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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科14巻7号

1979年07月発行

雑誌目次

カラーシリーズ 整形外科医のための免疫学・6(最終回)

HLA—その臨床的意義と検出法について

著者: 吉野槇一

ページ範囲:P.628 - P.631

 臓器移植の際,移植に成功したとか,しないとかという話しをよく聞かれることと思う.移植で"自己"であるかないかの識別をし,その成功を左右するのが,組織抗原である。組織抗原で,主なるものをmajor histocompatibility complex(主要組織適合抗原)と呼び,ヒトでは,血液型とHLA(Human leukocyte antigen system A)であり,サルは,RhLA系,イヌはDLA.そして,マウスではH-2系である(第1図).Histocompatibilityなる言葉を最初に使用したのは,Littleらであり,また,抗白血球凝集素を最初に見いだしたのはDaussetである.その後,Daussetはこれら抗白血球凝集素の一つをMac抗原(現在は,HLA-A2)と名づけた.各個人はABO血液型のように,A型,B型といったような一つの抗原ではなく,数多くのHLA抗原を持っている.
 免疫学でHLAは,大変重要な位置を占めている.一つには,移植を例に述べたように,HLAは自己を表現する抗原(抗原の個人差)であり,もう一つは,HLAと疾患との関係である.

視座

脊柱側彎症の早期発見

著者: 山田憲吾

ページ範囲:P.633 - P.633

 脊柱側彎症は古い過去と新しい歴史を有する姿勢異常である.その原因はともかく,多くが成長期を通じ進行性増悪を特徴としている点で,早期発見は重要な課題である.ところで,戦後における本邦疾病構造の変化は誠に目覚ましく,側彎症についてもその発生頻度は,最近十数年来の千葉大始め本邦各地の学童集団検診結果に徴してもほぼ1〜3%とせられ,欧米のそれとの間に大差を見なくなつたし,多少の増加傾向すら伺われるということで社会医学上軽視し得ない問題となつてきた.
 ともかく,近頃はひよろ長い姿勢の悪いもやし子が目立つてきたことは否めない.もちろん不良姿勢が直ちに側彎症に移行するとは考えないが,学校という教育現場では授業時の生徒の心構えや身構え,すなわち「姿勢」が学習指導時の一大要件とされている.殊に不良姿勢児の中に側彎症児が隠れているとすればこと重大であり,学校当局として忽せにできない問題であろう.

論述

膝蓋骨のtangential osteochondral fractureに合併した大腿骨外側顆の骨軟骨骨折について

著者: 藤沢義之 ,   塩見俊次 ,   三馬正幸 ,   増原建二

ページ範囲:P.634 - P.647

緒言
 大腿骨顆部・脛骨顆部・膝蓋骨などの関節面におよぶ通常の骨折を除き広義に解釈すれば,osteochondral fractureには外力の作用機転よりして,
 1.大腿骨顆部・脛骨顆部・膝蓋骨などの関節面への直達外力によるもの
 2.十字靱帯,膝蓋靱帯,大腿四頭筋や膝蓋支帯などの牽引力によるもの
 3.膝蓋大腿関節や大腿脛骨関節におけるもの
  a.膝蓋大腿関節
  1)膝蓋屑前面よりの外力によるもの
  2)膝蓋骨が外側へ脱臼したり,脱臼した膝蓋骨が整復される際の剪断応力によるもの
  b.大腿脛骨関節
  1)内・外反や過伸展強制によるもの
  2)捻転圧迫応力によるもの
などがある.しかし,狭義な意味では,その発生機序に特殊性をもつもの,すなわち,3-a-2)や3-b-2)などの主として剪断応力や捻転圧迫応力によるものが一般にosteochondral fractureと呼ばれている.

RAの足趾変形に対する外科的治療

著者: 高岸憲二 ,   喜多正鎮 ,   近藤正一 ,   香月一朗 ,   秦立比古

ページ範囲:P.648 - P.654

 慢性関節リウマチ(以下RAと略す)における足趾変形は,靴生活を主体とする欧米に対し,素足で室内歩行する我が国においては安定性などの面で異なつた問題を有する.
 変形の初期には足底板など保存的治療が行なわれるが,多くは和式の畳上の日常生活のため長期間は使用されないし,上肢の機能障害などのため着脱も容易でない.このため我々は前足部変形に対し外科的治療を主体として対処してきたが,今回は昭和48年9月より昭和52年12月までに行なわれた手術を対象に追跡調査を行なつたのでその結果を報告する.

