のみを圧迫した橈骨神経浅枝麻痺の1例とを経験した.2例とも手術的にガングリオンを摘出し,良好な結果をえたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

閉塞性動脈疾患の四肢切断23肢について

著者: 鈴木堅二 ,   金田正樹 ,   遠藤博之

ページ範囲:P.873 - P.875

はじめに
 四肢切断は,血管外科的処置の進歩により減少してきているが,最近閉塞性動脈硬化症の増加に伴い,切断を余儀なくされる症例も少なくない.
 われわれは過去5年間における閉塞性動脈疾患による四肢切断21症例23肢の問題点について検討したので報告する.

上位胸椎椎間板ヘルニアの1例

著者: 平松恵一 ,   三浦哲夫 ,   益田紀志雄 ,   松石頼明 ,   志摩隆一 ,   井関亮甫

ページ範囲:P.876 - P.878

 一般に胸椎椎間板ヘルニアは稀な疾患とされているが,なかでも上位胸椎椎間板ヘルニアの報告は極めて少ない.
 我々は興味ある経過を有する第4,5胸椎間椎間板ヘルニアによる脊髄症を経験したので文献的考察を加えて報告する.

上腕骨外上顆炎(テニス肘)の集計的観察とその治療成績

著者: 秋月章 ,   田中義也

ページ範囲:P.879 - P.882

はじめに
 上腕骨外側上顆炎(以下外上顆炎と略す)は,英米ではtennis elbowと呼ばれ,1873年Rungeが,また1883年Majorが報告し,1885年Lancetにtennis elbowとして発表されて以来欧米には数々の研究がある.この疾患は,前腕の回旋運動と,手関節をコントロールする前腕の伸筋群の過度の使用により,肘部に疼痛と機能障害を来たすものであるが,特にテニス選手に目立つておこるものではないので,外上顆炎という名称を我々は使用している.この疾患は外来で日常しばしばみられる疾患ではあるが,その実態に関して詳しく調査した最近の報告は少ない.我々は佐久総合病院の症例について,発生頻度と局所ステロイド剤注射の効果について検討したので報告する.

頸髄に発生したintraspinal enterogenous cystの1例

著者: 王子知行 ,   原田征行 ,   川岸利光 ,   中沢成史 ,   増岡昭生 ,   工藤一

ページ範囲:P.883 - P.886

 脊髄にはmeningeal cyst,arachinoid cyst,perineuralcyst,ependymal cyst,dermoid cyst(epidermoid)など種々の嚢腫が発生するが2),更にこの他に嚢腫内壁が消化管上皮に似ている上皮で被われたenterogenous cystと考えられる症例がある.最近我々は,このenterogenous cystが頸髄に発生した症例を経験したので報告する.

Intramuscular myxomaの1例

著者: 荻野幹夫 ,   蜂須賀彬夫 ,   古谷誠 ,   浅非春雄 ,   村瀬孝雄 ,   小坂正

ページ範囲:P.887 - P.889

はじめに
 筋肉に原発するmyxomaは稀なものである.Stout5)は1948年,全身各所に見られたmyxoma 49例中に4例を,Sponsel等4)はMayo Clinicの1910年〜1941年間の材料より四肢軟部組織原発の16例(myxomaとmyxosarcomaを含む)を,Enzinger1)はArmed Forces Institute of Pathologyの1938年〜1960年間の材料より37例を,Kindblom等3)はGoteborgのSahlgren Hospitalの12年間の材料より15例を,それぞれ報告している.他の報告は少数例である.
 Intramuscular myxomaを含むmyxomaの定義は,Stout5)によつて述べられたものが一般に認められているが,発生母地組織に従つて命名される他の腫瘍とは異なり,発生母地組織(すなわちmyxoid tissueとなる)が,正常には,Whartonの臍帯中のmyxoid tissue以外に存在しない組織である点より,myxomaの命名には異議を唱える人もある,本文の目的はintramuscular myxomaの1例を報告し,交献的要約を試みる事である.

整骨放談

今日の柔道整復師と整形外科

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.890 - P.890

 日本における整形外科的な医学部門は18世紀中頃から次第に独立した形態をととのえてきたが,その伝統の一部は漢方医ないしは漢蘭折衷医に伝えられた.しかし,この伝統も,これら医師の消滅とともに絶えたが,一部は現在の接骨師に引き継がれて今日に至つている.
 日本の接骨師の源は武道救急術に端を発するといわれているが,それはとも角としても前述のように接骨師の歴史は古く,骨折・脱臼の治療に尽した功績は極めて大きい.しかるに,その後,田代義徳先生(東京),松岡道治先生(京都),住田正雄先生(九州)らによりドイツ学派整形外科が,日本に基礎づけられて以来,接骨師と現在の整形外科医の交流は全く絶えてしまつた.それは,整形外科医が当時の接骨師の外傷治療の知識の不足が社会に弊害を及ぼすことを恐れたこと,および当時の整形外科医にとつて接骨師の存在は,今後の整形外科の発展を阻害する恐れありと考えられたことなどから,両者はいつの間にか疎縁になつたのではないかと思う.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら