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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科14巻12号

1979年12月発行

雑誌目次

視座

Defence medicineを憂える

著者: 井上駿一

ページ範囲:P.1157 - P.1158

 私が整形外科教室へ入局したのは昭和33年4月であつた.当時は昭和28年,29年頃に次々と各医科大学に整形外科教室が開講せられ,その後数年を経た頃であるので気鋭の教授の方々が多く,脊椎カリエス,椎間板ヘルニアなどの手術が盛んに行われ各地で公開手術が行われたりして活気に満ちに時代であつた.医師と患者との関係もまだまだ信頼感のあつたよき時代でもあつた.
 30年頃の私共の教室では椎間板ヘルニアの経腹膜的直達手術がlumbar anesthesiaで行われており,最近行つた遠隔調査の折当時の患者さんが「手術中痛いと叫んだところ執刀医に物凄く叱られました.でも当時は本当にこわい先生方ばかりでしたが実に熱心に診てくれました」と懐かしそうに述懐しておられた.私の恩師鈴木次郎教授はまことに峻厳な師匠であり手を抜いたいいかげんな治療は決して許されなかつた.百雷が落ちて「明日の朝までに反省,検討をして置く事」という事になり翌朝のmeetingのため徹宵で文献を調べあげカルテに反省点をこまごまと書き連ねた事もしばしばあつた.これが後になつて大変大事な資料となり後輩のための生きた教育材料として役立つた.しかし昨今のわが国の医療情勢は全く異なる.手術中の一寸した不用意な発言が医療訴訟の原因となつたりする.「カルテには一切感想は書かぬ事.事実そのものを書けばよいのであつてここをこうすればよかつたとかああすればよかつたとかの反省は一切禁忌である.客観的記載のみに止める事.必要あれば自分で備忘録をそなえて記入すべし.」と最近の新入医局員に対する教育はまことにきびしいものがある.

論述

骨肉腫治療の変遷と最近の進歩

著者: 赤星義彦 ,   武内章二 ,   松岡正治

ページ範囲:P.1159 - P.1168

はじめに
 骨肉腫の治療は,罹患肢の切断,離断というもつとも確実な原発巣の根治除去手段があるにかかわらず,肺転移のためその85%以上が1〜2年以内に死の転帰をとり,1960年代までは5年生存率も僅か10〜15%以内にとどまつていた.もつとも今世紀のはじめからワクチン療法,術前放射線治療,あるいは化学療法の検討など,基礎的研究を含めて,幾多先人の苦闘に満ちた試みと研究報告は数多くみられるが,治療成績向上の突破口は堅く閉ざされていた.
 しかし近年化学療法の進歩開発とその応用によつて,漸くその突破口が開かれてきた.とくに本邦では1960年以降,原発腫瘍に対する術前の強力な制癌剤の局所灌流(perfusion)法,局所栄養動脈内挿管持続注入(i. a. infusion)法あるいは60Co,リニアック,速中性子X線大量照射療法などの導入を契機として精力的な研究が押し進められ,さらに1970年以降は術後のadjuvant chemotherapyとして強力な多角的(multimodal)免疫化学療法が行われるようになり,予後の改善と共に原発腫瘍の完全剔出,再建術成功例さえもみられるに到つた.このような骨肉腫の治療方式はすべての悪性骨・軟部腫瘍あるいは癌骨転移の治療にも通ずるものがある.

脊柱運動の「節構造」と特発性側彎症の彎曲形式について

著者: 樫本龍喜 ,   畠山勝行 ,   山室隆夫

ページ範囲:P.1169 - P.1174

はじめに
 側彎症外来において,我々が通常観察する彎曲の形式は,(1)右胸椎彎曲,(2)右胸椎左腰椎彎曲,(3)左胸腰椎彎曲,(4)左腰椎彎曲等が主なものである.この他,稀な彎曲として(5)二重胸椎彎曲,(6)頸胸椎彎曲,(7)ゆるやかなC字型彎曲等がある.
 人間の脊柱が,頸椎7こ,胸椎12こ,腰椎5こ,計24この椎体を硬組織の主要素とする桿状体であるならば,本来どの部分でどのように彎曲しても不思議でないと考えられるにもかかわらず,臨床的には,上述のように彎曲形式の種類が限られているのはなぜであろうか.