手術手技

Charnley人工股関節置換術における大転子鋼線締結固定法について

著者: 津布久雅男

ページ範囲:P.655 - P.660

はじめに
 Charnleyの低摩擦関節形成術4)は股関節全置換術の中でも,歴史も古く最も完成された手術法とされ,これを採用する外科医は多い.わたくしも昭和47年にこれをはじめてから,以後2回におよぶ英国留学の間,度々Wrightington病院を訪ね,その実際を見,また実際の経験を通して,手術手技の熟達につとめてきた.しかし,股関節の状況は,疾患によりまた症例によつて様々であり,いろいろな問題が提起されてくるのが現実である.この問題の一つに,大転子切離による外側侵襲法と大転子鋼線締結固定法がある.この侵襲法は患者を仰臥位とし,外側縦斜切開2)により皮膚と腸脛靱帯を切開し,大転子は関節包内で転子窩(Fossa trochanterica)から外側広筋起始部(vastus lateralis ridge)の直上部に向つて線鋸で切離する.したがつて,関節包は臼蓋外側から大転子まで連続して温存され,小殿筋が入工関節に直接接触するのを妨げる.この侵襲法は視野が広く,骨盤や臼蓋,大腿骨頭の手術操作が容易であることや,大転子の下降や外方移行等,中小殿筋の緊張状態を調整できる利点がある.

検査法

選択的頸部神経根造影について

著者: 古川浩三郎 ,   倉持英輔 ,   星野亮一 ,   田島健 ,   作山洋三 ,   伊藤司

ページ範囲:P.661 - P.668

はじめに
 我々整形外科医は,日常診療上,頸部脊椎症,頸椎椎間板ヘルニア,頸腕症候群等の疾患により,頸部痛,上肢のしびれや疼痛,上肢や下肢の,または上下肢の麻痺症状等を有する患者に接する機会が多い.またこれらの患者に対して,一定期間の保存療法を行ない,症状の改善を見ない症例に対して手術的治療を行なう機会も多くなつてきている.
 従来,これら頸椎,頸髄疾患の病巣高位決定には,臨床症状,神経学的所見の詳細な検討を行なう他に,補助診断法として脊髄造影16,19,21)または椎間板造影5,17)が利用される事が多い.各々の診断的価値も十分に評価されているしまた各レベルにおける頸部神経根障害の症状や徴候も明確にされているものの,頸部脊髄症は勿論,頸部神経根症状を呈していると思われる症例でも,個々の症例の示す知覚障害の範囲は多様で,良く引用されるKeeganのdermatomeに完全に一致する事もそれ程多くなく,さらに前述補助診断法のfalse positiveまたはfalsc negative所見の問題もあり,病巣高位診断が必ずしも容易でないものも少なくない.

境界領域

阻血が切断肢筋組織の代謝および細胞傷害に与える影響

著者: 村松郁夫 ,   高畑直司 ,   薄井正道 ,   石井清一

ページ範囲:P.669 - P.676

緒言
 近年のmicrosurgeryの発展は,いつたん切断された四肢の機能を温存したまま再接着することを可能にした.そのためにはいくつかの条件が存在する.なかでも阻血時間は重要な条件の一つである.切断肢に多量の筋組織を含んでいる場合,一定の阻血時間を越えると,たとえ再接着に成功してもreplantation toxemiaによるショック死の危険がある.またショック死をまぬがれたとしても,筋組織の広範な不可逆性の壊死のために再接着肢の機能の温存は望めなくなる.
 先に著者らの一人,薄井18)は成犬の切断大腿の再接着を行ない,阻血時間とreplantation toxemia発生の関係を追究し,その発生機序を推測した.著者らは,さらに阻血時間が筋組織に及ぼす傷害の程度を損傷組織から流出するCPK,GOT-m,LDH値の推移から予測し,それを組織学的に確認した.阻血時間の延長にともない筋組織の傷害は増大するが,しかし冷却によつて筋組織の傷害は,明らかに抑制される結果を得ている.

装具・器械

変形性膝関節症に対する楔状足底板の効果—その静力学的機序に関する検討

著者: 安田和則 ,   加藤哲也 ,   佐々木鉄人 ,   須々田幸一 ,   八木知徳 ,   門司順一 ,   清水一由

ページ範囲:P.677 - P.682

緒言
 変形性膝関節症の治療として,近年high tibial osteotomyや人工膝関節置換などの手術的療法が好成績をあげているが,保存的治療はなおも重要な治療法であることに変わりはない.その保存的治療法の一環として,楔状足底板は最近多く用いられ,その有効性はかなり高いことが,経験的に知られている.しかし,この治療法に関する報告は極めて少なく3,12),その効果のメカニズムについても,いくつかの仮説はあるものの推論の域を出ていないのが現状である.
 我々は今回,楔状足底板の効果のメカニズムについて,静力学的な面より検討を加えた.従来より考えられている静力学的仮説のうち,我々が信頼性があると考えたものは次の4つである.
 1)足底の外縁で接地するようになる.
 2)大腿骨脛骨角(FTA)が外反化する.
 3)距骨下関節で踵骨が外反化する.
 4)起立脚全体は,鉛直線とある角度で傾いて起立するが,この角度が変化する.(下肢全体の空間的位置が変化する).

