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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科14巻8号

1979年08月発行

雑誌目次

視座

学問の細分化と学際研究の場

著者: 山室隆夫

ページ範囲:P.737 - P.737

 大学紛争は医学部が発火点となつておこり,当時のスローガンの一つとして医局講座制の粉砕ということがあげられていた.その内容や当時の運動のあり方の是非はとも角として,多くの若い研究者達は大学間にある根強い学閥や学部間あるいは講座間にある不要に厚い壁が何とかならぬものであろうかと素朴な気持で考えたことは事実であると思う.科学の一つの方法は事象の細分化であり,そのために学部・学科・教室・講座などのいわば縦割り的な体系が果してきた歴史的役割は非常に大きい.またあれだけ激しく燃えさかつた大学紛争の火ですら講座制の撤廃ということに関しては全く何の変革をももたらしえなかつたということは,ある意味では講座の機能が今日においても科学の細分化の先兵として十分に生きているということを物語つていると思われる.かつて大学では学問の進歩と社会の要請に応じた形で学科・講座あるいは附属研究所の増設がなされてきたが,最近では一旦できた施設が廃止されたことはほとんどなく既得権と独立性を主張しながら学問の細分化への方向をどんどんと推し進めてきている.このような方法による研究領域の充実化は過去においてはきわめて必要であつたし,今も学部・講座は十分に機能を果してはいる.

論述

先天性股関節脱臼の保存的治療後の臼蓋形成不全症の病因に関する検討—臼蓋唇の変化の意義について

著者: 細谷徹 ,   高岡邦夫 ,   吉岡順朗 ,   井上明生 ,   小野啓郎 ,   高瀬忠

ページ範囲:P.738 - P.747

 先天性股関節脱臼(以下,先天股脱と略す.)は保存的治療後も,なお臼蓋形成不全を遺残することがあり,治療の完全を期する意味からはその防止こそが先天股脱治療の究極の目的といえよう.一方,臼蓋形成不全症によると思われる二次性股関節症の症例は,今なお多数見られるが,その多くに先天股脱の既往がある.整復された脱臼がどうして臼蓋形成不全症に移行するのか,また臼蓋形成不全症が如何なる機序で関節症を招くのかは,しかしなお推察の域を出ないといつても過言ではない.乳幼児期に存在した先天股脱の病態と成長後の臼蓋形成不全症との因果関係を知ることの重要さがここに明らかとなる.
 乳幼児期における保存的治療後,臼蓋の成長過程は症例によつて一定しない.大部分の症例では,脱臼の整復後,臼蓋形成不全は急速に改善し正常な股関節に成長する.

手の先天奇形の分類

著者: 三浦隆行

ページ範囲:P.748 - P.755

 あらゆる疾患の研究,発表においてその分類が必要なことは明らかであり,手の奇形の研究においてもその例外ではあり得ない.このため多くの研究者によつていろいろの分類が提唱されており,これをKelikian1)は,分類の根拠から(1)Discrepancies of Number and Size,(2)Simplified Classifications,(3)Embryopathy Versus Fetopathy,(4)Endogenous and Exogenous Deformities,(5)Classification Based Upon Skeletal Deficiencies,(6)Comprehensive Classificationsの6種に区分して紹介している.これらの分類はそれぞれの研究者の専門に立脚し優れた特徴を有するものであつても普遍的に多くの研究者に採用される分類法とはなつていない.

骨肉腫の治療法—とくにAdriamycin+Vincristin+high dose Methotrexate-Citrovorum Factor rescueについて

著者: 高田典彦 ,   保高英二 ,   舘崎慎一郎 ,   遠藤富士乗

ページ範囲:P.756 - P.764

はじめに
 骨肉腫の治療成績は罹患肢の早期切断により局所腫瘍の完全切除が可能であるにもかかわらず,その大半が1〜2年以内に肺転移にて死亡していた1).この事実は骨肉腫治療の原則として原発巣に対する治療のみならず,初診時肉眼的には確認されないがすでに存在していると考えられる潜在的微小転移巣(undetectable micrometastases)に対する全身的治療が最も重要であることを示している.最近新しい制がん剤の開発とともに多剤併用かつ大量の全身的化学療法があらためて重視されるようになり,その治療成績は著しく改善されつつある.われわれは23例の骨肉腫患老に対してAdriamycin(ADM)+Vincristin(VCR)+high dose Methotrexate(MTX)-Citrovorum Factor(CF)rescue療法を行つたので,これらの治療法の概要と副作用に対する対策について報告し文献的考察を行うものである.

水溶性造影剤Metrizamideによる脊髄造影法について

著者: 宮坂斉 ,   井上駿一 ,   田中正

ページ範囲:P.765 - P.773

はじめに
 水溶性造影剤による脊髄造影はArnell & Lindstromら5)のsodium iodomethanesulfonate(Abrodil)の使用が嚆矢とされている.しかし,Abrodilは強い神経刺激作用があり,そのため腰椎麻酔を必要とするという欠点があつた.元来,水溶性造影剤は油性のものと比べ髄液とよく混じるため’脊髄腔内にまんべんなく行きわたり微細な病変までよく描出すること,容易に吸収されるため検査後の吸引排除が不必要であるなどの利点を有しているが,神経組織に対する刺激性が常に問題とされてきた.Abrodilに次いで登場したmeglumin iothalamate(Conray)はより毒性が少なく,麻酔を必要としなかつたが痙攣の発生例があり,meglumin iocarmate(Dirax)に至つてもその刺激作用は皆無とはいえず13),脊髄円錐部以上の高位ではiophendylate(Myodil)が用いられてきた.
 近年,Norwayで開発されたmetrizamide(商品名Amipaque)は主としてヨーロッパにおいて従来の水溶性造影剤にみられた重大な副作用のない理想的な水溶性造影剤として評価され,最近では米国においてもFDAで認められ盛んに使用されるようになつた.

脳血管障害性麻痺下肢の動的足部変形に対する前脛骨筋腱移行術の適応

著者: 有川功 ,   北井寛 ,   井上善一

ページ範囲:P.774 - P.782

緒言
 脳血管障害性片麻痺患者の動的足部変形に対する手術療法は各種の方法が報告されており,いずれも歩行を可能にし,円滑にし,安定せしめる点でその有用性が強調されている.しかし,千差万別ともいえる脳血管障害患者の"運動障害"さらには"歩行障害"の理解,評価,分析方法が未だ確立されていないこともあつて,この適応・術式その他細部では今なお未解決の問題が山積しており,この点での更なる検討が必要と考える.
 著者らは運動療法の限界に達した,またその過程の脳血管障害性麻痺下肢に対し,歩行能力または安全性を高めることを意図して手術療法における試行錯誤を繰り返してきた.これらの経験を通して「緊張と疲労の少ない歩行」さらには「努力感の少ない歩行」に導くという点では前脛骨筋腱移行術施行例には種々問題のあるものが多く,強く反省させられた.そこでこの周辺の問題を整理する中で,片麻痺性動的足部変形に対する本手術の適応を改めて検討してみたい.

RAにおける大腿骨頭,臼蓋の急速陥没例

著者: 宮永豊 ,   田川宏 ,   二ノ宮節夫 ,   松浦美喜雄 ,   園崎秀吉 ,   三井弘 ,   興津勝彦 ,   五十嵐三都男

ページ範囲:P.783 - P.791

 従来,慢性関節リウマチ(以下,RAと略す)における股関節のX線像としては関節裂隙の狭小化,骨萎縮,破壊,寛骨臼底突出症などの所見が一般的であるとされてきたが1〜3),最近われわれは比較的短期間に大腿骨頭と臼蓋の陥没,吸収を生じ骨頭変形と骨頭位の上外方移動を呈した症例を経験した.臨床症状は急性の股関節痛と歩行障害である.このような特有なX線像と症状を示す症例のあることはPiguet(1956)4),Isdale(1962)5),Glick(1963)2),Kennedy(1973)6)らによつて報告されているが稀なものであるためほとんど認識されていないのが現状である.今回,われわれは10症例を経験したので臨床的,X線学的,病理組織学的に分析するとともに文献的考察をも加えて報告する.

