icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科14巻11号

1979年11月発行

雑誌目次

視座

リハビリテーション雑感

著者: 佐藤孝三

ページ範囲:P.1061 - P.1061

 整形外科とリハビリテーションは切つても切れ縁い間柄にある.私は昨年から本年5月までの1年間第16回日本リハビリテーション医学会会長をつとめ,また最近はリハビリテーションに重点をおく日大付属稲取病院の院長となつているため,日本のリハビリテーションの進歩についていろいろと考えさせられることが多い.その中で最近とくに感じていることを2つだけ述べてみたい.
 その第1はリハビリテーションの専門化である.かつては整形外科医がマッスールや看護婦を相手に,いわば片手間的に行つていたリハビリテーションが,いまは専門的知識と技術をもつ理学療法士や作業療法士をはじめとするパラメジカル・スタッフのチームワークに依存するようになり,そのチームのコンダクターとしての医師は,リハビリテーション医学の基礎と臨床に関する綜合的知識を充分に身につけていなければならなくなつてきた.リハビリテーション医学の進歩は必然的にリハビリテーション専門医の出現を要請するにいたつたのであり,それはかつて外科から整形外科が分離独立したときの状況によく似たところがある.

論述

股関節症に対するChiari骨盤骨切り術の適応と成績

著者: 広畑和志 ,   梁復興

ページ範囲:P.1062 - P.1072

はじめに
 1955年Chiari3)が最初に骨盤骨切り術を報告した時には,4歳より9歳までの片側性の亜脱臼を伴う臼蓋形成不全を適応とし,関節裂隙の狭小化のあるものや著明な骨頭変形のあるものを除外していた.
 その後,20有余年の間,多くの人6,8,11,13〜16)によりこの手術が追試され,今では臼蓋形成不全のある前股関節症は勿論のこと,進行した変形性股関節症や脱臼性股関節症にも適応が拡大されて来た.

骨誘導について

著者: 野上宏 ,   大平敦彦

ページ範囲:P.1073 - P.1079

はじめに
 骨・軟骨の誘導現象を広い意味にとれば,胎生期の骨格原基の形成に始まる軟骨化,軟骨内骨化,結合組織性骨化など生体の成長に伴つて起こる生理的なもののほかに,骨折時の仮骨形成,異所性骨化としての化骨性筋炎,靱帯骨化症,脱灰骨や膀胱移行上皮などによる骨誘導現象,さらに骨・軟骨腫瘍の発生などの病理的と考えられるものがある.この両者を比較検討してみることは,骨・軟骨誘導現象を理解し,誘導因子を追究するうえで興味があるばかりでなく,骨・軟骨疾患の病因や治療を考えるうえでも意義あるものといえよう.ここでは,脱灰骨による骨・軟骨誘導現象を中心に,骨・軟骨組織が形成される過程において判明したことがらを紹介したい.

橈骨神経麻痺について—各種原因による530例の臨床的検討

著者: 屋宜公 ,   津山直一 ,   伊地知正光 ,   長野昭 ,   高橋雅足 ,   杉岡宏 ,   立花新太郎 ,   大庭浩 ,   原徹也

ページ範囲:P.1080 - P.1089

はじめに
 橈骨神経麻痺は末梢神経損傷のなかでも比較的多くみられその予後は一般に良好とされている.橈骨神経麻痺に関する文献も数多くみられ今日その病態,治療法,予後等に関しては一応確立された感がある.しかしながらまだ多くの整形外科医にとつて治療法,例えば神経剥離術の適応,時期,あるいは機能再建術に踏みきるべきかどうか等の点については議論の多いところである.我々は過去20年間東大病院および分院整形外科を受診した橈骨神経麻痺530例を調査し損傷程度,治療法および予後等につき検討を加えたので報告する.構成は四肢のそれぞれの区分ごとに外表解剖,筋膜・筋,神経,脈管および骨・関節を系統だつて記述し,特定の部位についてはその局所解剖が詳しく描写されている.この系統だつた記述の合間にX線解剖,穿刺法,手術侵入路,骨折・脱臼の好発部位と分類が織り込まれているから,惹き込まれていく.骨年齢の評価につながる骨核の出現,成長に伴う形態の変化が詳述されているのもゆきとどいている.末梢血管の解剖では特に造影術に詳しく,また,外科的考察という見出しで結紮法,穿刺術,血栓除去法などに触れている.