シンポジウム 五十肩の治療

"いわゆる五十肩"の定義と病態—全国整形外科医に対するアンケート調査結果の分析

著者: 石井清一 ,   薄井正道 ,   荻野利彦 ,   村松郁夫 ,   福田公孝 ,   小林三昌 ,   中里哲夫

ページ範囲:P.683 - P.688

緒言
 "いわゆる五十肩"(以後,五十肩と省略)という疾患は,われわれ整形外科医は誰でも日常の診療の対象としている疾患である.非常にポピュラーな疾患だけに,その病態の理解の仕方や治療の方法は各人によつてかなり異なつていると思われる1,15).わが国の整形外科医は五十肩をどのような疾患と考えているのか.また治療法にはどのような工夫をこらしているのか.このような問題を分析しようとしたのがアンケート調査の目的である.
 アンケートの内容を5項目に分けて分析することにした.1)五十肩の定義と病態,2)疼痛除去を目的とした保存的療法,3)関節可動域改善を目的とした保存的療法,4)手術的療法,それに 5)臨床検査法である.2)以下の各項目については,本特集に掲載される他の論文で論ぜられる予定である.本論文では,五十肩の定義と病態についてのアンケート調査を分析し,その結果に考察を加えてみた.

いわゆる五十肩の疼痛除去に対する保存的療法—とくに薬物療法を中心に

著者: 河路渡

ページ範囲:P.689 - P.693

はじめに
 われわれ整形外科医が,日常もつとも多く遭遇する慢性疾患としてのいわゆる五十肩の治療において,保存的療法が主体であることはいうまでもないことであるが,保存的療法の中での薬物療法のしめる役割が大きいことも異論のないところである.
 本症を片山名誉教授の病期の分類により初期と後期に分けると,初期の疼痛性筋痙縮期には主として疼痛を除去する目的で,また後期の運動制限を主徴とする筋性拘縮期には,運動療法を効果的に行なうためやはり疼痛を抑える目的で薬物療法が行なわれ,結局本症のいかなる病期においても,薬物療法は欠かすことのできないものである.

五十肩の理学療法

著者: 石田肇 ,   篠田瑞生 ,   藤森十郎 ,   森重登志雄 ,   亀山三郎 ,   吉野槇一

ページ範囲:P.694 - P.698

はじめに
 肩関節周囲炎または五十肩は日常普通に見られる疾患であるが,今回は主として関節可動域改善を目的とした保存療法について論じたい.
 五十肩の病訴で一番に問題になるのは「肩のいたみ」であり,その中でも運動痛と夜間痛である.その結果として可動域制限として,くび,背中に手が届かぬ,ADL障害として洋服着脱の困難,しりのポケットに手が届かぬなどである.なお以上の疼痛のために患者はしばしば不眠,あけ方目を覚ます,寝がえりの時につらい,夜腕のやり場がない,だるいなどの訴えを述べる.私共の年間3,000名位の小さな外来で,過去3年間に100例で,その年齢の分布は30代から70代におよび主として40代,50代にピークが見られ,男女の比率は43対57で,左右別は右55例,左41例で,両側性も4例に見られる(第3表).

五十肩症候群の手術療法

著者: 福田宏明

ページ範囲:P.699 - P.705

はじめに
 いわゆる五十肩は一つの症候群として扱われることが多い,その中に肩関節周囲炎とか五十肩としかいいようのない大きな一群があり,この本態については未解決のまま残されている.この原因不明のいわば狭義の五十肩については現在のところ手術療法の適応はない.したがつて五十肩の手術といつても,その対象は病態のある程度明らかな疾患群,すなわち腱板断裂,腱板石灰沈着,上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎,肩峰下滑液包炎,肩関節拘縮などである.ここではわれわれの手術経験を述べるとともに難治性の五十肩の中に腱板部分断裂が含まれている可能性につき私見を述べたい.