頸椎後縦靱帯骨化症の病態

著者: 後藤澄雄

ページ範囲:P.1175 - P.1184

はじめに
 1960年,月本17)の剖検報告以来,本邦に多発するミエロパチー起因疾患として注目されてきた頸椎後縦靱帯骨化症(OPLLと略す)の病態成因については,すでに多くの研究がなされ11,19),病態はある程度明らかになりつつある.OPLLに見られる後縦靱帯の石灰化組織(以下では後縦靱帯骨化組織と呼ぶ)は骨単位を有する異所性骨化組織であることが確認されている.
 一方,成因については,全身的体質的要因,老年性変化,外傷,炎症,中毒,力学的要請1),糖尿病との関連など多くの因子の関与が唱えられ,頸部脊椎症,強直性脊椎骨肥厚症(Forestier病),強直性脊椎炎との関連が問題とされてきたが,主たる成因については諸家の見解に大きなへだたりがある.

各種人工膝関節置換術後の運動学について

著者: 亀山三郎 ,   石田肇 ,   篠田瑞生 ,   藤森十郎 ,   森重登志雄 ,   吉野槇一

ページ範囲:P.1185 - P.1189

はじめに
 現在,種々のタイプの人工膝関節が開発され,臨床に応用されている.
 これらの人工関節の運動学を研究することは,臨床上非常に有意義である.

検査法

小児の骨盤前傾度計測法

著者: 片田重彦

ページ範囲:P.1190 - P.1194

はじめに
 成人の骨盤前傾度は臨床的にも計測しやすく8),X線学的計測法も種々考案されている2,9,11).一方小児においては臨床的にもX線学的にも計測ははなはだ困難で簡便かつ有効な方法が少ない.著者は両股関節単純正面像より小児の骨盤前傾度を計測する方法を考案したので,ここに紹介する.

装具・器械

脊柱側彎症に対して,特に開発せる水平自重能動牽引装置

著者: 徳野眞之 ,   野島元雄 ,   山下正郎 ,   園延峰義 ,   松永強右

ページ範囲:P.1195 - P.1202

はしがき
 脊柱側彎症に対して,近時Cotrelのdynamic spine traction1)が注目され,これに関連し従来評価されることの少なかつた牽引,体操療法の必要性が叫ばれるようになり,術前矯正療法を含め特に早期対策として次第にその価値が認められるようになつてきた.
 愛媛大学整形外科教室においては,牽引療法に関し水平自重能動牽引装置を開発し,かつ牽引装置でえられた矯正位の保持を目的としての装具すなわち矯正位固定装具を工夫した,この牽引療法に関しては,術前の牽引矯正訓練のみならず軽中等度症例を主体とした保存的治療体系に関連して検討を重ねてきた.このような治療体系は,脊柱の異常に関する学校保健にも関連し早期発見,早期治療,増悪予防を目的として,学童,生徒に対する対策プログラム上きわめて意義のあるものと考える.

臨床経験

悪性腫瘍脊椎転移に伴う脊髄麻痺について

著者: 柴崎啓一

ページ範囲:P.1203 - P.1211

 悪性腫瘍の脊椎転移に伴う脊髄麻痺は比較的しばしばみられる症候であり,本症候に関する報告は内外に多数みられている.特にその臨床像あるいは治療法については種々報告されているが1,6,17,24,34),本症候の脊椎および脊髄の病理所見に関する報告は少なく22),その病態にはなお不明の点が残されている.
 転移性脊椎腫瘍およびそれに伴う脊髄麻痺は悪性腫瘍症例の終末像に近い症候の一つであり,姑息的処置あるいは一過性効果を目的とした手術等が選択されることが多い.しかしながら,診断および治療法の進歩に伴い悪性腫瘍の部位および種類によつては比較的長期間の生存が期待できるようになつた現在,二次的脊髄麻痺についても脊椎および脊髄病態の正確な把握のもとに積極的に対処すべきと考える.

Calcar femorisのない症例に対する全人工股関節置換術—Eichlerのtrochanter plateについて

著者: 藤原紘郎 ,   尾上寧 ,   安田舜一 ,   栗田英明 ,   松井護 ,   妹尾泰利 ,   角南義文

ページ範囲:P.1212 - P.1216

はじめに
 Calcar femorisが全人工股関節置換術(以下T. H. R.と略す)に際し,非常に重要な役割りを果たしているという考え方は一般的のようである.しかし大腿骨頸部内側骨折偽関節でこのcalcar femorisが吸収されている場合や,単純人工骨頭置換術後あるいはT. H. R.後prosthesisのsinkingによつてcalcar femorisが消失している場合にT. H. R.の適応のある症例がある.このようにcalcar femorisのない症例に対してEichlerはprosthesisのcollarの下にplateを置き,大転子と小転子を結ぶ高さでの切断面全体にprosthesisの荷重がかかるようなtrochanter plateを開発している.われわれはEichlerにこのtrochanter plateを直接紹介される機会をもち,このようなcalcar femorisのない症例のT. H. R.に使用し,短期間ではあるが好成績を得ているのでその有用性を症例とともに報告する.

腰椎椎間板ヘルニアに対する前方法65例の術後10年以上の長期遠隔成績について

著者: 田中正 ,   井上駿一 ,   宮坂斉

ページ範囲:P.1217 - P.1222

はじめに
 腰椎椎間板ヘルニアに対する前方侵入法による椎間板切除・椎体固定術(前方法)は,1948年Lane and Moore6)の報告に始まるが,本邦においては1955年千葉大学整形外科故鈴木次郎教授10,11)により行われた経腹膜的椎間板切除・前方固定術(鈴木氏法)が嚆矢と思われる.
 当教室における腰椎椎間板ヘルニアに対する前方法施行例は,1955年10月以降1978年12月までに449例にのぼるが,そのうち術後10年以上を経過した症例は,1955年10月より1968年4月までの286例である.このうち1964年12月までの151例の10年以上の長期遠隔成績については,すでに1973年の土屋14)の報告を始め,井上4,5),松井7)らが詳細に報告してきた.

前後合併手術により矯正し得たWohlfart-Kugelberg-Welander diseaseの腰椎hyperlordosisの1症例

著者: 小林英夫 ,   井上駿一 ,   北原宏 ,   服部孝道

ページ範囲:P.1223 - P.1227

はじめに
 脊柱変形をきたすneuromuscular diseaseには多くの疾患があり1,2),以前はそのほとんどがポリオによるものであつたが,ワクチンの使用により最近では全く発生をみなくなり,それに代つて進行性のneuromuscular diseaseによる脊柱変形が注目されるようになつてきた.
 今回われわれはJuvenile spinal muscle atrophy,すなわちWohlfart-Kugelberg-Welander diseaseによる腰椎のhyperlordosisの症例に対し前後合併手術をおこない,これを矯正しADLの改善をみたので若干の考察を加えて報告する.

短指伸筋の1例

著者: 福沢玄英 ,   三谷晋一

ページ範囲:P.1228 - P.1233

はじめに
 人体は600有余の筋より成り立つている.従つて,筋の破格も決して少なくない.短指伸筋(extensor digitorum brevis manus)については1734年Albinusがその存在を明らかにして以来,多くの解剖学者によりいくたの報告がなされて来た.しかし,臨床例の報告は極めて少なく,そのほとんどの症例は軟部腫瘤として手術された結果,あるいはまた,手背部の手術中に偶然見出されたものである.
 私共は最近,軟部腫瘤(tenosynovitis)と診断し,手術の結果,短指伸筋であつた1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

右大腿動脈瘤を伴つたAngio-Behçet症候群の1例

著者: 西山和男 ,   細谷俊彦 ,   市川慎介 ,   水谷幽

ページ範囲:P.1234 - P.1237

 Behçet病のうち血管系病変による症状が主景となるものをAngio-Behçet症候群というがわれわれは最近右大腿動脈瘤破裂をともなつたBehçet病の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

カラーシリーズ

圧迫性脊髄症の病理像—頸髄を中心に

著者: 小野啓郎 ,   荻野洋 ,   並木秀男

ページ範囲:P.1152 - P.1155

 圧迫性脊髄症の原因は大別して3つある.
 1)外傷性
 脊柱の脱臼・骨折に由来する脊髄の圧迫(急性)と,脊椎の奇形や関節リウマチに伴う脱臼が原因となった脊髄圧迫(慢性)に分けることができる.

整骨放談

私とテニス

著者: 柏木大治

ページ範囲:P.1238 - P.1238

 私は中学に入学してすぐにラケットを振り始めたので,通算すると丁度半世紀を経た事になる.
 生来,蒲柳の質であつた私は大学を卒業するまで青白く,ひ弱い,まるでもやしの様で病気ばかりしていた.この私がテニスの選手生活をしたとは今から考えれば無暴といつてもよく,休み休みにしろ,よくこの年まで生き延びる事ができたものだと不思議に思つている.

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基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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