股関節全置換術におけるfemoral component挿入時の骨髄内圧と肺塞栓

著者: 岩崎勝郎 ,   吉良秀秋 ,   深沢俊裕 ,   平野徹 ,   小野哲生

ページ範囲:P.1090 - P.1095

はじめに
 股関節全置換術においてfemoral componentが骨セメントと共に挿入される場合,それに伴つて骨髄組織,脂肪,空気などによる肺塞栓がみられることは,Modigら15),Breed1),Herndonsら7),Kallosら10)および今原9)などによつて,臨床的または実験的に証明されているが,その発生原因については骨髄内圧の上昇やmonomerの関与などいくつかの因子が報告されており,必ずしも意見の一致をみていない.また全置換術術中に発生する心停止の原因としてこの肺塞栓があげられているが(Burgess2),Harris6),Phillips17),Hyland8),Greshamら5)),しかしそのような合併症の発生頻度は,現在世界的に行われている人工関節置換術の数からすればきわめて少ないのも事実である.
 この研究の目的はfemoral component挿入時の骨髄内圧の計測,家兎に実験的に作成した肺塞栓の組織学的検索によりfemoral component挿入後に発生する肺塞栓の原因とその臨床的意義につき検討を加えることである.

境界領域

股関節の荷重機能と接触面積

著者: 宮永豊 ,   福林徹

ページ範囲:P.1096 - P.1102

はじめに
 股関節のバイオメカニクス的研究は古い歴史をもつが特にCharnleyの人工股関節の開発と成功に刺激されて医学の分野のみならず工学の分野においても盛んに行われるようになつてきた.しかしながらともすれば人工関節のデザインや生体材料の開発,強度,摩耗特性など機械工学的側面が強調されがちである.これに対して関節の機能生理,関節症の病態生理や老化現象など最も医学的な,生物学的な問題に対する力学的アプローチは不十分でありバイオメカニクスの手法を用いた今後の進展が期待される.股関節における生理的,臨床的諸問題の解明は各方面より追究されているが関節の荷重支持機能や運動機能という力学的側面を考えるとき,股関節や関節構成体の力学的特性の検討は最も基本的な情報を提供すると思われる.本論文では股関節および関節軟骨・軟骨下骨の力学的挙動の解析結果より股関節の荷重機能を明らかにするとともに接触面積や接触圧に関する測定結果を紹介する.

臨床経験

前方侵襲を要した頸部脊髄腫瘍—砂時計腫に対する根治手術について

著者: 原貴 ,   若野紘一 ,   平林洌 ,   泉田重雄 ,   中村洸

ページ範囲:P.1103 - P.1111

いとぐち
 脊髄腫瘍の手術は,唯一回の手術で完全に剔出することが必要であり,再発例では,手術成績も不良であることは,論を待たない.
 しかし,脊髄腫瘍の手術手技を困難にする要素の一つに,いわゆる砂時計腫の形をとる脊髄腫瘍が挙げられる.

術後水頭症を来たしたforamen magnum meningiomaの1例

著者: 久保健 ,   杉村功 ,   兼山敦 ,   渡貞雄 ,   椎野泰明 ,   谷川雅洋 ,   好永順二

ページ範囲:P.1112 - P.1115

 大後頭孔付近に発生するmeningioma(Foramen magnum meningioma)のうち脊髄症状を主体とするspinocranial typeは腫瘍の上極が頭蓋内に侵入しているにもかかわらず,myelogramが診断の決め手になることより整形外科医により取り扱われることが多いようである.著者4)らはすでに本症の2例を報告しているが,最近新たに腫瘍が頸髄腹側に存在するanterior meningioma5)の1例を経験し,治療に難渋したのでその治療経過といささかの考察を加えて報告する.