骨破壊を伴う悪性軟部腫瘍の臨床

著者: 姥山勇二 ,   後藤守 ,   山脇慎也 ,   井須和男

ページ範囲:P.792 - P.797

 軟部腫瘍が腫瘍発生部位の骨組織に変化を生じることがある.今回われわれは,四肢体幹に発生した悪性軟部腫瘍において骨破壊を伴つていた症例について,その臨床像を検討した結果を報告する.

検査法

整形外科領域におけるCTの使用経験

著者: 荻野幹夫 ,   蜂須賀彬夫 ,   古谷誠 ,   浅井春雄 ,   村瀬孝雄 ,   小坂正 ,   小杉雅英 ,   井上肇

ページ範囲:P.799 - P.804

はじめに
 Computed tomography(以下CTと略す)は,1961年Oldendorfによつて案出され,1963年Cormackによつて理論的基礎が築かれ,1973年Hounsfieldによつて第1号機の完成をみて以来,実用化はめざましく,現在では脳神経外科領域においては,すでに日常検査法の一つとなつている.しかし整形外科領域の疾患の診断には未だ日常検査としては用いられるには至つておらず,診断および治療方針決定のための有用性の評価にも一致した見解はない.本文の目的は,EMI 5005型機(全身scanner)を用い20例の骨および軟部病変を撮影した経験に基づいて,各症例の呈示とともに,CTの有用性について検討することである.

臨床経験

肘関節に発生した離断性骨軟骨炎25例の検討

著者: 三浪三千男 ,   中下健 ,   石井清一 ,   薄井正道 ,   村松郁夫 ,   荻野利彦 ,   福田公孝 ,   菅原誠

ページ範囲:P.805 - P.810

緒言
 離断性骨軟骨炎は1870年にPagetによつて骨壊死としてはじめて記載され,ついで1888年にKonigが離断性骨軟骨炎と命名したとされている13).しかし本症において関節軟骨のごく一部が軟骨下骨組織を含んだまま関節面から剥離する機序については諸説があり,いまだ明確にされていない.
 本症は膝関節,肘関節、足関節および股関節の順に好発するが,なかでも膝関節での発生頻度は80%である3).したがつて膝関節の離断性骨軟骨炎に比べて肘関節における本症の報告はきわめて少ない.われわれはこれまで肘関節の発生例を25例経験している.これらの症例は肘関節の安静を保たせたうえで経過を観察したのみの保存的観察群と関節腔内に剥離した骨軟骨片を摘出した手術的治療群とに分けることができる.今回はこのように異なつた治療群の臨床症状およびX線学的所見の推移を観察し検討した.さらに保存的観察群をとくに対象として,これらの症例のX線学的変化を左右する諸因子を分析してみた.

頸椎分離症の1例

著者: 笠井勉 ,   寺島洋治 ,   大森和夫

ページ範囲:P.811 - P.814

はじめに
 腰椎分離症は日常外来でしばしぼ遭遇する疾患であるが,頸椎分離症は比較的稀でその報告例は少ない.われわれは項背部痛を主訴とした第5,6頸椎分離症の1例を経験し手術療法により症状の消失をみたのでその概要について報告する.

手の腱鞘より発生した巨細胞腫7症例の治療経験

著者: 今川俊一郎 ,   津下健哉 ,   生田義和

ページ範囲:P.815 - P.819

はじめに
 腱鞘より発生した巨細胞腫giant cell tumor of tendon sheathは,手の腫瘍の中では比較的多い良性腫瘍とされているが,その病態は十分に明らかにされてはいない.われわれは本症の病態の一部を明らかにする目的で本症の当科における手術症例7例の予後調査と,過去10年間に当科外来を受診した手の腫瘍患者の統計を行つたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