臨床経験

骨硬化像を呈し多発性神経炎を伴う骨髄腫の1例

著者: 坂上正樹 ,   木下博 ,   平川寛

ページ範囲:P.706 - P.710

はじめに
 骨髄腫は多発性に骨を破壊融解し,代表的X線所見はpunched out lesionとされ,骨増殖をともなわない溶骨巣を示すのを特徴とするが,1950年代後半から,骨髄腫でありながら骨硬化像を呈し,しかも同時にpolyneuropathyを合併する症例の報告をみるようになり2,5,12),骨髄腫とneuropathyとの間に何らかの生物学的関連性のあることを示唆する論文も現われてきた4,13)
 1973年淀井,高月らは骨髄腫でありながら多発性神経炎と多彩な内分泌症状をともなうplasma cell dyscrasiaを一つの症候群として提唱し14),高月が第48回日本整形外科学会の教育研修会でも講演したが8),このような症候群の存在は最近国外でも注目されるようになつた11).高月の調査10)によれば,現在までに我が国で約60例に達するというが,おもに内科医が関心をもち,その殆んどが内科関係からの報告である.しかし骨髄腫としては非定型的な骨硬化病変をともなう点で我々整形外科医にとつても興味ある疾患であるので,以下自験例を報告するとともに本症候群の概略について述べたい.

Membranous lipodystrophyの1例

著者: 荻野幹夫 ,   蜂須賀彬夫 ,   古谷誠 ,   浅井春雄 ,   村瀬孝雄 ,   小坂正 ,   小杉雅弘

ページ範囲:P.711 - P.713

はじめに
 1971年那須等によつて第1例が報告されたmembranous lipodystrophyは,他に類をみない点の多い疾患である.既に数十例の報告がある1,5,8)と思われ,疾患単位として確立されたものと考えられるが,病理機序には不明な点が多い.現在までの知見を要約すれば,本症には遺伝性があり,成人期以後に発見され,初期症状は多発性ほぼ対称性にみられる骨病変と病的骨折で,緩徐に進行し,末期には中枢神経症状を来たして死亡する.病理組織学的には,骨髄を含む全身の脂肪組織に膜様構造物が出現し,正常組織を置換し,中枢神経系には,白質のsudanophilic変性がみられる.臨床検査上の異常はなく,根治的治療法は未だない.本文の目的は,本症の姉妹例を報告し,検討を加える事である.

脊髄損傷褥創部より発生した皮膚癌の1例

著者: 足沢国男 ,   奈良卓 ,   青山和義 ,   鈴木渉 ,   佐藤徹

ページ範囲:P.714 - P.717

はじめに
 脊髄損傷患者の褥創は受傷後の看護によつて,その発生予防が可能である.しかし一旦発生した褥創は難治性であるのが特徴であるが,これまで褥創より皮膚癌が発生したとの報告例は極めて少ない.
 最近,わたくしたちは脊髄損傷患者の褥創部に皮膚癌が発生し,癌性悪液質で死亡した1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

調査報告

糖尿病患者における頸椎後縦靱帯骨化の疫学的調査

著者: 川岸利光 ,   原田征行

ページ範囲:P.718 - P.722

はじめに
 頸椎後縦靱帯骨化症(以下OPLL)は1960年,月本の報告以来注目され,厚生省後縦靱帯骨化症調査研究班によると本邦では約4,000例報告されている.
 OPLLは中年以後に多く発症し,特に本邦に多くJapanese diseaseともいわれているが,その病因についてこれまで退行変性,外傷,Ca代謝異常,HLA抗原,内分泌など多くの推論がなされているが未だ不明の点が多い.我々はOPLLが糖尿病患者に多発することに注目し,病因究明の一手がかりとして,主に糖尿病との関連を疫学的に検討した.

海外見聞記

アメリカとくにニューイングランド地方における脊損治療の現況および初期治療指針

著者: 岩坪暎二

ページ範囲:P.723 - P.726

 1978年4月から約9ヵ月間,尿路水力学的研究を目的としてボストンの脊髄損傷治療センターSpinal Cord Injury Service,Veterans Administration Hospital,West Roxbury,Massachusetts(以後SCIS VAWRと略す)へ留学する機会を得,いささかの体験をしたのでアメリカにおける脊損治療の現況について報告する.

紹介

天児民和先生の叙勲

著者: 竹光義治

ページ範囲:P.727 - P.727

 日本整形外科学会名誉会員,九州大学名誉教授,現労働福祉事業団九州労災病院長天児民和先生は本年5月8日,宮中において勲一等瑞宝賞叙勲の栄を受けられた.
 恐らく学者としては最高の栄誉であろう.心からお祝いの言葉を申し上げたい.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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