左上腕骨に原発した悪性線維性組織球腫の1例

著者: 井内康輝 ,   徳岡昭治 ,   堀司郎

ページ範囲:P.1116 - P.1120

要約
 1)65歳,女性の左上腕骨近位骨幹端に原発した骨の悪性線維性組織球腫の1例について,その概略を報告した.左上腕骨切除に次いで左肩関節離断により腫瘍を摘除したが,腫瘍はその都度再発し,更に左腋窩リンパ節および肺への転移を来たした.
 2)組織学的に腫瘍は,骨内の原発巣では主として線維芽細胞様の紡錘形細胞群からなつていたが,骨外への浸潤巣および転移巣では腫瘍細胞は組織球性の性格をより強く示し,多数の多核巨細胞の出現をも伴つていた.
 3)欧米における報告例約100例の記載によると,一般に骨原発の悪性線維性組織球腫は,40歳以上の中,高年齢層に多くみられ,長管骨骨幹端に好発してレ線上骨透亮像を示す.既往に同部のmedullary bone infarct,Paget病,放射線照射などの骨破壊性病変を有する症例が少なくない.
 4)上記2)のごとく,原発巣と,骨外の浸潤転移巣とにおける腫瘍の組織像が異なり,原発巣では主として線維芽細胞様の腫瘍細胞が主体を占めるが,骨外の浸潤転移巣では,組織球性の性格をより強く示唆する細胞群が出現する例は,Spanierらの11例中の2例にもまた認められている.この点は骨原発の本腫瘍における興味ある所見であるが,本腫瘍の診断をより困難とする主要因の一つでもあろう.

胸腔内に及んだ巨大な胸部硬膜外腫瘍の1治験例

著者: 川岸利光 ,   東野修治 ,   原田征行 ,   伊勢紀久 ,   坂田悍教 ,   関野英一

ページ範囲:P.1121 - P.1123

はじめに
 後縦隔腫瘍としては神経性腫瘍が最もよくみられるが,腫瘍が脊柱管腔内にまで侵入し脊髄圧迫による種々の神経症状を呈することがある.我々は脊椎管腔内から胸腔内(後縦隔部)にまで及んだ巨大な胸部硬膜外腫瘍(meningioma)によりparaplegiaを来たした1例を経験し,椎弓切除術および開胸,腫瘍摘出,前方固定術の2回の手術にて症状の著明な改善を得たので報告する.

膝蓋大腿関節症に対する脛骨粗面前方移動術(Maquet-Bandi法)の経験

著者: 嘉悦博 ,   清水正章 ,   板倉和資

ページ範囲:P.1124 - P.1128

はじめに
 最近,膝蓋大腿関節症に対する手術として脛骨粗面前方移動術(以下Maquet-Bandi法と略)が注目されてきたが,われわれは本法を施行した8例に対し最長4年最短4ヵ月平均2年6ヵ月の経過観察を行い良好な結果を得ているので若干の文献的考察を加え報告する.

Marchesani症候群の1例

著者: 加藤雅典 ,   鈴木勝美 ,   佐藤誠 ,   鶴田登代志 ,   伊藤貴司

ページ範囲:P.1129 - P.1132

はじめに
 1932年,Weill1)は球状水晶体,短躯症に四肢脊椎関節異常を伴つた症例を発表した.次いで1939年,Marchesani2)が球状水晶体,虹彩振盪,緑内障,短躯頭,短指趾,筋肉質体型からなる2家族4症例を報告し,一つの症候群としてspherophakia brachymorphiaと命名した.以後,これら一連の症候群をMarchesani症候群と呼び,欧米においては約200例が報告されている.本邦においては,1944年,富田3)が12歳男子1例を発表して以来,本症例を含めてわずか15例3-8)のみが文献上認められるにすぎない.我々は,最近,Marchesani症候群と思われる症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