ハリントン手術後に合併した上腸間膜動脈症候群の2例

著者: 熊野潔 ,   杉山正伸 ,   中村信也 ,   土田博和 ,   樋上駿

ページ範囲:P.820 - P.827

はじめに
 上腸間膜動脈症候群は,十二指腸横走部が上腸間膜動脈(Superior mesenteric artery)または時にその分枝によつて前方より圧迫され,後部の脊柱または大動脈とにはさまれ完全または不完全に閉塞されることによつて起こる疾患3)であり,脊柱の前彎が強く,内臓下垂症を伴う無力体型の女性に多くみられることは良く知られている.1861年のvon Rokitansky16)の報告が最初のものとされているが,以来数多くの報告がある.腹部外科的には,この疾患は多くの場合慢性の十二指腸拡張症の一つとして取扱われている5).1950年Dorph7)は,大腿骨骨折のためのhip spicaの装着後に発症した.急性で死の帰転をとつた本疾患を報告し,Cast Syndromeと名づけた.以来整形外科的治療の合併症として注目されてきたが,近年側彎症手術の発達とともに、重大な術後合併症の1つとして報告されるようになつてきた5,6,10).その頻度は決して多くはないが,正しい診断と適切な処置を逸すると重篤に陥ることが強調されている.本邦での本疾患の報告は少ない12).われわれは最近2例の本疾患をハリントン手術後合併症として経験したので報告する.

筋性斜頸に対し徒手筋切り術を行つた小児にみられた副神経麻痺の2例の検討

著者: 山口靖之 ,   井沢淑郎 ,   亀下喜久男 ,   三杉信子

ページ範囲:P.828 - P.830

はじめに
 われわれは副神経単独麻痺の2例を経験しその成因,特に先天性筋性斜頸に対する徒手筋切り術との因果関係について検討したので報告する.

診断困難であつた胆嚢癌の骨転移の1例

著者: 阿藤孝二郎 ,   清家渉 ,   古瀬清夫 ,   山本吉蔵 ,   前山巌

ページ範囲:P.831 - P.834

はじめに
 われわれは,臨床的にも,病理解剖学的にも診断困難であつた,骨形成性を呈する胆嚢癌の骨転移の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え,報告する.

免疫療法を行つた爪甲下黒色腫転移症例の経過

著者: 木原未知也 ,   海村昌和 ,   田中守 ,   鳥潟親雄

ページ範囲:P.835 - P.837

 悪性黒色腫は従来,皮膚科領域の疾患とされていたが最近その発生部位により各科で治療がなされるようになつてきた.今回われわれは悪性黒色腫の中でも稀な爪甲下黒色腫を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Synovial Chondromatosisにおける関節腔内遊離小体の組織学的研究

著者: 森本博之 ,   佐々木徹 ,   小川恭弘 ,   田岡博明 ,   木下勇 ,   井形高明

ページ範囲:P.838 - P.843

はじめに
 Synovial chondromatosis(またはosteochondromatosis)は関節腔内遊離小体free bodyをきたす代表的な疾患である.これまで,本疾患については発生原因や罹患部位についての検討報告が多く,free bodyそのものの組織像あるいは発育形態が詳細に検索されたものは少ない.臨床的に,free bodyの存在が関節機能に重人な影響を及ぼすことから,その関節腔内における発育形態は非常に興味がある.われわれはsynovial chondromatosisを原因疾患とするfree bodyを光顕的,電顕的に検索し,2,3の興味ある所見が得られたので若干の文献的考察を加えて,検討報告する.

調査報告

苗場スキー場におけるスキー外傷について(第3報)

著者: 舘浦征児 ,   佐野精司 ,   菅原黎明 ,   浅井亨 ,   八木正博 ,   小山格

ページ範囲:P.844 - P.848

はじめに
 当教室では新潟県苗場スキー場において昭和38年12月より診療所を開設し,シーズン中教室員が常駐し,スキー場パロトール隊と協力してスキー外傷の救護とその治療にあたつてきた,この間診療とともに,スキー外傷についての調査報告も逐次行い,すでに当教室峰岸ら(1966),岡田ら(1974)により,ski bindingの及ぼす影響,外傷発生率,外傷種類別および受傷部位別頻度,スキー用具と外傷との関連性,ならびにその使用状況について調査報告した.
 今回われわれは第3報として,スキー外傷を統計的に処理するとともに,膝関節内側側副靱帯損傷におけるその程度と各種要因,受傷者のスキー板の長さと身長との関係などについても調査を行い,その結果若干の知見を得たので考察を加えて報告する.

カラーシリーズ

頸髄の血行に関する実験的研究

著者: 稲垣壮太郎

ページ範囲:P.732 - P.735

はじめに
 頸髄を支配する各動脈の頸髄血行支配域については,未だ十分な検討がなされていない.著者はこの点を究明すべく以下の実験を行った.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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