座談会

椎間板ヘルニアの手術的治療—多数回手術を要した腰椎椎間板症の原因と対策を中心として

著者: 平林洌 ,   金田清志 ,   岩原寅猪 ,   井上駿一 ,   辻陽雄

ページ範囲:P.1136 - P.1148

 さきの第27回東日本臨床整形外科学会におけるシンポジウム"多数回手術を要した腰椎疾患の問題—その原因と対策—"は時機を得たよい主題であつた.
 腰椎疾患,わけても腰部椎間板症はあまりにも無雑作に切られ,またあまりにも多く障害を後貽している.多数回手術を要するのはその故であり,そしてそれは医原性疾患へと変態してゆく.心しなければならない.
 シンポジウムで述べられた主旨をもう一歩突込んで,もう一息ざつくばらんに語り合つていただき,それを読者の座右におくりたい意図をもつて本座談会を組んだ.

カラーシリーズ

後縦靱帯骨化のマクロとミクロ

著者: 佐々木正

ページ範囲:P.1056 - P.1059

 後縦靱帯骨化はすでに古くKey(1838)により記載されている.その後,本症は全くかえりみられることがなかった.月本(1960)が頸椎後縦靱帯骨化による脊髄麻痺の1剖検例を報告して以来,本症は徐々に注目されるようになり,最近では種々の面から活発な研究が行われている.しかし,本症の病態は十分に解明されるに至っていない.
 X線写真上,後縦靱帯骨化は頸椎,胸椎,腰椎の高位によりその形態を異にする.これは主として高位により後縦靱帯の構造に差があるためと考えられる.頸椎,胸椎後縦靱帯骨化の併存が稀でないことからもその本態は同一と考えてよい.本稿では後縦靱帯骨化のマクロとミクロの所見を骨化の完成した時期(停止期),活動期(増大期),初期の順に述べる.骨化の完成した時期,活動期の所見についてはほぼ共通した見解が得られているが骨化初期像,特に,骨化発生機序については議論が多い.

整骨放談

素朴さのよさ

著者: 玉井達二

ページ範囲:P.1133 - P.1133

 私達はいつも手の具合が悪いとか,足の調子がおかしいというような,訴えを聞いていますので,内科の先生や外科の先生とちがつて,なんとなく機械的なものに興味をもつても不思議ではないと思います.私自身は大変やじ馬根性があつて,一度は工学を勉強してみようかなと思つたこともあるので,少し工学的なことが気になります.工学的などといつても,高等なものではなく,玩具につかわれる程度のものに興味があるといつたところです.子供の頃,母に手を引かれて行つた縁日の夜店の店先にあつた「ゼンマイ仕掛けの自動車」や,「ダルマおとし」「やじろべー」などが,ほしくて,ほしくて母を困らせたことが思い出されます.
 しかしこの頃では,玩具といつても高級になつて,子供達もそうでなければ満足しなくなつたのか,リモコンの自動車や飛行機といつたものができていますが,シンプルなものに魅力を感じます.

追悼

前田和三郎名誉教授遺影・略歴

ページ範囲:P.1134 - P.1134

略歴
明治27年7月28日生
大正9年9月 京都大学医学部卒業

師前田和三郎先生の遺影

著者: 岩原寅猪

ページ範囲:P.1135 - P.1135

 前田和三郎先生は去る8月17日85歳をもつてご逝去されました.
 わたくしの先生,われわれの前田先生とのお別れでございます.生者必滅の掟とはいえ,先生はいつまで経つてもわたくしには先生であり,われわれにとつては前田先生であつて,先生を亡くすることには大きな空しさ,寂しさを覚えずにはいられません.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら